さようならウィザーズ’22

正常化のためのシーズン

シーズン前にウエストブルックのトレードに動くことになったウィザーズ。その時点ではかなりの負け組な匂いがしましたが、デッドラインでディンウィディとベルタンスの放出に成功したことで、トータルで言えばよいシーズンとなりました。サラリー払いすぎの2人を処理できたことは脅威でしかなく、ウエストブルックがポルジンギスに変わったと思えばポジティブです。

ただ、どうせならビールを処理するべきだったとも思います。そこまでしてビールに拘る必要があったのかどうか。結果的に途中離脱したので問題にはならなかったものの、ビールを残しておく意味を感じないシーズンでもありました。ウエストブルックを放出する時点で決断すべきだった気もするし、ベン・シモンズの可能性が出た時点で決断すべきでした。

ウエストブルックを残留させて勝ちに行くシーズンにするか
ビールも放出して再建モードで若手に経験を積ませるべきか

どっちかで良かったと思うので、相変わらずフロントの決断力のないチームでした。このことはチーム戦術にも関係してくるのですが、新HCアンセルドのことを中心に触れていきましょう。

◎カルチャーを変えろ

アンセルドの戦い方は特別な要素を感じることはなく、いたって普通でした。シンプルなピック&ロールからインサイドにダイブする選手を作り、両コーナーまで開いたウイングが連動してトップに絡んでくる流れは、特別な戦術ではないし、かといって優れた連携力を鍛えることも出来ていませんでした。

しかし、長いことスコット・ブルックスに毒されていたのでアンセルドの「普通」な感じはウィザーズ的には新鮮でした。ハンドラーに丸投げすることなく、2つ、3つとプレーを繋げ、ちゃんとスペーシングしているし、ハーフタイムを挟んでチームに修正を施し、試合の中で変化をつけていく。

正直、長いことワンパターンだったビールが試合中の修正なんて出来ないと思っていたので、アンセルドになって普通にハーフタイムの指示が効いているのを見ると驚く面もありました。もちろん、劇的にチームを変えられるHCが欲しかったところではありますが、選手の顔ぶれが大きく変わらない中では、アンセルドくらいがちょうど良かった気もします。

それはアンセルドにとっても「劇的に変えるには選手のクオリティが足りない」と感じていたのかもしれません。ACからHCになったばかりだし、どう見てもポイントセンターが欲しいのに誰も出来ないロスターだったし、とりあえずウィザーズにはびこる「変わることが出来ないカルチャー」を何とかしたかったシーズンかもしれません。

ただし、ネガティブな話としてディンウィディが「リーダーシップを取ろうとしたけど求められていなかった」という発言を堂々としており、まだまだウィザーズの中には悪しきカルチャーが流れている気もします。ってことで、そういう意味でもビールを放出すべきだったと思うよ。カルチャーを変える方が大事。

◎さようなら八村

アンセルドによる「正常化のシーズン」だと捉えた時に、ポジティブな要素をみるのは八村の変化でいいかもしれません。逆に八村単体で語るのは難しいシーズンでもあるので、日本人だし、ここで触れておきましょう。

〇昨シーズンからの変化
プレータイム 31.5 → 21.3
得点     13.8 → 10.9
リバウンド  5.5  → 3.6

プレータイムの減少を考えれば、得点もリバウンドも下がっておらず、役割が変わった中でまずまずの活躍をしました。というか、セカンドユニットで出場しながら平均二桁なのだから、昨シーズン以上の活躍をしたともいえます。

八村といえばミドルの選択が多い選手であり、インサイドで高さが足りず、アウトサイドで決めきるのはオフボールの意識が足りないので、万能さという才能と、どっちつかずの危うさがありました。それは現代バスケ的には「主役にしか許されないプレーチョイス」でもあり、かといって主役クラスの才能を示しているとはいえず、総じてロールプレイヤーになり切れない問題でもあったわけですが、そもそもウィザーズ自体が

ウエストブルックとビールがいるのに3Pが少ない

というチーム全体の問題でもありました。アンチ現代バスケをしていたスコット・ブルックスは、それで勝てないんだから救えないわけです。この困った状況からアンセルドは明確に現代の常識を取り込んできており、八村のスタッツも3Pが多くなっています。

