ファイナル アルゼンチンvsスペイン

いよいよファイナルです。日程的な問題はありつつも、半月で終わるってのは1つの魅力でもありました。まさかアルゼンチンがファイナルに来るなんて予想もしませんでした。

「今回のアメリカ代表なら負けても仕方ない」なんて、唐変木な意見もありますが、ビッグネームがいないとはいえNBAプレイヤーを並べているアメリカに対して、アルゼンチンには1人もいません。

もちろん、NBAプレイヤーじゃなくてもカンパッソは別格だし、他の国にもフランスのデ・コロとかスペインのリュリとかNBAの標準レベルを上回る選手は多くいますが、アルゼンチンに関しては、そんな要素はカンパッソとデックくらい。どっちもレアル・マドリー。

なんせルイス・スコラおじさんがエースクラスの得点を残しているし、渡邊雄太と同じ大学にしてマジックのロスターに残れなかったガリーノがスターターにいるわけです。レベル的に言えば渡邊雄太がスターターにいるチームだと思いましょう。それでも勝っているのだから素晴らしいし、ポポビッチを責めているわけです。

スペインの方はそもそもNBAクラスの選手ばかりだし、元も含めたら結構いるよね。逆にエルナンデス兄弟の不完全性みたいなものも味わえるので考えてしまうところもありつつ、ルビオとガソル、そしてリュリのゲームメイクが勝利をもたらしています。

その意味ではNBAほどに個人のディフェンス力欠如が目立たないともいえます。NBAだとガソルもちょっとずつ苦しいくなってきているけど、国際ルールだとまだゴール下の番人的な。

その一方でディフェンス力の方が大切な国際ルールという印象もあります。NBAほどにファールコールが厳しくないのがその理由。スピードの重要性が低いし、ハードコンタクトが認められることが多いから、オフェンス側のパス能力の重要性もNBAよりも高い気がします。

コンタクトで強引でも止めるのがOK
→個人のディフェンス力(スピード不足)がNBAほど目立たない
→3秒ルールもないし、コンタクトもOKなのでチームとしてはNBAよりも守れる
→強引に突破するオフェンスの効率が悪いから、パス能力が大切

こんな感じかな。

◉プレーを読む

さっそくルビオ、ルビオ、ガソル、ルビオでスペインがリードします。あざやかにスキップパスを通しているルビオ。そしてガソルがそこまでオフェンスリバウンドに絡んでこないけどフアンチョなんかが飛び込んでくるから、フランス戦みたいにボックスアウト出来ないアルゼンチン。4分で10点差。

この中心に対して、周囲が合わせていくわけですが、セルビアやアメリカと違うのは合わせ方が「待ち」ではなく「動く」ことで合わせる事。ガソルが動かないって事もあって、その分、ちゃんと 動くから全員が絡むスペインのオフェンス。

なお、絡むだけで確率が高いわけじゃない。ルビオがレイアップ、ガソルがゴール下と連続でミスするから圧倒的になれないスペインらしさ。

アルゼンチンはスペインのディフェンスを攻略しかねています。どうしようもなく得点にならない。そんな中で1人気を吐いたのがマブスにいたらしいブルシーノ。アルゼンチンはじめの8点すべてを1人で奪います。それも単発っぽい3Pだから大きくチームを助けた。

そしてリュリのパスアウトを完全に読んだカンパッソが速攻。チームメイトに読まれてしまったことで、ちょっとオフェンスが苦しくなってきたスペイン。お得意のハードワークで離されないアルゼンチン。

ただカンパッソはどうもルビオがお嫌いみたい。全然止められない。なんだけど、ルビオがスティール仕掛けたところでアルゼンチンの選手と交錯し、どこか痛めたようで動きが止まります。その間にリュリとガソル側のプレーメイクが失敗し、またも速攻。デックが&ワンで追いつきます。

頭が下がるくらいに走るアルゼンチン。でも基本にあるのはハードなディフェンスだから、単に走るってのとは違うんだよね。そこだけを切り取っちゃダメ。

ところが走らないとオフェンスがイマイチなのも事実。パスコースを読んでくるスペインのディフェンスに引っかかると、今度はスペインが速攻で一番後ろから走ってきたウィリー・エルナンゴメスのダンク。ガソルにはない特徴で再びリードを得ます。

さらにウィリーがブロックで叩き落し、リュリがドライブレイアップで9点リードに戻したスペイン。1Qを23-14とリードします。

◉ハードに守る

そういえば消えているスコラ。スペインの高さにちょっと攻め所を失っています。失ってもストレッチしているのがスコラの良さだけど、そうなるとどこが得点取るのかっていう。

