オリンピック 決勝 アメリカvs日本

さて、ファイナルです。会場は何故か関係者がいっぱい。関係者が観に来るのはいいんだけど、それであんなに席が埋まっていたら無観客の意味ないじゃん。

予選で相まみえたアメリカなので、お互いに手の内もわかっているといえばわかっている。それがどちらにとって優位に働くのかは、やってみないとわからないし、特に日本の得意技である「ハイペースで試合をしていれば、そのうち相手が疲れる」戦法は40歳スー・バードと39歳ダイアナ・タウラシがスターターに並ぶアメリカなので、ファイナルなら「そもそも疲れているんじゃないか」という希望も出てきます。

しかし、結果から言えば終始アメリカが圧倒する形で終わりました。その割には点差は離れない展開となり、これもまたアメリカからすると日本は嫌な相手だったと思います。本日は全体像を振り返るスタイルです。

◎封じ込まれた特徴

Q.日本で警戒するべきは何か?
フランス:3Pだ
ベルギー:町田だ

オリンピックでベストゲームとなった準決勝のフランス戦。それは3Pにチェックを厳しくしたフランスの守り方が甘すぎて、次々に町田からのパスでインサイドを崩していき、後半になると今度は空いた3Pで仕留めました。

町田については次回「アシスト王・町田」ってことで追記したいのですが、大きく分けて3パターンあって
①ピック&ロールから空いた選手にパスを通す
②オフボールカットにパスを通す
③ドライブからの合わせでフィニッシュさせる

こんな感じです。

「3Pを打たせないぞ」にしてきたフランスは全部やらせてくれました。強いて言えば①だけは警戒していたかな。準々決勝まで日本がインサイドを攻略していることが少なかったこともあって、「町田のパス」ではなく「3Pシューター」を警戒してくれたことで、赤穂の見事なカットプレーが連発され、イージーな展開になりました。

一方で準々決勝のベルギーは「町田を止めろ」でした。パスの起点の方がヤバいので、ここを封じないとマズい。それによって日本はかなり苦労し、かわりに赤穂はドライブ系統で崩していきました。最終的にはベルギーにディフェンスローテのミスがでて、終盤に3P攻勢出来たわけですが「なんで勝ったのかわからない」という感想の通り、日本の良さよりもベルギーの悪さが目立っていました。疲労と緊張と、魔物がいたような。

さて、アメリカです。アメリカはフランス戦を見てからファイナルに来たため、警戒しているものがハッキリしていました。

アメリカ:3Pとカットプレーを止めろ

林や宮沢の3Pが警戒されることはわかっていたけど、それでディフェンスが広がればタイミングを合わせ続けてきたカットプレーで攻略できるはずでした。しかし、とにかく今日の日本はカットが出来なかった。アメリカは徹底してカットも塞いでいました。

どうやって止めているかといえば、ただ単に「マンマークをキッチリしよう」です。はい。それで止めてしまえる個人能力の高さに負けた形だったと言えます。あとフィジカルね

〇赤穂ひまわり
3点
FG1/8
6リバウンド

これまで各国のディフェンスが対策をしてきても上回まわれたのは赤穂が次々とインサイドを攻略してくれたからでした。スペースがあれば無敵な感じで動き回り、様々な角度から飛び込み、ドライブもしていた赤穂。それがこの試合は3P1本のみに終わってしまったのが、ホーバス最大の誤算だったと思います。

「町田からの連携を止めろ」には変わりないのだけど、町田よりもカットしてくる選手を止めてしまうアメリカは恐ろしかった。あんなに連携の良かった日本が、連携もくそもなく「カットプレーをしていない」に閉じ込められてしまったのでした。

最後はブロックショットで止めてはいるものの、これまでの日本のタイミングの良さならブロックそのものに飛べなかったはず。高さでも平面でも止めに来たディフェンスに困ってしまった。

◎ピック&ロール

その一方で「町田を止めろ」ではなく、「マンマークを強めろ」だったことで、1つだけ効果的に決まったのがピック&ロールでした。基本的にマンマークで離したくないからスイッチしまくってくれるアメリカで、オーバーヘルプしてこないので、ずっと1on1が続きました。