〇八村のFGアテンプト
ゴール下   3.2 → 2.1
ペイント内  2.8 → 1.5
ミドル    3.0 → 2.2
コーナー3P 0.8 → 0.8
その他の3P 1.5 → 2.0

未だにミドルが多いものの、3Pの意識が高まっており、プレータイムが短くなったのにアテンプトが増えています。コーナーにポジショニングする重要性と、そこからポジションを動かしてフリーになる機会も増えました。これでペイントアタックも増えれば上出来でしたが、それが足りないのは本人の問題もあるけど、トランジションが多かった昨シーズンにペイント内の得点が取りやすかったという違う理由もあります。今シーズンの八村は走りたくても、走らせるガードが足りなかった。

〇八村の3P
オープン    0.5本 → 1.0本
ワイドオープン 1.8本 → 1.6本

オープン    48.1% → 55.6%
ワイドオープン 29.5% → 43.3%

3Pの中身を見てみると「オープン」のアテンプトが増えているのが特徴なので「しっかりと打ち切りなさい」が修正として機能しています。確率は異常ですが、昨シーズンのワイドオープンが決まらなかったことを考えると、ちゃんと意図的にチームでセットすれば決まる気もしてきます。総じて八村に起きている現象は

「スペーシングしたオフェンスの中で、チームでオープンを作って、ちゃんと3Pを決める」

というごく普通の現象です。それを高確率で決めているのは八村本人の頑張りですが、チョイスとしては昨シーズンまでがおかしかったに過ぎない。前述の通り、3P以外は昨シーズン並みなので

✖ 八村をロールプレイヤー化した
〇 3Pをしっかり打ち切るチームの約束事が出来た

こんな当たり前の事だった気がします。八村本人は高確率の3Pから次の展開も武器にしたいわけですが、そこは個人の努力って事でいいと思います。チームとしてはスペーシングと3Pということを徹底したのでした。繰り返すけど当たり前の事なんだよ。

◎新加入に頼る

八村の変化はわかりやすいものでしたが、チーム全体で見れば思うよりも改善していません。

〇ウィザーズの3Pアテンプト
コーナー  7.1本 →  8.0本
その他  21.7本 → 22.7本

昨シーズンはビールの1.1本が最多だったコーナー3Pは
KCP   2.0本
キスパート 1.4本
クズマ   1.3本
と新加入で大きくアテンプトを増やしたのに、チーム全体では0.9本と伸びていないわけで、まだまだ正常化には時間がかかるって事です。アンセルドがやりたかったのは、シンプルにスペースを保っていく事なので、それをレイカーズから来たクズマ&KCPに頼っていた印象もあります。シューターのキスパートを獲得したのも、そんな意図があったのかもしれません。

アンセルドは大胆な変革をもたらすことは出来なかったとも言えます。ネッツからやってきたディンウィディも含めて新加入組がもたらしてくれる変化に頼りすぎたことは、シーズン中盤から後半にかけて、これといった成長が観られなかったことにも繋がってきてしまいます。

アブディヤやギャフォードなどの有望株を伸ばしていく視点が足りなかったことも痛く、冒頭の通り、これならウエストブルックがいて勝利を目指した方が良かったし、中途半端になるならビールも放出して、激烈に若手中心にしても良かったでしょう。そうすりゃ指名権も落ちてくるしさ。

ある意味でシーズン序盤の好調さが変な方向に進んでしまったのかもしれません。そこにはポジティブな要素もあるけど、アンセルドには明確に足りない要素もあったよね。

◎埋めてしまったクズマ

コーナーにポジショニングしながらも、トップへと移動してパスを受け、ドライブも3Pも打っていくクズマが2人目のエースとして覚醒したことはポジティブな要素でした。でも、得点以上にリバウンドの頑張りが大きかったです。

〇クズマ
17.1点
8.5リバウンド
3.5アシスト

ウィザーズが頑張れた要因はクズマがウエストブルックの穴を埋めるほどのリバウンド力を発揮したことで、チームが安定したのが大きく、そこに得点力でも貢献しました。と思ったけど、20点平均に届いていないんだね。3P34%だし、終わってみればプレータイムが増えた程度の差かもね。

いずれにしても、これまで乏しかったウイング側のアクションによる得点パターンはウィザーズにはなかったものであり、バランスを考えたら昨シーズンよりも良かったかもしれません。もしもクズマの活躍がなければ、順調に再建チームとしてドアマットをさまよっていたはずです。

