さようならピストンズ

というかカニングハム!

ドラフト前に水面下で争奪戦が繰り広げられていたというカニングハム。大注目のドラフト1位を手に入れたピストンズが再建の道を突き進んだシーズンとなりました。しかし、それは結果論であり「終わりよければ全てよし」としか言いようのないシーズンでもありました。ポジティブな意味でね!

◎出遅れたカニングハム

ケガで開幕4試合を欠場したカニングハム。チームも4連敗でスタートするも、デビュー戦となったマジック戦でチームをシーズン初勝利に導きますが、そのスタッツは2点、7リバウンド、2アシストと地味なものでした。モブリーやギディが華々しい活躍をする一方で、低迷していたカニングハムです。

チームとしてもサディック・ベイとジェレミ・グラントの個人技アタック中心に構成されており、ただただ退屈な1on1を見せられてしまいました。しかも2人とも大して決まらないので、将来に繋がることもなければ、目の前の試合で効果的でもありませんでした。何してんのかよくわからんピストンズ。

この影響をモロに受け続けているのがキリアン・ヘイズで、パスセンスを魅せている一方で「自分で突破しないとチャンスメイク出来ないよ」というピストンズオフェンスでは、得点力不足であることを今シーズンも示していました。何をして良いのか迷子になり、ウイングにボールを供給するだけのPGになっていたりしてさ。

「バスケIQの高さが最大の魅力」といわれていたカニングハムも得点力の低さで困ってしまいました。FG成功率は40%を大きく下回り、かといってコンビプレーのあるオフェンスじゃないからアシストも稼げず、ターンオーバーだけが増えていく。ハンドラーとしての能力不足が目立っていました。カニングハムが活きる戦術じゃないし、パスばかりしているので

カニングハムって大したことないじゃん

バーンズ、ワグナー、ドゥアルテと活躍する豊作のシーズンにおいて、そんな呟きも増えてきたのですが、一方で「そんなことを言っているヤツはピストンズの試合を見ていないだろ」とファンの意見が出ていた頃でもありました。

◎ハイIQオールラウンダー

明らかにハンドラーとしてはオフェンスにフィットしておらず、スタッツを稼げないカニングハムでしたが、その一方で評判通りのハイIQプレイヤーであることを示していきました。コンビプレーに乏しく、個人技アタックしているだけのオフェンスなのに、違いを作れてしまうカニングハムの恐ろしさは、むしろこの時期の方が目立っていたかもしれません。

https://basket-count.com/article/detail/94124

ウイングにパスを供給すると、そのままスクリナーになり、振り返ってカットプレー、ゴール下からコーナーに移動してスポットシューターへ。PGかと思ったら、センターのようにハードワークし、シューターのように動き、ウイングのように飛び込んでいく。流れるように動くカニングハムにより、空けられたスペースをチームメイトが使う事も促すというオフボールのプレーメイカーっぷりも発揮していました。

次々にプレーを繋ぎ合わせていくカニングハムの多彩さ、先読みの力、イマジネーション。どの役割でもこなせてしまう万能性はルーキーとは思えない異常なレベルでした。ある意味でベン・シモンズ以来の

主役じゃなくてもスーパースターになれる逸材

そんなことを強く感じさせるシーズン序盤だったのです。これだけボールを持たずにプレーに絡める20歳は噂にたがわぬ異次元のIQをもっていたといえます。しかも、ディフェンスでは更に強みを発揮しており、大胆なポジション取りでチームの弱点を塞いでいくのは、ラウリーのようなベテランの味も発揮しています。

スタッツでは他のルーキーに負け
ハイライトプレーにも乏しい
ハンドラーとしては散々で輝くポイントがなく
わき役としてのプレーをしている

こんな状況でも「スゴイ」と思わせるカニングハムの偉大さが発揮されまくっていたのです。シュート力は改善しやすいスキルだから、3年もすれば得点力も上がってくるだろうし、戦術面はHC交代すれば変化が出てくる。カニングハムはどんな戦術でも貢献するIQがあるから「将来性を含めれば間違いなくドラフト1位」だと感じていたのでした。

しかし、この捉え方は大きな間違いだったことを思い知らされるのでした。

◎決まりだした3P

12月の9試合でカニングハムは3P40.4%を記録します。1月も36.5%と確率良く決めるようになっており、成長のための期間を待つことなく早々に課題を解決してしまいました。今シーズン序盤はベテラン陣もボールが変更されたことでシュートタッチに苦しんでおり、12月はリーグ全体がやっとアジャストし始めた頃ですが、カニングハムも同じ時期にアジャストしてしまった。お前は何年目だ?

