カリーとハーデンが変えたこと

さて、今回は題名から受けるイメージとは違い、データとか何もなく、ここ数年で感じたことを書いていく回です。カリーとハーデンといえば3年位前に「NBAの理不尽トップ3」と捉えていた選手です。もう1人はウエストブルックね。

ところで最近はNBAの記事で「理不尽」というワードが頻繁に出るようになってしまいました。管理人が使いだしたわけではありませんが、バスケのプレーでこんなに使われていなかった気がしています。そして個人的には「理不尽な得点力」とかは、あまり言いたくなかったりします。だって別に「理不尽」じゃなくても点はとれるじゃん。

【理不尽】Webⅼio辞典

簡単に言うと道理に合わないこと、あるいは矛盾していること、筋が通らないことなどを意味する言葉である。理不尽の「理」には物事筋道道理といった意味があり、「不尽」にはつくさないこと、つきないことといった意味がある

【理不尽】goo国語辞書

[名・形動]道理をつくさないこと。道理に合わないこと。また、そのさま。「理不尽な要求」「理不尽な扱い」

【道理に合わない事】なので、それはNBA「道理」が何かってことになります。個人的にはこの「道理」を「NBAの常識」だと捉えています。

例えばレブロンは言うまでもなく圧倒的なプレーをします。でも、レブロンの凄さは「理にかなったプレー」であり、それを実行する力の高さです。そこに『理不尽』というワードは合わないし、ある意味でレブロンの凄みを誤魔化している気もします。

あるいはエンビードは『理不尽』ともいえるパワーと高さを誇っており、その肉体的な強みで決めきりますが、いいかえると「明らかに相手を上回っている身体能力」で決めているので、理不尽と言ってよいのかわかりません。

冒頭の3人に戻るとウエストブルックの持つ「理不尽」は、何もないところ(普通のディフェンスリバウンド)から速攻を生み出してしまう「理不尽速攻」にあります。それもただ単に速攻を生んでいるのではなく、

残り時間と点差を考えれば逆転が難しい状況を、理不尽速攻で覆し逆転を生み出す

こんなところにあります。つまり「時間と点差の常識」という『道理』に合わないことを生み出せる速攻だからこそ価値があります。単なるワンプレーではないところがミソです。ウエストブルックの場合は速攻に加えて

・試合終盤になると3Pが決まる
・誰よりも動いているのにスタミナが切れない
・確率の低い選手なのに、頻繁に試合を決定づけるプレーをする

こんなことも加わるので、なおさら「時間と点差の常識」が通用しない怖さを持っており、『理不尽大王』と呼びたくなるわけです。『理不尽』だからNO,1ってことではなく、常識的には予期せぬことを生み出せる能力ってことだな。

◎カリーの『理不尽』

ではカリーとハーデンの『理不尽』、つまり「前提となる常識」は何かってことになります。

カリーの場合は非常にわかりやすく「異常なシュート能力」になるわけですが、前回も触れた通り、カリーはタフショットでも関係なく高確率で決めてきます。ここの常識は「確率が悪いはずのシュート」なのに決めている事です。

ディープ3P
ディフェンダーが4フィート以内にいる3P
ボールキープからのプルアップ3P etc

とにかくディフェンスが頑張っても、頑張っても、追い込んでも、追い込んでも決めてきます。特に今シーズンすごかったのは7秒以上のボールキープ、7回以上のドリブルから決めた3P50%オーバーでした。他のスターが40%に届かないのに、一人だけ別次元。

でも、それは現在の事にすぎず、3Pのスタッツをかなり細分化しないと見えてこない理不尽さでもあります。一方で、昔からカリーがやっていた「常識外」とは

プルアップ3Pを打ちまくり、決めまくる

という現代で聞くと「それってすごいの?」と感じるシンプルなものでした。つまり

「カリーが誇る常識外」は「現代の常識」に変化した

なんてこともいえます。色々変えてしまったカリーさん。でも、変えることが出来た常識でもあったわけです。まずは、そのプルアップ3Pについてシーズンごとの2位と比較してみましょう。

〇13-14シーズン
カリー 5.1本 40.7%
ブランドン・ジェニングス 3.5本 35.7%

記録が残っているのが13ー14シーズンから。確率でもカリーは特別ではありますが5%程度なので「わかりやすく異常」とまではいえないような。それよりもアテンプト数の差が大きく「普通は打てないシュートを打っていた」という状況でした。そして2位はジェニングスなんだよね。本数も3.5本に過ぎない。

〇14-15シーズン
カリー  4.5本 42.3% 
リラード 3.9本 33.9%

翌シーズンにリラードがアテンプトを増やして2位に上がってきました。逆に減らしたカリーとの差は縮まりましたが、確率は10%近い差があり「打つには打ったけど、カリーとは大きな差がある」ことには何も変わりありません。

