コメントからのテーマ設定です。
・PGに必要なディフェンス力って何?
からの論理展開です。
前回は「プレーオフで勝つために必要な要素」ということで「速攻からの失点を減らす力」を取り上げましたが、ここの要素とはちょっと違うけど、「PGにとって必要なディフェンス力は何?」というコメントをもらいました。
この問題についてはパッと頭の中に浮かぶシーンがいくつかあります。それは「現代のディフェンス力って何なんだ?」から始まる要素だったりします。割と日常的に気になる要素なわけでした。
本当は映像を切り取ってサンプリングしたいのですが、それはかなり苦しいことなので、言葉でガマンしてもらうとともに、頭の中に入れておいて来シーズンを楽しみにしてください。
①カイリー・アーヴィングの成長と・・・
このテーマは何人かサンプリングしていこうと思いますが、ほぼほぼアーヴィングの件で全てが片付きます。ここを抑えておけばOKなんじゃないかっていうくらい、わかりやすいサンプルになります。
言うまでもなくディフェンスが悪すぎるアーヴィング。凄まじい穴っぷりを発揮しまくります。ところが、オールディフェンスチームで1票を獲得するっていう意味不明な投票もありました。
セルティックスのディフェンスレーティングは107.0でリーグ4位でしたが、もしもロジアーがスターターだったら105.5くらいまで下がったと思われます。ジャズとリーグ2位の座を争うくらいになったでしょう。
〇スティール(プレータイム)
アーヴィング 1.5(33.0)
ロジアー 0.9(22.7)
とはいえ、スティールは割と多く、2人の間には「反応力」みたいな部分では、そこまで大きな差はありません。上手く手を出して引っかけることもあり、リーグの平均的な選手と比べたら多い方だと思います。
また、サイズもフィジカルもないロジアーと比較してアーヴィングのディフェンスがそこまで悪いかっていうと、そういうわけでもなかったりします。
特にセルティックスで2シーズン目を迎えて1on1ディフェンスを劇的に改善させてきました。シーズン序盤のバックス戦において、試合終盤にアーヴィングを狙ってきたミドルトンを見事に止めたシーンは、選手としてもう一歩上のステージに、そして優勝を目指すことを示すようなシーンでもありました。
このシーンはアーヴィングのディフェンスをよく物語っています。スピードで振り切ってこないミドルトンということもあり、体を張って侵入を許さず、そこにハンドチェックでボールを奪いに行くスキルがあります。インサイドでのポスト勝負になったことで、そう簡単には抜かれないことを意識し、ブラッド・スティーブンスらしい身体の張り方をしています。
リーグの平均レベルに比べたら、まだまだ劣るもののアーヴィングは個人のディフェンス力を大きく向上させました。そこについては評価してよいでしょう。
では何故、ロジアーとそこまで差があるのか?
〇DFG
アーヴィング 47.1%
ロジアー 44.6%
リーグ平均 44.2%
自分がマークしている時にどんなFG%で決められたかの数字ですが、アーヴィングはかなり悪い数字です。ロジアーも良くはないけど、平均的ではあります。しかし、この数字を分解すると
〇アーヴィング(リーグ平均)
3P 41.6(35.5)
2P 51.1(51.2)
6ft以内 64.0(61.7)
〇ロジアー
3P 34.0
2P 52.7
6ft以内 72.0
2人のディフェンスには大きな差があることがわかります。ロジアーはサイズもフィジカルもないので、リングから6フィート以内のショートレンジで70%を超えるFG%で決められてしまっています。これが大きなマイナスになりました。
一方で6フィート以内については、PGながらリーグ平均に近いのでアーヴィングのディフェンス力は非常に高いことがわかります。これだけ守れている一方で3Pを40%超えという信じられない確率で決められてしまっています。ロジアーはそこがリーグ平均を上回る数字に。
共に被アテンプト数は3Pの方が多いので、実は大きな視点で見るとアーヴィングの方が楽に打たれている回数が多くなりそうです。というわけで、まぁ1つ目の内容として
3Pを守れるかどうか
の重要性がPGの場合は高いという事です。3P時代なので、そこを守れなきゃ意味がないよね。3Pさえ守れればショートレンジを70%決められても大きな問題にはならないってことです。
