前回がキャブスだったので、似たような状況のチームについて触れていきましょう。マジックの新シーズンはどんなロスターで、何が目標になりそうなのか。ロケッツ・サンダー・ピストンズよりもわかりやすいというのもあるので。
◎PGのポジション争い
ドラフトでジェイレン・サッグスとフランツ・ワグナーを獲得したマジックは、実は各ポジションに若手を揃えることに成功しています。その中でPGはポテンシャルが最も高い選手が揃っています。なお、5位指名だったのでバーンズが有力でしたが、良くも悪くもサッグスになったので、その分だけPGに人材が余ってもいます。バーンズ指名でウイングが増えた方が自然だったかも。
【PG】
サッグス 21年5位
フルツ 17年1位
コール・アンソニー 20年15位
RJハンプトン 20年24位
コンボガードで2枚起用することを考えても、ちょっと戦力オーバーですね。サマーリーグでリーダーシップを発揮していたサッグスが中心になりそうですが、フルツがどこまで頭角を現わすことが出来るかどうか。
これまでのマジックはハンドラー1人には強引な個人技突破を許しており、コール・アンソニーはそんな状況で活躍していた印象が強く、言い換えれば「チームオフェンスに課題がある」タイプのガードでした。新HCがそんなアンソニーを選ぶかどうか。またRJハンプトンもスコアリングに特化しているタイプなので、単に人数が多いだけでなくキャラ被りでもあります。
【フルツ】
12.9点
FG39.4%
3P25.0%
【アンソニー】
12.9点
FG39.7%
3P33.7%
【ハンプトン】
11.2点
FG43.9%
3P31.9%
ハンプトンだけがFG40%超えていますが、これは3Pが少なかったことも関係しています。いずれにしても似たようなスタッツを残している3人であり、2人を並べるにはシュート力不足な匂いもプンプン。これが他のポジションに有力株がいないならOKですが、そういうわけじゃないので困るわけだ。
これに対してサッグスはリバウンドの強さや、速攻を生み出すパス能力を示しており、よりコントロールしそうなタイプのPGです。サマーリーグの起用法を見る限り、PGサッグスでいきそうなので、第2PGもしくはコンボガードの枠を他の3人で争うことになりそう。
マジックにおいて一番頭の痛いポイントがPGの戦力整理というか、まず初めに起こるであろう「選手間の競争」がどのように決着していくのかということ。自信を失うと危険なフルツと、暴走しそうなアンソニーとハンプトンなので、時間をかけて育てたいんだけど、育てるほどに時間は与えることが出来なそう。
◎堅実のSG
何枚のガードを起用してくるのかわからないマジックですが、上記の3人よりもサッグスが好まれそうな理由の1つが「ハンドラーではないSG」を複数抱えているからです。シューター的に振舞わせたりする方が向いているタイプなので、コントロールするPGが欲しいよね。
ギャリー・ハリス
テレンス・ロス
ソーンウェル
マイケル・カーター・ウィリアムス
ソーンウェルが残るかは不明ですが、若くはないガードが揃っています。ディフェンススターのハリスはチーム方針によっては中心的に扱われることが予想され、スペシャルな得点力を発揮するテレンス・ロスはシックスマンとして頼りになる存在です。どっちもHCの方針次第では放出も、主力化もありそう。
現代NBAを考えれば、ガードのディフェンダーは欲しいし、若手PG達の中でディフェンス面で評価できそうなのがフルツしかいない事、そしてMCWがいることもあって、やっぱり1枚はディフェンス要員のガードにしそうなんだよね。だからハリス中心なんじゃないかと。MCWもいるし、そっちの方がチームとしては構築しやすそう。
3ガードにするかどうかという問題もありますが、それをするにはウイングも充実しているのがうれしい悲鳴だな。
◎ウイング
ウイングはSFよりとPF寄りがいますが、比較的どちらかに偏っていない選手が多いです。両ウイングをこなせそう。ただ、3ガード・ワンビッグに耐えられるほどの能力を持つのはジョナサン・アイザックしかいないので、やっぱり2枚起用すると思うんだよね。
フランツ・ワグナー 21年8位
チューマ・オケケ 19年16位
ジョナサン・アイザック 17年6位
ジェームス・エニス
ここはアイザックが鉄板なので、さすがに主力にするでしょう。ケガさえなければリーグのトップディフェンダーになっていたであろうアイザック。2度にわたる大ケガは不安も大きいですが、リムプロテクターにもなれるエースキラーなので、これを使わないなんてもったいない。まぁケガしないでね。
