女子日本代表の魅力を語れ

そんなお題です。

初戦でフランスに勝った日本代表の魅力を布教しろとのことですので、語ってみましょう。女子の試合はあまり好きではないのですが、理由としてはウエストブルックみたいな事象が起きないからです。高度な戦術的駆け引きがありながら、試合を決めるのは理不尽なパワーを発揮するスーパースターってのがNBAの面白さです。女子にはそれが起こらない。でも、よく考えたがBリーグでも起きているのか知らないし、代表を見ている限りは起きないだろうし。

これらのことは言い換えれば「より戦術が機能したチームが勝つ」という点での面白みは出てきます。個性に応じた戦術構成は必要だけれど、戦術をぶっ壊すような個人が出てくることは少ないぜ。

あとハードだけどフィジらないから、お互いの良さを消しあうよりも、お互いの良さを出し合う展開になりがちです。3X3を見ていても、フィジカルに戦いまくって削りあい、それで正確なスキルを発揮できなくなる戦いが男子にはあるけど、女子は最後までプレーの正確性は落ちないよね。まぁ同じサイズのコートでプレーしていたら女子の方がスペースはあるしね。

ある中学バスケのコーチ曰く、

10のことを教えたいとき、
男子はしっかりと3つ教えれば、残りの7は教えなくても身に着ける
女子はしっかりと10教えなければ、10のことは出来ない

しかし、
男子は教えた10を試合中に出せるのは5つくらいだ
女子は教えた10全てが試合に出てくる

と教えられました。3倍の努力がいるけど、それだけの意味はあるとのことでした。実際に試合を見ているとそんな印象は強くなります。もっとも、そのコーチは「それで油断して男子の方がしっかりと学べないことがあるから、しっかりと10教えろ」とも言っていましたが。

はい。要するに今回の女子の代表はソリッドでスマートで、個性と戦術が融合した高いチーム力が、そっくりそのまま試合に出ている印象があるわけです。残念ながら男子でこれをやろうとしても無理です。その理由はきっとルカ・ドンチッチが教えてくれるでしょう。

◎トム・ホーバス

チーム最大のタレントはHCトム・ホーバス。日本バスケ界の伝説的人物です。実業団時代の日本にいたNBAプレイヤーでした。どんな経緯かわかりませんが、女子のコーチになったみたいですが、物凄く日本語が堪能でした。

外国人HCながら日本語で指示を出し、その内容が常にポジティブに前を向かせるモチベーターとしての能力を感じさせ、選手がコートで体現します。モンティに言葉をかけられたエイトンみたいな空気感を感じさせ、冷静沈着かつ戦術的なHCらしく、最後まで自分たちのバスケを貫き通せる良さを持っています。

「金メダルを目指す」と強い言葉で言い切り、選手を率いているのもなんかモンティっぽい。その言葉は決して発破をかけるものではなく、「こうすれば金メダルを取れるんだ」という論理があります

「自分たちのバスケ」が体現しやすいのが女子らしさなわけですが、実際にどんなバスケかといえばインタビューを読んでね。

スモールバスケットで金メダルを目指すバスケ女子日本代表、指揮官のトム・ホーバス「ワールドスタンダードになりたい」

今までHCのインタビューでこれほど理解しやすいメッセージを伝えているものはあったでしょうか。1つひとつは特別なものではなく、バスケをしているなら誰でも理解できるものです。しかし、全てを繋ぎ合わせてもスッと頭に言葉が入ってくる。そこに「気持ち」なんて曖昧なものはなく、かといって「サイズがないから・・・」というネガティブさもありません。

常にポジティブな言葉であり、誰もが理解し、コートで表現するべき事項がわかりやすい。そしてこれに結果がついてくれば、金メダルを目指すという道も夢物語ではなくなってきます。

最大のタレントはHC

日本語が話せる有能な外国人指揮官は、日本バスケ界最大の財産かもしれません。ロイブルもこうなって欲しいな。

◎スモールバスケットで「ワールドスタンダードになりたい」

さて、キーワードは「スモールバスケット」です。「スモールラインナップ」かもしれません。なんせよく読んでみるとホーバス自身は「スモール」の言葉を使っていません。解説や実況でも「スモール」はキーワードになっていますが、これ、よく読むとウソな気がしてきます。試合を観た感想は

・ツーガードのスピードで攻守に引っ掻き回す
・スリーウイングのハードワークで相手の特徴に対応する

前者だけをとれば間違いなくスモールバスケットであり、その特徴は強く出ているし、ここに実況・解説の言葉を聞きながら観ていると【スモールバスケット】であるイメージが強くつくでしょう。まぁ実際ホーバスもどこかで言ってるんだろうけどね。