3年も待つ必要はなく、3カ月目には決まるようになってきた3P
平均得点も17点を超えており、アシスト6.3も含めて、急激に「主役」になりはじめました。自分のスタイルに合っていないシステムでも、自らがシュートを決めて構築し始めたのです。

あっという間に主役であることを示したアジャスト能力

カニングハムにとってラッキーだったのは、コロナの影響などもあり離脱者が多く、特にジェレミがいなくなると両サイドがワイドに広がるようになり、トップとインサイドが広くなったことでした。ガード陣のアタックが楽になり、飛び込むスペースも生まれてきたよ。

チームとしてもハミドゥ・ディアロやマグルーダーの出番が増えてきます。コーナーにポジショニングしつつ、インサイドへのカットプレーやオフェンスリバウンドに絡むタイプのウイングに変更されたことで、キックアウトパスが増えてきました。カニングハムは自ら決めるだけでなく、パス能力を使え始めたのです。

〇コーナー3P
~11月 32.8%
12月~ 37.7%

チームとしてはシーズン序盤からコーナー3Pを打てていましたが、ジェレミとベイ中心で確率も悪かったのが、キックアウト先として認識されたコーナーにスポットシューター役が明確に配置され、しかもポジションを変えながら複数の選手が担当するようになり、チーム全体が5%近く改善しています。総じて個人任せだったオフェンスに流れが生まれ始めたのでした。

ただし、チームとして個人技起点であることに変更はなく、カニングハムは自ら3Pを決めつつ、スペースのあるインサイドにドライブし、そしてチーム全体としてコーナー3Pを決める流れを作っていった程度の変化でした。改善の兆しが見え始めたわけですが、まだまだ結果として見えるほどではなかったです。

ちなみに12月にはケーシーも離脱しており、ちょうどカラミアンがHC代行となった試合を見ました。試合序盤からディフェンスで仕掛けまくるカラミアンの戦い方は、ハイIQを基盤とした形なのでカニングハムとの相性も良いように見えました。

もともとラプターズ時代からエースのドライブから展開するパターン中心だったケーシーなので、カニングハムが個人としてのスタッツも残し始めたことをポジティブに観ながらも、そう簡単にチームは変わらないし、カラミアンにHC交代して欲しいなーって感じだったよ。

◎変わるヘイズ

ボールを持たずに素晴らしいプレーを披露し、決まらなかった3Pを早々にアジャストさせ、コートを広く使うオフェンスでチームを改善させていったカニングハム。ここまででも十分すごかったのに、その真価はまだ先にありました。初めにその兆候を見せたのは迷子だったキリアン・ヘイズでした。

チームオフェンスを中心としたユーロからやってきて、個人で打開するアメリカバスケにフィットできずに困っているヘイズ。特にピストンズは個人の傾向が強いから、なおさら困っているね。どうしても得点力の低さがネックになってしまうわけで、それは今シーズンも何も変わっていません。

〇ヘイズ
6.3点
2P43.1%
3P27.0%
4.3アシスト

ドラフトに失敗したともいえるし、ゲームメイカータイプを連れてきたのに、個人技アタックさせているHCが悪いとも言えるし。いずれにしても明確にフィットしていないヘイズなのですが、今のピストンズの試合を見ると「えっ?こんなにスタッツが悪いの?」と感じてしまいます。つまりは、低調なスタッツに反して、試合でのヘイズは活躍し始めています。

1年目と比べてアシストは減り、FGも向上していないにも拘わらず「改善している」という不思議な状況ですが、とにかくカニングハムとの相性の良さが目立っています。極端な話でいえば

カニングハムとヘイズの2人の関係性でチームオフェンスを生み出している

まぁこれは言い過ぎですけどね。ただ少なくとも個人技アタック以外の形でオフェンスを作ることができるようになりました。シンプルに言えばヘイズはオフボールの動きでディフェンスのギャップを使い、そこにカニングハムからパスが出てくるから、次の展開へと繋げ、ヘイズ自身は再びディフェンスの死角に入り込む動きをしていきます。

これって実はシーズン当初のカニングハムに似ているんだよね。チームの戦術に縛られて苦しんでいたようなヘイズですが、まるで「なんだ、自分のイメージ通りに動いていいのか」と気が付かされたかのように、プレーのスタンスを変えていきました。それはボールを持つ時間とドライブ数に出ています。

〇平均ボール保持
5.04秒 ⇒ 3.99秒

〇ドライブ数
11.1回 ⇒ 6.0回

自分でボールを持ち、ドライブから何とかしなければいけなかった昨シーズンでしたが、今はPGにカニングハムがいることも含めて、オフボールでパスを引き出すことが増え、ワンタッチでの展開も増えたのでボール保持時間が1秒近く短縮されました。それでいてドライブ数を半分にしながら、オフェンスには立派に絡めています。あとはFG成功率があがればね。

