RHJと2つの大逆転

ウイング仕事が苦手なウインガー

RHJことロンディ・ホリス・ジェファーソンは25歳のウイング。まずはWikipedia先生に聞いてみましょう。高校時代は5スターのスモールフォワードとして評価され

・・・えっSFなの?
現在のポジションもSFだって!?

実際にはパワーフォワードとしてプレーしているRHJは6-6と2mに満たないサイズながら、インサイドでハードに戦うファイターです。アンダーサイズながらフィジカルな戦いに一歩も引くことなく、ディフェンスで激しく圧力をかけていけるのが特徴です。

その一方でネッツ時代はPFを大量に並べるアトキンソンによって、時にPG相手のディフェンスも担当し、ラプターズでは必殺オールコートプレスで最前線でプレッシャーをかけていきました。

PFながらPG相手でも守れるディフェンダー

これがRHJ最大のストロングポイントですが、Wikipedia先生ではSFって書いてあるわけで、SFがいろんなポジションを守れるって普通な気もしてきてしまいます。万能なディフェンダーではあるけど、フィジカルな戦いが本業って感じなので、ポジションがSFって言われると違和感。

要はウイング以外の仕事をやるタイプのウイングです。何だこの表現。

そしてこれがRHJの評価を上げたり下げたりしています。素晴らしいハードワーカーで優れた選手だけど、ガードとしては下手だし、ビッグとしては小さく、ウイングとしてはシュートが決まらない。

◎グレート・カムバック

この2シーズンでRHJは2つの大逆転劇の立役者になっています。ひとつはネッツ時代のvsキングス戦で28点差からの大逆転劇。この試合は得点はディアンジェロが1人でけん引したのですが、他の4人を全員PFにするというアトキンソンの奇策が成立した試合でもあります。

とはいえ当時のネッツのPFは3P担当が多く、4人の中でRHJだけがインサイド担当でした。ディアンジェロと共にゲームメイクに参加しながら、インサイドに詰め込む役割で反撃ののろしをあげ、そして残り0.8秒で決勝点を奪っています。

ゲームメイクに参加できる
インサイドを1人でファイトできる

この2つの特徴が色濃く出た試合でしたが、やっぱりウインガーらしい振舞はしていません。同時にバグリーとのマッチアップが最大の仕事であり、オールラウンド系のビッグマンを担当するのが適任でもありました。どこからでも攻められるビッグマンに対して、どこでも守れるディフェンダーがRHJの役割です。

そして1年後、ラプターズに移籍したRHJは今度はマブス戦で30点差から大逆転する立役者になりました。ハイライト的にはラウリーとデイビスの3Pが目立ち、インサイドはブシェイがフィニッシュしており、ネッツ時代の形とはかなり異なります。

ここでもRHJは動けるビッグとして、トランジションでのスクリナーなどゲームメイクにも顔を出していますが、それを「役割」と定義するほどの活躍はしていません。つまりウイングっぽくなっているわけですが、ウイングとしては大した活躍が出来ていないよ。

しかし、このハイライトには出てこないプレーにおいて、大逆転に繋がる重要な活躍をしています。それはオールコートのプレッシャーディフェンス。ほぼゾーンプレスの形を引いたラプターズは、ボール運びの段階でスティールを連発し、あっという間に追いつきました。

ラウリー、デイビス、マット・トーマスを並べて3Pをヒットさせたいラプターズは、同時に外れたことも考えてリバウンダーを2人いれました。そんなビッグ役ながら、ディフェンスになるとエンドラインからボールマンに激しくプレッシャーをかけるのがRHJの役割。要するにオフェンスはPF、ディフェンスはPGみたいな感じでした。

守れるPFは多くいますがRHJレベルに守れるPFは激レアです。ガード陣を守らせたらリーグ最高のPFかもしれません。それに意味があるのかはアレですけどね。

両方の試合に共通していることは、オフェンスの爆発で追いついたようでディフェンスの改善で追いついていること。そこにRHJは貢献しているわけですが、今度はオフェンス面でチームがバランスを崩した形にすることで得点を狙いに行った事情も加わります。

PGからビッグまでプレッシャーディフェンスが出来る
バランスが乱れたユニットで調整役になれる

これらの特徴は言い換えれば「正しいバランスでは活躍する機会に乏しい」ってことでもあります。大逆転を生みだしたようにフルコートでファイトでき、どこでも守れるし、複数の役割を務められるRHJは魅力のある選手ですが、スターターとして加えるときに悩んでしまう選手でもあるのだと思います。

