さようならペリカンズ’22

激動のシーズンを過ごしたペリカンズ。ジェットコースターのような展開でしたが、ホームで迎えたプレーオフ・ゲーム6は敗戦が決定的となったころにファンはスタンディングオベーションでチームを讃え、HCウィリー・グリーンは涙を流しました。「終わりよければ全て良し」とはいうけれど、「終わり」の始まりを迎えるまでには多くの悩みがありました。

◎ザイオン問題

開幕前にケガで出遅れることになったザイオンは、姿を見せるたびに順調に体重を増やしていき、さらにナイキ本社のあるポートランドでリハビリを続けていたことで、トレード要求しているようにしか見えませんでした。チームが好調になった後で、最終的に合流はしたものの、まさかまさかのシーズン全休でした。

これで3年間で85試合しか出場していません。ちなみにルーキーのハーブ・ジョーンズは1年間で78試合+プレーイン2試合+プレーオフ6試合の合計86試合に出場しています。

言うまでもなくペリカンズはザイオンとイングラム中心に設計されたチームです。そこにザイオンがいないのだから新HCウィリー・グリーンもチーム作りに大いに困りました。

例えばアダムスとバランチューナスを交換しましたが、この目的の1つはアウトサイドがないアダムスよりも、外からも打てるバランチューナスの方がザイオンのためにスペースを作れるという狙いだったはずです。かといってシュート力を重視しすぎるとサイズのないザイオンの問題が広がってしまうので、ちょうど良かったのがバランチューナスだったわけだ。似たようなタイプですが、外のシュート力が皆無のアダムスよりはチームというか、ザイオンに適したセンターということです。

他にもグラハムとサトランスキーを獲得しており、ガードにはアウトサイドの得点力を重視しました。ロンゾとブレッドソーが3Pばかりだった昨シーズンも踏まえて継続路線にしたわけで、総じてザイオンのためにロスターを構成しており、そのザイオンがいないことは致命的だったと言えます。

ところが、ザイオンがいないことでチームは良い方向に進むことになりました。なんとも不思議なシーズンでした。3年目が終わったザイオンはオフに契約延長の権利が出てきたので、当然スーパーマックスを要求するでしょうが、3年で1シーズン分もプレーしていない選手なのだからディスカウントするべきでしょう。ここでマックス契約を交わすと、補強の可能性が減るのでトレード放出も含めて検討しないとね。

◎PGグラハム

開幕から1勝12敗と負けまくるペリカンズ。最終的に36勝46敗なので、14試合目以降は35勝34敗と勝ち越したわけだ。それもスゴイ話ですね。開幕の躓きがシーズン通して響いたとも言えます。

この時期のペリカンズは酷いものでした。チームとして何も成立しておらず、その場で判断したような好き勝手なプレーをしている選手ばかり。ザイオンがいないので、特にガードのプレー構築が重要になりましたが、NAWやカイラ・ルイスからはチームに何をさせたいのか意図も見えず、適当なオフェンスでした。

ただ、グラハムがコートにいるとチームオフェンスに落ち着きが生まれ、明確な意図を持った起点役としてドライブのスペースを作りイングラムに仕掛けさせる形と、そのイングラムを囮にしてバランチューナスを活用したプレー構築というバランスが出来ました。チームの中にある武器を上手く使い分けてくれました。

そのため「グラハムさえコートに入ればオフェンスが劇的に向上する」状況になっています。

〇初めの13試合のオフェンスレーティング
グラハム
オンコート 111.3
オフコート  80.4

グラハムはバランチューナスに次ぐプレータイムでしたが、コートにいれば平均以上のオフェンスになり、いなければ歴史的にヤバいレベルのチームになっていました。スモールサンプルと言っても異常なレベルでした。

グラハム自身が決めた部分もありますが、FG%の低い選手なので個人技で違いを作ったわけではありません。点を取るのはイングラムとバランチューナスが中心だったので、あくまでもPGとしてのオフェンス構築能力の問題です。当時はチームとして大きな問題を抱えていたので「グラハムがすごい」くらいで済ませていましたが、こうやってシーズンが終わってから考えると違う問題にも見えてきます。

チームオフェンスの構築能力に大きな欠陥があった

シーズン終盤はマカラム加入でノーPGとなり、ディフェンス問題が付きまとうグラハムは(マカラムとのコンビ問題もあって)プレータイムを大きく減らしましたが、基本ラインとして「オフェンスを構築できたのはグラハムだけ」だから「いっそのことPG抜きで戦おう」へと動いていった雰囲気もあります。

シャレにならないほど、控えPGの能力が低かったこととチーム全体の戦術力不足で、オフェンスのチームであることに限界が生まれてしまいました。グラハムは悪くないのに、グラハムの苦手な方向性へとチームは進むことになったのでした。

◎ユニット構成

ペリカンズはPFザイオンが抜けている事情もありましたが、ガードが多かったこともあり、基本的な構成は以下の通りです。()は12月までの平均プレータイムです。

【ガード】
グラハム(31)
NAW(28)
サトランスキー(15)
カイラ・ルイス(14)

【ウイング】
イングラム(35)
ハート(32)
ハーブ(28)
テンプル(19)

【センター】
バランチューナス(32)
エルナンゴメス(15)

カイラ・ルイスが14分ですが、リストにない選手はそれ以下です。つまりヘイズやマーフィーはローテ外でした。この頃のユニット構成の基本は極めて普通で
ビッグマン1人
ガード2人
ウイング2人

なのでイングラム含めて3ハンドラー体制になっており、意図のない個人アタック中心だったともいえます。なんとなくパスをして、そこそこスペースのあるインサイドに個人技でドライブしていく。ハートのオールマイティー感だけが救いだった頃もあったね。

ドラフトはガード指名が多かったし、昨シーズンまではロンゾとブレッドソーもいたわけで、ハンドラーの有能性で勝負するのは継続的路線でした。ザイオンまでハンドラーにした昨シーズンは渋滞していたけど、それでもリーグ屈指のオフェンスチームだったね。かわりにシューター以外はしなかったようなロンゾとブレッドソーでもあったか。

しかし、勝てなかったこともあり、都合よくマカラム獲得に動けたことで、チームはユニット構成を劇的に変えていきました。プレーオフで同じように並べてみましょう。

【ガード】
マカラム(39)
アルバラド(20)

【ウイング】
イングラム(39)
ハーブ(38)
マーフィー(20)

【センター】
バランチューナス(29)
ナンス(22)
ヘイズ(15)

ガードはマカラムの控えとしてグラハムを起用しましたが、当然プレータイムは短くなりました。アルバラドについてはマカラムと並べての起用なのですが、それはビッグマンを2人並べるか、ガードを増やすかというチョイスの違いでもありました。そしてウイングは常時2名体制へと変更され、サイズアップとともにドライブ担当が減りました。

1ガード、2ウイング、2ビッグがメインに変更されています。3ハンドラー体制から劇的に変えてきたわけです。ドライブのチームじゃなくなった。

それだけでなくアルバラド、マーフィー、ヘイズの出番が増え、シーズン前半に使っていなかった選手だらけになってもいます。イングラム、ハーブ、バランチューナスの3人以外はシーズン前半と終盤でまるっきり違う起用法になりました。単に「マカラムを獲得したからユニットを変えた」以上の変化が起きたわけです。

ザイオンがいないからインサイドのスペースを重視しない
オフェンスよりもディフェンス中心の起用法

あまりにもスタイルを変えたのでビックリ。トレード当初は「オフェンスに全振りした」と思われたマカラムの獲得でしたが、むしろ「オフェンスはマカラム&イングラムに任せてディフェンス優先ね」という空気感です。ある意味で可哀そうなグラハムですが、原因はザイオンにあるだろうなー。

シーズン前は「ザイオン中心のオフェンス」を考えていたのが、シーズン中に方針転換し「ディフェンス中心で戦おう!出場しないザイオンは知らん」になった様子です。なのでGMよりもHCが強引に変えた匂いもするね。いずれにしても、単にマカラムを獲得した事ではなく、この方針転換がチームを大きく変えたのでした。

◎ハーブとマーフィー

ディフェンススタイルへの変更は単なる変更ではなく、それに見合う選手が手元にいたということです。いうまでもなくハーブ・ジョーンズの躍進はペリカンズの根底を変えました。ハーブについては今更書く必要もないし、オフの楽しみですね。

https://basket-count.com/article/detail/105335

ガードにはアルバラドが台頭してきましたが、ここについては完全な計算外のはず。計算外というか、局所的に活躍はしても、オフェンス面での問題が大きくて使いにくい選手だったのですが、プレーインから大当たりなので最終的には強烈なインパクトを残しました。

ただアルバラドを使いやすくなったのは、ハーブを筆頭としてウインガーがグングンと伸びてオフェンスの課題をカバーしてくれたことが大きかったです。単に守れるだけでなく、スティールも多く、トランジションが増えたので「ハーフコートのグラハムよりも、ハッスルプレーのアルバラドで走るのが成功した」とも言えます。

〇速攻
オールスター前 13.2
オールスター後 17.0

〇スティール
オールスター前  7.5
オールスター後 10.3

スティール数はリーグトップのグリズリーズが9.8で、2位のラプターズが9.0なので、オールスター以降のペリカンズはリーグ最高クラスのスティールを記録したことになります。グラハムとアルバラドでは、まだまだグラハムの方が総合的に上の選手ですが、チームスタイルの変更から重要な要素が変わったわけです。

ゲームメイク能力がないチームだから、ディフェンスからの速攻を武器に変えた

今ではグラハムのプレーメイク能力よりもアルバラドのスティール力の方が大切になってきたわけです。グラハムが不運なのか、アルバラドがラッキーなのか。そしてザイオン復帰したらアルバラドよりもグラハムの方が良さそうな気もします。

ハーブもアルバラドも元々はディフェンス主体の選手です。それがチームスタイルの変更に伴って重要性が増してきたわけですがが、そこまでだとチームとしては微妙なものがありました。ペリカンズをプレーオフチームへと完成させたラストピースになったのは、シーズン終盤に急激な成長を見せたルーキーのトレイ・マーフィー三世でした。

バージニア大学で3年間を過ごしたマーフィーは上級生の3&Dタイプというドラフト候補でした。SFとPF扱いですが、上級生の割にはシーズン前半には起用されなかったし、そもそも35位のハーブが完全に主力になったのに、17位指名が置いてかれてしまったわけだ。それがシーズン終盤からプレーオフにかけて、ベンチのファーストチョイスへと変わっていきました。大きな成長を見せたわけです。

ディフェンス力が評価されていたといっても、ハーブやアルバラドと違ってマーフィーは目立ったスタッツは残していません。3Pの確率が良かったくらいかな。スティールも多くないし、DIFFも劇的にチームを変えるようなものではなかった。

しかし、アグレッシブに取りに行く選手がいる中で、ウイングとして運動量と堅実なカバーも含めた総合的なディフェンスは、地味に、実に地味にチームの力になりました。ヘイズがスターターになっていたように、本来はビッグマンを使う事でディフェンス強化を狙ったペリカンズでしたが、最終的にはマーフィーとナンスを並べた動けるインサイドの方が強烈になった印象すらあります。

ウイングとしてチェイスしてペイント内のハードワークでも奮闘するマーフィーの台頭は、「ディフェンスのチームなのにバランチューナスを含めたツービッグで終盤勝負」という矛盾を解消してくれました。今回は対戦しなかったですがウォリアーズなんかとのカードであれば、マーフィーの価値はより高まっていたでしょう。

〇プレーインのクリッパーズ戦
プレータイムとディフェンスレーティング
ナンス   24分 91
マーフィー 24分 86

実際にスモール戦略のクリッパーズが相手だと、この2人によってディフェンスが劇的に改善した形です。マーフィーがベンチに座っている時間は126だったので、この選手の台頭がプレーオフへとつながったと言っても過言ではありません。

ディフェンスのチームに柔軟性をもたらしたマーフィー

なんだかんだと最後は弱点のインサイドを使われる(引き出される)リスクがあって、マカラム&イングラムのオフェンス勝負にみえていたペリカンズですが、そんな弱点すらも消してしまいました。出来すぎですが、しっかりと理由のある出来すぎです。

またマーフィーの意味はオフェンス面でも大きかったです。基本的にコーナーの3P担当なわけですが、チームがマカラム&イングラムに任せる姿勢が強まり、そこに3人目のバランチューナスが関わってくるため、コーナー待機の3Pとコーナーからのドライブやカットプレーで貢献できるタイプが重要になりました。

ハンドラーのアタック勝負から、エースを引き立てられるサポートキャストのハードワーク勝負へと変化していった中で、マーフィーの良さが際立つようになってきたわけだ。やっぱりザイオンは不要じゃね?今年の1位指名権とトレードしようよ。もしくはジェイレン・グリーンと。

ペリカンズのベンチにはスネルやテンプルがいたのですが、最終的にこの2人よりも優先されることになったマーフィー。マーシャルよりもマーフィー。優秀なディフェンス力をもった上級生の獲得が勝利への近道という最近の流行系を見事に体現したのでした。シーズン前半から使いたかったね。

◎師匠と弟子シリーズ

迎えたプレーオフのファーストラウンドは、HCウィリー・グリーンが昨シーズンまでACをしていたサンズが相手でした。そして

シーズン前半に皆無だった「サンズっぽさ」があったプレーオフのペリカンズ

こんな印象が強いシリーズとなりました。途中までサンズっぽさなんて皆無だったし「ウィリー・グリーンとは何ぞや?」だったのに、最終的には「サンズからウィリー・グリーンを連れてきて正解」になってしまった。そしてサンズと対戦するなんて、出来すぎたストーリーです。

ハンドラー2人がオフェンスを構築し、ウイングのディフェンス力で相手の良さを消していく。
止まらないブッカーとイングラムのミドルレンジ
スティールとトランジションでリードを生み出すミカルとハーブ
ベテランのチームリーダーとなるクリス・ポールとマカラム
ゴール下で押し込みハードワークするエイトンとバランチューナス
フィジカルなディフェンスと3Pのクラウダーとマーフィー

それぞれ全てサンズが少しずつ上だった印象もありますが、「師匠と弟子」シリーズっぽくなっていました。似ても似つかぬチームだったサンズとペリカンズが急速に似てきたシーズン後半。象徴的だったのが3Pです。

◎3P
サンズ   8.7/27.2
ペリカンズ 9.3/26.3

ジャズが相手だったマブスが41.8本も打ったのに対して、プレーオフで最も少ないアテンプトになったペリカンズと2番目に少なったサンズ。シーズン最小の28.8本だったブルズよりも少ないっていうね。

ペリカンズ自体も元々少なかったのは事実ですが、昨シーズンの勝ちパターンが3P決まるかどうかが全てに近かったのが、ディフェンス勝負で固くなったことと、堅実な選択肢が増えたことで、ジリジリとした試合展開で戦えるチームになりました。4Qに接戦で負けていた頃が遠い昔だな。同時に試合運びも安定したので、大味な不安定さがなくなり、負けた試合でも「惜しかった」といえるようになったわけです。

なんか単にサンズに似てきただけでなく、サンズが通った成長ルートとも似てきたよね。

ゲーム3ではサンズが3P4本成功で勝つという現代バスケを無視した勝ち方をしましたが、ペリカンズはゲーム4で3P6本成功で勝ちました。3Pの重要性が高まった現代バスケはモンティ路線から大きく塗り替えられようとしています。ディフェンスが強くなったのは、この2年位の強烈な変化でしたが、まさか3Pの重要性を落として来るとはね。

師匠と弟子シリーズだっただけに、来シーズンのペリカンズはサンズのような躍進が期待されています。だからこそ負けてもスタンディングオベーションでファンに讃えられたし、中身の伴ったチーム改革が行われたシーズンとして認識されています。

◎戸惑いのオフ

ザイオンの乱から困って始まったシーズンでしたが、終わってみればザイオンの乱から始まったポジティブな変化となりました。まさかペリカンズがディフェンスのチームになるなんて想像もつかなかったよね。それもマカラムを加えた上でディフェンスのチームなんだぞ。

さて、オフはそのザイオン問題からスタートします。レイカーズの指名権もあるので有望株を連れてくることも可能です。大型補強は出来ませんが、そんな必要もないので、基本的に同じ路線で進むのでしょう。

こんなにも考えなくて良いオフは珍しいわけですが、ザイオンという最大の懸念事項はチームを大きく変えてしまうわけです。ザイオンを主力にするならば、今シーズンのバランスでいいのか考えないといけないし、残さないなら更に大きな変化が待っています。とはいえ、マカラムの年齢とか考えると残すのが既定路線だよね。

はたしてザイオンは大きく変わったチームに合流することが出来るのか。それともチームを混乱させてしまい、来シーズンも変革のシーズンになるのか。

さようならペリカンズ。他に類を見ないほどシーズン中に変化したチームでした。あまりにも大きな路線変更だっただけに、見ている方は戸惑ってしまったよ。

さようならペリカンズ’22” への2件のフィードバック

  1. マーフィーの起用はわりと苦し紛れだったんですが、期待を超えて活躍してくれたなという印象です。
    マークマンを見失ったり、ハーブやアルバラードに比べて反応(読み)が遅かったりまだまだ未熟な面が多いですが、
    サイズとハッスルでリバウンドに運良く絡めたりスリーが決まってくれたのが大きかったです。

    ディフェンスの伸びが出場時間の伸びに繋がってスタッツも残せるようになると思うので非常に楽しみです!
    あとザイオンは本人が良ければジノビリみたく、6thマンとして無双してくれないかな…

    1. マーフィーが起用されるようになったころは、酷かったです。単に人数いない感じでしたね、マカラムもイングラムも欠場していた時かな。

      それが次に見た時に見違えるプレーをしており、プレーオフでは別人でした。
      やっぱり試合に出るって大事ですね。
      ハーブも初めは大したことなかったのですが、終盤はエース格でしたもんね。

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