「異常」ではないアヌノビー

アヌノビーといえば「異常な守備範囲」である。

219センチのウイングスパンを活かしたリムプロテクトから、ハーフラインからのハイプレッシャーもすれば、ローテで逆サイドコーナーまで追いかけてのスペシャルな守備範囲を誇っています。

言葉で書くと「他にもいそう」ですが、アヌノビーほど異常な選手はいないんです。例えば比較対象にされるレナードも全てをやりますが、マンマークの時はマンマーク専任だし、ヘルプでのリムプロテクト担当の時はマークを浮かせています。同時にいろんな役割をやっているのは珍しいです。

それがアヌノビーの凄み・・・だと思っていたのですが、

ラプターズの戦術変更に伴い「異常な」守備範囲は消え、「普通の」スゴイ守備範囲

になってしまいました。いや、十分にすごいんだけどね。変態ディフェンダーではなく、グレートディフェンダーになってしまった。

これまでアヌノビーの異常さによって成立していたラプターズディフェンスは、アヌノビーに頼ることを辞めました。結果的に控えである渡邊雄太の出番も減りました。

https://basket-count.com/article/detail/110503

そしてオフにはアヌノビーのトレード話も出ています。チーム戦術の中で異常さが発揮されなくなっただけに、必要性も低くなったのは事実です。まずは、アヌノビーの何が異常で、それがチーム戦術の変化とどう絡んでいるのかを振り返ってみましょう。

◎テレパシーディフェンス

ラプターズのオリジナルディフェンスといえば、高速のローテ&カバーが行われながら、コミュニケーションミスが殆ど起こらない「テレパシーディフェンス」でした。ガソルがいた時は、どうしても外まで追いかけられないガソルの分までアヌノビーが追いかけていました。

しかし、今回はラプターズ回ではないので、もう少し一般化しましょう。アヌノビーがスゴイってのはいいとして、そもそも

何故、アヌノビーの「異常な」守備範囲が必要なのか?

ってことです。それも戦術変更によって不要になったわけです。そんなことあり得るのかって話ですよ。

テレパシーディフェンスのようにローテ&カバーが大量発生するのは、それだけヘルプポジションをとる機会が多いということです。

基本的にボールサイドを強く守るラプターズ戦術は、ボールをマークしている選手の左右にいる選手が、ギリギリの際どいポジショニングで自分のマークにも、ドライブカバーにもいける位置にいます。

そうなると逆サイド側もズレていくので、基本的に逆サイドでは「オフェンス2人に対して1人で守る」というシーンが日常的に発生します。

もちろん、普通に外でボールを回される分には高速ローテで、あっという間に解消されますが、ドライブキックアウトやポストでの中継を挟まれ、逆サイドへ展開されると部分的に2対1になってしまいます。

そしてボールに対して1人が行くと、次のカバーがもう1人を埋めに行きますが、人にしろスペースにしろ、マズいゾーンを埋めるのは大体アヌノビーかラウリーでした。

共にパスへの反応が鋭く、大胆に動けるので、ボールサイドにいたとしてもパスが出た瞬間に自分が捕まえるべき「次にフリーになる選手」を見つけて、怒涛のチェイスをします。大胆にマークを捨てるラウリーに対して、捨てずに埋めていくアヌノビーの特徴は

パスへの反応の早さと、前後左右へと予備動作なく方向転換するボディバランスが優れている

そのため、アヌノビーは「逆を取られる」ことが殆どありません。正確には、あるにはあるのですが、方向転換のリカバリーが異様に早く、単にスピードがあるというよりは、次々にボールを追いかけることが出来てしまいます。普通は出来ないよね。

そんな能力があるので、パスを見てから動いて間に合うので、ボールと逆サイドでも平然と2on1を守ってしまいます。変態です。

しかもアヌノビーは、ドライブされるたびにゴール下のカバーに入っており、そこからアウトサイドへのキックアウトパスを追いかけます。普通は「どちらかを捨てる」ことでディフェンスが成立するのですが、捨てないのがラプターズの怖さでした。

また3-2ゾーンになると全員がローテ&カバーするマンツー以上に、アヌノビーの守備範囲が異常になります。追いかける担当がアヌノビーと決まっているからです。

3の真ん中でハイポストを守っていると思ったら、マンツー時と同じく逆サイドにボールが回ってくると平然と3Pをチェイスし、それでいてゾーンの真ん中としてリムプロテクト担当もしていました。

4人のボックスゾーンと「どこへでも行くアヌノビー」で成立していた戦術アヌノビーのゾーンディフェンス

このゾーンは強力でしたが、何が強力かといえば、ただでさえディフェンスの良いラプターズなのにアヌノビーの「異常な守備範囲」をベースにしているから、オフェンス側からするとゾーン攻略の常識が通用しないって事です。