アーヴィングは確かに1on1を守れるようになり、スティールも出来るわけですが、抜かれない事を重視している部分があり、楽に3Pを打たれてしまっています。残念ながら、それでは現代オフェンスを守ることが出来ません。
アーヴィング問題は他にもあるのですが、キリがないので次に行きましょう。
◉ジャマール・マレーのうっかりさん
マレーの場合は、アーヴィングから1on1ディフェンスをそぎ落としたようなディフェンス力です。つまり何にもできない。マジでひどすぎる。こちらも3Pを40%以上決められています。
そしてアーヴィングと同じ違う課題も持っています。それは
オフボールでマークを見失う
ということ。ガードの選手ってやっぱり大変だと思うのは、パスを出されるとボールとマークマンの両方を視界に捉えるのが難しいこと。ボールを見ているとあっという間にマークを見失います。
とはいえ、草バスケレベルならさほど問題はならないのですが、3P時代のNBAでは見失ったら最後。アウトサイドでフリーになって3Pを決められてしまいます。ここが非常に大きな分岐点。
マレーはとにかくボールばっかり見てしまいます。ナゲッツがチームでしっかり守ったのに、気が付いたらマレーがマークを離してしまいフリーが生まれるのは日常茶飯事。なお、アーヴィングも同じく。
不思議なのはマレー本人がオフボールムーブが上手いのに、逆に守っている時にはその意識が薄いこと。オフェンスとディフェンスは結びつかないよい例示でした。
〇3PのDFG
カリー 34.3%
その一方でディフェンス力はなくても、このカバーリング能力が上手いのはカリー。「次にどこのポジションが空いて、どこにボールが来るのか」という読みなんだけど、読みとはちょっと違うマークマンとスペースの両方を捉えておく空間把握能力があります。
3PのDFGが悪い選手は大抵、この能力が低い傾向があります。また、チームディフェンスとも関係するので、ディフェンス組織が練られているチームは、全体的に良い数字になりがちです。
ディアンジェロ・ラッセル 35.4
ジョー・ハリス 35.4
ネッツの2人は仲良く同じ数字でした。ともにディフェンス面では信頼を得ているとは言い難いのですが、チーム全体でどうやって守るかがあると「次に追いかけるスペース」を理解していたり、カバーリングの繰り返しが出来ます。
カリーはかなり思い切ったヘルプをしますが、そこにあるのは次に空いたスペースを他の選手が埋めてくれるという信頼。個人としての空間認知とチームディフェンスが絡まって出来上がる数字だと思います。
ということで、2つ目の要素であり、試合中に注目しておくべき要素は
ボールがない所で「次のスペース」を埋める能力
これもまた3P時代だからこそ、生み出される要素です。どんなにドライブを守れたって3Pを打たれたら意味がないってのは、20年前の選手とは価値基準が全く違うでしょ。
ボールとは関係ない所で、動いているディフェンダーは強いよ。そしてマレーは全く動かないよ。「あっヤベっ」というシーンを頻繁に見かけるよ。
◉ハーデンのサボり癖
「ディフェンスが出来ないキング」扱いされているハーデン。いや「ディフェンスをしないキング」かな。とにかく、手抜きディフェンスで抜かれまくります。
そのイメージが定着しているから批判されまくるわけですが、正直言って、その考え方は間違っているよ。ハーデンのディフェンス力ってのは非常に特殊なものがあります。
まず、前回も登場しましたが、この人はトランジションを守る能力があります。アウトナンバーの時にギャンブル的なプレーで止めてしまうことが頻繁にあり、ハンドチェックやら嫌がらせやら。
そこにあるのは、上に出てきた要素でもある「空間把握能力」なんだけど、ハーデンの場合は「読み」の方が近いかな。実は身体能力もあるからね。
ハーデンにはもう1つ変態的な特徴があります。それはポストアップを守るがやけにうまいこと。18年プレーオフではタウンズとの1on1を止めまくりました。
そんな要素があるハーデンは、ロケッツのディフェンスがスイッチングの連続って事で助けられています。お得意のインサイドを守る(お得意っていうかサボりやすい)ことが多くなります。でも、さっきの3Pディフェンスを引っ張ってくると
〇ハーデンのDFG
3P 34.2%(35.0)
2P 50.7%(52.6)
いずれもリーグ平均を上回っているハーデン。つまり、ハーデンってのは「リーグの中で平均を上回るディフェンス力がある」ということになります。サボりハーデンのイメージとはかけ離れているわけです。