◎ノー3P&スペシャルD

現代のウイングに求められるのは3Pとディフェンス。ディフェンスについてはハイレベルではあるものの、3Pが致命的に決まらない。ここ2シーズンが18%、13%とアンチ現代ウインガーになってしまいました。なお、アトキンソンネッツは「3P打ちまくるけど、決まらなくても起用される」という変態チームだったので、気にされませんでした。

この成功率で現代バスケに対応しているのは変態だし、それ故にFAになっても人気がなく、1年前はラプターズにミニマムで拾われることに。正直、ミニマムレベルの選手ではないのですが、3Pでこんな結果になるのだから怖いよね。

一方でサイズがないことでインサイドの確率が悪いことも評価を落としてしまっています。

ゴール下 53.8%
ペイント内 33.3%

3Pが決まらないだけならともかく、インサイドのフィニッシャーにもなれないのだから現代オフェンスとしては失格。逆に高校時代に5スターだったのは何故だろうか。

これらはRHJの問題点を浮き彫りにしていると共に、それでもNBAで生き残れるディフェンス力の持ち主ということを示しています。ラプターズやネッツのような戦術系チームの方がRHJを上手く活用する気持ちがあったわけなので、特殊な武器を使う気持ちは重要です。

2つの大逆転が示すように、試合状況に応じたユニットの組み換えなどにも便利な選手。ということはプレーオフでのテーマになった「多様性」を生み出す選手としては非常に面白い存在でもあります。

ディフェンスで特殊な武器となる存在
多様性に繋がる能力の持ち主

アンチ現代的な能力の持ち主なので「スターターの代役」としては異質になってしまうけど、いろんな変化をつけたいのであれば便利屋さんであり、複数ポジションのフォローが出来ると言えば出来ます。

多様性を作りたいチームが獲得するには面白い選手だと思います。戦術を形作る中心選手だと思うと3Pがネックすぎる。

◎プレーメイカー

特にファンキーなのは「プレーメイク」の部分です。スキルフルなガードってわけではないのですが、しっかりと体でスペースを作って、ドリブルでボールを運ぶことが出来ます。左利きってのも関係しているのでしょう。

ちなみに兄・HJがGリーグで渡邊雄太とチームメイトですが、同じくハードワーク出来るのだけど、右利きが故に特殊性に乏しく見えます。

PGがプレッシャーをかけられたときに代役としてボールを運ぶことが出来るし、スクリナーにもなれます。3Pがないので即フィニッシュにはならないし、個人で打開してキックアウトをしてくれるわけでもありませんが、絡み方が多いのは良い傾向です。

またフィジカルの強さを使ってポストアップでの起点役にもなれます。特にラプターズはこの使い方をしていました。ポストアップそのものが強力なわけではないので、あくまでもボールを収める場所になります。それってちょっと難しくて現代オフェンスではあまり使わない要素です。

一方でプレーオフで顕著になったのが、このポストを有効活用できるチームが勝ち上がった事でした。AD&レブロン、ヨキッチ、アデバヨ。3Pを効果的に使うためにディフェンスのアングルを変えるのに有効であり、また「中間を起点」にすることはゴール下も3Pもショートパスで生み出されることに。まぁこれも多様性の1つだね。

そんなわけでRHJのプレーメイクについては評価するほどではない。だけど、複数の形で起点になる・・・いや、「起点役を助ける」ことが出来ます。セカンドプレーメイカー的な。

これらの能力が最大限に発揮できるのはトランジションを多用する場合です。ひとつ1つのクオリティは不足しているため、アンストラクチャーな時にこそ使いやすく、何よりもRHJは走りまくってフィジカル勝負ができるのが最大の強みです。

トランジション + サブ・プレーメイカー

シュート力がない部分を補うのであれば、こんなオフェンスでの使い方をしたい。ネッツとラプターズが使っていた形でもあります。逆に言えば全く違うチームに行ったらどうなるのかわからん。

◎勝ちたいチームへ

RHJはスペシャルなディフェンスとシュート以外のオフェンスをもたらしてくれる選手です。単独では使いにくく、シューティングが弱いものの、多様性とハードワークはプレーオフで勝つために重要な要素です。

RHJを加入させたところで勝たせてはくれませんが、RHJを活用できるようなチームこそがプレーオフで勝てるようなチームです。最も向いているのはウォリアーズでドレイモンド役をやることですが、他にも面白そうなチームは多いです。

