ウルブズのベンチには万能型ダメセンターがいる
来シーズンに向けて、という話をすると出てきがちな話として
ストレッチ出来るセンターが控えに欲しい
→カズンズとか合いそう
という常套句がある気がしています。悪気はないのですが、カズンズが2年続けて安いサラリーで強豪に加わったことで、なんとなーく「カズンズなら来てくれそう」みたいな空気感。しかし、これは例外中の例外。ウォリアーズやレブロンの魔力とケガから復帰できていない事情でしかありません。
確かにカズンズがベンチに座っていたら最高ですが、そんなに甘くないってさ。そして控えセンターごときに高いサラリーは払えません。それを払うならウイングもビッグも出来る選手に払いましょう。
じゃあどこから連れてくるべきかといえばGリーグで探し、自分たちに必要な選手に育てましょう。だからカズンズよりもナズ・リードを探せ!
◎戦術タウンズと離脱
今シーズンのウルブズは「戦術タウンズ」を取り込みました。これはフィニッシュ型のセンターをエースにした新しいチーム作りに取り組んだ形になっていて、なかなか面白いトライアルでした。
しかし、センターをエースにした形が流行しない理由の一つに「離脱すると立て直しが効かない」という事情があります。ハンドラーだと、なんだかんだで他の選手を連れて来てカバーするのですが、タウンズ、ヨキッチ、サボニス、ブセビッチあたりはオールラウンドに振舞ってくれるが故に、
同じ役割を引き継げる控えセンターなんていない
ことが多くなります。今シーズンはブセビッチのマジックはわかりやすくて、バンバやバーチは頑張るけど、どんなに頑張ったところでブセビッチの「役割」は出来ませんでした。ハンドラーなら能力は落ちても「役割」は引き継げるんだけどさ。
11月までを9勝7敗というスタートを切って管理人のプレーオフ圏内予想を実現してくれるかと思ったウルブズですが、そこから怒涛の11連敗。
きっかけはタウンズが3P1/10に沈んだグリズリーズ戦で、vsサンダー 4リバウンド、vsレイカーズ5リバウンドとタウンズが低空飛行になるにつれてチームも沈んでいきました。
この理由は負担の多いビッグマンに、さらに負担を強いた戦術タウンズで疲弊していったこと。それ以外の理由はバレバレになったら次の手がなかったことなので次回へ。そしてタウンズは7連敗の時点でケガで離脱してしまったのでした。
タウンズは凄い。だから負担をかけたらチームは沈んだ。
この構図は控えセンター不足って事であり「カズンズが欲しい」となります。2人いれば30分少しのプレータイムで負担を軽減できたはず。カズンズが弱いチームで控えの立場を受け入れるならね。無理でしょ。
◎ナズ・リードの登場
この頃のウルブズはタウンズの控えにゴーギー・ジェン、ジョーダン・ベル、ボーンレイを起用していました。タウンズの役割はこなせない。ボーンレイはスピード勝負なところもあって悪くなかったけど、点を取りに行かなかった。
そしてタウンズが離脱した半月後のネッツ戦に、20分のプレータイムで13点FG5/16とタウンズの「役割」をこなすセンターが突如として登場し、久しぶりの120点オーバーの試合を制します。
現れたのはナズ・リード。20歳のセンターはそこから見事にタウンズの代役となったのでした。
〇ナズ・リード
16.5分
9.0点
FG41.2%
3P33.0%
4.2リバウンド
インサイドでもアウトサイトでも得点を取りに行ける万能型センターにして、タウンズよりも10%くらい成功率が低いリード。タウンズの能力はないけど「役割」は出来るのでした。チームは戦術タウンズを取り戻します。
◎ドラフト外20歳
この先、リードの特集をする機会なんて二度と訪れないかもしれませんので、経歴をウィキペディア先生に教えてもらいます。意外と若い20歳のドラフト外でした。
ニュージャージーで育ったリードは、高校最終年に14.8点、7.7リバウンド、2.1ブロックを記録し、チームを州チャンピオンに導く活躍をし、自身はマクドナルドのオールアメリカンゲームに招待されました。
PFとして全米3位、全ポジションで22位の選手と評価されたリードはLSUに進みます。シャックの母校として有名なLSUですが、最近だとベン・シモンズも在籍していてPFなのにPGやる選手を作り上げるカルチャーをもっています。
〇1年生のリード
13.6点
7.2リバウンド
0.9アシスト
フレッシュマンから大活躍だったリードは、NBAドラフト19にアーリーエントリーしました。はい、もう過去編は終わりです。有望な選手がワン&ダンを選んだというストーリーでした。
しかし、ドラフト指名されなかったリード。今でも確認できるモックドラフト19での予想を調べてみると
ドラフトネット 34位ホークス指名
ドラフトルーム 39位ペリカンズ指名
ドラフトサイト 36位ホーネッツ指名
こんな感じなので2巡目上位では指名がありそうと踏んだ結論のドラフトエントリーだったわけです。見事に読みが外れたリードですが、最近はこの手の選手が増えたし、指名しなくても獲得に動くチームは結構あるよね。
