開幕直前に引退宣言するなんて、なかなか迷惑な発表をしてくれたイグダラ先生。いつの間にか「先生」とつけたくなったのは、華麗なる転身を遂げながら、同時に現代バスケにおける新しい概念を作ってくれたからです。イグダラが道を示さなければ、バスケはこんな方向に進化しなかったかもしれないし、ウォリアーズは王朝を築けなかったかもしれない。
3年目のシーズンには18.8点、5.7リバウンド、5.7アシストとオールラウンダーとして結果を出していたイグダラは、オールスタープレイヤーへと成長しただけでなく、2010年のワールドカップ、2012年のオリンピックとアメリカ代表として金メダルを獲得しています。
そんなスーパースターがキャリア後半をスーパーロールプレイヤーに転身したのだから驚き。ビンス・カーターのようにディフェンスと3Pという仕事にフォーカスしていった形も新しかったですが、イグダラの場合はスコアリングの仕事を捨てて
ポイントフォワードという仕事に徹したオフェンス
これは仕事そのものを変更しているので驚くべき変貌でした。もちろん、元々がオールラウンダーなのでアシスト仕事もしていたわけですが、エースとして突破してからアシストするのと、完全なるゲームコントローラーとしてパスを捌く役割を繰り返すのは意味が違います。PGになったウイングエースといっても過言ではない。
それは同時にスプラッシュブラザーズという稀代のシューターコンビを、何よりガードコンビをエースとするには、ドレイモンド・グリーンと共に欠かせない役割でした。ガードが点を取る仕事にフォーカスするために、従来のガード仕事をウイングが受け持った形。
ポイントフォワードそのものはグラント・ヒルから始まった言葉だった気がしますが「エースではないポイントフォワード」はガードの得点力中心になっている現代バスケそのものです。同時にイグダラの存在は
センターを使わないスモールラインナップを一般化
これも重要なポイントでした。センターを使わない形は過去にもあったものの、少なくともPFは使っていたというかインサイド仕事担当はいたし、スモールで優勝してきたチームもありました。これに対してイグダラとウォリアーズはインサイド仕事担当すらも設置しないスモールラインナップを戦術として完成させました。
今ではスモールを逆手に取ったビッグラインナップもあちこちで見られますが、そこには「ガード仕事ができるウイング(センター)」が必要なわけで、そこにイグダラはいなかったけど、やっぱりイグダラ的な選手が増えたことが関係しています。
ポジションの概念が消え失せた現代バスケ。スコアリングエースではなくなった代わりに、全てのポジションを担当していたイグダラ先生が起こした戦術革命だったのかもしれません。
ただし、先駆者イグダラが特別だったのは「元エース」として、いざとなれば得点仕事をできたことにもあります。2015年のNBAファイナルでレブロンを抑えるディフェンダーとして、そしてシリーズを決める25点でファイナルMVPとなったことは、記録の面でもイグダラの偉大さを残すものになりました。イグダラが作った道に続く選手は出てくるでしょうが、エースでもなければスターターでもないはずのディフェンダーがファイナルMVPを取る日が来るとは思えないのでした。
戦術理解能力の高い歴代ウイングの優秀なディフェンダーの比較見てみたいです。
イギーの他に、歴代だとバティエ、プリンス、現代だとサイブル、マクダニエルズとかのタイプが違う選手が思い浮かぶのですが、分析の視点がほしいなぁと。
視点がずれますが、現役プレイヤーで確率の高い2より、ある程度の確率の3の方が効率的というのを言っていたのは、自分の認識だとバティエが最初なんですが、このあたりの、3&Dの認識の推移も知りたいなと。