アリウープするゴベアー

オフェンスの話

あまり評価していないというか、オールスターからは遠いと思っているジャズのビッグマンにして、ディフェンスの人。しかし、果たしてジャズ以外で活躍できるのかっていうのが、大いなる疑問点だったりします。もちろん、それなりにはやるでしょうが、現代バスケにどこまで適応できるのか。いや、ジャズで適応しているのだから他のチームでも出来るはずなのですが、まぁそこら辺から触れていきましょう。

◉短くディフェンスを

ちょうどバックス戦でヤニスさんとマッチアップさせられていましたが、今のNBAで怖いのはこういうところ。あんな怪物が登場しちゃうから、センターがいない状況を作られてしまいます。そしてセンターがいてもブルック・ロペスなわけで、ゴール下の強さなんて無効化されまくり。
それを補うのはジャズのディフェンスシステムで、時に抜かれることを恐れないくらい偏った守り方をしつつ、それがゴベアーのいる方向へ誘導する作戦だったりします。特にイングルスはお上手。

この守り方はパスを出す方向を絞ってくれるので、ストレッチしてくる相手に大きく振り回されないことを目指します。自分たちは広くコートを使うからこそ、相手には広く使わせたくない。
だからゴベアーも動く範囲を限定してもらっています。とはいえ、コース読んだりしているし、ちゃんとヘルプにいないとイージーシュートになってしまうから、ゴベアーの存在が超重要ってことは変わらないよ。

これがディフェンスシステムのないチームだと「どこにヘルプに行くべきか」ってところから悩まないといけません。ストレッチしまくる現代バスケでは、機動力がないと追いつけないわけだ。センターはゴール下で待っていればOKなんて時代じゃない。
それを要求されるとかなり苦しくなってしまうのがゴベアー。だから、ゴベアーは超重要なんだけど、ルールに乏しいチームに行ったら、その重要性を発揮できずにベンチに下げられる可能性があります。

これはもちろんペリメーター1on1も同じ。スイッチさせられてvsガードのスピードミスマッチにされると苦しいよね。
でもそんなときは、周囲が素早くカバーに来てくれるのがジャズ。まぁゴベアーの高さは離れていてもシュートが打ちにくいので、一瞬で抜かれない限りはまぁって感じ。
ブロック数は少ないけどドノバン・ミッチェルが後ろから飛んでくるシーンとか結構あるしね。

あと、ジャズは「捨てるシュート」を定めるチームでもあります。データ的なやりかたで「そこはもう追いかけないでいいや」ってのを事前に決めているっぽい。
ゴール下にゴベアーがいる、ってのが強力なのだから、その状況が生まれるように、出来るだけ生まれるように周囲をローテーションさせていくのも特徴的です。

カペラが働き、ドレイモンド・グリーンが重用される時代において、純粋ビッグマンであり機動力が足りないゴベアーは弱点にすらなり得るディフェンダーです。
でも、それは個人で勝負したときの話。ジャズというチームにいることでゴベアーは機能するって思っています。

◉オフェンスも同じ

これらの事実はオフェンスではもっと顕著になります。今シーズンのゴベアーはキャリアハイの得点ですが、その取り方は味方が作ってくれたシュートチャンスを押し込むものです。
3Pを使いながらドライブするガード陣は、スピードで突っ切るのではなく、いったんディフェンスを抑えるようにスピードダウンし、ヘルプの出方によってプレー判断をします。ヘルプが来るならゴベアーへのアリウープ。

またスペーシングして全員が開きつつ、パスを回すことでアングルを変えていき、インサイドのゴベアーへパスを通すパターンもあります。なお、これについては勝率を上げてきた最近は減ってきた。結構、重要な事実でもある。
いずれにしても「あとは押し込むだけ」という状況を作ってもらうのがゴベアーの役割。役割って変だけどね。