〇オフェンスリバウンド
0.2 ⇒ 0.6

〇ターンオーバー
3.2 ⇒ 1.8

ヘイズはトップのポジション以外でもボールに触れるようになり、ギャップを突くのでオフェンスリバウンドが3倍に。逆にターンオーバーは大きく減らしています。なお、ここについては減りすぎたら積極性に問題があるので、今が良いわけでもない。

いずれにしても、なんとなくドライブアタックに縛られていたようなヘイズのプレーは大きく変わりました。今の方が本来のヘイズなのかもしれません。素晴らしいパスセンスは変わらず、自らもパスターゲットになる動きを積極的に混ぜるようになりました。個人よりもチーム戦術でやりたいユーロらしさ。

〇パス数
ヘイズ ⇒ カニングハム 8.2本
カニングハム ⇒ ヘイズ 6.7本

ヘイズから見ると最も多くのパスを出す相手も、最も多くのパスを貰う相手もカニングハムになりました。昨シーズンはスチュワートからパスを貰う事が多かったのですが、それは主としてリバウンドからのパスです。パサーとしては昨シーズンも機能していましたが、レシーバーとしてはコーナーシューターくらいだったヘイズ。それが

「ガード同士のパス交換」が大きく増えた今シーズン

ということになります。これがヘイズにとって非常に重要な事で、お互いにボールを預けてからのオフボールが効くようになったので、プレーの幅が広がっています。カニングハムから見ても自分以外に違いを作ってくれる貴重な相棒感があります。

まだまだフィニッシュ力に課題が大きいヘイズですが、カニングハムが頭角を現すにつれて、ヘイズも大きく改善してきました。ピストンズのオフェンスシステムで輝こうとして苦しんでいたヘイズが、多彩なカニングハムによってシステムから解放されたようにも見えるのでした。何でもできるし、チームメイトの良さを引き出せるカニングハムにより、当初の戦術にはなかったコンビネーションが生まれ始めたガードコンビ。

◎変わるチーム

ヘイズだけでなく、ピストンズはチームとしての連動性が高まっていきました。未だに個人技アタックのチームだし、コンビプレーも個人の判断で構成されているので、チーム全体の合わせのルールが優れているって感じではないのですが、コーナーへの展開とカットプレー、ガード陣のパス交換など、連動性が生まれてきたことにより、急激にアシストが増えていきました。

〇アシスト数
10月 21.0
11月 21.5
12月 21.8
 1月 24.0
 2月 24.3
 3月 24.8

綺麗な上昇をしています。ちなみに2月はカニングハムが12試合中5試合を欠場しており、ピストンズは「カニングハムがいなくてもアシストが多いチーム」になっています。急速にカニングハムナイズされていったんだけど、本人不在でも関係ないっていうね。

同じ戦術でも連動性を作り上げてしまったカニングハムの影響力

これらのことはチームに必要な人材を変化させても行きました。特に活躍したのは控えセンターになったライルズで、ストレッチビッグとしてスクリーンからポップすれば、しっかりとパスが届くようになり、ライルズが空けたインサイドにはガード陣がドライブしやすくなりました。トレードされたけどさ。

最近ではルーキーのアイザイア・リバースが登場しており、総じてシュートやカットプレー、ハードワークで貢献できるロールプレイヤーの価値が上がってきました。逆にコーリー・ジョセフ、サベン・リー、ジョシュ・ジャクソンらのハンドラーもするタイプは合わないケースが増えていったとも言えます。ケーシーはこっちが好みだし、アシストの少ないオフェンス戦術なんだけどね。

そしてデッドラインでバグリーを手に入れました。オンボールプレイヤーとしては物足りなさしかないバグリーですが、ライルズが機能したように、ストレッチビッグが欲しいことや、スピードで合わせてくれるタイプ、そしてオールコートの走力が重視されたと捉えられます。オンボールでアクションする選手ではなく、カニングハムのアイデアについてこれるような

オフボールとパスワーク・万能タイプの重要性が高まった

チームの方向性は開幕直後から大きく舵を切りました。カニングハムは戦術そのものを動かしてしまう強烈な影響力を持っています。これはベイのスタッツから見ても同じで

〇ベイのキャッチ&シュート
~11月 4.5本
12月~ 5.9本

ヘイズとベイのプレースタイルが変わり、その上でバグリー、マグルーダー、リバースがプレータイムを得てきたことを考えると、カニングハムと共に歩める選手であることが、ピストンズで結果を残すカギになってきました。フロントもそういう選手を集める気持ちが強くなっています。