一方でクズマで埋めることが出来なかったのがプレーメイク能力です。フィニッシャーとしては機能しているけど、ウィザーズにはプレーメイク担当がいないので、スペーシングしたところで3Pが増えなかったとも言えます。

マブスで活躍しているディンウィディも、アグレッシブなアタッカーとして結果を残しているわけで、点を取る能力が高くてもチーム全体を持ち上げるには足りなかったし、そこを補うほどのアイデアをもった戦術でもなかった。

ディンウィディ、ネト、イシュ、アーロン・ホリデーと物足りなさが残りまくった気がします。強くなりたきゃルビオを取りに行けってね。強くなったら放出するんだけどさ。

◎ペイントアタック

スペーシングをしっかりとして3Pの意識を高めたところで、ペイントアタックが成立しなければ意味がありません。ガードにドライブ力があればアンセルドの戦い方は上手くいった可能性がありますが、そもそもいないのに何してんだとね。

〇ペイント内得点
52.8 → 48.9

〇昨シーズンのペイント内
ビール 12.7
ウエストブルック 9.5
ギャフォード 8.2
ロペス 7.3
八村  6.9

〇今シーズンのペイント内
ビール 10.3
ハレル  9.8
ギャフォード 7.6
クズマ  7.6
八村   4.3

ひとつには当然ウエストブルックがいなくなったことが響きました。クズマが頑張ったとは言っても、そこからのアシストにはもっと差があるので、インサイドもコーナー3Pも昨シーズンの方が攻略していた形です。1年前にアンセルドになっていたら良かったのにね。そしたらもっと機能していた気がするよ。

〇フリースローアテンプト
26.2 → 21.9

またフリースローをゲットする回数も大きく減りました。こちらも言うまでもありません。ペイント内と合わせて昨シーズンよりもインサイドを攻めたてることが出来ませんでした。なお、ペースも落ちているので全体の回数は減るんだよね。

アンセルドは「普通」な印象ですが、それはウィザーズに必要な事ではありました。一方で主役キャラが足りていないので普通の事をやったら、普通に負けます。むしろ今シーズンの結果は内容以上に良かったと言えるので、ディフェンス面の頑張りも大きかったです。スコット・ブルックスはディフェンス無視だったもんね。

主役が足りない中での戦術構築をしていた
戦術面で特徴を打ち出すことは出来なかった

この両方が言えると思います。ファンキーさが足りない戦術だったよね。もっと尖がっていても良かったし、そうじゃないから「正常化」なんだとも思うしさ。

さて、ここでの問題は「ベン・シモンズをとっておけばよかったのに」です。

ペイント内のアタック不足、3Pを打たせるためのプレーメイカー不足、ディフェンスを頑張りたい。全て合わせてビールとシモンズのトレードを実行できていれば、ウィザーズは全く違うシーズンを送れていたはずです。チームを正しい方向にもっていくにはうってつけのPGだった気がするよ。まぁ取れたのかどうかは知らないけどさ。

◎ポルジンギス

ここで終わらなかったのが今シーズンのウィザーズの評価をさらに難しくしています。トレードデッドラインで問題児ベルタンスの処理に成功した上で、ポルジンギスを獲得しました。ポルジンギスの才能に関しては、大きな疑問を抱き続けている管理人ですが、ベルタンスのサラリーを払い続けるよりははるかにマシ。

そしてチームの問題であるインサイドを攻めたてるためにもポルジンギスは良い人材でした。というか、欲を言えばヨキッチやアデバヨが欲しいんだけど、それはムリだからせめてポルジンギスくらいは手に入れたかったよ。

「主役となるドライブ担当がいない」のがアンセルドの普通な戦術における問題でしたが、ナゲッツから来ただけあって本当に欲しいのはポイントセンタータイプって感じでした。だからこそPGにアタッカータイプを連れてこなかったのでしょう。

ハイポストにボールを預けて広くスペーシングしておき、そこからワイドに展開したい印象の強いウィザーズなのですが、ハレルやギャフォードでは難しく、八村ではサイズ的にボールが集まりませんでした。そこにポルジンギスがはいったことで、アンセルドの特徴が出てきたと言えます。