ハーデンが良い数字になる理由は2つ。1つはガードとしてはサイズがあること。特にウイングスパンは6-11と言われており、渡邊雄太の6-10を上回ります。「3Pを守れるかどうか」がPGにとって重要な要素になっているのであれば、簡単には打ちにくいウイングスパンは大きな武器です。
もう1つの理由は「サボる」こと。もっといえば「簡単に抜かれる」ようなディフェンスをすること。で、抜かれるとどうなるか、当然カペラとタッカーがヘルプにやってきます。そう、チームディフェンスの中ではガードって抜かれても何とかなるよね。
抜かれても良いから3Pを止めろ。あとはヘルプで何とかする
3Pを優先的に守らなければいけない時代において、ガードならまずは3Pを守り、抜かれてもカバーで何とかすれば良いわけです。もちろん、その後で次のスペースを埋めに行く前提です。ハーデンは献身的ではありませんが、ロケッツはスイッチングディフェンスなので、マークの受け渡しがスムーズです。
なお、注意しておくとこの要素は必ずしもディフェンス力を上げるわけではありません。ディフェンスレーティング上位のチーム(バックス、ジャズ、サンダーなど)はむしろ個人個人がしっかりと守っており、3Pも打たせないし、ドライブにもついていきます。
しかし、現代はオフェンス時代。「ハードなディフェンスはオフェンス時のパワーを削る」わけで、アイソレーション万歳であり、全てがハーデンから始まるロケッツのオフェンス事情を考えれば、そこまで守らせるってのは違います。
ハーデンはサボっている。しかし、現代NBAにおいて「必要最低限のディフェンス」をしているから、数字的には平均レベルを上回っている。
恐ろしい事実です。抜かれても良いから3Pは守りましょう。ギャンブル的な守り方さえも認められるのは、日本の指導者からしたら許せないだろうけど、時代は違うんだ。ただし、必ず「次のスペースを埋める」ことはしないといけない。そこを指導できている指導者ってどれくらいいるかな。
◉守れないCJマカラム
今回の最後に登場するのはPGじゃないけど、守れないと評判のCJマカラム。とはいえ内容はほぼハーデンと同じ。
〇DFG(平均)
3P 33.8%(35.8%)
2P 49.3%(50.0%)
6ft以内 68.8%(62.1%)
守れないマカラムですが、数字的には平均を上回っており、特に3Pのディフェンスは素晴らしい基準になります。インサイドを守れないのは仕方ないよねー。
ちなみに相棒のリラードは3P38.8%決められているので、マカラムの方が3Pを守る能力が高いことを示しています。いずれにしてもハーデンと同じ要素があるってのは、抜かれるよりも3Pをイージーに打たれたくない事情があります。
〇被3Pアテンプト
ブレイザーズ 29.8(4位)
ロケッツ 29.8(4位)
どちらも「3Pを打たせない」ことでディフェンスを構築している要素があります。超現代的な守り方って事であり、特に自分たちは打ちまくるロケッツが相手には打たせないわけです。一方的にメリットを享受しようぜ作戦なわけだ。大丈夫かウエストブルック。
※ウエストブルックはディフェンス力もハードワークもあるけど、マレー同様のうっかりさん。
つまり、ディフェンスに課題があるといわれるマカラムですら、チームとしての狙いを理解し実行する戦術理解度があればトータルでは効果を発揮できるわけです。カリー・ハーデン・マカラムという3人とアーヴィング・マレーには大きな隔たりがあるよ。
このマカラムにはもう1つ違う事情が。それはハークレスの存在。リラード&マカラムというガードコンビがいるブレイザーズでは、困ったときというか勝負のディフェンスになると相手PGをハークレスが守るシーンが出てきます。特殊な事情にして、これまでの理論を形作る要素です。
サイズを活かして3Pを守る
抜かれたくはないけど、3Pを打たれるよりはマシ
次のカバーリング(スペースを埋める)が大切
アミヌとヌルキッチもいるブレイザーズはハークレスが抜かれてもカバーする選手がいますが、マカラムの役割は次のスペースを埋める事であり、シュート選任みたいな(3&D)を抑えておくことです。エースクラスは止められないけど、ボールを渡さなければ仕事出来ない選手ならね。
◉次回はSGA、ゲーリー・ハリス、ベン・シモンズ
そんなわけで、オフェンス事情で行ったときに「今更PGを定義なんてできないぜ。ポジションフリーの時代だ」となっているわけですが、その要素はディフェンス面にも登場しているわけです。