先ほどのインタビューに戻って、ホーバスの言葉だけを書き出してみると

「ハーフコートゲームになったら大変なのでトランジションでアタックしたい。トラップを仕掛けて、アグレッシブなディフェンスをやります」

これは明確に前者の部分で2ガード(時には3ガード)でトランジションオフェンスとトラップディフェンスを仕掛けています。全体像がスモールバスケットなので、最大の特徴が「スモールバスケット」なのは事実です。

「リバウンドは悪くない。まだ調子が戻っていないので、宮澤(夕貴)にもうちょっと頑張ってほしい。東藤(なな子)がリバウンドもよくやっている、小さいから全員でリバウンドにいかないといけないが(赤穂)ひまわり、宮澤、東藤の存在は大きい」

「ウチのローポストディフェンスはアクティブで、フィジカルでバンプもよくやっている。ダブルチームには毎回行きたくないので、相手のビッグマンにボールが渡る前が鍵になる」

これを読むと「小さいから全員でリバウンド」とはいうものの、わりと普通に「ウイングたちは頑張れ」だったりします。実際に試合の印象はこっちが強かったです。

フランスは高さがあったものの、女子なのでフィジってはきません。高さを使ったターンショートは見事ですが、それはフランスの特徴。日本は日本の特徴で勝負すればいいし、そこまでダブルチームにはいかず、マンマークで止めきる対応を目指していました。そして勝負所でダブルチームも仕掛ける狡猾さももっています。

「トラップを仕掛けて、アグレッシブなディフェンスをやります」

このトラップの仕掛け時が非常に上手かったです。常にトラップなのではなく、基本はマンマークがしっかりと対応する事。そして仕掛けるタイミングが出来たら行く事。

実況・解説を聞いてしまうと「高さで打たれているから、ダブルチームに行かないと」と言い出しますが、1試合ずっと同じ対応をするのはナンセンス。アグレッシブと無謀は違うぜ。そんな印象でした。

サッカーの宮間あやのインタビューで、こんな言葉がありまして

フィジカルの強さは「決定的な勝利の要因にはならない」けれども、フィジカルの弱さが「負ける要因にはなる」ので、ある程度、フィジカルのトレーニングは必要です。だけど、それによって勝つのではなく、違う点で勝負をすることが大事だと思っています。

これの読み方を変えて、今回の代表に当てはめると「フィジカルだけで勝つことはできないけど、フィジカルの弱さは負ける要因になる」ということなのですが、ホーバスはスモールバスケットといいつつも、

「負けないためには全てが必要、勝つためにはスモールバスケットが必要」

こんなことを標榜しているように見えました。はい。長くなりましたが言いたいことはこれです。スモールバスケットをしているけど、実際にはウイングを活用して相手の長所に負けないことも重視しているのでした。

勝つための戦略と負けないための戦略を融合させている

こんなことを強く感じさせるホーバスでした。それは同時にそう見えるくらいコート上の選手たちが明確に整理されたバスケットをしています。Wリーグファイナルを見た時には、ここまで有機的に機能する戦術が整備されてはいなかったから、

「代表でこれをやってしまうホーバスすげー!」

ってなるわけでした。なお、男子だと整備されすぎていると破壊されがちですね。うん、昨シーズンまでのバックスだ。今シーズンも同じだったけど「進化するモンスター・ヤニス」が全てを狂わせてしまった。

◎勝つためのガード

サイズアップしていったU19とは違い、トランジションとトラップディフェンスのため、そして単にタレントが小さいため、スピードがあってサイズがないガードを大胆にチョイスしていったホーバス。

町田 162cm 24分41秒
三好 167cm 10分19秒
本橋 165cm  6分52秒
宮崎 167cm 10分20秒
林  173cm 17分 5秒
東藤 174cm 11分38秒

ちゃんとチェックしていないのですが、ポジション表を見ると、この6人がガードで見事にプレータイムシェアしています。本橋が途中でケガしたので短くなりました。

「トランジション+トラップディフェンス」のキーとなるのがガード陣なので、ムチャクチャに体力を消耗します。それを6人集めてプレータイムシェア作戦で乗り切りました。だから『国際試合だから最後まで持つ』が成立しています。おそらく1人欠けるだけでも、かなりきつくなるでしょう。

一番プレータイムが長かった町田の交代を追ってみましょう。

1Qスタート ~ 4分28秒
2Q2分48秒~ 9分2秒
3Qスタート ~ 5分25秒
  7分40秒~ 
4Qスタート ~ 5分36秒
  9分32秒~

こんな感じで「5分が限界」と踏んでいます。ちょっと3Qの交代策に失敗してしまったことが響き、リードを奪われたのですが、4Q終盤に町田を下げたところで逆転しました。「勝負所で主力を下げたらリードする」という、なかなか面白い起用法でした。

