ノビツキーvsトニー・パーカー

引退企画第2弾は2009年プレーオフファーストラウンドゲーム5

なぜか2Qから始まるユーチューブ。画質が悪くて誰が誰だかわかりません。なんせ人が倒れていると思ったら、単にスパーズのロゴマークだったりします。なので、ノビツキーとトニー・パーカー、そしてダンカンくらいは追いかけましょう。

他にもスパーズは後にレナードに交換されるジョージ・ヒル、マイケル・フィンリー(!?)、破壊者ブルース・ボウエン、マット・ボナー、カート・トーマスなどがいます。ジノビリ先生はベンチで私服を着ています。

マブスには今もいるじゃんJJバレア、むしろ主役じゃないかジョイソン・キッド、40分もプレーするエリック・ダンピアー、シリーズ大活躍のジョシュ・ハワード、そして6thマンのジェイソン・テリーなんかがいます。それよりもリック・カーライルの若さが気になります。10年前とは思えないな。

10年前になるわけですが、パーカーはなんと45分もプレーしています。お互いに特定の選手のプレータイムが長く、まだまだ少人数で戦える時代でした。今はファーストラウンドに偏ったプレータイムになると優勝が難しくなるわけだから、時代の進歩は怖いです。

◎早送りのトニー・パーカー

まず目立つのは再生速度を間違えたかと思うようなパーカーの動き。スピードというよりも、どこにでも顔を出しているスタミナとちょこまか動きまくって画質が低いと追いかけきれない動き。1on1からのドライブにピックを使っての見事なパスとマブスディフェンスを手玉に取っています。

でも、ちょっと考え方を変えると手玉に取っている割にはスパーズのオフェンスはスムーズじゃなかったりして。ボールとポジションを動かしているパーカーによって組み立てられるオフェンスは、流れるように展開しているものの、流れるように展開するからって攻略できるわけじゃないよね。

なんだかパーカー、パーカー、パーカーで行けばもっと得点に繋がりそうなのだけどスパーズがスパーズオフェンスをするから、パーカーが目立っている割には伸び悩んでいます。ジョージ・ヒルも頑張っているけど、周囲が物足りなすぎ。ジノビリ先生のいないビッグ3は苦しかったのか。

見方を変えるとゲームを組み立てるパーカーは自ら得点を取っているけど、今みたいに3&Dが待ち構えているわけじゃないから、「もっと決定的なパスを出さないとダメ」な空気。ドライブで崩して崩して、飛び込んできたボウエンにアシストってのは良いプレーでしたが、人もボールも動くから意外とバランス悪いみたいな。

しかし、10点ビハインドだった2Qはスパースが追い上げて終わることに。その理由はパーカーによるトランジションオフェンスの連続。ハーフコートではスパーズしていたけど、とにかくトランジションを仕掛けまくっているのでスパーズしていません。

予想ですが、こうなっている理由はジノビリ不在というか、ゲーム4までにオフェンスが苦しかったために起きたポポビッチの奇策なのだと思います。実際、このシリーズのスパーズは97点、105点とはじめの2試合はよかったもののゲーム3で67点、ゲーム4は90点でした。なお、そのゲーム4はパーカーが43点!ノビツキーとの共同企画じゃなければゲーム4にすべきだね。

リバウンドをとったダンカンのパスを受けた瞬間のパーカーの切替の早さが、これまた早送り。スムーズにドリブルに移行しすぎです。おそらくあまりにも周囲がダメなので、「どうやってパーカーに託すか」に勝機を求めているポポビッチ。スパーズらしくない戦い方でも成立させようとする全盛期パーカーの恐ろしさが詰まっているシリーズだったのかもしれません。

◎スモールで仕掛けられたノビツキー

ゲーム1の19点に始まってからゲーム2が14点、ゲーム3が20点、ゲーム4が12点のノビツキー。抑えられまくっています。トランジションオフェンスに移行するスパーズですが、そもそもディフェンスもスモールでの対抗。

ダンカン以外はガードみたいな選手が多く、そこかしこで手を出して追いかけ回してボールをひっかけようとしてファールコールされています。ノビツキーに対してもフルフロントで守り、ボールを持たれたら複数人で囲みます。なんだったらハイポストなのにダンカンがダブルチームにやってきてゴール下をドフリーにしていました。

ちびっ子たちにウロチョロされて苦しんでいるノビツキーですが、ゲーム5になったからか落ち着いて裁く場面も。で、前半はフリースローを13本も打ったマブスと2本しか打てなかったスパーズ。それで4点差だからスパーズ優勢なんじゃないかな。

さて、そういえばトランジションでスモールってことは、陰の主役ジェイソン・キッドの独壇場になりそうなわけですが、この試合はスパーズがトランジションを仕掛け、マブスはとにかくスローダウンしています。ネッツ時代の得意技を仕掛けないキッド。仕掛けたらスパーズの思うつぼなわけだ。

そしてマッチアップしたパーカーはキッドを大きく離してノビツキーへのヘルプに備えています。なんだかマブスが気持ちよくボールを回しているようにみえて、その実は回されることは許しているようなスパーズ。