アルゼンチンは見事なディフェンスでスペインを追い込んでいき、ショットクロック間際の苦し紛れのシュートを打たせるのですが、リバウンドがスペイン。殆どがセンターではなくてその他の選手がひろっていきます。ロングリバウンドで優位に立つスペイン。

ウィリーとの1on1でスコラが負けまくっているのではなく、そこを必死に抑えても効果的ではないというスペインの事情に苦労している感じ。そして、ウィリーがターンシュートで加点すると、苦しい中でもルディ・エルナンデスが連続3Pでスペインは15点リードに広げます。

さて、冒頭のお話。アルゼンチンはハードなディフェンスですが、それはコンタクトが多い。アメリカもハードだけど、こんなにコンタクトしていなかったと思います。ここはアジャストしろといわれてもムリな部分。しかも、そのハードなコンタクトを吹っ飛ばしてルビオがレイアップを決めるとオフェンスファールに。これも苦しい所で、押されても押し返してはダメっていう。難しい。

実はこんなルールが続くとユーロで育った選手の方がタフになるだろうし、かわすのが上手くなるだろうし。確かコービーが数年前からそんなことを言ってたよね。ハンドチェックに厳しいアメリカルールに対して、ユーロで育つとそれを跳ねのけるオフェンス力が身につくっていう。発想が逆なコービー。

次第に効き始めたアルゼンチンのハードなディフェンス。またも奪い取ったカンパッソに対してビバスが意味のないアンスポでアルゼンチンの流れになっていきます。リバウンドの差さえなければ・・・。次々に速攻を繰り出し、リバウンドをとれなくて苦しみます。

ところでカンパッソとリュリが同じチームってすごいなー、と思いましたが、どうやらこういう部分があるのでカンパッソの方がかなり上の選手に見えてきます。速攻を生み出す能力というかディフェンス力が段違い。これって普段からそうなのか、アルゼンチンらしさなのか。

スペインはルビオがあまり出てきません。やっぱりどこか痛いのかな。無理をさせない感じでリュリがボールを持つ時間が長いから、どうしてもプレッシャーを受けてオフェンスの流れが途切れてしまいアルゼンチンな空気。残り2分でルビオが登場すると、連続でオフェンスを成功させます。リュリよりも球離れが良くて守りにくそうなアルゼンチン。ハードコンタクトさせないルビオ。

結局最後にもう一度オフェンスを立て直すことに成功したスペイン。が、ラストオフェンスでルビオのドライブにフロップしたカンパッソでオフェンスファールに。またフロップに負けたルビオ。「また」っていうとアレですが、この大会で何回か食らっている気がするんだ。NBAだと殆どオフェンスファールをコールされないからね。

前半は43-31でスペイン。アルゼンチンはほぼスペインディフェンスを攻略できず。だけど、ディフェンスからの速攻で得点を奪いました。

〇オフェンスリバウンド
スペイン 10
アルゼンチン 2

大きな違いがあったのがここ。ゴベアを完封したアルゼンチンがいろんな選手が絡んでくるスペインに圧倒されてしまいました。スペインのFGは41%程度ですが、アテンプトがアルゼンチンよりも10本多かった前半でした。

◉共通意識を使わせないルビオ

後半もカンパッソがスティールを狙ってくるのをあっさりかわすルビオと、でもルビオへ出てくるパスを読んでカットするカンパッソで始まります。つまりルビオ本人は気になっていないんだけど、周囲がカンパッソに読まれまくり。

カンパッソのディフェンスって篠山っぽいんだけど、成功率が段違いなんだよね。飛び出たら少なからず何かの効果を得るっていう。オーバーチェイス気味なのに、だからといって空いた選手を狙われない。狙いにくい時にオーバーチェイスしているともいう。

それに対してルビオは「はいはい、狙ってくるんでしょ」みたいなスカし方。別にカンパッソのディフェンスが効いていないわけじゃなく、それなりに困るんだけど、そういう時はボールを掴んで高さでパスしちゃう。高さに困っているカンパッソが正しいかな。

アルゼンチンはスティールできず、どうしても速攻が出せないから再び15点差。ハーフコートになったらスペインのリバウンド力が火を噴きます。ルビオまでタップシュートで押し込んじゃって。そしてゴール下で空いたフアンチョへただの上のパスを通すルビオ。

マークが3番のこちらも読みの良いビルドーザになっても、ガソルとのギブ&ゴーを決めたルビオで22点差になります。ルビオ→ガソル→ルビオが全部上のパスだった。

フルコートでプレッシャーをかけるとルビオから遂にスティールしたビルドーザ。ほぼ2人がかりでのタックルだったけどノーコール。そこからカンパッソの3Pにして追い上げるアルゼンチン。やっぱり、スティールできるかが全てみたいなアルゼンチン。タックルくらったルビオがベンチに下がってくれて反撃のしどころです。