よくあるのはサマーリーグでお試しですが、その前にウルブズは2ウェイ契約を提示してリードを獲得しました。実質的な3巡目指名だったといえます。
◎Gリーグ
そんなリードはGリーグに行くわけですが、その前に7月のサマーリーグでのプレーを管理人は観ていたようです。マジか。
評価的にはこの時から変わらず
オールラウンダー
ハードワーカー
能力レベルは足りない
サマーリーグレベルでは十分に通用するし、スターになれる選手ですが、1つひとつのクオリティはNBAレベルではありませんでした。またオールラウンドに活躍する選手だけど、そのスキルが有機的に組み合わさっている感じでもありませんでした。
だからこそ、足りない部分がハッキリしており、ほんの少しの違いが積み重なって大きな違いを生み出しそうでもあります。そしてNBAよりもレベルが落ちるGリーグのスタッツは
〇Gリーグ
16試合
30.8分
18.4点
FG51%
3P39%
9.9リバウンド
3.2アシスト
1.5スティール
2.0ブロック
凄いスタッツを叩き出しています。注目したいのはFGと3Pで、高確率で決める能力を持っています。特に珍しいのがペイント内のショートレンジが高確率なこと。
〇ゾーン別(Gリーグ)
ノーチャージエリア内 51/82
ペイント内 24/41
ミドル 2/10
3P32/85
ゴール下(ノーチャージエリア内)で確率が良いのはビッグマンは普通ですが、ペイント内でのショートレンジの上手さは貴重です。ミドルまで決める必要はないよ。これがNBAになると
〇ゾーン別(NBA)
ノーチャージエリア内 58/98
ペイント内 10/45
ミドル 0/3
3P 25/82
ペイント内の確率はGリーグ58%⇒NBA22%と急激に落ちています。シューティングスキルはあるけど、NBAのディフェンスレベルの中では決めることが出来ないわけです。
素晴らしいオールラウンドな能力を持っているリードだけど、NBAレベルでは少し足りない要素が、大きな結果の差をもたらすわけです。ペイント内のフックなどのショートレンジが怖ければ、もっとドライブが楽になるし、ファールも貰えそうです。
◎代役タウンズ
選手としてはジェン、ベル、ボーンレイに劣るリードですが、タウンズの代役が必要になったチーム事情がプラスに働きました。確率の悪いシュートとはいえ戦術タウンズなのだから「そこで打ってくれること」がとても大切になります。100ポゼッション当たりのシュート数(成功率)を比較すると
〇FGアテンプト
タウンズ 23.9本(51%)
リード 22.3本(41%)
ジェン 16.8本(45%)
ベル 11.7本(53%)
ボーンレイ 11.2本(55%)
最も確率の低いリードですが、アテンプトだけは多い。他にもリバウンドなど多くのスタッツでリードは劣っているものの「タウンズの役割をこなせる」という1点については他の選手を圧倒的に上回りました。
スタッツの割にファンからの人気が高いのも、目立つプレーが多いからだと思います。アグレッシブに行くし、それがウルブズの戦術にマッチしていたのです。
「能力」よりも「役割」でエースの代役を探せ!
それがナズ・リードを探せ、ということ。
タウンズが離脱しないことがベストではあるものの、戦術の中核にいるからこそ適度に休ませないといけません。だからといって「休んだらオフェンスにならない」ではダメ。かといって控えに高いサラリーを払えるわけじゃないので、能力は大目に見ましょう。
タウンズの役割は幅広く、起点・スクリナー・3Pシューター・ペネトレイト・ポストアップ・オフェンスリバウンドなどの仕事に加えて、ハードワークする貴重なスキルフルセンターです。これだけの事をこなせる選手を探すのは困難ですが、見事に見つけてきたウルブズ。
ところで、タウンズ要素の中で何が最も重要だったかというと「ハードワーク」です。チームのフィニッシャーであり、エンジンでもあるタウンズは攻守に何度もボールサイドに顔を出してきます。これをこなせるだけのハードワーカーだったことがリードの価値を高めています。
◎1チームにひとり
タウンズと同じ役割が欲しかったウルブズにハマったリードですが、仮に他のチームだったらどうなのか?
エースセンターと役割が異なっていたとしても、オールラウンドなだけに特定の役割に当てはめることが出来ます。
「ストレッチ役の控えセンター」
「プレーメイク役の控えセンター」
前者はシュートが打てるセンターってことでちょこちょこいます。だけど、そんな選手がハードワーク出来るかっていうと微妙。
控えセンターとして複数の役割が受け持てるハードワーカー
前提は「能力(サラリー)は高くないけど」ではありますが、ナズ・リードを探せ、というのはこういう一面もあります。特にセンターの重要性が戦術的に低く、相手によって使い分けたいチームにこそ必要な要素です。
センターがエースのチーム
センターを使い分けたいチーム
はナズ・リードを探そうぜ!