これも当然ながらゴベアーの高さがあってのパターンです。高い位置にパスを出しておけばOKなセンターって、パスを出す方も楽だよね。しかもボールを持った瞬間にリングと正対していればダンクにいける。ゴベアー超便利。

ポストアップから1on1

なんてシーンはほぼないのがゴベアー。個人で得点する能力には乏しいし、シュート力もない。だけどFG65%とフリースロー並みに決めてくれるのだから、ゴベアー超便利。決めてくれるのか、決めるだけのシュートなのか。

これらのことはジャズのオフェンスにおいて、ゴベアーの特徴を最大限に引き出し、利用していると言えます。個人ではちょっと厳しい感じなのだけど、チームの一員ならば変わってくるんだ。
こう書くとゴベアーはジャズというチームの中では有能な選手に見えますが、実はそうでもないんだよね。っていうところから本題がスタートします。

◉フェイバーズ有能

ディフェンスでもオフェンスでもゴベアーよりも高さがないフェイバーズですが、相手が強くなるほど有能さが際立つ存在です。
それはより機動力があるだけでなく、タイミングが秀逸だという事。ドライブに対して、適切なタイミングで合わせに来るのがフェイバーズ。ゴベアーのようにゴール下で待つのではなく、離れた位置から飛び込んでくるし、加えてプルアウェイも使いこなします。

シュートもゴベアーよりは多彩だし、守ってもより広い範囲が守れてペリメーターもゴベアーよりは守れる。確かに高さは足りないけれど、フェイバーズがいることで多様性が生まれるのがジャズの戦い方。

それってつまりチーム戦術を使いこなす個人戦術をもっているということです。逆に言えばゴベアーって個人戦術が足りない選手でした。

パスを貰ってダンクする

というのは(このレベルならば)簡単な話ですが、小さなガードでも後ろからブロックに飛んでくるのがNBAの世界。警戒しにくいフェイバーズの合わせ方と違って、止められないくらい高いけど警戒はしやすいゴベアーは、時にパスを貰ってもリングへ向くのに一瞬の時間が必要になり、遅くなった分だけヘルプに囲まれてしまうってことが多くあります。

ディフェンス面ではチームの中で生きているけど、オフェンスに関してゴベアーに抱いていたのは「完璧なチームオフェンスのパターンなのに、最後の一手に時間がかけてしまう」困った存在って事でした。

「パスが来る」→「リングに正対する」→「ダンクする」

という流れですが、個人戦術に優れた選手はボールの位置とディフェンスの位置を考慮し、真ん中の作業が必要のない状態でポジショニングします。あるいはフェイバーズのようにタイミングよく飛び込んできます。
しかし、ゴベアーはどうしてもキャッチしてからシュート体勢に入ることが多くあり、その一瞬の遅れでチームオフェンスの威力をそいでいました。

◉大きく改善した今シーズン

しかし、これらの話は昨シーズンまでの話。今シーズンはこれが大きく改善している印象があるのでした。タイミングの良い合わせってのはありませんが、パスの出し手とディフェンスの位置を判断し、正しい体の向きと足の運びでパスを受けるので、直接リングに押し込むシーンが増えました。

〇シュートまでのドリブル数
0ドリブル 5.8→7.4
1ドリブル 0.9→0.8

1ドリブルしてのシュート数は大きく変化していないものの、ドリブルなしでシュートに行くことは大きく増えました。1ドリブルってフックとかもあるしね。
この数字は得点を伸ばしたゴベアーですが、その増やし方が味方との連携がスムーズになったということを示しています。よりシュートに直結するポジショニングが出来るようになってきたのです。

〇パスを貰った回数
31.8→29.8

〇パスを受けて打ったシュート数
7.8→8.2

そしてパス貰った回数は減ったのに、パスを受けてから打ったシュートの本数が増えています。その差は微妙だし、得点シーンは一見同じように映るのですが、昨シーズンよりも明らかな改善をしているのです。
今シーズンのゴベアーは良いプレーが増えたというよりも、悪いプレーが、もとい「悪いポジショニング・悪いボールの受け方」が減りました。だから得点が向上し、試合終盤でもコートに立ち続けています。