ただスパーズはロングリバウンドをミスしまくります。これがなければ逆転してもおかしくなかった2Q。スモールで追い掛け回してシュートを外させても、そこからトランジションへ移行できなのは致命的だよね。

◎ドン引きディフェンス

ドン引きディフェンスされていたマブスでしたが、後半になるとマブスもドン引きディフェンスに移行します。理由は簡単でトランジションで崩されていたから、インサイド重視で安定して守るわけです。ドン引きされたパーカーはシュートまでたどり着けなくなるのでした。

現代を生きている私たちからするとシュートチャンスだらけのお互いのオフェンス。現代は「3Pを止めるディフェンス」が重要なガード陣ですが、この当時はそういうことではなかったわけだ。打たれ放題に見えるよ。

キッドとパーカー、それぞれのチームの主役PGが打ってこない前提の守り方ですが、前半からやられていたキッドはインサイドゲームを作りながらも、パスアウトを積極的に狙うことにしました。そりゃあそうだ。正直、それ以外はろくでもなかった両チームだけど、ちょっとだけマブスが優位になります。

でも、基本的にはお互いのディフェンスが効く展開。パーカー&ダンカンのツー面ゲームも、簡単にパスをカットされてさ。2Qの早い展開の中で目立っていたパーカーだけどスローダウンするとスコアラーとしては苦しくなっていく。なお、周囲が得点取れないってこともあってか、パーカーはボールこそ運びますが、ワンパスでリターン&シュート狙いの動きがメインです。それをキッドに読まれているのでした。

しかし、今回の主役はノビツキー。ドン引きされて3Pを打たない中でダンカンとの1on1が増え、そして負けます。これで4点差に戻ってきたゲーム

◎ザ・ノビツキー

点差が縮まったところで、「ハイポストのノビツキーに渡して後はお任せ」を連発するキッド。そして例の片足フェイダウェイでブロックも何もできないプレーをするノビツキー。ならばと打たれる前に張り付くとファールコールしてくれるレフリー。

とめらないザ・ノビツキー。もうこのプレー名称自体が「ノビツキー」だよね。

つまりスパーズの作戦は止められないから、ボールを渡さない作戦でしたが、さすがに1試合続けてそれを実行するのは無理なわけで、ボールが渡ると立て続けに決められてしまいました。それとキッドが3Pを打ったことはあまり関係ありません。

オフェンスで対抗するしかないスパーズはダンカンがベンチに下がったことで、パーカーのスコアラー化が進みます。それまではパスをさばいてエンドラインを往復してもらいなおしていましたが、トップでボールを持つとそこから1on1アタックに変更です。アジリティを生かして決めていくパーカー。

ところで、ここに現代的な高速ヘルプのリムプロテクターがいたらどうだったんだろうね。アジリティに加えてシュートパターンがあるパーカーなので、そこまで苦労しないのでしょうが、トップから仕掛けてそこまで決まるわけないんだよね。

で、ノビツキーがノビツキーで切替します。12点差に広げたノビツキー。

パーカーのドライブにヘルプが寄ってきたパスアウトしても決めてもらえず、どん詰まりになるパーカー。同じくパスアウトしても決めてもらえないノビツキーでしたが、3Qはテリーのドライブキックアウトからキッドのブザービーター3Pで15点差になって締めくくられました。

ドン引きな両チームのディフェンスは、3Pを2本決めたキッドに軍配が上がり、そこに行くまでのオフェンスをザ・ノビツキーしていたマブスでした。

◎個人技なんだよ個人技

またも追い上げる展開のポポビッチはフルコートプレスにトランジションのパーカー大作戦を採用します。えぇ45分プレーさせるんですよ。今なら絶対無理なプレータイムを与えてのフルコートプレス。でも、動き回るスタミナモンスターのパーカー。

嘆きたくなるくらいボールを失ってくれないキッドに削られていくスパーズ。そしてテリーが連続3Pで頑張ったスパーズを台無しにします。

スパーズはほぼパーカーかダンカンの個人技勝負に。全然スパーズしていないスパーズ。それを決めていくダンカンとパーカーと、パスアウトすると決めてくれない仲間たち。

ザ・ノビツキーするノビツキー。それでもパスを出そうとするとパーカーがパスコースに入って邪魔をします。動き回るパーカーのディフェンスに困るマブス。ボールさえもらえば決めるノビツキー。

現代は戦術世界ですが、その中には「チーム戦術として優れている」と表現するよりは「個人技を最大限に活用するための戦術として優れている」ことが良くあります。

スパーズはそんな要素とは離れたチームと思われており、実際ここでもその通りなのですが、だからこそチーム戦術では乗り越えられず、個人勝負に頼ってしまっています。ビッグ3はビッグ3。チームプレーが通用しなくなる時が出てくることを示すこの試合。

そしてジリジリとパーカー&ダンカンの2人で追い上げていくスパーズ。超個人技チームになっています。それに比べると、まだキッドの方がノビツキーを狙いまくりつつ、周囲にも供給できています。一方でボールを持ったノビツキーのパスからはそんなに生み出されるものがありません。コンビの関係性が面白い両チーム。