出てくるのはリュリ。こちらもハードスクリーンをくらってしまいますが、慌てることなく点差があるのでじっくりオフェンスにします。ちなみに3Q半分が経過したくらいですが、スペインはもうオフェンスでシュートに行く必要がなく、しっかりと動かしているとどこかでハードなアルゼンチンのファールが発生し、フリースローです。しかも追い込まれたらタフショットを決めるクラバー。

フルコートディフェンスに勝機を求めるアルゼンチン。ゆったりとオフェンスをするスペイン。ハードワークのアルゼンチン、試合運びのスペイン。

さて、このまま終わりそうなので触れてみましょう。なんでこんな大差になっているのか。勝負は時の運だし、スペインはオフェンスリバウンドが強すぎだし。

プレビューで触れた中で登場していない要素が「共通意識の高さがあるアルゼンチン」です。もちろんディフェンスの意識の高さがあるからゼロではないよ。だけど、「共通意識ってなんだよ」という話をすれば、

いま、この瞬間にチームとして何をするのか
戦略的に何を抑え、何を徹底するのか

なんていう部分です。フランス戦ではゴベアーにリバウンドを取らせないとか、セルビア戦ではヨキッチを徹底的にマークし、動きのない周囲へのパスを狙っていました。

ファイナルでそれが出せないのは純粋にスペインの何を狙えば良いのかがわからないから。全員が絡んでくるリバウンドとか、動き回って合わせてくるオフェンスとか。だからまずはパサーを止めることを重視しハンドラーへのハイプレッシャーなのですが、ここがルビオ&リュリというスペインのストロングポイントなので止まんなかった。

なんだかんだ弱者の戦術なアルゼンチンなので、戦略構築はとっても大切。その要素をスペインのどこに見出せばよいのかに困ってしまった感じです。なんせ3Q終わって66点のスペインのリーディングスコアラーが11点のルディ・フェルナンデス。かつてのエースですが、今大会の平均得点は7.3点です。ここを止めるのって最後だよね。

66-47と残す4Qに何をすればよいのか。まぁ愚直にPGからボールを奪うしかないよね。

◉時間を使いたいスペインと使わせないアルゼンチン

デックがレイアップでアルゼンチンが先制。リュリが苦し紛れに放ったシュートをスペインが抑えますが、レフリーがウィリーへファールコール。続けてリバスがファールして、なんか流れが来そうなアルゼンチン。

ただ、スペインは1Qまるまるスローダウンするようなチームです。全然攻めないスペイン。しかもボール運びにきたのがウィリー。ちゃんと運べちゃうのかよ。アウトサイドから1on1仕掛けてるし、スピンムーブでゴール下押し込むし。ガソルの後継者になりたいのか。

ルビオが出てくるとカンパッソのエルボーにフロップ。逆にやってやったルビオ。絶対にフロップだ。ところがここからルビオが連続ターンオーバー。しかもボールを奪うと即3Pを打って決めちゃう驚異のアルゼンチン。どうなっているんだ。一気に点差を詰めます。

スペインにとって苦しいのはターンオーバーじゃなくて時間を使えない事。本当にスローダウンしまくるからね。で、タイムアウトから今度はフアンチョでボール運び。チャンスになっても打たずボールを回し、ムリヤリの3Pになったけど、時間使っておけばいいか。

アルゼンチンは当然カンパッソが急ぎます。急ぐ時間じゃないのですが、スペインのこの感じがわかっているから急いでおく。終盤になってからじゃ遅いのを知っているからね。殆ど時間をかけずに攻めて、それが得点になってしまう驚異のアルゼンチン。どんな集中力なんだ。

それを時間いっぱい使って、最後は自分で決めるルビオとリュリ。しかし、残り6分ある中でリュリが4つ目のファールでベンチに下がることになります。ハイプレッシャーに耐えられるかどうか。ルビオもファールは3つあるよ。

ルビオにはダブルチーム気味。そこで焦らないガソルからコーナーのフアンチョで3P。すぐにスコラがガソルからねじ込む。一進一退なわけですが、それじゃあアルゼンチンは厳しいし、スペインとしてももう少し時間を使いたい。なかなか減らないゲームクロック。

そんな中でフアンチョが退場。あーあ。SFで高さのあるフアンチョはロースコアの中では非常に効いていました。それを突破したのがデック。さらにルビオの手を左右からバッチバチに叩いてノーコールになると、こぼれ球をダンクのデック。ちょっと時間を使わせてもらえないスペイン。