特に序盤は高田vsスー・バードが連発されました。つまりは日本のオフェンスはアメリカの個人能力に困ったけど、ちゃんと狙い通りの機能はしていたわけです。ところが何度も同じ形になるのですが、これが守るのも上手いんだ40歳のレジェンド。それはまるで

ビッグマンを守る日本のディフェンダーみたいだったスー・バード

高田     185cm
スー・バード 175cm

いっても10センチの差があるんだから「高さが、高さが」星人からすれば、マッチアップで日本が圧倒的に優位に立てるポイントがありました。高田は3Pは1/4ながら、日本でトップとなる17点を奪いましたが、そこにはアメリカがスイッチ前提の守り方をしていた事情がありました。

局地戦をしやすかったディフェンスに対して、局地戦を挑みたかったんだけど、そう簡単にはパスが通らない。それも小さい選手に守られているのだから、ガードのディフェンス力でアメリカは戦略を完成させてきました。

一方でスイッチさせるのだから「町田vsセンター」も頻繁に作られています。30点を奪ったグライナーとのスピードのミスマッチに対して、町田は効果的に攻めることが出来ませんでした。ドライブしても高さに負けてしまうわけですが、203cmに対してのドライブはさすがに厳しいわ。同時に町田のスピードについていける203cmってのもえぐいわ。

ただ、ここには「町田がプルアップ3Pに積極的ではない」事情も大きく絡んでいました。会場に来ていたアデバヨに比べればペリメーターを守れているわけじゃないし、 グライナー はサイズを生かして距離をとってもブロックできる形で耐えていたくらいでした。

これが町田→本橋の交代で一気に関係性が崩れます。

交代で入ってから3P3連発して本橋。ほぼプルアップで打っていくスコアリングPGは極めて有効でした。特に「高田を止めなければ」というアメリカのガードはスイッチからファイトするのが早いのですが、センターはスイッチがのんびりしている。だから、隙間が空きまくって打ちまくれた本橋

〇本橋
16点
2P2/9
3P4/5
4アシスト

自分で得点を取る本橋とチームメイトに点を取らせる町田

ここまで日本を引っ張ってきたのは町田でしたが、周囲をマンマークでガチガチに止められると輝いたのは本橋でした。ただ2Pの確率を見てもわかるように、本橋も小さいのでインサイドに侵入すると苦しかった。

◎ブロックパーティー

〇アメリカのブロック 15

アメリカの高さに粉砕された日本ですが、その一方で「高さで負けるなんていつも通りじゃん」ってことで、むしろスピードについてこれるアメリカだからブロックされてしまいました。これについてはアメリカを誉めるしかない。あいつらペリメーター守るのを当然と思っているよね。特にスチュワートはなんなんだ。

一方で今日の日本はカットプレーが有効に決まらない事で、逆にインサイド渋滞を引き起こすケースが増えてしまいました。不思議なんだけど、そうなんだよね。

普通に考えたら本橋が3P決めて、警戒されたらドライブもするのだから、任せてしまえばよかったんだけど、ドライブするともう1人くらい同時に飛び込んでしまう。特に林と東藤のSGはオフボールでサイドを変えるのにペイント内を通過するんだけど、これとドライブが被るっていう。

なんだったらコーナー待機でもいいくらいなんだけど、キックアウトパスが出て来るとは想定していない・構築していないホーバス。クレイ・トンプソンが打つために動きまくっているウォリアーズみたいな。だからこそ日本は3Pを警戒されても3Pを打てるチームなのですが、これが裏目に出てしまいました。

スタッツがないのですが、手づまりな感じのあったオフェンスだったため、通常とは違うローテを取り込んできたホーバスの手法も裏目に出てしまうっていうね。

本橋(町田)+三好+林
町田+本橋

「本橋+林」という時間もあって、これも苦しかったんだけど、このコンビはゼロってわけじゃなかったはず。ただ、慣れていない1ガード+2シューターや2ガードにしてきたのは、ホーバスの失敗でした。狙いたいことはよくわかるし「結果論として失敗」なので否定することはないんだけど、失敗の理由に日本らしさが混じっていた気がします。