続くのが19試合でスターターとなったオケケですが、これがまたアイザック同様にディフェンダータイプなので、ちょっと頭が痛い。よりフィジカルなタイプだから使い分けは出来るけど、この2人を同時起用してしまうと、さすがにオフェンス面の不安がデカくなってしまいます。
〇オケケ
7.8点
3P34.8%
〇アイザック(19-20)
11.9点
3P34.0%
得点力が欲しい時はテレンス・ロスを起用すれば済んでいたけど、さすがに未来を見据えるなら、この2人のオフェンスを伸ばしていかないといけません。アイザックはミドルを打ったりしており、フォーニエ・ゴードン・ブーチェビッチに囲まれていた中での12点なので、これから主役になれば伸びてきそう。オケケは殆ど役割がなかったからなぁ。
そんなわけでオフェンス面を考えてワグナー弟をスターターに持ってきてアイザックと組ませたい。サマーリーグでは結果を残せなかったけど、周囲が上手い方が機能しそうなタイプだしな。とはいえ、ワグナー弟についてはプレーメイカー的な側面も含めて使いたいと思うから、PG陣との争いっていう一面も出てきそう。
ウイングはちょっと層が薄いけど、そこはロスやソーンウェルなんかをスライドさせることに加えて、ウェンデル・カーターをもってくることを想定していそうです。そんな補強もありました。
◎ビッグ
ブーチェビッチがいて、そこにバーチがサポートとして活躍しながら、バンバを指名し・・・と伝統的にセンターを重視しているマジックなのですが、結局は戦力化できていない問題もつきまとい、今ではWCJが一番の有望株になっています。
WCJ 18年7位
バンバ 18年6位
ワグナー兄18年25位
ロビン・ロペス
18年ドラフトの1巡目3人を揃えたビッグマン。ガード並みの走力・運動能力を持った7フッターと呼ばれたバンバが未だに覚醒の兆しがない中で、逆に身体能力はないけどシュート力とスキルを持ったワグナーもブレークできないままマジックにやってきました。
そこにベテランのロビンを加えており、分厚い構図です。使い分けも出来そうだし、ワグナーとWCJは3Pも打たせることが出来るので、2人並べるのも「なしよりのあり」です。
いずれにしても中心になるのはWCJで、万能タイプとしてプレーメイクに積極的に絡んでいきたいところ。ディフェンスでもコースを読む力、スティールなどがあって、リバウンドも抑えながら走れるので、サッグスとのコンビは非常に楽しみです。プレーメイクの中心になってくるでしょう。
ワグナー兄もディフェンス面はそこそこイケるけどシュートが安定しないので主力にはしにくい。ゴール下の戦いを重視するならロビンを起用してくるでしょう。相手に応じた使い分けだな。
問題はバンバ。サイズがあるので「ゴール下の合わせ」を磨いていれば、今頃はある程度使える選手になっていたはずです。ただ、ハイポストに立たせたりしてブーチェ的に使っていたし、あまりフィジカルファイトが好きではないというか、リバウンドやルーズボールへの反応が遅く、スピードはあるけど反応力は低い感じがありありと。
まだ23歳なので諦めるわけじゃないけど、ここで結果を残さないとマジックとしても厳しい。幸いビッグマンは層は厚いけど、プレータイムはもらえるのでブレークしたいところです。
◎キーマンは誰か
そんなわけで、再建に乗り出たばかりではあるものの、そもそもプレーオフラインのチームだったこともあり、近年の1巡目指名を多く揃えていることがわかります。もう一度、見てみましょう。
17年 1位 フルツ
6位 アイザック
18年 6位 バンバ
7位 WCJ
25位 ワグナー兄
19年16位 オケケ
20年15位 アンソニー
24位 ハンプトン
21年 5位 サッグス
8位 ワグナー弟
ドラフト順位だけ見たら、かなり凄いよね。それが書こうと思った理由でもあります。
基本的には「もう1年負けてスター候補を加えたい」というのが新シーズンのスタンスだと思います。といっても指名順位はコントロールできないし、負けまくっても良いことがあるとは限らない。そこは難しいラインだし、18年ドラフト組のルーキー契約も終わるので、いつまでも待つことはできない。
さて、この中で誰が中心になるのかっていうと、サッグスとWCJにみえます。ちょっとプレーメイカー不足なのでフルツやワグナー弟にも期待したいですが、明確に連携を生み出してくれない限りは、個人の足し算にしかならないので、ちょっとでも掛け算してくれそうな2人が中心なのかな。
