空気を読まないKCP

ファイナルゲーム1

ゲーム1はレイカーズの圧勝となり、これといって触れることがありません。レブロンの安定したゲームメイク、ADの強引なまでの押し込み、そしてヒートのケガ。これらを書いたところで、いったい何が面白いんだ?

そんなわけで主役に選ぶのはケンタビアス・コールドウェル-ポープ。通称KCPが何をしていたか、という地味な部分となります。

〇ゲーム1のKCP
30分
13点
2P1/4
3P2/6
2リバウンド
2スティール
1ブロック

記事の主役には到底なり得ないスタッツを残したKCP。その本質は「空気を読まない」こと。試合の流れに反するプレーをしていくことで、チームを支えています。いわゆる「苦しい時に頼れる」わけですが「頼れる」というほど、自分で何かを出来るわけではないので「空気を読まない」に留まります。

◎ゲーム1の得点

KCPが奪った得点は13点。サポートキャストとしてはそこそこですが、レイカーズ全体が爆発し、30分もプレーしていながらFG30%というのはたいしたことありません。問題はその得点がいつ記録されたかということ。

1Q 8-10 でタフなミドルで2点
  12-25 でスティール
  12-25 で3P
  15-25 で3P
  20-28 でファールドロー
  

残り3分40秒でこの試合最大の13点ビハインドがあったレイカーズですが、そこからKCPが8点を奪って1Qのうちに逆転に成功しました。以降はレイカーズが試合を支配しますが、KCPはフリースローの3点しかとらず、ほぼ負けている時間帯だけ働いたこととなります。

負けているときの方が働く男は見事に自分の役割を果たし、1Qで力尽きたかのように両ひざに手をつき、凡ミスしてレブロンににらまれ、足を引きずるようにオフェンスに参加しないシーンが出てきました。

チームを救い、あっという間に失速したKCPの活躍は、少しだけ記憶に残り、大したことないスタッツと共に忘れられていくでしょう。そんな活躍をしたゲーム1でした。

◎ダンカン・ロビンソン

しかし、本当の仕事はダンカン・ロビンソンを止めること。ヒートオフェンスは多彩で素晴らしいわけですが、全てにおいて絡むアデバヨに対して、キャッチ&リリースが全てのダンカン・ロビンソンは、たった1つのプレーで戦術を形作る特殊な存在です。

特にアデバヨとのハンドオフで打たれると止め方がわからず、意識しすぎた段階でディフェンス組織は崩れてしまいます。ゲーム1でレイカーズディフェンスが良かったのは事実ですが、それ以上にダンカン・ロビンソンが機能しなかったことは衝撃でした。

①アデバヨとのハンドオフがなかった

理由の70%くらいがヒートの選択にありました。ドライブ主体で始めたことはレイカーズの予想に反したプレーだったため、概ね成功しましたが、アデバヨがファールトラブルになったこととドラギッチがいなくなったことで、アデバヨ中心のゲームメイクが出来なくなりました。

3Pラインの内側にいるアデバヨを起点に
●ダンカン・ロビンソンとのハンドオフ3P
●バトラー他のインサイドカッティング
●アデバヨの個人アタック
●パスアウト3P
こんなプレーが混ざってくるオフェンスは非常に止めにくいのですが、それは3Pラインの外側も内側も守らなければいけない難しさがあるからこそ成立します。ダンカン・ロビンソンのハンドオフがなくなった時点で、破壊力は半減しました。

②KCPのファイトオーバーが見事だった

残りの30%はKCPが素晴らしかったとしかいいようのないディフェンスでした。ダンカン・ロビンソンは3つの3Pアテンプトに留まり、14分しかプレーしなかったバックスとのゲーム5以来の少なさでした。ほぼ何もさせなかったKCP

これはゲーム2以降もポイントとなります。ダンカン・ロビンソンに対してカバーを用意しなかったレイカーズディフェンスには驚きと共に個人で守り切れる自信も感じました。当然のように増やしてくるであろうハンドオフを、引き続き完封できるならスイープも現実的です。

ヒートにとっての生命線にして、このプレーオフで光りまくってきたハンドオフ3Pを消し去ってしまうのか。ディフェンスに弱みのあるダンカン・ロビンソンを起用したい理由を消されたらスポルストラの戦略も変更を求められるでしょう。

◎ボールムーブ

ヒートがドラギッチとアデバヨがいなくなって困った事実はパスの本数に表れています。

〇パス数
ヒート 276本
レイカーズ 307本

レブロン71本、ロンド53本でボールムーブで圧倒したレイカーズ。プレーオフ平均が300本近かったヒートが減ってしまい、270本くらいだったレイカーズが増えました。

