U19雑感 日本代表

U19日本の感想です。大会全般として接戦が多く、アンダー世代ならではの拙さがある中で、日本は悪くないシュート確率で十分に戦えました。
この世代は強い、これから期待出来るぞ。という考え方は同時にここからどうして行くのかも考えどころです。サッカー黄金世代はユースで準優勝しましたが、W杯ではグループリーグ抜けるのがやっとです。その時優勝したスペインはシャビを中心にフル代表の強化に繋がった上で次の世代に流れが引き継がれ世界を制しています。
タレントを育てるぞ、だけでなくスペインとは何ぞや、みたいな流れだったわけで。この大会の日本は八村がいた事だけでなく日本とは何ぞやみたいな部分を見せてくれています。それを次の世代に繋げていく事が大切です。



アジア予選と比較してみる。
アジア予選では出場時間順に伊藤領、西田、三上、増田、三森、杉本、シェーファーが中心で杉本、西田、増田が平均二桁得点をとって準優勝しました。本大会では中心だった伊藤と三森がケガ等で抜け、八村、重富、榎本が加わりました。
八村の存在は大きいですが、八村抜きでもアジア予選を突破出来るチームだった事は忘れてはいけません。得点面に関してはしっかりと得点出来ていたメンバーに八村と榎本が加わった形でした。二桁取れたのは八村と西田だけですが、増田9.3点、杉本8.3点なので八村がいなければ二桁取っていたでしょう。



韓国戦で見えてくるもの
前回触れましたが韓国との試合は、それまでの健闘から楽に勝てるか注目していましたが、4Q開始時には11点のビハインドがありました。それを4Qだけで30ー6と圧倒して勝ちました。
この4Qのメンバーは八村、西田、杉本、シェーファー、水野の5人でした。おそらくこのユニットが今大会のメンバーで最も強いユニットです。インサイドは待望の同時起用で韓国は手も足も出なくなりました。日本がリバウンドを取られるたびに「八村とシェーファーを同時に使え」と呟いた人は多かったでしょう。アウトサイドの3人はどこからでもシュートを狙え、ドライブで攻め立てる事も出来ます。隙のない布陣と言えるでしょう。特に重富のシュートには溜息をもらした人も多いはず。3Pを決めた水野とは攻撃力にもフィジカルにも差があります。
しかし、最強の布陣が最適の布陣とは限りません。世界でどう戦うのか、という点で最適のユニットにしたのがスターターの5人+杉本だったと思います。



重富は水野のようなフィジカルも得点力もありませんが、安定したボール運びと広い範囲をカバーするアジリティがあります。
例えばリバウンドの場面で重富には何も期待出来ませんが、そもそもそれが水野になった所でボールが落ちてくる回数は限られますし、体格の良いカナダやイタリアのガードとの取り合いに勝てるわけでもありません。
それよりも、八村やシェーファーがいるのでゴール下は任せられるため、より広い範囲のこぼれ球を取りに行ける重富の方が適した配置です。ルーズボールの場面で遠い位置から飛び込んでくる重富の姿は多く見る事が出来ました。
同じ事は増田にもいえます。ゴール下のリバウンド争いには勝てなくても早めのヘルプやカウンターの速攻、ルーズボールへの反応はシェーファーより上です。
世界で戦うに当たってリバウンドでの多少の不利は計算にいれつつ、それ以外の部分で上回る事を視野に入れていたはずです。
水野はそれまでほとんど出番がなかったのですが、韓国戦の11分でチャンスを掴みエジプト、プエルトリコ戦でもプレータイムを得ました。活躍した事もさることながら、この3チーム相手だと「それ以外の部分」ではなく純粋に相手のガードとの戦いを制する事が出来そうだった事も関係していると思います。
つまり同レベルの相手なら最強の布陣が活き、格上なら最適な布陣が活きます。この先は最適で最強な布陣を作っていく事が求められます。