結局93点奪ったスパーズはパーカー26点、ダンカン30点。その他が37点に留まったことで追い上げることが出来ず。ジノビリ不在の穴が大きすぎたわけですが、同時に「なんだ結局は個人技じゃないか」という印象を強く抱かせる試合でした。

◎スタミナとアジリティのパーカー

1人で3人分くらい働いたようなトニー・パーカー

得点 26
アシスト 12
ターンオーバー 7

大活躍でしたが、やはり1人でいろいろと担当するならばターンオーバーが増えました。チームでは10しかないのに1人で7です。「ミスが多かった」ではなく、それくらい1人でやらざる得なかった状況でした。もちろんFG14/21のダンカンと2人でという形ですが、ゲームメイクから何から全てというのはパーカーの話。

ディフェンスでもフルコートで守れば、ノビツキーへの高速ダブルチームもあり、無尽蔵と思えるくらいに動き回りました。コンタクトプレーが少ない選手だと出来なくもないですが、ハンドラー役まで背負っているのだから驚異のスタミナ。

途中からキッドはパーカーを止められなくなり、スパーズもチームじゃなくて個人技が良いと割り切った展開は、言い換えれば「チームオフェンスで優勝してきた」と思われがちのスパーズにおいて、パーカーの個人能力がもたらした恩恵の大きさを感じさせてくれます。ここにダンカン・ジノビリ・レナードとか凶悪すぎる。

〇オフェンスレーティングと試合のペース
ペース 83.2
マブス 127
スパーズ 112

93点のスパーズでしたが、オフェンスレーティングは高くそんなに問題はありませんでした。ペース83とか信じられない時代だ。本当はもっとトランジションをしかければ勝機が広がったのですが、それを実行するには45分もプレーさせるわけにはいかない。

スタミナとアジリティのパーカーをより輝かすならばトランジションの連続だったのかもしれません。それもまたスパーズらしくない戦い方。

この試合はスパーズがスパーズしなかった試合。でも、その試合はパーカーが輝きまくった試合でした。選手の個性と能力をどうやって使っていくのか。トニー・パーカーの持つ個人能力はスパーズの中にいなかったらどうなっていたのか興味を持つ試合でした。

◎FG65%のノビツキー

31点、FG11/17とザ・ノビツキーでチームに勝利をもたらしたノビツキーのシューティング能力。ちびっ子たちにウロチョロされるのには苦労していたけど、シュートを打てれば全ては関係なくなるのでした。ひょっとすると、これもまたスモールラインナップ隆盛となった一因かもしれません。

5アシストしかしなかったキッドですが、マブスは6人が二けた得点。見事にバランスアタックを実現させたゲームメイクでしたが、その中でノビツキーだけはゲームメイクとか関係なく、ボールを持ったら個人技で仕掛けさせた感じに。

パーカー&ダンカンにもいえることではありますが、チームオフェンスが機能しない時に個人でカバーしてくれるのは非常にありがたい。しかもノビツキーの場合は「ボールを持たれたらアウト」という意識がディフェンス側に生じるので、それがプレッシャーになり、ディフェンス組織を揺るがしています。

こちらも42分プレーしていますが、ビッグマンなのに疲労が少ないのも特徴かな。点の取り方が単なるジャンプシュートというメリット。単純すぎてプレッシャーをかけられるとフリースローをゲットできる良さもありました。

ノビツキーの場合は、このフリースローがキーだったように見えます。しっかりとコールしてもらえるかどうかで違いが大きく、そのためにはポジション取りの時点であっさりと吹っ飛ばされると印象悪いのかも。

ラストシーズンはあまりにも走れないノビツキーと短時間だけスーパーなトニー・パーカーという構図でしたが、どちらも長い時間プレーして結果を残しやすいプレースタイルだった気がします。

10年たってさすがに走れなくなりすぎたノビツキーと、スタミナが持たないパーカー。そう考えるとウェイドはまだまだって感じだな。

ノビツキーvsトニー・パーカー” への2件のフィードバック

  1. お疲れ様です。
    ノビツキーのザ・ノビツキーのプレーを見て一目惚れした自分にとっては今年は特別なシーズンでした。
    優勝する少し前から本格的に見始めたのですが、ノビツキーの圧倒的な個の力は理不尽さまで感じますねw
    ペースの話も出てましたが、やはり見始めたころはスタープレイヤーの個の力を軸にしたチームが多かったと思います。ノビツキーやパーカーはもちろん、コービーにピアース、若き日のハワードとストレッチ4などなど。
    それだけ今のNBAが進化したってことなんですかね。
    よくある不毛な話ですが、今のNBAに全盛期のノビツキーがいたらどこまでやれるのかも見てみたい気がしますw

    1. 現代ならノビツキーはセンターになっていたと思うので、ドレイモンドみたいなPFが相棒に欲しくなりますね。
      シュータービッグマンの意味はいろいろとあるので、十分に通用する気もします。

      デニス・スミスと組んだ形は割と面白かったので、ウエストブルックなんかと組ませたら非常に強いチームになるかも。

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