ウルブズ、レイカーズ、ペイサーズなんかにいたら良いね。
ホーネッツ、マブス、ラプターズなんかも面白いね。
逆にセンターはフィニッシャー専門とか、ストレッチ専門とか、明確に定義されている中間のチームには不必要な選手です。
代役タウンズにハマったリードですが、便利屋としての良さもあるのでした。そして他のチームは「リードを獲る」のではなく、適した選手を連れて来てGリーグで育てましょう。
◎エースになれるのか
リードはオールラウンドな「役割」をこなせるけど、1つ1つの「能力」が低い選手です。見方を変えれば「能力」が向上すればエースキャラにもなり得ます。ワン&ダンの20歳なので、まだまだ伸びてくるはず。現在の弱点は大きく2つ
①ポジショニングが悪い
②判断が悪い
ドライブはほぼ右に抜く、フィニッシュパターンが少ないなどの課題もありますが、この手のタイプは「どのプレーを選択するか」の時点が勝負なので、ポジショニングと判断力こそがレベルアップには必要です。
前述のショートレンジもプレッシャーをかけられている状況で選択したのが間違い。ゴール下まで行くか、パスアウトする判断力があれば解決します。
①については、そもそも意識が薄いこと、そしてトップでプレーに参加する以外では迷子になっていることが問題です。エンドライン担当として「ブラインドから合わせる」意識が低いと言えます。
あるいは3Pに自信があるならばコーナーでのキャッ&3Pを狙っても良いのです。今はこっちの傾向が強いかな。だけどコーナーからカッティングというのは記憶にないし。ポジショニングに応じた判断力が必要。
要するにここまで「タウンズの役割」にスポッと納まる以外の選択肢がありません。タウンズはルーキー時代から役割を変えて、今シーズンになって初めて3Pアテンプトが多い「戦術タウンズ化」しており、他の役割もこなせますがリードには引き出しが少ない。
この先はタウンズとの併用でもプレータイムを得たいでしょうから、トップ以外でのポジショニングの改善は必須項目です。ただし、スクリーンアシストはタウンズを上回っており、ワイドオープン3Pも打てているのでトップでのポジショニングは機能しています。
②はそのトップでのプレーで判断力が足りません。フィニッシュ優先の役割の中で、ハンドラーとの連携から「とりあえず打つ」ことを優先したから生き残れています。ただ、そこでシュートが打てないとオフェンスが止まります。要するにリードの時間は「ウイングが消えてしまう」ことが多くなりました。
ピック&ロールのロールマンとしてEFG37%も問題でした。フィニッシュ力の弱さではなく、プレー選択が甘かったと言えます。ワイドオープン3Pは多く打っているのでポップしてのプレーは問題なく、インサイドにダイブするタイミングとコースに課題を残しました。
〇100ポゼッションでのフリースロー
タウンズ 8.7本
ベル 5.7本
リード 4.9本
ボーンレイ 3.7本
ジェン 3.6本
FGアテンプトはタウンズ並みだったリードですが、フリースローの本数は少なくなります。とはいえ悪いというほどでもありません。こちらもインサイドをどうやって攻略するかの視点で判断力に課題が残りました。ドライブ型センターなので、ペイント内の確率とファールドローはセットで考えましょう。
「適切なドライブ選択」の判断が出来ること、それはドライブはムリと判断したときにハンドオフなどでウイングに展開することも含まれます。
①②だけでも成長すると、既にオールラウンドな能力は示しているだけに、相乗効果でスタッツは向上しそうです。エース系になるためには、個人の戦術レベルを上げることが大切。NBAでプレーすることで成長しやすい部分なので、頑張って生き残りましょう。チャンスは掴んだぜ!
◎マクラフリン
戦術タウンズなのに、タウンズが離脱して苦しくなったウルブズに現れた「オールラウンドだけど能力は足りない」リードの存在は、ウルブズが育成面で成果を出したという意味でも面白いものでした。
そのリードを追っていくと、Gリーグ、NBAのハイライトで、もう1人が頻繁に画面に登場します。
〇ジョーダン・マクラフリン
30試合
19.7分
7.6点
FG49%
3P38%
4.2アシスト
1.0ターンオーバー
1.1スティール
それはティーグとネイピアーでたびたび穴があき、トレードで人数不足となったPGを務めたマクラフリン。リードと同じくサマーリーグやGリーグで経験を積んだルーキーです。とはいえ、こっちは大学4年+Gリーグ1年が終ってからウルブズに辿り着いた24歳です。
「役割」としてはディアンジェロを務めることは出来ないものの、高いFG%とアシスト/ターンオーバー率で「能力」面で控えPGとして台頭してきました。エースの控えに高いサラリーを払いたくない事情ならば適した選手になろうとしています。
ドラフト上位指名権を得ながら、いつまで経っても勝てないウルブズですが、今シーズンは新しい発見もありました。それが上位指名選手ではなくGリーグからあがってきたリードとマクラフリンの活躍。有望株ドラフトと育成の両方から選手が出てきたのです。この点では評価できる今シーズンのウルブズでした。
なお「有望株を育成」は出来ていないのが最大の問題であり、次回の「さようならウルブズ’20」へと続きます。
ナズ・リードとジョーダン・マクラフリン。エースポジションの控えを育成で補えるチームになりましょう。各チームは控えに欲しい第2のリードを探せ!