天皇杯ファイナル 千葉vs川崎

レブロンが50点とったレイカーズvsウィザーズをライブ配信していたら「天皇杯みますか?」とコメントを頂き、そこで初めて試合があることを知りました。なんだったら1カ月前には現地に取材に行こうと思っていたくらいなのにさ。地上波でBリーグを見れる機会なので、代表でホーバスが問題視していることが観れるのかどうか、なんて観点でYouTube配信しています。

試合は川崎ブレイブサンダースが圧勝しました。千葉ジェッツにも追いつくチャンスはありましたが、両チームには大きな差があると感じた試合でした。ただし、それは戦力の差ではなく、この試合に対する熱意の差というか、コーチングスタッフによるスカウティングの差でした。川崎の方が準備をしてきたよね。

「なんでホーバスはMVP藤井を代表に呼ばないんだ」という意見はいっぱい出たでしょうが、その裏で川崎は代表に選手を送り込まなかったからこそ、代表の招集機関に千葉対策をしっかりと行えたのかもしれません。

また、この試合はホーバス視点で考えると、川崎の藤井と千葉の富樫というハンドラーが中心となるオフェンスを展開している「代表に近い」チームでした。日本人ハンドラーが大黒柱になっているのって、なかなか珍しいよね。でも、そこにはポジティブにもネガティブにも作用している事項があったわけです。

まぁそんなことは後回しにして、まずはざっくりと試合展開と勝負を分けたポイントについて書いていきましょう。

◎スカウティングの差

試合は藤井のプルアップ3P連打によって川崎がリードします。素晴らしいシュートタッチでしたが、とはいえ「シュートが決まりまくっているだけ」の面も強く、明確なリードを得たとはいえ、それが結果に直結したというのは言い過ぎです。最終的に藤井の3Pは4/8だったので、「最後まで入り続けることはない」くらいの出来でした。

それに比べると千葉の方が富樫中心ながらも、バランスの取れたアタックを志しており、藤井が決まらないと止まりそうな川崎はどこかで失速するように見えました。ところが、これがベンチメンバー登場と共に展開が変わります。

富樫が下がったと思ったら、鮮やかなスピードアタックが決まったので誰かと思ったら大倉颯太でした。連続で大倉が切り崩すと、すかさずマークをジャニングに変更し、消しに行った川崎。ディフェンスの対応について複数の準備がされていた匂いです。

一方で篠山のハイプレスにタジタジの藤永。次々と追い込まれ、まともなオフェンスを作ることが出来ず、ディフェンスから川崎が点差を広げていきました。「ディフェンスを頑張る」なんてのはどこのHCでも同じでしょうから、これそのものが準備してきたのかは不明です。なお、相変わらずファールが多い篠山ですが、もう主役は藤井に譲ったので、そこまで大きな問題ではないね。

逆に千葉もハイプレスを仕掛けるのですが、すると川崎のPG役がジャニングにスイッチされ、事もなく運んでいきます。佐藤卓摩がアグレッシブに守ろうとしても、そこはスキルの差があるので、何もさせなかったジャニング。

また他にもタイムアウトから千葉がゾーンプレスを仕掛けると、パス2つでカウンターアタックを決めた川崎。後半もゾーンプレスに着た瞬間に前を走っていた増田が、ハーフラインまで戻ってパスを受けプレスを無効化するシーンもありました。とにかく千葉のアグレッシブなディフェンスに対して、どういう対処をするのかが明確だった川崎。

このプレスを巡る攻防は両チームに大きな差をもたらしていました。

また、他にも川崎はビッグラインナップながら、ボール運びから流れるようなプレーセットで4人がフリースローラインよりも上にでてスクリーンプレーをするという雰囲気にしておきながら、ゴール下で富樫にマッチアップされている選手がポストアップするシーンが4~5回ありました。「相手は千葉、富樫の高さを狙え」というオプションが用意されていたし、そのポストアップのために全員のポジショニングも意思統一が出来ていました。

エンドラインのスローインでは、3Pラインの外にいるファジーカスにロブパスを出すと、スロワーがすかさずゴール下へと入り、リターンを受けてファールドロー。これがスペシャルプレーなのかは知りませんが、いずれにしても千葉のガードが小さいという部分を狙い撃ちするためのプレーが準備されていたわけです。