一方で実力的にはアイザックが中心。ブレークしてオフェンスでもエースっぷりを発揮したら熱いですが、ケガ明けなので、それは期待しすぎかな。
サッグスはチームオフェンスを作り上げられるか
アイザックを中心に強固なチームディフェンスを作れるか
ハリスがいることも含めて、オフェンスよりもディフェンス面での強みを打ち出せそうなロスターでもあります。アイザックを中心にしてオフェンスよりもディフェンスのチームになっていきそうです。ディフェンスが安定すればアンソニーやハンプトンの個人技も使いやすいしね。
◎ディフェンス&トランジション
フルツ、MCW、ハリス、オケケ、アイザック、WCJ、ロビン、バンバ、ワグナー兄と揃っているディフェンスは穴が少なく、全員がファイトしてくれそう。サッグスとワグナー弟が評価通りのディフェンスを出来れば立派に守れそうです。
ただ弱点があってリバウンドの弱さが出てきそう。もちろんビッグを2枚並べれば問題ないですが、そうなるとペリメーターとチームディフェンスは明確に穴が出来てしまいそうだしさ。リバウンドでもキーになるのはアイザック。サイズがあるウイングが助けることが出来れば武器になりそうです。
もう1人のキーマンがサッグス。リバウンドに飛び込み、そこから速攻を作り出すのは、これまでのマジックにはなかった特徴です。「ディフェンスの固いチーム」だけでは勝てそうにないですが、「ディフェンス&トランジション」が成立すれば話は変わってきます。
リバウンドを取るのは前提条件として、トランジションを増やせるかどうか
これはなかなかチャレンジな課題ですが、ハーフコートオフェンスには困りそうな一方で、走力のある若手が揃っているから武器に昇華出来れば劇的に変わってきます。特にバンバなんかはリバウンドに強くて走れるから、その特徴が出てくる展開が理想的。
おそらく3P成功率はリーグ最低クラスになる気がするので、それ以外で点を取る方法をしっかりと確立しておきたい。トランジションは新シーズンだけでなく、長い目で見てもマジックにとって重視すべき項目な気がします。
◎ジョナサン・アイザック
Q.ネクスト・レナードと言われて思いつくには誰ですか?
Q.MIP候補を挙げてください
どちらの質問にも当てはまるのがジョナサン・アイザック。MIPって難しくて、20点取っていた選手がオールスターになっても選ばれないんだよね。その点でアイザックはケガでスタッツを残せておらず、それでいてマジックのエースになればオールスターもあり得ます。
サッグスが活躍しすぎないとか、WCJがポイントセンターとしてブレークしないとか、いろんな条件が必要なんだけど、まっさらに近いチームなので、アイザックという可能性もあるよね。基本的にオフェンス面は「チーム戦術の外にいるオプション」に近くなることが予想されますが、チームの中に混じっても、個人でも点が取れれば、一挙にブレークしないかなー。
サッグス+WCJ中心のチームオフェンスにおけるキャッチ&3Pやオフボールカット担当
ウイングからの個人技担当
この両方で得点を伸ばせれば20点が期待できるじゃないかと。そこにディフェンス力も評価されるならオールスターのチャンスってどうかな。19-20シーズンのスタッツを見ながら、平均20点になる方法を考えてみましょう。
〇19-20シーズン
28.8分
11.9点
まず、11.9点の選手が20点に乗せればMIPのインパクトがあります。その中で平均29分だったのが36分まで伸びると14.8点まで伸びる計算なので、単純にプレータイム増で得点は2~3点は伸びることになります。実際には36分まではいかないでしょうが、こう仮定しましょう。
プレータイム増 +2.5点
〇3P
キャッチ&3P 0.9/2.6 35%
プルアップ 0.1/0.2 33%
チームで5番目のオプションだったアイザックはパスアウトから3P専門でした。そこで2.6アテンプトは割と多い方です。フォーニエやゴードンがいなくなっており、ウイングのシュート担当がいなくなったのだから、アイザックにはもっとボールが集まってきそうです。確率も35%近く決めており、割と期待できます。
一方で昨シーズンのマジックはキャッチ&3P22.9本でリーグ23位と「パスアウトからの3Pが少ないチーム」でした。そもそも試合のペースが遅いってこともあれば、キックアウトする選手がいなかったのも大きいです。新シーズンはトランジション増やサッグスの加入によりチームのキャッチ&3Pは増える気がします。