オフェンスの役割
そんなわけで最適ユニットとして、八村、西田のエースに三上、重富、増田が合わされていたようなスターターでした。杉本でなく三上なのはよりスポットシューターである事と、ベンチから杉本の得点力を確保したかったのだと思います。
オフェンスの中心は西田と八村ですが、ここでも世界を考えた時に増田と重富の役割は大きかったです。ディフェンスを目の前にしたら増田は弱いですが、それは西田と八村の役割です。増田は空いたスペースに移動し自分のマークを引きつけます。引きつけられない時はフリーなのでコートのどこからでもシュートを打ちます。重富はそんな増田を見逃さずパスを通し、そしてフロアバランスを保つためにこちらもコートの中を動き回ります。
5人の誰からでも仕掛けられれば強いですが、ボールは1つです。だからボールハンドラーは西田に、ピックは八村に任せて他の仕事が出来る選手で構成し、ディフェンスが集中するのを防いでいます。こういう動きは頭で理解していてもコートで表現するのは簡単ではありません。ベンチには増田の代役がいませんでした。
ましてやフィジカルや高さで劣る事が想定される大会。オフボールのアジリティと運動量で勝負を挑んだ図式は正しかったと思います。やっぱりサッカーと同じです。
でも、そんな選手達は日本を良く知っている韓国からすると八村と西田を外して攻めれば良いというのがバレバレでした。同時にそれは韓国は5人どこからでも攻めるよスタイルなわけで、故に大敗する事がありました。
日本も最強ユニットばかりで戦ったら危なかったと思います。ちなみに5人どこからでもスタイルのチームの方が珍しいです。



八村
そんな世界仕様のユニットが組めたのはエースとして八村と西田(と杉本)がいたからです。
この大会でも得点ランク2位と活躍した八村。大体強い国はプレータイム短いので個人で得点ランク上位にくる選手はいないのですが、カナダが全般的に苦戦した事でバレットの出場時間が長かった事が響きました。まぁ個人でアメリカを粉砕した17歳ですからね。
八村のストロングポイントはジャンプシュートにあります。高さを活かして綺麗なシュート打ちます。国際ルールだと個人に得点が集中し難いけど、ジャンプシュートがある上でゴール下での得点もあるので毎試合安定して稼げます。
アウトサイドでプレーしながら空いた裏のスペースへアリウープという流れは、八村なしの日本では発生しないので、いるだけでディフェンスへのプレッシャーになります。
そんな八村ですが、相手が弱いほど存在感がなくなります。多分それは八村を経由しなくても攻めきれるからだと思います。韓国戦は渡さな過ぎて停滞しましたが。



相手が強くなっても個人で勝負できる八村は貴重な存在ですが、強い相手と対戦した時にセンターで出ている、つまり日本が小さい事がメリットにもなっていました。マッチアップしてくるのは相手のセンターで、外からのドライブに慣れていませんでした。
いわゆるNBAのスモールラインナップと同じです。外からドライブする八村と動き回る増田のコンビは普通のPFとCではついていく事が出来ません。さすがに国際大会でスモールラインナップ合わせをしてくるチームはありませんでした。ゾーンすれば良いしね。
一方で時折スイッチしてFWが八村とマッチアップするとほぼ抜けなくなります。意外とポストアップが上手くない事もあり、センターである事と増田とのコンビは重要でした。
シェーファーと同時起用だとより外まで守れる選手が八村にマッチアップしてしまいます。
そんな事もあり大会の前半では八村は早めにボールをもらって1on1をしたがりましたが、それはチームオフェンスには合っていませんでした。まぁゴンザガがファイナルまで行った事もあり合宿にもなかなか参加出来なかったから仕方ないのかもしれません。
トップから仕掛けるのが好きな点もプレーエリアに課題が出るので、もっとウイングからの仕掛けを学ぶ必要があるかもしれません。



西田(と杉本)
もう1人のエースは西田でしたが、その影響力は絶大でした。日本の平均得失点差は−14.3でしたが個人のプレータイムのみでみると西田は圧巻の+6.3です。他にプラスなのはプレータイムの短い水野(韓国戦の大量リードが響いている)と八村(+1.7)だけなので、試合の大半に出ている選手でありながらプラスは、日本が健闘した最大の要因でした。
ちなみに韓国戦の+27が平均を引き上げてもいますが、西田個人はマイナスを記録したのはカナダ戦だけでそのカナダ戦も3Qまでは+2でした。その時点でチームは26点負けていましたが。
つまり西田が出ていれば日本は負けませんでした。