というわけで大量リードになったのは、藤井の大爆発にみせかけて、川崎が千葉対策として準していた策が見事にハマったからという印象です。多分、藤井の3P中心に準備していたら、ここまでの大差にはならなかった。

なお、藤井のプルアップ3Pも「千葉はこうやって守ってくるはず」から導かれたのかもしれません。プルアップ3P自体は日常かもしれないので、そこはわからん。ただ、いずれにしてもスクリーンを用意したときに、千葉はスイッチもショーディフェンスもせず、ファイトオーバーなので、藤井は「自分が打つ」という前提でした。1度はギャビンがチェックに来たけど、敢えてストップしたらギャビンが自分のマークに戻ったから、藤井が3P打つなんていうふざけたシーンもありました。

いずれにしても川崎のスカウティングが勝っていたよ。

◎試合を分けたタイムアウト

そんな感じで2Q序盤に川崎が28-17と11点リードになってから、川崎の得点を羅列してみます。時間は2Qの残り時間ね。

8:28 17-30 #11 増田 2Pシュート○(2点)
7:56 17-32 #0 藤井 2Pシュート○(12点)
7:16 19-34 #35 ヒース 2Pシュート○(2点)
7:08 19-36 #0 藤井 2Pシュート○(14点)
6:08 22-38 #22 ファジーカス 2Pシュート○(8点)
5:36 22-41 #0 藤井 3Pシュート○(17点)
5:35 タイムアウト

藤井がミドルを決めた後、ドライブからヒースへのアリウープパスを通し、さらに自らもドライブレイアップを決め、トドメの3Pで19点差になりました。3分間で8点広げたわけですが、ここでやっと千葉がタイムアウトです。

この後で藤井が一回ベンチに下がったこともありますが、前半はこの17点で止まったし、後半は8点に留まっている藤井ですが、理由はシンプルで藤井にバカみたいにやられたのでマッチアップを変えました。スピードで振り回されるから、富樫や大倉に変更してスピード対抗したら、そこそこ止まった藤井です。

2回目のタイムアウトをケチったのか、藤井を止められる選手に心当たりがなさ過ぎたのか、理由はわかりませんが1Q序盤に決めまくっていた藤井を、再びノせてしまったのが、この時間帯でした。大倉への対処が早かった川崎に比べ、千葉は藤井への対処が極めて遅く、実質的にここで勝負が決まってしまいました。「決まった」は結果論か。まぁ20点差にされたのは采配ミスだったというわけです。

スカウティング、オプション手配、試合中の采配とベンチの戦いで川崎が圧倒し、それがそのまま結果として表れてしまった試合でした。ってことでMVPはHCにあげようね。

ただし、後半に千葉が追い上げる時間がやってきますが、川崎ベンチの動きもよくわからなくなりました。つまりは「事前準備の千葉対策」は完璧だったけど、千葉が川崎対応として何かをしてきたら対処は出来なかった感じ。

後半の千葉は明確なファジーカス狙い。絶対に足がついてこないであろうファジーカスをいじめまくりましたが、ぜーんぜん、交代させない川崎ベンチ。20点差の余裕ともいえるし、オフェンスでのファジーカスを欠かせないと考えたのかもしれない。あと、そもそもやられ慣れているのかもしれない。よくわからん。

ただただ、スピードでファジーカスをぶん回されると、なすすべなく無抵抗だったね。一番ひどかったのは、富樫がスクリーンで抜け出して、ファジーカスが途中まで追いかけるんだけど、ボール持っている富樫を捨てて自分のマークに戻り、ドフリーのミドルを打たれていたシーンでした。諦めたファジーカス。諦めてリバウンドに備えたのかな。

ってことで、試合展開はこんな感じでした。細かく言えばフリースローミスが多過ぎたとか、4Qに点が取れないけどスローダウンしていったジャニングとか、いろいろあるけど、まぁ前半の差がデカすぎたし、その差を作ったのは戦力ではない部分だと思ったよ。

ここからは代表に絡むような話で進めていきましょう。ダンカンとか、ムーニーとか、アギラールとか、ヒースとか、みんな良いプレーがいっぱいあったけど、全部触れていくほどBリーグに対する知識もないしさ。