プルアップ3Pについては、これまでアイザックは打たない前提でしたが、さすがに増やして来るでしょう。確率はそこまで期待してはいけませんが、高さのある選手だけに、しっかりとトレーニングしていれば30%は超えてくることが期待できます。
ということで、3Pによる得点は結構増えそうな匂いがします。+3点以上は期待したい。
3Pによる得点増 +3.3
アテンプト 2.8 → 5.5
成功数 0.9 → 2.0
ちょっと期待しすぎかな。でもMIPになるなら、これくらいは必要だしな。なお、平均2本決めたところでリーグ80位くらいです。それくらいは達成して欲しいわな。
〇エリア別シュート
ゴール下 132本 64%
ペイント内 42本 41%
ミドル 64本 36%
コーナー3P25本 44%
34試合出場だったアイザックは1試合2本近いミドルを打っています。マジック自体がミドルの多いチームでしたが、マグレディ門下でのトレーニングもあり、アイザックもミドルは積極的に狙っていました。プルアップ3P増も期待できるのはトレーニングを重ねてきたミドルの延長線上だからです。
一方で新シーズンに明確に伸ばしてもらうべきはドライブになります。ここは伸びしろが最も大きいよ。
〇ドライブ
回数 2.9回
得点 1.8点
FG 1.6本52%
FT 0.2本67%
ドライブの回数はかなり少なく、昨シーズンのマジックではフルツ(14.1回)、コール・アンソニー(10.6回)といったガード陣を考えれば、かなりの回数がアイザックに回ってきてもおかしくありません。FG成功率もアーロン・ゴードン(42%)と比べればかなり高く、アイザックにやらせるだけの価値があります。
ただし、アイザックはドライブのためのハンドリングとかスピードなんかに優れているタイプではないよ。だから伸び方としてはこんな感じかな。
ドライブ増
回数+6.0回
得点+4.0点
ドライブで直接的に得点するのはもちろんですが、アイザックにとって最も重要なのは「フリースローの増加」です。これまで2.3本しか打っていませんでしたが、ドライブを増やすことで、この回数を大きく向上させたい。なんせドライブからは0.2回しかなかったのだから、殆どファール貰っていないじゃん。
そんなわけで3Pとドライブだけで+7~8点の上積みを期待しており、それで平均19点くらいになります。元々アイザックはセカンドチャンスやトランジションの得点をシーズンごとに増やしており、残りは総合的に何とかしてもらおう。
〇シーズンごとの変化
2ndチャンス 0.6→1.4→2.1
速攻 0.7→1.2→2.3
まぁ今回はアイザック回じゃないし、ネクストレナードでMIPといっても「可能性が高いぜ」って考えているわけでもないから、頑張って欲しいって事でした。20点は射程圏内だし、6.8本だったリバウンドもPF起用で増えてきそうです。2.3ブロックを増やしたらDPOY候補筆頭だ!
ケガ明けで大変なシーズンとなるアイザックですが、若いチームの中で従来通りのスーパーディフェンダーになるのか、それともエースでありスーパーディフェンダーになるのか。オフェンス面でも高い能力を発揮してくれることを願うのでした。
◎楽しめるシーズンになるのか
そんなわけで実は若き有望株をしっかりと揃えて、ディフェンス力から作っていきそうなマジックでした。カニングハムもジェイレン・グリーンもいないし、エースキャラになれそうな選手がよくわからないけど、なんなら個人レベルのディフェンス力は1年前よりも高いかもしれません。チームとしては全然だけどさ。
サッグスがどこまでやれるのか、フルツとアイザックは復活できるのかなど、いろいろと繋ぎ合わせる要素が多く、そう簡単ではないでしょうが、ここまで若手が揃っていて、なんとなく役割も定まっていそうだと、見ていて楽しいかもね。
「勝てないチーム」って「何しているのかわからないチーム」になりがちですが、マジックの場合は勝てなくても、選手それぞれがやるべきことが明確で伸びるかどうかが見えやすそう。まぁそんな想定を超えた役割を果たせる選手がスターになるのですが。
新シーズンは再建チームが面白くなりそうだと思っていますが、マジックもその一角に名乗りを上げてくれそうです。
新シーズンはイーストはマジックを中心で観ようと思っています。
数年後にあの頃から注目していた!って言えるようにみんな頑張って欲しい。
推しのフルツとアイザックに期待したいけど、やっぱりけがが不安ですねー。
ディフェンスはいいけど、オフェンスは壊滅的な予感がします。
アイザックは本当にオールD入ってもいいレベルだと思うので、オールスタークラスまで化けたら面白いですね。