良いディフェンスをするには個人のディフェンス力は欠かせません。しかし、オフェンス時代だから、そこに全力を尽くしても困るわけだ。特にPGって得点面で重要なのだから。
そうなると、チーム戦術をこなせるだけのディフェンス力があれば良いわけです。ディフェンス力に難があっても、しっかりと空いたスペースを認知して埋めていく事。
そして3Pを打たせずに抜かれるにしても、しっかりとディレクションしてカバーが機能する必要もあります。ハーデンくらいサボってくれるなら、ある意味、抜かれるコースもわかりやすいってもんだ。
カリーはディフェンスの穴として認識される一方でチームディフェンスが出来る選手としても認識されています。ある意味、「オフボールで守っている時は怖さのあるディフェンダー」だったりします。面白いものだ。
さて、今回はDFG、それも3Pを中心に調べましたが、面白いので次回も続きにしましょう。今度は非常に優れた数字を残した3人。
ベン・シモンズ、ゲーリー・ハリス、そしてルーキーのSGA
若き選手たちが良い数字を残したわけで、オフェンス面同様にディフェンスでも若き力は「選手としての完成度」は低くても、「プレースタイルとしての完成度」は高いのかもしれません。
とはいえ、ディフェンスはデータも少ないけど、それ以上にディフェンスハイライトが少なくて説明しにくいのでショートバージョンになるでしょう。
ラス君とマレーのうっかりさん感、よく分かります。あれ、地味に好きです。オールスターレベルの選手がやってるのをみると『あーこの人達も同じ人間なのかー』と思ってしまいます。稼ぎが違うので、ミスの代償は違いすぎますが。
ここで番外編のうっかりさんランキング~!!!とかしないですよね? 1位は断トツのマギーだと僕の中では殿堂入りです。(あれは『うっかり』レベルを超えている)
バランス良く守ろうとして結局相手に利用されるよーな守り方をしてしまいがちな真面目なワタナビーと けっこううっかりさんランキング期待大なRUI君との差だったり 性格なんですかねー。
curryちゃんは何気に未来を予測し過ぎてチームメートの他4人や、ベンチも含め『?』となり、時が止まるシーンが好きだったりします。(curry本人は真面目にやってるからその差が笑えてしまって)curryちゃんはエスパーなんでしょーね 時を止める
オフボールでは怖いオールディフェスランキングもみてみたい(オンボールとの数字差があればあるほど上位にくる的な)
昔と比べたらオフェンスだけじゃなくディフェンスもチームの概念がより投影されますね。
でもやっぱり打たせないし抜かせない真のディフェンダーが勿論最強だけど、昔みたいにあんまり必要とされませんね、カワイソレーションなんてのもあったし。
バスケの進化ヤベエってなりますわ。
ただ、話は変わるけどハーデンはMJより優れたスコアラーとか言うダレルモリーの寝言は笑えました。
ディフェンスをハーデン並みにサボっていいならMJなら平均40点取るっちゅうねん。笑
ベンシモきた^ ^
ところで、怪我しちゃいましたけどスパーズのマレーとかどうでしょうか。
PG関連の記事を拝見してて、なーんとなく、以前の「不安定なディフェンスのスパーズ」という記事を思い出し、読み返してみて。
中身は、急造のフォーブス&デローザンコンビが前年度のグリーン&マレーと比較されて正直災難としか言いようがない内容でしたが、久しぶりにマレーのハイライトを見返してたらなかなか凄くて。ピッペン2.0みたいな。1on1強い、ヘルプ早い、ブロック上手い、戻りも早い。細長い。
今年は是非復活した姿をみたい。
私はNBA大好きですが、MLBも時々チェックしていて
ホームランバッター量産で、送りバントや
前進守備(1点を守るために大量得点のリスクをとるプレイ)などが減って
今は全体的に大味なリスク管理で、小技や職人は好まれない傾向にありますね。
NBAも正面とコーナー3だけ抑えれて、あと捨てるような
雑な守備のチームが増えるんじゃないかと予想しておきます。
旧世代のPGにもディフェンスのタイプがいろいろありますよね。
キッドとナッシュで見ると、キッドはカイリータイプ、ナッシュはハーデンタイプに近い気がしますが時代的にはキッドが正解だったんですかね
最近のPG関連シリーズ、現代NBAの見取り図にもそのままなっているようで、本当に面白く、膝を打つことしきりです。更新のお知らせをツイッターで見るのが楽しみです。早く次が読みたい!