町田はチームハイの11アシストを記録していますが、6ターンオーバーをしており、特にプレータイムが長くなるとミスしがちでした。だからホーバス的にはローテに失敗したんだと思っています。いずれにしても

早い展開を続けるために、選手をこまめに交代させていく

これを実行していたわけで、ザ・システムっていうのを思い出させてくれました。町田以外のガード陣はプレータイムが20分もないので、さらに細かく交代し、常にフレッシュな選手を投入してインテンシティを保っています。「疲れたら正確なプレーは出来ない」という理論であり「気持ちが強いから」なんてサコってはいません。

そして6人でツーガードの80分をローテしているので、残りのウイング3枠を6人ローテになります。明らかにウイングの方がプレータイムが長くなるわけです。これが前述の特徴を出すために必要なことでした。

・ツーガードのスピードで攻守に引っ掻き回す
・スリーウイングのハードワークで相手の特徴に対応する

「絶対にガードの方が疲れるよ。だから選手層を厚くして細かく交代させているよ」

スピードを使ってかき回すんだけど、全員にスピードを求めているわけではないし、特徴を使うために偏った選手構成にして試合を通したインテンシティを保ちに行っているホーバスでした。

ねっ楽しそうでしょ。ホーバスに興味が出てきたでしょ?

◎3ウイング

しかし、実際にはウイングは高田が36分34秒も出ています。オコエが4分24秒なので、2人で40分。あとの4人で80分ローテです。スターターが22~24分でベンチが16~18分かな。プレーシェアをしっかりとしています。高田だけ酷使されていますが、本当はココに渡嘉敷が欲しかったんだろうね。

だから「渡嘉敷がいないからスモールで・・・」はホーバスのウソというか、渡嘉敷へのフォローの気がします。実際には渡嘉敷がいても、この形を採用してワールドスタンダードにしたかったんだと思います。運動量とフルメンバーアタック。ある意味で日本国内に一番見せたかっただろうな。

〇ウイングのアテンプト
3Pアテンプト 13本
2Pアテンプト 22本

ウイング陣はインサイド専任ではなく、外からも中でも攻めます。基本はスペーシングしてコーナーからのカッティングやキャッチ&シュートをしていました。横幅担当であり、スペースにポジショニングしていく担当でした。アシストはそこまで重要ではなく、NBAのウイングと考え方が近いです。さすがアメリカ人。アルゼンチン人とはちょっとイメージが違います。だからホーバスの方が理解しやすいかも。

一方でガード陣はオフェンスではハンドラー担当とシューター担当に分かれます。

町田+宮崎 
3Pアテンプト 3本
2Pアテンプト 3本

林+三好+本橋
3Pアテンプト 11本
2Pアテンプト  3本

東藤はオフェンスはウイングって感じです。この辺は観察していないからわからん。でも、まぁ併用できる選手がいないと苦しいしね。ガードが1枚減るかもしれないし。

長岡 183cm
高田 185cm
馬瓜 181cm
宮沢 183cm
赤穂 185cm
オコエ182cm

世界に比べれば小さいのかもしれませんが、日本人的にはちゃんと大きいです。だからイメージ的には普通にサイズのあるウイングを選び、ガードだけは小さくてもOKってだけです。そのガードを多く選ぶから平均身長は小さいよ。でも168cmって日本人女性として小さくないよね。

このウイングたちは3Pを多く打っているように、割と万能です。インサイド専任はいないし、運動量が多いわけじゃないけど、ポジションも流動的。前述の通り「相手に負けないためのウイング」だと思っていますが、オフェンス面では相手の弱点を突きやすい布陣になっています。

「スモールバスケット」は単なる日本の特徴
高さやフィジカルでも負けないためのウイングを3人起用する

なんだかんだとコートに出ている5人で考えればウイングの方が多いわけで、負けないための戦略に、勝つための戦略を加えているのでした。

◎フランス戦

では最後にフランス戦のスタッツを見てみましょう。

〇スティール
日本 6
フランス 10

〇ターンオーバー
日本 16
フランス 14

トラップディフェンスを多用し、アグレッシブに仕掛けていますが、実際にはフランスの方がスティールが多く、でもターンオーバーは2つしか変わらないので、日本はトラップでアグレッシブに仕掛けたけど、スティールではなく、フランスのミスやショットクロックオーバーに追い込むことが出来ていました。奪うのはやっぱり難しいけど、追い込むことは出来るし、「ポストに入る前が重要」ってことでした。