レイカーズならADの相棒として中外の調整役になれるし、キラーディフェンダーとしても活用され
ヒートならアデバヨの控えとしてポイントセンター役が出来るし
ナゲッツならグラントやクレイグのようにキラーディフェンダーのビッグでヨキッチと役割交換ができます。

なおセルティックスでは出番がなく、クリッパーズではレナードとポール・ジョージで十分って感じです。

しかしラプターズではプレーオフで出番がなかったように、やはりウイングにすると弱点が目立ってしまいそうです。本人がステップアップするために、そして現代の流れを考えると、やはり「ポイントセンター」的な形に持って行くのが最善な気がします。センターではないんだけどね。

ハンドラーとのピック
ポストからのハンドオフ
逆を突くドライブとバックドアパス
トランジションディフェンス

実はポイントセンターが有効な理由で最後のトランジションディフェンスはとても大きな要素だと思っています。走れるビッグマンがトップにいてディフェンスに戻ると速攻は成立しにくくなります。RHJはオフェンスリバウンドは強いのですが、それよりもディフェンスさせたい。

3Pを打たなくてよい(マークを離されない)役割に落とし込むなら、やっぱりボールに絡むプレーメイク能力を向上させたい。スターターじゃなくてもインサイドのプレーメイク役を新たに加えたいと考えているチームは多そうなので、ベンチにRHJを置くことはおススメです。

ディフェンスについてはマルチかつエースキラーになれる超現代的であり、リーグ屈指の能力を持っているRHJがオフェンス面で新たな才能を開花させることが出来れば、息の長い選手になるかもしれません。

普通にビッグマンが欲しいならタージ・ギブソンを獲得しましょう。チームが苦しい特に特殊な形を作りたい場合はRHJを獲得しましょう。

RHJと2つの大逆転” への11件のフィードバック

  1. 特徴を一つずつ箇条書きで並べてみると、
    「ディフェンスに特化してそれ以外の要素を一回り半くらい弱体化したベン・シモンズ」
    みたいに見えてくる不思議。
    やはり「一回り半」の差とディフェンスの極端な良さで、万能どころか器用貧乏という印象すら残らないほどディフェンス以外の要素が地味になってるんでしょうね。

    1. 確かに一回り半弱体化したベン・シモンズw

      一回りならまだしも、さらに半分離れると代役にもできないですね。
      多分、3P35%決まるだけで、一気に使いやすくなるのですが、さすがに20%切っているとね・・・

  2. 確かにRHJのサイズだと、外があるのとないのとでは選手としてのバリューがまったく変わってきますね…。
    しかしかつての同僚センターも「スプラッシュ・マウンテン」と呼ばれるほどに魔改造されたわけだし、いつかはRHJも…。
    特徴をこうして解説していただくと、アトキンソンが割と好んで使っていた理由が、自分のような素人にも何となく分かります。

    1. ジャレット・アレンも3P諦められた感じなので、ダメな選手はダメ!ってことかもしれません。今となってはわかりませんが。

      アトキンソンは自分のプレーを磨ける選手とハードワークって感じでしたね。上手いかどうかとは、ちょっと違うような。

  3. この感じ、ウォーリアーズ時代のイグダーラを重ねてしまいます、、、
    ただ、イグダーラは決めほしいときに決まるスリーポイント持ってなので、惜しい選手です、、、

    1. イグダラ先輩はアメリカ代表クラスですからね。成り上がれると良いですが、その前にチームが決まらないと。

  4. はじめまして!毎日楽しみに読んでます!
    5年前のドレイモンドから更に3P弱くしたみたいな選手ですね(笑)あの頃はトリプルダブル連発してなぁ…
    エースストッパーとしてここぞの時にハッスルしてくれそうですのでGSWにはピッタリだと思います!

    1. 3P弱くして、性格は良くした感じですかね。
      ネッツでもそうでしたが、シューターと組ませるのに適したタイプです。

  5. ディフェンスがいいと言うのは潰しが効きますからもう一つオフィンスの武器があれば大分違いますね
    3Pとは言いませんがミドルレンジのジャンプシュートが安定して決めれるようになるだけでも大分違って来るのではないでしょうか

    1. 個人で勝負するところは、そこそこ強いので問題ないのですが、チームオフェンスになるとコーナーで待てないし、かといってアリウープってわけにもいかない。そこが悩ましいんですよね。
      だからもっと積極的にボールサイドに絡まないといけない。

  6. どうやらウルブズに行きそうですね。ロケッツに来たらどうなってたかなあ

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