ハンドオフ中心のプレーを減らしたヒート
ゾーン対策を含めて意図的にボールムーブしたレイカーズ

こんな構図が思い浮かびます。ゲーム1はこの差が大きく響いたわけですが、修正ポイントとしてはわかりやすいので、そこまで尾を引くことはないのですが、問題はドラギッチがいないことで代役がナンやヒーローになる事。特にヒーローになるとボールが止まることが増えてしまいます。

もしもイグダラがスターターになったら、スポルストラはボールムーブを強く意識したことになるでしょう。

KCPは何も関係ありませんが、コーナー担当としてトランジションディフェンスに参加できるかは重要です。お互いに速攻を増やしたいので、運動量も相変わらずキーになります。

〇ディフェンス移動速度
クズマ 4.46
ドラギッチ 4.43
KCP 4.28
カルーソ 4.26

ゲーム1の上位陣はこうなりました。ドラギッチこそ走りましたが、ヒートで4を超えたのは1人だけ。それに対してレイカーズは足が動いています。

これは単純に走力で上回ったのではなく、ヒートがオフボールで動くからレイカーズの方がディフェンスで動いたことになります。逆に言えば、ここで負けないことでヒートオフェンスを停滞させることが出来ます。

問題のもう1つはレイカーズはベンチ陣が動いていること。これだと「元気な方が強い」という勝負でもレイカーズが勝てそうです。ここの役割分担が出来ているからこそレブロンはインテンシティの高いプレーを続けられているとも言えます。

ボールムーブでディフェンスを振り回すこと。特にADを振り回さないと苦しくなります。ヒートが改善すべきは運動量になりそうです。そしてレイカーズは運動量のKCPがゲーム1のように疲弊しないことも大切です。

◎経験値

さて、ナゲッツについての記事で「優勝経験のあるベテランが足りない」なんて意見をみたのですが、個人的にはこういう意見が嫌いです。ステレオタイプすぎて、それが何をもたらすのか意味が分かりません。この指摘通りならば獲得候補として

カイリー・アービング
ケビン・ラブ
トリスタン・トンプソン
JRスミス
ジョーダン・ベル
パトリック・マコー
マシュー・デラベドバ

このあたりを補強することとなります。それが必要なことなの???

もちろんイグダラであれば話は別ですが、ここらの選手を獲得することが優勝に近づくなんて違うよね。ちなみにダニー・グリーンは「昨シーズン微妙だったよな」と思ったら、やっぱりゲーム6でリードして迎えた残り20秒でターンオーバーしてました。

優勝経験が必要なんじゃなくて勝負強さと、リーダーシップを発揮できるベテランが必要なんだ。

さて、レイカーズではレブロン御大が多大なる経験値をお持ちです。NBA全体の経験値を合計して100だとしたら、50がレブロン1人ってくらいの経験値です。だから、基本的に経験値は十分だと思いましょう。実際、レブロンの経験値でナゲッツに勝った感じだしね。

一方で勝負強さに関しては、周囲も持っておかないといけません。ナゲッツとのゲーム2で見事にクラッチを決めたAD、開花しているかのようなロンド&カルーソ、ラプターズで若返ったダニー・グリーンと揃えているので、万全な感じです。

KCPはプレーオフに出るのがキャリアで2回目。経験値なんてないに等しい選手です。

そんな選手がもたらした1Qのラッシュはなおさら印象的でした。そこには経験豊富なリーダーの存在もあったかもしれません。殆どボールに触らずに得点するのが役割の選手なので、全体が落ち着いているかも重要です。

本来はエイブリー・ブラッドリーの控えとして、追い上げたい局面で出てくるのが役割だったKCPがスターターになったバブル。そこで得たチャンスに相変わらず空気を読まないプレーで貢献したゲーム1でした。でもバテている雰囲気でもあったので、ゲーム2でどうなるのか。経験値を貯めることは出来るのか。

ちなみにJRスミスは典型的な爆発タイプのスコアラーで、流れさえあれば信じられないくらい決めてきます。しかしヴォーゲルのチョイスはいつだってKCP。そういうチームにしたかったということなのでしょう。

