魔法のないセルティックス

ノー・マジック・ウドカ

開幕当初のセルツは酷かった。ちょっと回復するとは思えないくらいにチームがバラバラでした。その後、ミーティングして改善したものの、戦術的要素に見直しはないので長続きすることもなく、再び下降していった、と思いきや、再浮上し始めるとデッドラインのトレードを経て、リーグ最強へと駆け上ってきました。

しかし、一体何が改善したというのかサッパリわからない。もちろん、具体的な改善ポイントは多くあります。

・両ウィリアムスの成長
・フィットしていくホーフォード
・サイズアップ
・合わせの向上 などなど

ただ、これらは「個人の改善」や「連携の向上」といった戦術とは異なる部分であったし、何よりもホーフォードの獲得からタイスも戻し、逆にシュルーダーやJリッチの放出など、ホワイトを除けば

ブラッド・スティーブンスのオリジナルメンバーへの回帰

これでしかありませんでした。スマート、ブラウン、テイタム、タイス、グラント、ロバート、プリチャードと主力たちは「ブラッド・スティーブンスにドラフトされ、育てられた選手たち」ばかりになりました。つまり「連携の向上」とは、ただ単に

慣れ親しみ、意思疎通が容易な選手を集めただけ

でもあります。驚くような変革どころか、ベーシックなプレーに終始しているため、どうしても「ウドカはスゴイ」とはなりません。ブラッド・スティーブンスの遺産で戦っているようなセルツ。それ以上のものは何も感じないのです。

その一方で「遺産」としか表現できないのは、これまで嫌というほどに驚嘆させれらてきた要素が全くないからです。それこそが天才HCの最大の凄みであった

マジックと形容するほど驚異的に当てていく采配は消えた

ハーフタイムを挟んで驚くほどに戦術を変更して相手を攻略することもなくなれば、相手の弱点を的確に見極めて突くこともなく、かといって「それが決まるのかよ」という大胆なチョイスを当てまくることもなくなりました。

ブラッド・スティーブンスの遺産を集めながら
ブラッド・スティーブンス最大の特徴であるマジックは消え
ブラッド・スティーブンス時代よりも強くなった

あの天才性を感じなくなったセルツは「ブラッド・スティーブンスのチーム」ではなく「テイタムのチーム」へと変貌しました。魔法のないセルティックスは、力のあるセルティックスになったのでした。

ところで、この数年はブラッド・スティーブンスのマジックも影が薄くなっていたんだよね。それはバランスの悪いチーム事情なのか、ケガでの離脱が多過ぎる健康面なのか、あるいは単純に「ホーフォードがいなくなった」からだったのか。
最後の要素がある以上は今シーズンのブラッド・スティーブンスの采配もみてみたかったよね。ヘイワードがいれば面白いバスケを出来ていた時期もあるし、この万能&インテリジェンスタイプが欠かせないのがブラッド・スティーブンスでもありました。

◎ブラッド・スティーブンスを懐かしむ

プレーオフの戦いにおいて、ウドカはもちろん様々な対策とアジャストを繰り返しました。記憶に新しい所ではヒート相手には徹底してストゥースを狙ったスイッチ誘導を繰り返したし、カウンターの戦いになる中でハリーバックを徹底し、逆にホーフォードのリバウンド時にテイタムが走っているなど自分たちのトランジションを増やしに行きました。

まぁでもあれだよね。どれもブラッド・スティーブンス時代の遺産に見えてしまうよね。vsウィザーズでウォールがドライブを決めた直後にホーフォードのロングパスからアイザイア・トーマスのカウンター速攻にしていたほどの衝撃はないし、そのオマージュみたいな形だったので「遺産」なんだよね。

ちなみにカウンターの件だけじゃなくて、全体的にアイザイア・トーマス時代っぽかったよね。戦術的にはそのままな気もしました。オリジナルメンバーである以上に、それより前のブラッド・スティーブンスな匂いがしました。グラントはオリニクっぽいしさ。

シーズン当初はオプション的な選手をベンチに用意していましたが、それを使い切れていたとはいえず、結果的にオールマイティな選手ばかりにしたのがデッドラインでした。主力の人数は絞られ、連携は向上した反面で、試合中に相手に合わせて戦い方を変えていく事も出来ませんでした。

またブラッド・スティーブンスは自分たちの強みよりも、相手の弱点を活用する術に優れていました。カイリー・アービングをコーナーに置いて(相手のエースキラーをコーナーに置いて)全く違うマッチアップで勝負していくことも多く、「それで勝てるのかよ」みたいなことは多かったです。

このブラッド・スティーブンス要素は誰かさんの反感を食らう事もあったねぇ。

しかし、今はほぼテイタム&ブラウンです。たまにスマートが目立ちますが、大体は「スマートが暴走しているぞ」と言われるわけで、そこまで効果的に判断しているわけではありません。ストゥースを狙ったのも、ほぼテイタム&ブラウンだったよね。あと逆にオラディポにマークされ、止められても止められてもブラウンだったこともあった。