今ではカニングハムへのスクリナーも増えたし、スペースを空けておいて有効活用するようになってきた。ジェレミの個人技がスパイス程度の位置づけになっているのでした。随分と形を変えてしまったシーズン後半です。

◎足りないこと

急速にカニングハムナイズされていき、連動性が生まれたピストンズですが、その殆どはカニングハムとヘイズから生まれており、ほぼほぼ2人のイマジネーションに頼っているだけでもあります。ベイが3P決めまくって50点を奪ったりと、個々の活躍はちゃんとあるのですが、システムとして整備されているかといえば、かなり怪しい。

例えばピック&ロールのロールマンが、しっかりとスクリーンがかからないのに動き出してしまうことが多く、ハンドラーがマークを引き離せずに止められてしまう事があります。フルスピードで飛び込まないカニングハムは、このパターンでミスすることも多く、だったら個人技で打開する選手の方が良かったりします。

IQが武器なのだから、判断力やイマジネーションを使う場面を増やしたいのに、スピードやジャンプ力・フィニッシュ力を試されるシーンを作っては意味がないよね。つまりはコンビプレーをしているようでいて、完成度が低すぎてバラバラなことも多くあるわけです。

スチュワート、ベイ、バグリーと他の若手たちは気の利いたプレーはしてくれないもんね。カニングハムの判断に丸投げしている感がある。

そんなわけで「カニングハムはスゲー。ピストンズがすごいわけではない」と感じてしまうのでした。ここからレベルアップするには、チームメイト達もカニングハムの思考についていく必要があるよ。そういう選手を探してくるのか、レベルアップするのか。両方が求められるでしょうね。

◎タイムアウトを見よ!

「さようならピストンズ」は「カニングハムによって大きな変革がもたらされたピストンズ」でした。ドンチッチやヤングは自らが引っ張ることでチームを大きく変えたけど、カニングハムは戦術にインテリジェンスをもたらし、ロールプレイヤーに求められる要素も変えてしまった衝撃のシーズンでした。

1人のルーキーが、自分に合わない戦術のチームでデビューしながらも、チームの方向性から変えてしまった流れは見事です。それも強烈な個性で変えたのではなく、少しずつ確実にチームメイトの意識から変えてしまった印象すらあります。だから、選手間の機能不全はおきておらず、全員がフィットしていってるレアケースでもあります。

噂にたがわぬIQと、想像以上の影響力を持ったルーキー

そんな印象を強く抱かせます。唯一、ルーキーっぽいのはFG成功率くらいです。ふてぶてしいを通り越して、強烈なオーラをビンビンに放ち、ピストンズを自分のチームにしてしまいました。

そんなカニングハムを他のチームのファンが見る時におススメなのは、タイムアウト時のカニングハムを追いかけることです。カメラもいっぱいカニングハムを抜いてくれますが、チームメイトに多くの指示を出しています。この積み重ねがチーム全体を変えてしまったのでしょう。

スーパープレーではなくリーダーシップでチームを変えてしまったルーキー

カニングハムの凄さはハイライトプレーでは語れない凄さです。プレーも凄いけど、プレーでは言い表せない何かがあった。スキルも身体能力もメンタルも強いけど、デュラントのようなシュートタッチも、レブロンのような身体能力も、コービーのようなメンタルも持っているとは思えない。だけど、チームを変えてしまう事が出来る影響力を持っている。

さようならピストンズ。早く来シーズンが始まりますように!

さようならピストンズ” への7件のフィードバック

  1. 素晴らしいブログをありがとうございます!

    ピストンズファン以上にピストンズのことを分かってくださっているように感じました!

    おっしゃる通りもはやピストンズはカニングハムのチームです!

    これからのピストンズに栄光あれ!

    1. とても良いですし、駆け引き系統なので、ディフェンスもカニングハムナイズされてます。
      一生懸命守るだけだった昨シーズンとは、アクションの数が違う!

  2. 個人的に今シーズン見てて1番面白いルーキーであり
    フィジカルでもスキルでもないのに
    見ている側に強烈にインパクトをあたえるプレーは圧巻でした
    まさにドラフト1位といった
    特別なルーキーだと思います

    1. 間違いなく「上手い」と感じさせるのに、ワンプレーそのものは普通なんですよね。

  3. クインスナイダーがジャズから去るんじゃないかという噂がありますが、ピストンズでカニングハムとケミストったりすると面白いなと。

    1. ゴベアを有効活用しているスナイダーですが、それがネックなのでスチュワートやバグリーの方がいいかもしれませんね。

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