またそんな細かい体の向きの調整や足運びを向上させたことは、ボールを貰ってから小さいステップでシュートに結びつけることも出来るようになりました。
「ボールを貰ってからの無駄な動きが減った」と表現しても良いかもしれません。地味にターンオーバーも減ったし。

ちなみにゴベアーの昨シーズンは56試合。今シーズンは既に60試合を超えています。健康ってのも大切だね。いつものエリア別シュートを比べると

〇昨シーズン
ゴール下 372本 70%
ペイント内 57本 18%
ミドル 15本 33%

〇今シーズン
ゴール下 473本 69%
ペイント内 56本 32% 
ミドル 6本 0%

少しだけ自分の役割に忠実になりました。少しって言えるのかな。まぁゴール下の本数を100本増やしたけど、それよりも遠いシュートは逆に減らしたわけです。

昨シーズンのゴベアーはハイポスト周辺でボールを貰って何するか、どうするか、迷っているシーンが結構ありましたが、今シーズンは迷わなくなりました。迷わないっていうか、ハンドオフとスクリーンからのダイブしかないんだ。
これもまた個人戦術が向上した部分で「何をするか迷う」と言いつつもジャズなんだから、何するかは決まっていたのに試合の中で適切に実行できていなかったわけです。それが実行できるようになった。

あと、ハイポストでのプレーが整理されたことでアシストも増えたんだ。どこに誰がいて、自分が何をすべきなのかの判断が早くなったぜゴベアー。
たまに振り向きざまにコーナーから飛び込んできたフェイバーズへのアシストっていうプレーは秀逸。映像はみつからなかったけど、とりあえずここまでの要素を振り返りながらハイライトを観てください。

◉ダンクを増やすには

〇アリウープ
38本 → 100本

ここまでの全てを表しているのが、この数字。いくら何でも増えすぎだろうというアリウープの数。1試合に1本じゃ少ない方ってことだ。

〇ダンク
161本 → 244本

ダンクを増やすにはどうすればよいのか。それは結構な難しさがありますが、ゴベアーのプレーをみれば答えが出てきます。

味方のパスをシンプルにシュートに結び付ける

この能力は現代のビッグマンに要求されている能力です。もしくは3P決めろよってね。ストレッチするシュート力がないゴベアーですが、インサイドでの強さを増してきました。

そこにあるのは1on1が強くなったことでも、鮮やかなスピンムーブが身についたことでも、多彩なシュートスキルを手に入れたことでもありません。

適切なポジショニングから少ない動きでシュートに行く

これが出来るビッグマンは怖いんだ。
そしてこれを求めるチームは強いんだ。

ルディ・ゴベアーは進化した。それはちょっと見えにくい部分での大きな成長なのでした。

アリウープするゴベアー” への2件のフィードバック

  1. はじめまして。NBA初心者です。
    選手にフォーカスしたテーマで大変興味深かったです。データをもとにNBA全体のトレンドから選手の時系列の変化について記載されていたところがとても印象的でした。
    ファンによるチームや選手の応援ブログも面白いですが、このような切り口での選手紹介も面白いと思います。また、データの記載は最低限ですが、解説がとても面白く大変勉強になりました。今後も期待しています。

    1. 元々はチーム単位の記事が多かったのですが、単純に記事が長いのと、調べるのに時間がかかるってのもあり、それでいて選手ベースの方が読みやすいのでスタイルチェンジしてみました。この方が多くの記事を書けますし。

      ブログを書こうと思ったときに、応援ブログやニュースブログはあるけど、こんな感じのブログはないのでオリジナリティを求めて始めました。最近はユーチューブで似たような感じのが増えてきましたが、意外と文章の方が面白い部分もあるかと。

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