PG&シューターがスピードでかき回す

スモールラインナップとか言ってるけど、相手に190cmのセンターがいて1枚が負けることはあっても、総じて3ウイングはそんなにサイズで負けることはなかったホーバス日本。アメリカには完敗し始めたので、ディフェンスをかき回す担当を増やしてみたわけです。

しかし、「かき回す担当が多過ぎて、自分たちが乱れてしまった」という後半になってしまいました。特に町田がボールキープして組み立てる時に、本橋が動き回っているけど、効果的な動きにならなかった。そして町田がベンチに下がってハンドラーになると本橋は復活していたよ。

日本の長所であった「タイミングのあった合わせ」が消えてしまったファイナル。それは必然的にドライブしてもインサイド渋滞に自分たちからハメてしまい、ブロックパーティーを生み出してしまいました。

逆に言えば、これまでどれだけ難しいことをしていたのかも見えてくる試合でした。だから悲観的には見ていないんだけど、どうしても「慣れ親しんたメンバーでの連携」が重要になってしまい、それが足りない時は「個人で得点できる本橋」と「ディフェンスやリバウンドに強い東藤」をベンチから出すような形に収束してしまったね。

主戦力だと思われていた三好が2戦目以降は苦しんだもの、そんな理由だったと思います。そしてアメリカ戦で初めて乱れたことは、ここまでどれだけ上手く回っていたのかも示しているのでした。

「アメリカの個人能力に破壊された戦術」予選以上にこんな感想が強く残ってしまったのでした。

◎プレーメイカー

そんなわけで日本はここまで「1人のプレーメイカーで勝つ」ような戦いぶりだった気がしてきました。町田・宮崎・本橋の3人によるプレーメイクが全て。代わりに4人のオフボール担当を置くことでスムーズな連携と、効果的なスペーシング、そしてハードワークを実現していた。2人置いたら崩壊してしまったよ。

まるでサンズみたいな戦いぶりですね。サンズはオンボール担当を2人にまで絞るNBAでは非常に珍しいチームです。違うな。「オフボール担当を分厚くしたロスター」が珍しかった。

この点で同じアメリカの女子もまた「オンボール担当が多い」のも印象的でした。男子だと普通だけど、女子だとアメリカの方が珍しいんだろうね。アメリカのスコアはグライナー30点、ウィルソン19点とビッグマン2人の「オフボール担当」が稼ぎましたが、それ以外の3人がプレーメイキングしているのが印象的です。

スー・バードとタウラシのレジェンド2人は日本のガードよりも明らかに遅い。特にタウラシは「歩いてんのか」ってくらい遅いのに、速攻も決めてしまいました。なんじゃそれ!ってくらい足の速さではない頭のスピードがありました。必ずスペースを見つけて顔を出すので、これがスー・バードのゲームメイクを楽にしています。

〇ダイアナ・タウラシ
7点
6リバウンド
8アシスト
1ターンオーバー

嫌らしいくらいにパスを散りばめてきたスー・バードと、それをセンターに受け渡していったタウラシ。この2人がいなければ日本のハイプレスはもっと効果を発揮した気がします。少なくともこれまでは「ガード同士の戦い」では日本が勝っていたのに、全く焦ってくれないガードコンビに完敗って感じです。前述のディフェンスも含めて。

そして予選時同様にPFのスチュワートがプレーメイクしてくるんだから怖い。とにかくこいつが厄介極まりなかったです。

日本のディフェンスは「簡単にはインサイドにパスをさせない」という形から「インサイドはハイプレスで潰す」わけですが、そのインサイドがプレーメイカーなんだもん。プレスをかわされてしまいます。

〇スチュワート
14点
FG5/13
14リバウンド
5アシスト

で、今日は調子悪そうだったんだよね。かなりシュートを落としていた。それでもリバウンドとアシストの多さが手に負えない。赤穂が10レベルアップしたらこんな感じなのかな?