また、オフボールスクリーンも使っていましたが、これも「ビールやクズマをフリーにする」というだけのスクリーンから、「クズマをフリーにする形から、スクリーナーのポルジンギスがポップして3P」という形も作れるようになりました。ヨキッチが欲しいアンセルドですが、パス能力はなくても3Pと高さのポルジンギスはやりたいことを表現してくれる選手です。

ということで、シーズン後半になって色が出てきたよ。ポルジンギスの方も自分にボールが寄ってくるシステムは非常にやりやすいと思われます。

一方でギャフォードとアブディヤはどうしていけばいいんでしょうね。クズマやKCPのように動き回って3P打っていくタイプだったり、キスパートみたいにシューターだったりが好まれるので、八村も含めてロスター構成とHCのやりたいことをリンクさせないと中途半端にもなりそうです。

「正常化」といったけど、結局はロスターにいる選手による改革が多く、その意味で次につながるのかどうか不透明なのでした。

◎正常化できたのか

昨シーズンまでのカルチャーは少なからず書き換えられました。ウィザーズとは思えないシーンは多く出てきており、チームとして戦う意識は高まったといえます。ただ、それ故に個人の部分で足りないことが多く、だからといってビールがいるとチームの意識は薄まる印象もあります。やっぱり正常化したいなら、核となる選手を放出して作り直した方が早いよね。

ポルジンギスを獲得したことで理解しやすい戦術になりそうですが、その一方でまたもやり直すイメージから離れてしまいました。ビールと契約延長する話もありますが、ビール&ポルジンギスで戦ってみたいよね。そりゃそうだよね。

奇跡的にホルムグレンでも獲得できれば、ポルジンギスとのツインタワーは怖いですが、王道で言えばPGをドラフトするのでしょうか。あるいはウォールが戻ってくるなんて話もあります。ついでにケンバも取ってしまえよ。

変わりたいんだと思うけど、こういう悩みって何も変わっていない気もするよね。カルチャーを変えてくれるのはHCなんだけど、本当に変わりたければ選手も変えないとダメっぽいなぁ。そんなシーズンでした。

さようならウィザーズ’22” への8件のフィードバック

  1. 自分もチームとしてはビールは放出した方が良い派ですが、
    興行的に生え抜きスターを放出する事はないんじゃないかなと思ってます

    1. ビールって人気あるんですかね。
      というか、ワシントン自体が熱量低めな気も。

  2. PGはどうするつもりなんでしょうね。ネト、サトランスキーは契約切れますがこの2人を中心にいくつもりはさすがにないでしょうけど、このオフのFA市場にPGが全然いないんですよねぇ

    ルーキー契約切れのセクストンとブロンソンぐらいですが、どう転ぶにしろ来シーズンはまだまだ厳しそうだなぁと思っています

    1. ドラフトだと思いますけどね。
      他のポジションは若手がいますし。
      アブディヤもってったら面白いけど、そんな空気なかったなぁ

  3. グレンフェルド政権が長すぎましたね。
    ビールはこの政権の悪いカルチャーを引きずってしまっている感が強いので放出した方が長期的にはチームにとってもビール本人にとっても最善だと思うのですが…ここのオーナーが許さないかな。
    仮にウォールが戻ってきても5~6年前のチームの劣化焼き直しにしかならないと思うので更に繰り返し感が強まりそうです。

    1. オーナーってそんな感じなんですか。
      HCクビにしないで、選手にも優しくて、そしてゆるゆるな空気感って感じのチームだけに、一掃するには大胆に動きたいです

  4. なんか、この選手のここが成長したよ!みたいなのはあんまりなかった気がします。それこそ八村のシュートが一番成長したのでは?個人的にはアブディヤ好きなので、もっといろいろやらせてみて欲しいのですが。
    うーん、ラスの時にも思いましたが、やっぱり全部一回なしにしてもいいのでは?ビール出して1巡目集めて、タンクして、スーパールーキーを指名するまで我慢した方が結局未来は明るい気がします。いろいろ言われていますが、ウォールほどの選手はなかなか見つけられないと思いますし・・・

    1. 何を伸ばしたいのか、3Pだと思うのですが、その前段階のプレーメイカーいないので苦しかったですね。
      ウエストブルック放出の時点で決断すべきだったかなあ

コメントする

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA