復活のスパイシーP

パスカル・シアカムは再び羽ばたけるのか

2年続けてオールスターに選ばれなかったシアカム。スターターに選ばれた2020年の時点ではリーグを代表するPFになると思われた若手有望株でしたが、レナード移籍後にチームのファーストオプションとして期待されつつも、低迷が続いていました。

〇今シーズンのシアカム
21.8点
8.7リバウンド
5.2アシスト

特に2月になると25.8点、FG59.7%と大活躍しており、チームも6戦全勝で成績を大きく上げています。シアカムの浮上とラプターズの浮上。それはエースキャラが躍動し始めたということかもしれません。

スパイシーPは復活するのか。それが今回のテーマですが、そもそも「復活」なのか。まずはそこから触れていきましょう。

◎スピンムーバー

最強セカンドユニットとして過ごした17ー18シーズンに才能の片りんを見せ、レナードを補強した18ー19シーズンにスターターに定着したシアカムは、プレイヤー・オブ・ザ・ウィークを獲得する順調なスタートを切りました。

大黒柱ラウリーに、スーパースター・レナードがいて、インサイドにはバランチューナスと強固なスターターが構築される中で、シアカムは強いプレッシャーを受けることなくプレーできたのがブレークの一因だったことは間違いありません。

そして優勝を置き土産にアッサリと移籍したレナードの後を受け、バランチューナスもいない19-20シーズンはオールスターのスターターに選ばれたのとは裏腹に、明らかにプレー効率が悪くなっていました。

〇2P成功率
18-19シーズン 60.2%
19-20シーズン 49.9%
20-21シーズン 50.9%
21-22シーズン 52.5%

シアカムのポジションを考えると2Pが50%を割るのは厳しいものがあります。平均16.9点の18-19シーズンの見事な成績から、20点は超えたものの効率は悪くなっていたわけです。それが今シーズンはだいぶ改善してきた・・・とはいっても、まだまだ当時に比べると低いね。シンプルに言えば

セカンドエースとしては有能だけど、ファーストオプションにはなれない

そんなタイプの選手であり、レナード移籍でマークが強くなり、苦しくなったことは否定できません。ただ、レナードがいなくなった翌シーズンもオールスターのスターターに選ばれるくらいの活躍をしていたわけで、シーズン前半は非常に素晴らしい活躍をしており、そこから失速していたのです。

実は単純にファーストオプションとして物足りない以上の要因がここにはあります。そんなわけで、ちょっと18-19シーズンの活躍ぶりを書いた当時の記事から振り返ってみましょう。

「第4の男」パスカル・シアカム

この時、シアカム最大の武器は動きながら柔らかなシュートを打てることで「スピンムーブの使い手」という書き方をしています。この要素は今でも変わらないのですが、シアカムが通用しなくなっていった最大の要素は、この得意プレーを封じ込められたことにあります。

その点ではシーズン後半に失速してしまった19-20シーズンの中でも、プレーオフセカンドラウンドでジェイレン・ブラウンのディフェンスに完敗してしまったことは、特徴的な事件だったかもしれません。

シンプルに言えば「右ドライブを切る」ことをしたブラウンですが、もちろんそんな単純ではなく、ブラウンのディフェンス力ならばシアカムの得意パターンさえ封じ込めれば、他のプレーは後追いでも守り切れるという構図でした。

それくらい徹底して警戒しないとシアカムのスピンムーブを止めることは難しく、逆にそれ以外のプレーであればシアカムの成功率は低いという課題もありました。

問題はこれらの対策が広まっていったことであり、昨シーズンのシアカムは窮屈なプレーをしていくことになりました。コロナで大量離脱などもあり、決してそれだけが原因ではないものの「シアカム対策」はかなり一般化されており、かつてのような高確率オフェンスにはならないのでした。

止められない必殺技でブレーク
⇒シアカム対策の一般化
⇒プレーパターンの少なさが響く

18-19シーズンからの3年間、シアカムに起きていたのはこの形だったと言えます。レナードがいなくなったファーストオプションだから・・・というのは、言い換えればファーストオプションとしてはプレーパターンが少なすぎるってことかもしれません。

◎ジャンプシュート

豊かなスピードでアタックし、スピンムーブを中心にステップを踏んで動きながらリングに向かい、柔らかなフローターで仕留める。

シアカムの得意パターンはステップを踏まれると対応が難しいため、一番初めのスピードを封じる所が勝負になります。だから対策が進んだと言っても、そう簡単に止められるわけではないのですが、最終的に目指すのは得意とする流れながらのフィニッシュにならないようにすることです。

〇フィンガーロール
18-19シーズン 64.6%
19-20シーズン 70.5%
20-21シーズン 66.7%
21-22シーズン 73.7%

〇レイアップ
18-19シーズン 62.9%
19-20シーズン 57.8%
20-21シーズン 54.3%
21-22シーズン 61.4%

シアカムの得意技であるフィンガーロール系統は4年間ずっと好調です。まぁリングに近いので当たり前ではあるけどね。今シーズンはレイアップ系統も久々に60%に乗っており、動きながらのフィニッシュ精度があがっています。それはディフェンスが対策していても決め切るから・・・ではなく、昨シーズン平均6.0本だったアテンプト数が、5.0本に減っていることも関係しています。

警戒されているパターンのアテンプトを減らし、確率が向上した

要するに昨シーズンなんかはムリヤリにでも、得意パターンに持って行こうとしていたから、少し確率が落ちており、今シーズンはディフェンスの状況に応じた判断で打っているという見方も出来ます。こっちの方が印象が強く、タフショットは減っているよね。

一方でシアカム対策としては「ジャンプシュートを打たせろ」が定番です。右へのドライブを止めて、左に行かせるのも、左ステップからはステップバックしてのジャンプシュートを打ちがちのシアカムだからです。癖というか、右利きなのでディフェンスから離れるようにして打つには後ろに下がることになってしまうわけだ。

このジャンプシュートに関しては、明確にアテンプト数が増えて行っています。ディフェンスの対策が一般化され、どんどんジャンプシュートを打たされるようになっていきました。

〇2Pジャンプシュートアテンプト
18-19シーズン 2.3本
19-20シーズン 4.3本
20-21シーズン 4.5本
21-22シーズン 5.9本

そして今シーズンの2Pジャンプシュートは昨シーズンと比較しても大きく増えています。対策が進み、苦手パターンにハメこまれていたシアカムは、その傾向をさらに強くしている今シーズンなわけだ。

ちなみに2Pジャンプシュートの成功率は43%とやっぱり低いです。低いけど、ためらうことなくジャンプシュートを選択しているって事です。昨シーズンの40%に比べれば改善しているけど、それなら強引にでもレイアップに行った方が確率はいいのかもしれない。とはいえ、シアカム個人で見た時には

苦手なジャンプシュートを積極的に打ち、改善の兆しがみられる

そして好調の2月は6試合とはいえ、2Pジャンプシュートが52%決まっており、その結果としてレイアップのフィニッシュが6.5本まで増えました。ディフェンスからするとシアカム対策をしたけど、シアカムは積極的にジャンプシュートを打ってくるし、それを止めに行ったらドライブが怖くなった、という現象です。

◎ペイントアタック

昨シーズンの序盤にシアカムは3Pを乱打しており、自らのドライブ能力を生かすために外から決めることを重視していました。これは早々に止められたので、3Pアテンプトは4.4本に留まりましたが、今シーズンはさらに減らして3.1本になっています。

〇3Pアテンプト
18-19シーズン 2.7本
19-20シーズン 6.1本
20-21シーズン 4.4本
21-22シーズン 3.1本

現代版エースとしては珍しく、この3年間は3Pを減らしていっています。それでも平均得点は21.8点と落としているわけではなく、アシスト増も含めて、インサイドアタックからのフィニッシュや展開で違いを作る選手へと進化してきました。

ペイント内得点 11.3→12.0

0.7点ではありますがペイント内得点も増えています。ところがゴール下のアテンプトはむしろ減らしており、前述のジャンプシュート増も含めて、ショートレンジからのフィニッシュを増やしている事情があります。

こんな感じですが、数字に直しましょう。5フィート刻みのアテンプト数と成功率を昨シーズンと比較してみます。

〇5フィート以内
昨シーズン 6.6本 59.9%
今シーズン 5.3本 66.2%

〇5-9フィート
昨シーズン 3.2本 40.7%
今シーズン 3.5本 47.6%

〇10-14フィート
昨シーズン 1.3本 42.5%
今シーズン 2.3本 45.3%

最も攻め込むべきゴール下のアテンプトを減らしているのはマイナスポイントである一方で、全ての距離で確率をあげています。特に5ー9フィートのショートレンジを苦手としていたのに今シーズンはしっかりと決めきっているわけで、単なる確率以上にディフェンスは守りにくくなっているはずです。

ディフェンスとの駆け引きをしたシュートセレクトになっている

正直、まだまだではあるものの、シアカムが最も改善しているのはここかもしれません。単純に何かが良くなったのではなく、相手の守り方に応じた対応が出来るようになってきました。ジャンプシュートを打たされるから困り、強引にでもリングにアタックするようなことが減り、シチュエーションに応じた適切なチョイスをしようと進化しています。

「ミドルレンジを攻略しろ」がエースの仕事なんじゃないかという中で、シアカムがやっているのは「点を取る」よりも大事な事なのかもしれません。つまりはファーストオプションの選手としてやるべき仕事に近づいて生きたわけだ。なんかデローザンの匂いがしてきたな。

ゴール下でのアテンプトが減りショートレンジを攻略し始めたシアカムなので、見逃せない別の変化もあります。それはシアカムが駆け引きすることで、空いたスペースへのパスが増えた事。シアカムのパスからチームメイトの2Pアテンプトがわかりやすく増えました。なお3Pは増えていません。

〇シアカムのパスから2P
昨シーズン 5.7本
今シーズン 8.0本

ドライブ担当なのでキックアウトの3Pを生み出すのは昨シーズンも同じですが、今シーズンはよりカットプレーをしてくるチームメイトへの合わせが目立つようになってきました。これがビッグマンへのパスなら、なおよかったのですが、そこはラプターズのチーム事情が関係していて、スコッティ・バーンズやアヌノビーへのパスが多く、特にバーンズは成功率が40を切っているので、必ずしも機能しているわけではありません。

とはいえ、シアカムのペイントアタックは強引にフィニッシュに行くのではなく、ディフェンスの対応に合わせたシュートセレクトと、そこからパスによる展開パターンが増えてきたと言えます。

よりエースに近づいてきたシアカム。この2年間はシアカム対策が進み苦労していったのですが、それを乗り越え始めたここ最近。チームの調子があがってきたのはシアカムの貢献度の高さでもあるだけに、このままプレーオフに向けて効率をあげられるのかどうか。本物なのかどうかが試されます。

オールスターのスターターから2年。ヴァンブリードがオールスターに選ばれる中、下降線を辿っているようで、復活の兆しを見せているスパイシーPでした。

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