空気を読まないKCP” への6件のフィードバック

  1. レイカーズの3Pはまぁ外れてくるでしょう。外れるはず。

    ヒートはまず
    「俺たちは強い」
    を思い出す必要がありますよね。

    それさえ戻れば多分勝つ事は可能だと思います。
    レイカーズのDが良かったですが、だからこそそこは利用したい。明日も外にガンガンはってくると思うから、フェイクひとつで飛んでくれそうだし、ファールだってもらいやすいはず。
    そもそもあのDがずっと続くはずもないし。

    問題はロンドなんだよな…
    ADがもう飼い主からボール投げてもらう犬みたいに張り切っちゃってるし…

    まぁADだっていつまでも入り続ける訳じゃないでしょ多分(適当)

    1. どうなんでしょ。「オレ達は強い」とは思い続けるメンタルはあると思うのですが、「オレ達は圧倒せずとも勝つ」に耐えきれるかどうか。
      ゲーム1は珍しくガタガタっと崩れたのが気になりました。そんな一気にやられることなかった気がするのですが。

      ADはナゲッツ戦はばってばてで、レブロン無双になったので、ヒートもまずはそこに持って行きたいです。
      ロンドがムチャぶりした上で、ディフェンスでも振り回されれば、ガス欠にはなってくれます。
      もっともガス欠にしなければレブロンアタックがへるメリットもあるのですが・・・。

  2. まさかのKCPがメインテーマとは!!
    空気が読めないのはデメリットもあって、この流れや大事な場面でそのミスさまするか?(笑)というやらかしもありますね。
    KCPのように、トランジションでコーナーからコーナーまで死ぬ気で往復を繰り返す選手がいるから、レブロンもADも輝けます。ヒートはウィゴハなんて言ってるのに、いやお前らgame1はKCPより走ってないやん、と煽りたくもなりますね。
    そして仰る通りのそのチェイス能力。昔はオンボールのタイトDFの方が得意な感じはありましたが(対カリーとか)、レイカーズに来てからオフボールでのヘルプもディナイも磨き続けてくれました。どちらも全然目立たない仕事なのに。ヴォーゲルの大好きな、シュートが入らなくても出しておいて問題ない守れれば、を体現する選手の1人ですね

    1. ウィゴハはネッツの所有物です!!
      まぁカイリーとKDとジョーダンでやれるのか疑問ですが。

      KCPがピストンズにいた時に、ここまでやるとは思わなかったですし
      海千山千のそこそこ活躍出来るオフェンス、かと思ったら、見事に名わき役になってきましたね。
      シュートなんて、そのうち決まるから、守っとけ!みたいな。

  3. KCPのラッシュは結果として大きかったですね。同じ追い付かれるにしてもあのタイミングはその後に影響した様に感じます。特にスポールストラは逆算してるHCですから。
    あと経験値と勝負強さに関して思うのはよくいわれる「勝負強い」必要はあんまり無いと思っていて、それよりも「勝負弱くない」事が大事なんだと思ってます。つまりどんなシーンでも一定に活躍できる事が重要なんだろうと。
    「勝負強い」事に越したことは無いんですが、勝負強さを発揮する前にディスアドバンテージがあれば意味の無い「勝負強さ」になるわけで。勿論接戦での「勝負強さ」を指すのが普通ですが、それはMJやコービーやレブロンが常に高水準で一定の活躍が出来ているだけなんだと思うのです。
    「勝負弱くない」ならばGSWとHOUは1度ずつ優勝出来ていたと思っています。
    そしてその「勝負強い」「勝負弱い」の正体は個人の能力以上にチームの戦術、環境に左右されてどちらにも増幅される余地があると思っています。
    ヤニスは勝負弱いのか?答えはノーだと思います。負ける戦いをして負けているだけだと思ってるので勝負弱いも強いも無い。それが戦術の幅の問題でもあるんですが。
    まぁ「勝負強い」事の説明はその四文字では到底説明出来なくて、4万字位必要なんじゃ無いのと思います。だからまぁ僕も好きでは無いですねw
    そこまで感覚的に分かった上で使っちゃいますけどもw

    1. 確かに「勝負弱く」さえなければ。

      ディフェンスが悪い1人がいるだけで崩壊するプレーオフなわけで、オフェンスでも似ていますね。

      ヤニスはああいうシステム組まれたら、そりゃあ止められますよ。
      それでも決めるだけの「スキルセット」がないだけであって、勝負弱いってのは少し違いますね。
      単純にスキルがないだけ。それ以外はモンスターで何とかしていますし。

      あるいは、そのスキルを求めたくなるチーム戦術が悪いですね。
      アデバヨが3P決めなくても誰も文句ないですからね。

      マレーやヨキッチは勝負強いけど、グラントが弱くないってのは大切でした。

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