そしてこのシーズンにウォリアーズは初優勝、カリーはMVPになったことで、翌年から常識が動き出します。

〇15-16シーズン
カリー  6.3本 43.8%
リラード 4.8本 35.4%
ハーデン 4.6本 33.3%

リラードとハーデンがアテンプトを大きく増やし、前年のカリーを超えてきました。カリーの独壇場だったはずの「打てるはずがない状況でプルアップ3Pを打つ」ことが一般化され始めたわけです。ただ、カリーはさらに増やしてきたため、アテンプトの差は1.5本に広がりました。常識がカリーに追いついたと思ったら、カリーは更に常識外になっていった

そしてやっぱり確率の面でカリーは特別です。これについては一向に追いつけない。プルアップ3Pは35%くらいで「確率の良い選手」であり、それが常識でしたが、最も多く打つカリーだけは40%超えるのが普通。

〇16-17シーズン
ハーデン 6.6本 33.3%
カリー  5.2本 37.3%
ウエストブルック 5.0本 34.7%
リラード 4.7本 35.8%

そして翌シーズンについにカリー以上に打つハーデンが登場します。確率は悪い。意外にもウエストブルックが3位にあがったのですが、ハーデンよりも確率が高かった。なお、ウエストブルックはこのシーズンまで順当に3Pの確率をあげており、このまま伸びると思ったら翌シーズンから逆戻りしてしまいます。フリースローも85%決めていたんだぜ。

アテンプトで追い付かれたカリーですが、それ以上に成功率の低下が目立ちました。そこには(おそらく)ディフェンス側の改善がありました。つまりカリーが変えたことは

プルアップ3Pを常識にした
ディフェンスの守り方を変えた

カリー以外もプルアップ3Pを多く打つようになり、ディフェンス側はピック&ロールでの守り方を大きく変えることになりました。アンダーで守っていては話にならず、ショーディフェンスも駆使して守ることを求められるように。

さらに翌年からはロケッツによるスイッチングディフェンスが一般化され始め、カリーの「常識外」は次第に「常識」になっていき、普通に守れるプレーになり始めました。それでもカリー本人は確率高く決めていくし、前述のように異様な確率で決めるような進歩もしています。ここからはカリーだけのプルアップ3Pをピックアップしてみます。

〇17-18シーズン
4.5本(5位)
41.0%

〇18-19シーズン 
4.9本(6位)
41.5%

〇20-21シーズン
7.2本(2位)
40.9%

そんなわけでカリーはアテンプトを増やさず確率で勝負する選手になっていったのですが、20-21年になってアテンプトも急激に増やしてきました。クレイがいないことが最大の理由ですが、それでもトップではないので、もはや「常識外」とは言い難い本数ではあります。確率は相変わらず特別であり史上最高のシューターという位置づけになにも変化はありませんが

『理不尽』と表現していいほど打ちまくっているのか?

こんな疑問も出てきます。確率は間違いないけど、そもそも「プルアップ3Pを打つのは常識」になってしまったので、

常識的なシュートを確率良く決めている

そんなことになっています。カリーの理不尽さはNBA全体を大きく変え、理不尽と呼んでいいのかわからないレベルにしてしまったのでした。それがカリーが変えた事。非常識を常識にしてしまった。

リラードやトレ・ヤングがディープ3Pを打ちまくり、ドンチッチがフェイダウェイ3Pを打ちまくり、7年前はカリーの独壇場だったプレーの数々は、今や常識的に打たれまくっています。それらのプレーを超高確率で決めるカリーレベルまであげられる選手はいるのかどうか。

◎ハーデンの理不尽

そんなカリーに代わってプルアップ3Pを打ちまくるようになったのがハーデン。で、それがまた新たな常識を打ち破るほど『理不尽』だったから特殊です。

〇17-18シーズン
ハーデン 7.6本 38.8%
リラード 5.8本 36.6%

〇18-19シーズン 
ハーデン 12.1本 36.3%
ケンバ   6.0本 35.6%

〇19-20シーズン
ハーデン 10.9本 35.0%
ヤング   7.7本 33.5%

ネッツに来て大きく減らしましたが、1人だけ10本を超える異常な本数を打っていました。言わずと知れた「ステップバック3P」は全てのディフェンスを無にする恐ろしき理不尽さを発揮していました。

守ることを許さないステップバック

ハーデンの理不尽なアテンプト数は圧倒的でした。カリーによって進化したディフェンスはプルアップ3Pに対策できるようになっていたはずが、ハーデンだけは違った。そしてステップバック3Pを使う選手は激増したものの、未だにハーデンレベルのプレーは誰も出来ていません。もっとも、ハーデン自身が本数を減らしたように、普通のチームではここまで打つ必要はないのですが。