〇2P成功率
日本   39%
フランス 56%

〇3P成功率
日本   41%
フランス 21%

フランスはビッグマンのターンシュートが上手く、「女カリー」がいてミドルの成功率も高かったですが、プレッシャーにより3Pは落ちました。ここは狙い通りだと思います。そのうえで試合の差になったのが

〇フリースロー
日本  17/23
フランス 4/6

圧倒的なフリースロー数でした。スピードアップすることでフランスを疲れさせることに成功したし、ついてこれないことでメリットを生み出しました。だから一番大事なのは、アタックする能力って事になり、でもアタックは疲れるからプレータイムシェアでした。

〇ベンチポイント
日本   35
フランス 16

74点のほぼ半分をベンチメンバーがとっており、ホーバスの狙い通りって感じです。フランスは4人が30分前後のプレータイムなので、スタミナの差が最後に響いたということでした。なお、本当に差がついたのは「フランスのベンチメンバーの時間」だったので、実際にはスタミナではなく、

12人トータルの戦術力がモノを言った

これでした。代表というチームであるにも関わらず、12人のメンバー全員が共通理解をもち、しかも目まぐるしく選手交代する中で、どんな選手の組み合わせになっても、変わらぬ力を発揮したことで、勝利を得たフランス戦でした。

女子の日本代表は面白い。じゃあ一番注目すべきタレントは誰だい?

トム・ホーバスHCこそが日本最高のタレント

クラブでも簡単じゃないのに、代表でこれをするってすごいぜ。ワンプレーで行われている事ではなく試合トータルで行われていることを知ると、ひと味もふた味も違うホーバス・ジャパンなのでした。

「ワールドスタンダードにしたい」

ホーバスの言いたいことは存分に感じた試合でした。
それくらいインパクトのある勝ち方だったぜ!

女子日本代表の魅力を語れ” への10件のフィードバック

  1. 女子日本代表特集待ってました!ありがとうございます!

    強化試合のインタビューでホーバスが「ウチが1番練習している」と語っていましたが、無目的な反復練や根性練などではなく、明確なビジョンと練り上げられたプロセスを感じます。
    海外の選手詳しくないので、それらをぶっ壊す超人が世界にはいるのか否か、楽しみにオリンピック観戦します!

    1. イヤー、突然のオーダーで困ってしまいましたが、オリンピックで初めて見たから、わかりやすい内容だったかもしれません。

  2. 『サコる』でフフッってなったw
    『パチュる』に続くバスケ用語になるかな?

    ラムちゃんがいないのと本橋が怪我明けで全然なのでハーフコートオフェンスが厳しく走りまくるしか無い感じですが、そこをプレータイムシェアでカバーしてたんですね。
    とても分かりやすい解析でした。

    1. ハーフコートは厳しいですね。そこはなんか、ケガ人がいなくても変わらない気もします。3Pを打ち切ることに費やしている感じがします。

  3. フランスはガードが薄い(大会前に1人離脱した?)ので、前から当たり時間を使わせてフランスのウイング、インサイドにいい形でボール供給させないがハマってた印象です。女子版ルビオが相手にいたら厳しそうですがメダルの可能性あると思いますか?

    1. 可能性あると思いますが、そもそもどんなチームがあるのかわかりません。
      アメリカと同じグループなので、トーナメント初戦ではあたらないのは良かった。

      ボールムーブさせないのは重要でしたね。

  4. 記事upお疲れさまです。
    女バスケはほとんど分からないのですが、HCがそこまで有名で優秀だったとは!
    勝つために必要な戦術+負けないため戦術+モチベーター。
    インタビュー記事でも”目標とするバスケ”を具体的に分かりやすく、本番でも役割分担とローテしながら全員で勝つ。
    戦術の駆け引きが重要視される女子バスケならではな部分もあるかもしれませんが、そこがまた男子とは違う面白さですね。

    あと当たり前ですが、団体に置ける指揮官の力量って本当に大事ですよねえ。
    u19男子の記事を見てから、同じ国内・同じ競技(性別の違いはありますが)のHCでも違うもんですね〜。

    ???「リバウンドが取れない?気持ちが足りん!」

    1. モチベーターとしての能力差は代表だと大きいですね。
      ラマスの通訳が何言っているのかわからない時があって、そこが男子との差にもなっています。

      U19は合宿していったはずが・・・

  5. 代表戦について見ていると男子よりも女子の方がフラストレーションが溜まらず、
    ボール回しと正確な3p、PnRに対してのトラップなど遂行力が凄いと思っていました。
    アジア大会優勝して本橋がベスト5に入るなど、成績に繫がる戦術だと思います。

    1. オフェンスの方は相手とのレベル差で生まれる問題が大きい気がしますが、ディフェンスは男子のパターンの少なさが際立ちますね。

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