◎富樫劇場

代表で起きている富樫問題というか、富樫のマイク・ジェームス感というか、要するに「富樫が決め始めると周囲にボールが供給されない」「ゲームメイク能力がない」という点について、より連携もあるクラブだとどうなのかと思いましたが、全く持って何も変わらない現象が起きていたのが印象的でした。

試合開始直後からプルアップ3Pを決め、スピードドライブを決めた富樫。この点については素晴らしいの一言です。あと、前半はそこまで富樫問題は気にならなかったよ。クリストファー・スミスが良い選手であったことも含めて、パスを散らすこともあったしさ。

20点ビハインドの後半はファジーカス狙いの千葉オフェンスでしたが、基本的にファジーカスがマッチアップしているのはギャビンだったので「ギャビンがスクリーンに行く事でファジーカスを狙える」構図でした。

初めに躍動したのはスミス。ギャビンがスミスにスクリーンに行ったわけです。オフボールからマークの受け渡しを発生させれば、ほぼほぼディフェンスは崩れてしまう川崎。川崎っていうかファジーカス。ここでなかなか決まっていなかったスミスの3Pが連続ヒットしたことで、千葉の追い上げムードが出来てきます。

今度はスミスが引き付けてムーニーにアシスト。タイムアウトなどを挟んでもスミスの2Pにムーニーのインサイドと繋がり、そこから今度は富樫がギャビンのスクリーンを呼んでツーメンゲームからファジーカスをボロクソにイジメていきます。スピードで振り回して、次々にムーニーのフィニッシュへと繋いでいったよ。

後半開始5分で10点縮め、千葉のペースになったのですが、この流れを止めたのも富樫。3つくらい続いたピック&ロールをその後も続けてターンオーバーに3Pミス。それでも自分で行く富樫はスピードアタックでファールドローなんかもしたけれど、急激にチームメイト達が消えて行ってしまいます。

富樫がハンドラーとしてシュートを決めるのも、スピードを生かしてファジーカスをイジメるプレーも素晴らしかったよ。ワンプレーワンプレーは良かった。だけど、そのプレーをあまりにも続けてしまい、さすがに慣れてくる川崎ディフェンスに対して千葉のオフェンスは時間がかかり、掴んでいたリズムが失われていきました。

まぁ千葉は富樫のチームだからHCもベンチに下げないし、それでもいいのかもしれませんが、外国人選手も含めれば富樫よりも優れた選手もいる中で、あまりにもチームメイトを消してしまうワンマンプレーっぷり。突如として始まって、止まらないんだよね。

富樫の3P3本しか決まらなかったオーストラリア戦の3Qを思い出させる展開。ファジーカスをイジメたのは良かったけど、トータルで見るとディフェンスを攻略しているという感じはなかったぜ。「このプレーが決まってディフェンスがアクションを変えるから、次はコレ」みたいなゲームメイクがさ。

あとシンプルに周囲が見えていない時が出てくる面もあり、特にトランジションでワイドオープンの選手を見つけられず、パスが遅くなって打ち切れないこともあったね。なんていうか、個人で点を取れるのは大きなメリットだけど、個人でしか点が取れていなかったよ。

見事なハンドラーアタックの後で、アシストパスを通していった台湾戦の西田に比べると、どうしても「富樫はシックスマンの個人技担当として使おう」に決着してしまうのでした。代表の話ね。

◎30歳 藤井 祐眞

その富樫に比べると、明確にディフェンスを見てプレー判断していたMVP藤井。そりゃあ川崎のファンは代表に呼べといいたくなるでしょうが、篠山からポジションを奪い始めた頃は既にW杯やオリンピックのチームが固まったころで、途中からPG変更は難しかったし、しかもオリンピックが1年延長されてしまった。

そして今の藤井は30歳なので、ここから代表のPGに定着させるのはちょっと悩むよねぇ。パリまで残り2年と考えればアリかもしれないけど、ホーバスはどう考えているんだろ。まぁ「合宿には呼びたい(合宿は50人で2カ月やるよ)」だろうな。

先にネガティブな事を言うと、どうみても富樫よりも良かったけど、10アシストの富樫に比べて1アシストしかしていないわけで、個人で切り崩して欲しいホーバスの考えにピッタリとハマるわけではありません。