ハーデンの場合は未だに理不尽であり続けていますが、そもそも必要なのかがわからないプレーなので、もう今では『3大理不尽』というのは憚られてきました。このステップバック3Pでロケッツが勝っているからこそ意味があり、立場もチームも変われば、あり方は変わってくるよね。

ってことで、ウエストブルックの件も含めて「新3大理不尽を考えよう」という企画をやってみたいんだよね。誰だろ。

さて、理不尽ではあるものの、ハーデンの場合もまた新たな対策が登場し、ステップバックの意味合いは落ちてきました。その対策方法はドンチッチやリラード相手にしても同じなので、このディフェンスの手法はあっという間に1つのトレンド化しています。それこそが「ハーデンが変えたこと」になります。ハーデンほどのアテンプト数があるならば価値のあるディフェンスです。

初めに明確な対策が出てきたのは、ブレッドソーとウエストブルックの個人ディフェンスでした。特にハーデンの左手後方を守るブレッドソーは「ステップバックだけはNG」という、ある種のハーデン専用ディフェンスでした。常識外のハーデンに対して、常識外のディフェンスで答えました。


一方のウエストブルックはブレッドソーに比べたら常識的なディフェンスです。チームディフェンスの概念を無視し「ハーデンしか守らない」という単なるハードマークでした。それはハーデン以外のマークをユルユルにしてしまうリスクを負ってでも、抑えてしまいたい欲求にかられたディフェンスです。

このディフェンスはチームディフェンスがボロボロになるだけでなく、ハーデンがドライブしても「後ろから追いかけてブロックできるウエストブルック」という特殊性にも支えられていました。野獣のようなプレッシャーも含めて普通のディフェンダーには出来ないプレーです。

私の攻めた予想:ウエストブルックがオールディフェンスチームにはいる。あり得ますかね?

こんな質問がありましたが、何年か前に選手投票で「もっとも怖いディフェンダー」にウエストブルックが選ばれていた気がしますが、ヴォーゲルがそういう役割を与えたらありえるでしょうね。ただし、その時はリバウンド数が激減します。
実際、ウエストブルックはvsハーデンやvsリラードの時にリバウンド数が激減する傾向がありました。全てを無視してエースキラーやらせたら、リーグ最強クラスです。でもボールにばかり行くから、無視できない性格なんだ。

このウエストブルックを参考にしたのかどうかは不明ですが、翌シーズンになると似たようなハーデン対策が登場します。それは至極シンプルなもので

ダブルチームでパスを出させる

たったこれだけの中学生でも思いつくようなレベルのディフェンスなのですが、キーになることは「パスを出させる」ということであり、そこから続く「4対3のディフェンス&ローテ」でした。付け焼刃のダブルチームではなく、しっかりと練られたダブルチームが登場したのは面白い変化だった。

センターラインを越えた段階でのダブルチーム&素早いディフェンスローテ

ポイントは「ダブルチームを仕掛けるのが早い」ってことで、3Pラインの外からボールを奪いに行くディフェンスをするので、ハーデンと言えどもワンパスでフィニッシュさせるのはムリでした。

縦パスは難しく、横パスになるのですが、そこで作られた僅かな時間でも「3対4を解消するローテディフェンスを実現する」のは、鍛えられたNBAプレイヤーなら十分な時間があります。ただし、既定のマッチアップにはならないので、優れたチームディフェンスが出来るチーム限定で採用できる作戦です。

特に上手いのがナゲッツですが、ハーフコートじゃなくても平然とダブルチームを仕掛け、そこからローテしてロケッツを粉砕していました。実はハーデンがロケッツを出ていきたくなった理由というか「限界」と感じたのは、このディフェンスを普通にされるようになったからじゃないかと。プレーオフになるとレイカーズもこの手法でロケッツを完全攻略しています。

◎カリーとハーデンが変えた事

ハーデン対策の色が濃いディフェンス&ローテではありますが、2年が経過して思う事は「ディフェンスの良いチーム」の基準が変化してきたことです。ちょうどジャズが「同じ守り方しか出来なくて負けた」という衝撃的なプレーオフにもなりましたが、強力なディフェンス組織よりも、柔軟なディフェンス組織を持っている事の重要性が高まった気がします。

レーティングでは表現できないディフェンス力

そんなことを強く感じるようになったわけです。様々な相手がいる中で、適切な守り方を出来るのかどうか、さらにいえば「攻めた守り方が出来るのかどうか」なんてことも試されます。バックスもレーティングを落としながらも、ディフェンスの工夫を重ねて優勝したように、最後は個人で何とかしてくれるオフェンス以上に、組織としての柔軟性は求められるようになりました。