さすがにブラッド・スティーブンスやスポルストラは、異常な前提で考えて来ていた印象ですが、もう忘れたわ。昔の話だなぁ。

アヌノビーの「異常さ」とは、単に「スゴイ」のではなく、「理不尽なディフェンス戦術」になっていたのでした。

◎ファイブビッグ

しかし、この「異常さ」が消え失せてしまいました。理由はニック・ナースが新たに導入したファイブビッグ戦術です。

カバー&ローテの連続とは「平面のスペースを埋めるディフェンス」でしたが、キーマンだったラウリーが移籍したこともあって、アヌノビーだけでは成立させられなくなったのか、それよりも動けるビッグマンを並べることにしました。

面白いことにビッグラインナップにしてペイント内失点は増えました。細かいポジショニングにより全員でドライブをカバーしていく形がなくなったことで、高さはあっても頻繁に侵入されてしまうのでインサイドの失点が増えたのです。

またローテのスピードもないので、シンプルにキックアウト3Pを打たれてしまい、かつてリーグトップだった被3P成功率は悪化しました。トータルで守れなくなりましたが、その代わりにリバウンドやブロックでの強みを求めました。

これらの変化により、ある程度抜かれてしまう前提でリムプロテクターが用意されることになりました。

そのためボールと逆サイドの2on1を守る必要はなくなったし、平面のスペースを消せず4人のボックスゾーンでは守れないからアヌノビーの+1の仕事もなくなりました。

オーソドックスなディフェンス戦術を採用せざるを得ず、チームとして高さの優位を求めたため「異常な守備範囲」は不要になった

アヌノビーは「異常さ」を求められなくなり、普通の素晴らしいディフェンダーになりました。

〇ラプターズのDIFF
19-20シーズン △3.6(2位)
21-22シーズン +0.1(17位)

〇アヌノビーのDIFF
19-20シーズン △2.2
21-22シーズン △1.5

チーム全体のスタッツが著しく落ちた中で、アヌノビー個人としては奮闘しましたが、こういう普通のスタッツを用いて素晴らしさを語る選手ではなかっただけに、かなり残念なのでした。

◎アヌノビーの不満

嘘か本当か不明ですが、アヌノビーがチーム内の役割に不満を感じているとの記事が出ました。その真偽は別にして、単にスコッティ・バーンズにプレー機会を奪われたことだけでなく、

これまでアヌノビーの「異常さ」を中核にして組まれていたディフェンス戦術そのものが見直された

というのは不満に繋がってもおかしくありません。要するに「つまんない戦術になった」と捉えられているかもしれないってことです。

特にアヌノビーの場合、ルーキーシーズンはレブロンを守るマンマーカーだったのに、そこからセンター役までこませるフィジカルを身に着け、時にはアデバヨ潰しなんかもするスーパーマルチなディフェンダーへと変貌しました。変貌したっていうか、そういう多彩な役割を要望されてきました。

しかし、ファイブビッグになってから、何も要求されていない気すらしてきます。

ちなみにプレーオフのシクサーズ相手には、メインでハーデンを止める役割となり、125回のマッチアップで13点しかとられず、マキシーはFG36%に押さえています。エンビードにはそこそこやられたね。エースキラーはやっていたよ。

不満があるとしたら、主にオフェンス面だとは思いますが、インテリジェンスがなくなったラプターズの戦いぶりは、ディフェンスにおけるアヌノビーの異常性を使えておらず、そういう面でも役割に不満があったのかもしれません。「オレじゃなくてもいいじゃん」と思われていそう。

テレパシーで意思疎通しているとすら評されたディフェンスと、ポジショニングミスも発生し、高さで勝負している今では、やっているアヌノビー本人にストレスがかかっているのかもしれません。

◎異常性を使えるのはどこか

では、そんなアヌノビーが行くのはどこのチームがいいのか。というか、基本的にどこのチームでもハマるタイプなんだよね。主役とロールプレイヤーの中間で、どっちにも対応するディフェンダー。

ただ、やっぱり「異常な守備範囲」を使って欲しいよね。

①ウォリアーズ

王道過ぎて面白くないね。ウィギンズと交換するとさらにパワーアップしそう。

②ナゲッツ

ナゲッツに足りないのはガードのエースキラーと、ヨキッチを誘い出された時のカバー担当。なんだ。どっちもアヌノビーじゃん。しかもナゲッツの場合はチームとしてのカバーリング性能が高いので高くフィットしそうです。

トレード要員にゴードンを出さないとダメっぽいのですが、ラプターズは欲しくないだろうから不成立

③マブス

ノービッグで躍進したマブスであり、ドンチッチのサボり分を解消してくれます。フィニースミスとのコンビは極悪非道のディフェンスコンビになりそう。

加えてセカンドエースとしての役割が出来ます。そう考えるとベストマッチな気がするよね。対価はディンウィディとハーダウェイなので、なんだか成立しそう。

④ペイサーズ

実はPFタイプが足りていないことを考えるとフィットしそう。対価もブログドンなので成立しやすい。

でも、ガードが多いチームなので完全なインサイド担当になり、そこまで異常性を使うかな?