3Pは決めまくったけど、個人マッチアップだけで戦うなら富樫の方が上で、そして代表戦でみんな苦労するのは、個人マッチアップの戦いでフィジカル負けする事なので、ハイプレッシャーに対して対処できるのか不明。特に川崎はジャニングがどうにでもしてくれたことを考えると、ジャニング抜きで成立するのかどうか。それは西田がジャニングすればいいのかもしれないけどさ。

ポジティブな部分は、そのプルアップの判断が適切だったこと。本当に周囲をしっかりと判断出来ていたよね。ただ、オーストラリアみたいにビッグマンがブリッツ気味でも襲い掛かってきたらどうなるのかは、Bリーグでは全く分からない部分なので、そういう意味でも30歳の藤井に国際線の経験を積ますメリットは・・・

篠山もそうですが、川崎のガードはPGとしてというか、もう1人のガードを輝かせることを含めると優秀だよね。この現象が起きる最大の理由はファジーカスが動けないので、ガードがギブ&ゴーなんかを使って動きを付けるって点にもありそう。そう考えるとファジーカスのいない代表だと難しいのかどうか。

えーっと、もっと藤井を誉めてあげたいのですが、全体的に言えば「シュートチョイスがよく、シュートが決まったね」で終わるね。ドライブのタイミングも良かったですが、いいかえればタイミングの良い時にドライブするタイプなので、ひたすらハンドラーアタックさせていたホーバスには合わないかも。

ちなみに調べたらBリーグでの藤井の3P35.2%で富樫が32.0%です。うーん、10%くらいの差をつけておいて欲しかったね。富樫の方も不安定な匂いがしてしまうぜ。

それにしてもジャニングが凄かったです。外国人ハンドラーはスピードやシュート力ではない「間」の作り方なんかが違うんだよね。単純なアタックだったら日本人も負けていないけど、どうしてもトータルで戦術力の差が出てしまう。しかもジャニングって本来はシューターなんでしょ。

https://basket-count.com/article/detail/104609

管理人がガード陣に期待する仕事が大きすぎるのかもしれませんが、NBAプレイヤーじゃなくてユーロ系をみてしまうと、ガードの仕事が全く違うんだよね。アメリカはアタッカーみたいなガードも多いけど、もう少しゲームコントロールして、ウイングを使って欲しい。

千葉にはスミス、川崎にはアギラールがいたけど、ウイングの外国人を上手く絡めるオフェンスにはなっていなかったなぁ。千葉の方はチームとしてオフボールのスクリーンを用意するなど、使う方式はあったけど、富樫がタイミング合わないパスしていたりと、どうしてもズレていた。川崎の方はそもそも使えていなかったのでリバウンド担当になっていた。

ってことで代表にはジャニングを呼びたいのでした。

◎誰もいなかった

最後に天皇杯ファイナルという場ですが、見事にビッグマンに日本人はいませんでした。ファジーカスとギャビン入るけど、予想以上にギャビンも遅くて、走力重視のホーバスだと使いづらいかもね。

これだけならば通常の話ですが、面白かったのは前述の通り両チームはハンドラーアタックをメインにしており、その意味では代表に近かったし、ポストアタックは重視していないので、決してパワーと高さの外国人に頼っていたわけでもない。

3P決めているファジーカスだけじゃなくてピック&ロールからのポップもあるし、全体的にガツガツと外国人パワー推しではないんだな。だから、ビッグマンシューターの日本人が出てくれば対抗できそうだった。出てこないんだろうけどさ。

一方で「ファイブアウト」っていわれてもねぇ。レブロンとウエストブルックがいるレイカーズじゃないんだからさ。それでも両チームがハンドラーアタックでスピード使うけど、ちゃんとビッグマンはいる状況で使えていたよ。特に千葉は富樫も大倉もスピードでぶちかましていたしさ。かわりにコーナー使うの下手だったけど、佐藤がいれば使えていた。

両チームが日本人ガードをトップスコアラーにした天皇杯ファイナルでした。その点では外国人頼みから脱却の方向性が見えたね。次のステップに進むのに必要なのはビッグマンの「人材」なのか、それとも「戦術的進化」なのか。サイズもなければフィジカルもないオースティン・リーブスの見事なカットプレーとか見ていると、必ずしも「人材」ではない気がしてくるよ。

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