ブラッド・スティーブンス全盛期には、ラストショットを気持ち悪いくらいに決めまくる時期もありました。ロジアーだったり、モリスだったり、主役じゃない選手に打たせては決めていくのだから、タイムアウト時のチョイスからしてマジック。ただ、これについては今シーズンのプレーオフでは。そんなシーン自体が殆どないし、あってもスマートが打って失敗したし。一応、変なチョイスはしているといえばしているのか。

いずれにしても、ウドカにはマジックがありません。見ている方を驚愕させる采配で成功してしまうことはなく、普通に純粋に自分たちの強みを使っていく流れが殆どでした。

・・・いや・・・1つだけあったね・・・

ヤニスへのダブルチームを辞めて、1on1で対応させて成功

ウドカが起こした唯一のマジック。止められないモンスターをゲーム1では複数人でカバーしていたのに、ゲーム2以降は個人対応に変更したにも関わらず、ホーフォードとグラントが1on1対応で勝ち切ってしまった。この成功は「なんでそうするの?」を選んでの成功でした。狙いそのものはキックアウト3P塞ぎなのでわかりやすいですが、それが成功するとはね。

そして、これこそが「ウドカが勝った理由」にもみえてきます。異常なまでに個人への信頼を持っていたウドカ。

◎魔法のないウドカ

ファーストラウンドではデュラントにダブルチームを仕掛けてはブルースに点を取られていました。時にデュラントがパスしすぎることもありましたが、それくらい複数の対応をしていました。つまりバックスとのゲーム1までは、なんだかいろいろとやっていました。

それがバックスとのゲーム2以降は「1on1で守る」のがベースでした。なんどもヤニスにボコられていたブラウンなんていう構図がありましたが、それでも早めのダブルチームで囲むようなことは極力行いませんでした。

47点を奪われたバトラーに対しても1on1でした。ゲーム7でさえ、ホワイトがパワーでインサイドに押し込まれているのに、誰もヘルプに来ないシーンもありました。かわりにバトラーが点を取りまくってもストゥースが空くことはなく、スポットシューターのタッカーは1on1で突破できるオラディポと交代しました。

アデバヨが物足りなかったのも「ホーフォードとの1on1なのに自分で行かなかった」からです。もっとヘルプを寄せて展開するのがアデバヨらしさですが、こないなら自分で決めなければいけません。

その結果、シーズンで25.5本あったヒートのアシストは、僅か19.7本に抑え込まれました。FG成功数は3.8本減っただけなのに、アシストは5.8本も減ったのです。

もちろん、セルツにはヘルプ能力の高いホーフォードとロバートがいて、DPOYスマートはどこからでもぶっ飛んできます。しかし、彼らはマッチアップのディフェンダーが抜かれない限りは、マンマークを基本にしています。ある意味でヘルプの強さはチームディフェンスのではなく、個人でのヘルプ能力に見えました。

ウドカにマジックはありませんでしたが、その代わりに

個人の1on1を積み重ねた強烈なチームディフェンス

極めてストロングスタイルですが、そのストロングスタイルがここまで成立するのは、個人が守り切れると信じて、チームとしての強靭さが生まれたからです。ある意味でこっちの方が驚異的な魔法かもしれません。

戦術としての優秀さよりも、1on1の強さが際立ったセルツのディフェンス。ブラッド・スティーブンス時代の遺産のようなメンバー構成なのに、重要だったマジックのような采配がなくなったからこそ、スキのない「強烈さ」がもたらされたディフェンスでした。

◎「力強さ」というマジック

オフェンスはより個人主義にみえました。狙いはほぼテイタム&ブラウンの個人技突破です。スイッチ誘導する形は複数持っており、アイデアとしての豊富さはありつつも、テイタムがマシューズに困り、ブラウンがオラディポに困るとチーム全体も困ってしまいました。

それでも最終的にはテイタム&ブラウンで勝ちました。このプレーオフでテイタムが打ったタフ3P56本は他の誰よりも多く。ブラウンの33本はクレイの37本に次ぐ6番目の多さでした。

ロバートがベンチに下がると、ホーフォードとグラントはワイドに広がるファイブアウトになるので、スペースを広く保って両エースのドライブアタックを促すベーシックな戦術でした。出来ればディフェンス力の低い選手を狙ってもいるので、成立はしていますが、マジックでも何でもありません。

しかし、重要なのは「マジックなしで勝った」ことです。この正攻法の戦い方が成功の要因だったのです。ウドカが選んだのは「オレ達は強い」でした。それが最後まで強かったのだからマジックなんて不要です。テイタムとブラウンはそこまでの選手だったのでしょうか。むしろこれは「ウドカが自信を与えた」と見る方が正解な気がしてきます。