⑤ジャズ

噂に上がっているゴベアのトレードならばジャズは有力候補。そしてゴベアがいなくなり、ゲイ、パスカル、フアンチョあたりが残ったならばスモール路線のウイングとして活躍しそう。ボグダノビッチ、オニールと並べて面白いタイプです。

アズブイクをセンターにしたらガードのエースキラー役にもなるし、なんだか使い方いっぱい。夢いっぱい。

⑥ネッツ

ネッツというかデュラントと並べたら面白そう。セルツに負けただけに、ウイング2枚を並べた戦い方は望むところだ。ヤニスの相手からアデバヨを消すところまで、ビッグマンを守れるわけだし、非常に好ましい補強に見えるぞ。しかも、このチームならばアヌノビーは忙しくヘルプに動き回るでしょ。

対価はカイリー。でも、そうなるとアヌノビーだけでは成立しそうになく、むりだろな。

⑦ヒート

ん-、でもよく考えると、一番便利に使いそうなのってスポルストラじゃない?
変なゾーンやるの大好きだし、ニック・ナースのように変態アヌノビーシステムを採用しそう。弱点のディフェンダーもいる中で、カバーリングにも忙しく、ペリメーター追いかけるアデバヨが空けたゴール下も塞ごう。

そしてアデバヨと組ませるウイングとしてもフィットするタイプ。もともとスモールのウイングしていたわけだし、コーナーでのプレーも上手い。問題はヒーローとのかみ合わせくらいかな。ヒーローくらい1on1担当もやりたそうだもんね。

あっそれでもってラウリーいるじゃん。単純にラウリーとアヌノビーをもう一度。

◎天才と変態

アヌノビーは「異常な」守備範囲を誇る変態でしたが、それはアヌノビーに頼った戦術設計でもあり、アヌノビーの変態性を突か切った戦略でもありました。

「何故、それが成立するのか?」という采配を振るってくるニック・ナースの天才性によって引き出されていたかもしれません。普通に考えたら成立しないことを、天才が成立させてしまった。

その天才がファイブビッグの戦術を成立させたことで、アヌノビーの異常さが消えてしまったシーズンでした。なんとも切ない話です。同時にこれまでのような使い方をされていないアヌノビーは「良い選手だけど、スペシャルではない」イメージが強かったです。

戦術的にインテリジェンスを使えなくなると、個人アタックで決めきる能力の高いスコッティ・バーンズの方が良い選手かもしれません。

ただ、テレパシーディフェンスという高度な戦術を使うならばアヌノビーの存在価値は高まり始めます。オフェンス面でもコーナーからプレーできるのは便利だし、ハイポストでの経由やゴール下へのカットプレーもしながら、アイソも出来るので「いろいろやる」戦い方には適していました。

アヌノビー自身はインテリジェンス溢れるというよりは、身体能力で対応している選手ですが、戦術の簡素化により、その凄みが失われたというのは、かなり珍しいタイプな気がします。

そしてラプターズがインテリジェンスに戻るならば、アヌノビーは必要な戦力です。アヌノビーがいなくなってしまえば、ヴァンブリードやシアカムも含めて、パターンが限られたチームになってしまいそうです。

果たしてアヌノビーは残留するのか。それは来シーズンの戦術プランにも関係してきそうです。

「異常」ではないアヌノビー” への3件のフィードバック

  1. OG愛が感じられる記事をありがとうございます。
    OGとガソルの相性が特別良かった気がしますね。今となってはいい思い出です…

    管理人様はそのインテリジェンスの低さを良く指摘されているバーンズ(&アチウワ)ですが、身体能力が高い選手ですし、ナースのもとでネクストOGになることを密かに期待してます

  2. ラプターズがエイトンに興味を持ってるなんて噂もあるのでサンズ行きはどうですか?
    マブス対策としてドンチッチ担当とカバーリング担当両方こなせますし、ミケルやキャムより個人で突破する能力もあるので昨シーズンの反省としてはベストかと。

  3. ディロンブルックスとトレードしましょうか(因みにディロンを積極的にトレードに出したいわけではありません!!)。1対1じゃ納得しないと思うので、クラークもつけちゃいましょう!!グリズリーズなら1on1も出来るし、ゾーンはあまりやらないけど、異常なカバーリングは発揮できる!!

コメントする

メールアドレスが公開されることはありません。

CAPTCHA