〇日本の3P
長岡 0/1
高田 1/4
エブリン 1/4
宮澤 0/2
オコエ 0/4

一見するとインサイドのフィニッシュ力の差ですが、そこはそもそも負ける想定じゃん。かわりに日本には3Pがあったわけだ。でもそれが「決まらなかった」ではなく「打たせてもらえなかった」感じなので、実はプレーメイク能力の差がデカかった試合でした。

3人のプレーメイカーを多用に展開するアメリカ
1人のプレーメイカーで効果的に展開する日本

そんな構図でしたがNBAも1人では難しいから増やしていくわけでして、やっぱり先を歩まれているイメージも強かったです。出来れば日本もインサイドに1人は欲しくなります。今のところそんな選手がいるとは思えないのでした。さぁこい日本のヨキッチ!

◎次につながるか

何はともあれ銀メダルでも立派な成績でした。「女子の布教をしてくれ」から始まったブログ記事でしたが、初戦の時点でちゃんと書いておいて良かったぜ。ここまで継続するとはね。そして予選でアメリカになったことでファイナルまであたらなくて良かったってもの事実でした。

負けそうだったベルギー戦が最大の山場でしたが、このファイナルも含めて「ホームっていいですね」という紙一重の抜け出しは多かったので、同じ結果を次回に求められても困るかもしれません。

今回のメンバーだと31歳の高田が唯一の30代なので、2年後もいけそうですが、女子の選手年齢ってよくわかんないしな。

とりあえず赤穂と東藤を中心に、あとステファニーがいるので10年くらいは中心選手には困らない気がします。特に赤穂はスゴイ選手なんだけど

「チームをリードするガードでもないし、主役となるセンターでもない。しかもシューターですらない」

ということで、なんとなく日本的には見逃されそうな才能。ところがオリンピックの舞台で日本のリバウンドの中心になっているわけで「ウイングの多彩さ」が、どれだけ重要かを示してくれました。高さでもスピードでもフィジカルでもなく「全部あるのが大事」っていう代表例。

ただ赤穂と東藤は得点力が足りないのも事実なので、そこさえ伸ばせばって感じです。3Pシューターは随時登場するでしょうが、町田タイプは簡単には出てこないだろうから、このバスケを延々と続けるのはムリだ。ムリでも他の形に移行し、どうなっても働けるウイングがいることはありがたい。

非常に面白いオリンピックとなりましたが、そもそも男子の代表でさえ、見るのがギリギリなので、これが日常的にチェックするとなると、個人的には苦しすぎます。そろそろ平和なサマーリーグにでも戻ることになりそうです。

そういや会場に渡邊がいたけどサマーリーグはじまってるよ!
日本で一番働いた選手が、一番オフを取れないっていうね。

オリンピック 決勝 アメリカvs日本” への5件のフィードバック

  1. プレーメイク能力よりもより具体的にプルアッパーが欲しいなと思いました。

    メイクしてサイドに繋いでも徹底ディナイだからミドルレーンで決めていくしかない、かつ、それが効果的だったはずで、町田には、系統違うけど、プルアップをもう10本選択してもらいたかった。

    アメリカの外回りがミドルレーン事情を一切気にしない、かつ、ブロック内訳が1on1とツーメンゲーム起因。町田とレシーバーが繋がらないからまずいなと。

    ハンドラーがプルアップに振り切ったら、アメリカも次のゲームプランを出してきて、ゲームが動いたでしょうし、その時スキップパスが見たいのはわかります。

  2. 女子バスケのレポートありがとうございました!(今後もあるととても嬉しいです)
    さぁこい日本のヨキッチw
    任務遂行力は前提に、クリエイティブな才能も加えていってほしいですね。日本バスケ界がこのオリンピックをどう活かすのか、注目したいです(ボーバスは今後どうするんだろ)

    1. 今後、適度な時期に適度な感じで観れるなら、、、ってくらいですかね。ホーバスいなくなってムチャクチャになったら、それもまた。

  3. 素人考えですが、男子も女子も、
    フローターをもっと使えばいいのになと思いました
    国内では女子は180.男子は190くらあればあまり高さには困らなさそうなので磨かれていないスキルなのかなと思いました

    1. ブロック力がないから、フィニッシュパターンが伸びないって感じがしますよね。ただBリーグはあんなに外国人いるんだから伸びても良さそうなんですけど

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