マジで全然コールしないなレフリー。NBAルールとの違いが明確にあり過ぎのファイナル。こんなタフな戦いはしていないアメリカ。しかも、ところどころコールされるから凄い難しい。勝っているのにビバスも退場させられるスペイン。もうよくわからん。

負けているからこそアルゼンチンの方がシンプル。ハードに守る。とにかくハードに守ってスティールを狙う。で、半分はファールゲーム。ファールコールされなきゃラッキー。コールされても時間は使われない。ガソルは2本とも外してくれるし。それ以降はガソルにばかりファールしている。半ファールゲーム。

オフェンスはカンパッソとみせかけてデック任せ。1人で飛び込んで決めていくデック。素晴らしいウイング。個人技アタックでコンタクトの強さも3Pも持っている。24歳なので契約切れたらNBAに来るかもよ。202cmなのがちょっと苦しいか。

ということで、共通意識とハードワークで頑張ったアルゼンチンでしたが、ルビオとリュリ、ガソルだけでなくチーム全員で的確にボールを運ぶスペインの前に奇跡は起きませんでした。見事だったルビオ。残り1分半でトドメの3Pが21点差にしましたよ。

◉ファイターとチキ・タカ

ファイナルは見事な試合運びをみせたスペインに軍配が。ファイナルまで進む要因になったカンパッソの読みとディフェンス力をものともしなかったルビオの安定感が目立ちました。これでルビオは世界1のゲームメイカーになったわけです。2008年の北京オリンピックでジェイソン・キッドとマッチアップした天才17歳が遂に頂点に。

なんてことは、まぁ置いといて、NBAとの違いがはっきりしたファイナルでした。ルビオの持つパス能力がハードコンタクトしてくるアルゼンチンのディフェンスをあざ笑い、そして的確に時間を使えることもまた重要でした。

「ルビオが世界1だって?カリーの方が上だ」なんて意見はたっぷりと出てくるかもしれませんが、実際にこんなにハードコンタクトされてもノーコールだったらカリーはボールを運べるのかどうか。クリス・ポールならやれそうではありますが、いずれにしてもボールを長く持つタイプには苦しいルールだし、コンタクトに負けてもダメなルールです。

ユーロからきた選手がNBAで苦労するのはスピード。ルビオもまたディフェンスに課題があり、NBAのトップクラスには手も足も出ません。でも、このルールだったらどうなのかってことです。スピードの意味が減っているのが、非常によくわかるファイナルでした。吹っ飛ばされてもノーコールとか日常茶飯事。

ユーロの選手が遅く、でもゴール下でファイトするのはよくある光景。ディフェンス3秒がないからというのもありますが、NBAよりもゴール下が激しい激しい。アメリカはスモールラインナップで逃げようとしましたが、今や常識的になってしまったので3P止めに来るディフェンスと手厚いカバーはNBA戦術を無効化しました。

アルゼンチンのハードなディフェンスは、脅威であると同時によくもまぁあんなにハードなことを1試合続けて出来るものだと感心します。本当はそれが出来ないのが普通。サッカーの世界を見ても「シメオネイズム」みたいなものを感じてしまったよアルゼンチン。

アルゼンチンの選手は国内でプレーしているわけじゃないので、共通の戦術があるってわけじゃなくて、このメンタリティの共通化が大きいのだろうなと。そしてそれはこのルールでは非常に大きなメリットですね。

「ハードにファイトする」アルゼンチン
「鮮やかなチキ・タカで回避した」スペイン

まるっきりサッカーみたいな世界観でしたとさ。えっ「チキタカ」っていったらレアル・マドリーが怒るって?でもルビオは元バルサだから。

そのルビオがコービーからファイナルMVPトロフィーを受け取って表彰式が始まるのでした。大会MVPもそのルビオ。

文句なしの世界1のゲームメイカー。所属するのは弱小サンズ。なぜなら世界1のゲームメイカーだけどNBAルールでは世界1ではないから。ムズカシイネ。

ファイナル アルゼンチンvsスペイン” への3件のフィードバック

  1. WC通してNBA選手以外で記憶に残った選手はいましたか?
    デックは個人的にもNBAで見てみたいです。

  2. スコラは流石に疲れてましたかね?国際ルールだとインサイド固めやすいしガソルのようなタイプも活きますね。ルビオが得点でもある程度目立ったのはルールなのか、チーム的にスコア面でも中心だからなのかどっちだと思いますか?

    1. フロアを広く保ってフリーを作りたいスペインなので、ルビオが自分で行く必要もあったと思います。そして自分が大エースなので、自分の好きにして良かった。

      もう1つはサイズ問題で、ルビオからすると高さでシュートを打ちやすい環境でした。NBAのPG陣の高さ、ジャンプ力に比べるとかなりイージーだったのが大きかったと思います。

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