また、記憶に新しい所だとプレーオフでシクサーズがビールに対してダブルチームを仕掛けてボコボコにしていましたが、このディフェンスが進んだ先にあることが

オフェンス側の判断力を試す守り方

でもあることです。酷すぎたビールはウィザーズ以上にビール個人の問題でしたが、グリズリーズはカリーに仕掛けると「ワンパターンなドレイモンド」という事実も突き付けました。判断力があるはずのドレイモンドだけど、チームとしての解決力不足を感じさせてしまいました。

一方でドンチッチにダブルチームを仕掛けると、逆にマリヤノビッチを有効に使うことになったマブスや、様々な形でドノバン・ミッチェルが打開するジャズのように、チームとしても個人としても攻略してくることもあります。

まぁ今となってはハーデンに仕掛けたところで、パスを受けたデュラントやアービングが個人技で決めてくるでしょうから、必ずしもチームの判断力とは言えませんが、プルアップ3Pが増え「個人で決めきる」ことがスタンダードになった現代NBAでは、ダブルチームから始まる「判断力を競うゲーム」は有効な策でした。

カリーの高確率プルアップ3Pは個人のディフェンス力で対抗する限界を示し、スイッチを使ったチームディフェンスの進化を促した

止められないハーデンのステップバックはローテディフェンスを進化させ、「判断力ゲーム」を導入させた

カリーが変えたことに続いて、ハーデンはディフェンスの概念を大きく変化させたと言えます。『理不尽』だった2人は「ディフェンスの常識」を大きく揺れ動かし、今では表現するのも難しいチームディフェンスをするチームが増えてきました。そしてカリーとハーデンは『理不尽』と表現していいのかどうか、わからなくなってきた。

また、それはインサイドのプレーメイカーの必要性も強く感じさせることに繋がっています。オリンピックでのスロベニアはドンチッチにダブルチームを仕掛けられてからが見事過ぎました。

今やカリーもハーデンも関係ない所で展開されている「判断力ゲーム」ですが、もしもこの2人がNBAの頂点を争う戦いをしていなければ、バスケの方向性は大きく変わっていた可能性もあります。

レブロン、ヤニス、ウエストブルックなんかは超すごい身体能力で圧倒してくるし、デュラントやアービングの変態高確率シュートは言葉を失うかもしれない。だけど、リーグ全体のディフェンスを大きく変えたと思うのはカリーとハーデンなのでした。そして続く若手たちは「常識」としてインプットされたプレーをしています。

進化しなければ時代遅れになるのがNBA

もはやカリーの確率も、ハーデンのステップバックも「常識」として、次のステージへ進んでいるのだから恐ろしい。

カリーとハーデンが変えたこと” への3件のフィードバック

  1. レイカーズが一昨年のプレイオフでやっていたハーデンへのDF(ダブルタームでパスを出させる)を見てて、やっぱりハーデンは対策される前に優勝しておくべきだったと思ったのを覚えてます。
    今や最強チームにいるんで対策しようがありませんが、ロケッツで優勝するとこを見たかったですね、、、

  2. 「理不尽な」っていうと言葉にできないすごさを表現しやすいので、最近よくみるのでしょうか。でも、これを読んで個人的に考えると「は?なにそれ?」ってプレーをして(し続けて)、ゲームを決めてしまう選手が次期「理不尽大王」にふさわしいと思います!!これからゲームの常識を変えそう、みたいな視点は難しいので(笑)
    で、個人的に「新三大」を考えたときに、レブロンのパターンが難しいです。理にかなっていることをやり続ける選手・・・ヨキッチはこれの代表格ですかね?でもヨキッチはパターンの豊富さやタフさ、勝負強さから理不尽を感じます。ということで、新三大の1人はヨキッチ。
    あとは、DFの対策のしようがない選手だと、KD・ドノバンミッチェル・ドンチッチ・リラード・レナードとかかなー、DF視点でみると、ホリデー・ヤニス・アヌノビー・スマート・ジェイレンブラウン・シモンズ・ADとか?
    うーーん、個人的には、「ドノバンミッチェル」と「アヌノビー」かな。ただ、アヌノビーを「大王」と表現することには抵抗がありますね(笑)
    管理人さんの考察を楽しみにしています!!

  3. なるほど ハーデンに二人行ってパスを出させる 後はローテを早くして頑張るっていうハードワークを旨としてる訳ですね ハーデン的には「俺に二人来てるんだから決めろよ」でパス出してるんでしょうけどロケッツは長らくハーデンの為にスペース空けて後は見てるってことをやってたせいで急にパスが来ても中々決まらない ボールマン以外の選手同士でスクリーン掛けあってノーマーク作るとかもしない スター選手のワンオンワンに特化し過ぎたシステムだから「ハーデンコケたら皆コケた」になるんでしょうね

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