◎運ではないこと
相手のケガというわかりやすい要素は別にして、今回のプレーオフにおいてヒートで目立ったのは
相手チームの自滅による勝利
これでした。一見すると「相手が悪い」であり「運が良かった」なのですが、むしろこの要素の怖いところは
相手は自滅するがヒートはしない
自分たちに流れが悪くても相手の自滅を待てる
こんなことが何試合もありました。バックスとのゲーム5はわかりやすかったですが、それだけでなくバトラーがいなかったニックスとのゲーム2も我慢して待つことで勝てるチャンスを作ったし、ゲーム3は3P22%で勝っています。
セルツとのゲーム2も完全な負けゲームをグラントが調子に乗ったことで逆転したし、バトラーが決められなかったゲーム6だって1点差の試合でした。特にカンファレンスファイナルは「ヒートの方が弱い」と思わせる試合が続きましたが、それを制しているのは悪い流れでもなんとか接戦を続けたからです。
ファイナルはさすがにナゲッツの自滅が起こらなかったけれど、レフリーがやらかしてくれることもあったし、完全な負けゲームだったゲーム5もバトラーの3P連打で4Qに逆転しています。
総じていうと、今回のプレーオフはヒートが関係ないシリーズでもキャブスやネッツ、グリズリーズにウォリアーズ(セカンドラウンド)と自滅するチームは多いです。それは大きく分ければ「スタミナの問題」と「リズムが悪いと崩壊する」という2パターン。
バックスは典型的なチームで「リズムが悪いと崩壊する」のですが、リズムが良いときは全体がパッシングしてバランスアタック+ヤニスのモンスターな形が機能し、リズムが悪いとヤニスとミドルトンの1on1劇場になります。「リズムが悪い」という表現ならば仕方ないときもありますが、総じて「ビハインドの時間帯」なので接戦が増えると苦しいってね。
ところで、こういう話をするとバトラー信者が増えるのですが、実際にはあまり関係ありません。
〇ヒートのTS%
チーム 56.7%
バトラー 56.5%
56.7%という自体が、このプレーオフで言えば7位なのでファイナルに進んだチームとして高いわけではなく、それでいてバトラーの数字もブッカーの69%やヨキッチの63%はもちろん、エース級の選手の中で優れた数字ではありません。
あくまでもチームトータルとしてガマンできたし、苦しい状況でもアグレッシブな姿勢を全員が忘れなかったからこその数字でもあります。
ただし、今回のプレーオフを通して「自滅が多い」のに対して、ヒートが自滅しにくいのにはバトラーの特徴が多くのエースたちと異なる点も関係しています。
ケイレブを筆頭に、ロールプレイヤーたちが主役のようにふるまい、勝負所で得点を挙げていくのが今プレーオフのヒートの特徴でした。ここだけを考えるとヒートカルチャーな気分です。でも、ヒート以外のチームを考えてみるとNBAの流れにある問題点な気もしてきます。
バトラーのTS%が他のチームのエースと比較して大して高くないといいつつも、その理由に3Pを打たないバトラーという事情もあります。今プレーオフはバックス相手に決めまくり、ファイナルでは3P連打で食らいついたように決まらないわけではなく「打たない」の方が強いバトラーですが、ドライブしても打ち切れずにパスアウトすることが多くあります。パスアウトをケイレブが決めまくったプレーオフでもありました。
逆にテイタムに代表されるエースキャラたちは3Pを積極的に打ちますが、ビハインドの苦しいときに苦し紛れに打つ3Pほど信用できないシュートはありません。例外はカリーとマレー(とブロンソン)でしたが、そのカリーですらラスト3試合は3P30%を下回っています。
「スタミナの問題」と「リズムが悪いと崩壊する」のが自滅の理由
と書きましたが、スタミナ問題から3P成功率が落ちる傾向も強く、苦しい時間帯に3Pを打っては外すと「自滅」にみえてくるのも間違いありません。そうチームが増えたというか、3P中心のエースが増えた。
これに対してバトラーはドライブからのファールドローとジャンプシュートが中心。TSが悪いといっても2PだからFGはそこそこで、あとフリースローで稼いでいるので爆発力には欠けるけど、安定はします。それが粘れるヒートという理由だし、バトラーとアデバヨ以外は3Pが多いので、チームとしてみれば爆発力も追加されています。
エースが簡単には3Pを打たないことは、粘り強い戦い方に繋がっている
そんな要素を感じたプレーオフでもありました。ナゲッツも打たないんだよね。似たようなチームが相手だとシンプルにエースの差が出てしまったしね。
アデバヨについても得点力への不満が残りつつも、アデバヨが得点に固執しない(というか点取らない)からこそヒートは粘りのチームになっていました。その要素を忘れてしまうと、実は簡単に負けていた気もします。あとヒーローがいないからってのは、こういうのも関係してしまう。
プレーオフを通じて「ヒートは強い」という印象は強くなかったですが「ヒートは負けない」という印象は強く、総じて相手が崩れるのをギリギリまで待てる戦い方でした。いってしまえばメンタリティですが、単なるメンタリティではなく、3Pオフェンスが中心になった現代バスケにおいて、エース2人が違う道を選んでいるからこそ、他のチームにはない強みが発揮されたようにもみえました。
何が言いたいかというと、安易に一般的な強さ(つまり3Pオフェンスのエース)を求めると失敗する可能性が高いってことだ。ベースメントを忘れてはいけない。