そんな西田がいると何が違ったのでしょうか。確かに得点はあげ3Pも35%決めていました。なお、西田は試合1発目の3Pを超高確率で決めています。シュートを警戒させてドライブを使うパターンです。
速さも高さもない西田のドライブが何故有効的だったのか。それはとにかく常に何をするのかわからない体勢でドライブします。ヘジテーションしながら相手のタイミングをずらし、ギャップをつき、プレーを絞らせない。
そんな西田にディフェンスは注目せざるを得なくなります。その間に他の4人がマークをずらしていきます。西田のアシストが少なかった事は残念でしたが、相手を引きつけスペースを作り、味方に時間を与えるプレーは1つひとつが効いていました。
やっている事はほぼPGです。シューターでもあるためSG的でしたが、PGとして使いたい逸材です。
ベンチから出てくる杉本も役割は西田に似ていますが、より直線的にリングにアタックするため相手も強くブロックにきます。
西田のプレーは相手に強くプレーさせない絶妙なバランスでした。
杉本も三上もシューターとして怪物高校生でしたが、杉本はフィジカルに優れた選手になっていて驚きました。残念なのはフィジカル負けしていないけど、シュートは落ちていた事です。まぁおそらくチーム戦術の中でドライブしていたのだと思いますが高校時代を思い返すとロング3Pをもっと打っても良かったかなと。西田はたまに打っていてそれがディフェンスを広げる事に繋がっていたと思います。



困った時は西田と八村のピックプレーがメインになります。ピックを使う事でギャップを生じさせ、そのギャップを有効利用する西田でしたが、いまいち八村はピック&ロールが上手くありません。
もっと酷かったのはディフェンスのピック&ロールへの対応で、スペインやイタリアは徹底して八村を狙ってきました。八村引き出しておいてゴール下にアタックする作戦です。
チームの約束事の部分もあるので一概には言えませんが、これがしっかり対応出来れば結果も変わってきた気もします。
オフェンスでもシュート力のある八村なのでポップしてマークずれたところからシュートなりドライブなりは有効だと思うのですが、必ず一呼吸入ってしまいます。
ゴンザガで試合に出れていないのが響いている気もしました。



余計な話ですが、ピックプレーがイマイチなのもそうですが1on1もトップからやりたがるのが八村です。そうなるとゴンザガという選択肢はどうだったのかなぁと思います。NCAAトーナメントに出るチームにいるのは良い経験でしょうが、アメリカでもU19で20点とれる選手がゴロゴロいるわけではないので、もう少し下の大学を選びエースクラスの扱いを求めた方が合っている気がしました。
ゴンザガの9番目の男よりもチームのエースの方がキャラにあっています。
その方が日本代表にとっても有益でしょう。世界各国にNBAプレーヤーがいてもナショナルチームでエースとは限りません。ガソル兄弟ですらスペインではナバーロやルディ・フェルナンデスがスコアラーだし(元NBAプレーヤーだけど)
八村本人にどちらが良いかはわかりません。



ちょっと話がそれたのでロイブルHCについて書きます。今回の采配について部分部分で批判的な意見もあると思いますが、この人は基本的には育成コーチなのでチームをここまで持ってきた時点で賞賛に値します。
前述の通り、世界大会へ向けてチームを最適化し、それに見合った個人能力の習得を時間をかけて指導してきた実績はないものにも代え難いです。たまにエンデバー用の指導シーンをみますが非常に興味深い内容ばかりです。それが実際のエンデバーをみると興味が薄れるのですが。
この世代のHCではなく若手育成全般をみているので次の世代に引き継いでいかれると思います。



ただ、このU19でラッキーだったのは八村、シェーファー、三上、増田と中心選手が早生まれで大学フルシーズンを経験している事です。(シェーファーはプレップ)
本来U19は大学を1年経験したメンバーが中心で、実際にアメリカの有望株はドラフト指名されたので1位のフルツをはじめ、多くの選手が出場していないくらいです。
日本の学制上は高校卒業直後の選手がメインになってしまうので経験値に差があります。
日本で活躍した西田と杉本は大学に入学したばかりですが、直前のトーナメント、新人戦で厳しい戦いを経験してきました。
高校バスケは走るばかりで、大学との最大の違いはフィジカルにあります。アメリカや欧州だけでなく国内でも大学バスケを経験しているかどうかで大きく経験値が異なってくるはずです。
三上の中央は2部だし、水野の法政は3部なので単に欧州はプロでアメリカの大学はレベル高くて、というだけでなく国内だけみても今後の成長に不安な面はあります。



そんなわけでまとめると、世界でどうやって戦うのかが非常に意識されたチーム作りで、次の世代に如何するのかも示されたと思います。その中で八村やシェーファーのようなサイズがある選手がいれば世界と戦えるとも言えます。それは同時に世界ってアメリカや欧州だけじゃないよ、ということでもあります。
アメリカ的な上手さを求めるのではなく、チームとしての強さを個人能力の向上にまでリンクさせられるかが今後の課題になるでしょう。

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