選手個人個人が輝きを増したのが今シーズンのセルティックス

選手の顔ぶれは変わっていないはずなのに、個人のレベルアップが強く感じられるプレーオフだったのだから、それこそが「ウドカのマジック」だった気がします。このチームの選手はここまで優秀だったのか。それ以上に

少人数ローテながらスタミナ負けすることなく、高いインテンシティを保ち続けた

これもまた驚異的なマジックでした。カンファレンスファイナルが始まる前の予想は「質のセルツ、量のヒート」でしたし、ヒートはラウリーの復帰や、突然のオラディポで勝利を手にしました。それだけスタミナ面で優位だったはずが、ゲーム7の最後に疲れていたのはヒートでした。

コートにおける目に見えるマジックはブラッド・スティーブンスと共に消えてしまったセルツですが、今はそれ以上に目に見えないマジックに溢れています。何故ここまでインテンシティが保てるのか。「元気な方が強い」理論は消え失せ、「最後まで元気なのはセルツ」になりました。

コンディショニングやメンタリティの面でプレーオフ最強なのは間違いなくセルツ

それこそがウドカの施したマジックでした。

ところでメンタリティといえばアデバヨ問題があるわけですが、スポルストラもまたいろんな戦術的変化をつけるHCです。その中で柔軟性がありながら、モンスターなアデバヨは特殊な選手ですが、どうしてもメンタリティに課題が出てしまいます。
サンダーじゃないけど、ストロングスタイルはメンタリティの面で大きな優位性をもたらしてくれるのは間違いない気がするのでした。今じゃドノバンの下でデローザンも強気メンタリティの持ち主だしさ。

◎ディテール

しかし、そんなメンタリティだけを成功にしてはウドカに失礼だね。最後にディティールについて触れておきましょう。

個人技を基盤とするため、スペーシングを重視したオフェンスをするセルツ。それはもう個人技であり、個人技であり、個人技です。しかし、「個人技を生かすために何をすべきか」という点で、非常に大きな成長もありました。

1つはバックスを葬ったボールムーブ。フリーの選手に的確にボールを動かすようになっています。セルツには驚くようなパスも、唸るような視野の広さも、強烈なパススピードもありません。1つひとつはベーシックなパスに過ぎませんが、本当に「的確なパス」が増えました。

スペーシングを重視するからこそ、ダブルチームを仕掛けられても、余裕をもって判断することが出来、しかも1つのキックアウトに終わらず、エクストラパスがしっかりと繋がります。個々の距離感が守られているからこその芸当なので、チームとして個人にスペースを与えることを徹底し、それがボールムーブへと波及するように鍛えられています。テイタムってそこまで判断の良い選手じゃなかったし、テイタムのパスから2本のエクストラでシュートにもならなかったよね。

バックスとのシリーズではホワイトとテイタムのパス交換が上手かったですが、それもテイタムが「パスの後にポジションを取り直す」ことをしていました。昔はしていなかったぞ。徹底して距離感とシュートポジションを守っていきました。

もう1つのディティールがバックドアカットです。ブラウンはテイタムのドライブに合わせたインサイドへの飛び込みもあるな。

タッカーがボールを持たせないようにチェイスすればするほど、テイタムは裏のスペースを狙ったバックドアをしていました。成功したのは少なかったですが(タッカーがファールするからさ)狙いは見事に共有化されていました。これもスペースがあるからこそ、ディフェンスが前に出てきたら裏を取ることが出来るわけです。

凄まじく個人技に見えたセルツでしたが、それはネッツのように「個人技で何とかしていた」ではなく「個人技で攻略するためにシステム化されていた」のでした。ディテールが全く違ったぜ。

ウドカは自分たちの個の強さを使い切るための工夫を施し、個の強さが最後まで使えるだけのコンディショニングを実現し、個の強みで戦うだけのメンタリティを鍛え上げたのでした。

◎個人か、チームか

そんなわけでマジックがなくなったセルツは、力強さを感じるチームとして成長してきました。ブラッド・スティーブンスの遺産で戦っているようでいて、ブラッド・スティーブンス時代には存在しなかった力強さです。魔法のような展開ではなく、力でもぎ取る勝利は、これまでにない強さであると同時に「来年も強いんだろうな」と思わせてくれます。

また、マジックが切れてくるゲーム6あたりになると「あとは気合で頑張れ」に見えていた頃と違い、シリーズの終盤こそ強さを感じました。ヒートとのゲーム6には負けたけどさ。メンタリティが強くなったぜ。

さて、ファイナルはそんな個の強さのようでいて、チームとしての連携力で勝負してくるウォリアーズとの対戦です。デュラントがいなくなったことで、さらに・・・というほどはチームじゃないけど、特にディフェンス面では「個」ではなく「組織」と「コンセプト」を展開してきます。

これに対して「個」で守り抜くのがセルツ。それがどんな化学反応を見せるのか。続きはプレビューで触れましょう。

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