今季の新人王は開幕10試合で既にベン・シモンズに決まったようなものです。大豊作と呼ばれた今年のドラフトですが、シモンズは新人王最有力候補に相応しいどころかオールスタークラスの活躍をしています。それくらい圧倒的な力を感じさせる選手です。
しかし、そんな圧倒的なシモンズなのに、早くも逆転新人王の可能性を感じさせる選手が出てきました。
それがユタ・ジャズのドノバン・ミッチェル。
その信じ難い活躍はレジェンドクラスと比較したくなり、近い将来の得点王候補になると感じさせます。
オールラウンダーが増えた中で、驚異的な身体能力だけでなく高い得点力は一味違う魅力を感じさせます。このレベルの得点能力を持つルーキーはデュラント以来ではないでしょうか。
レブロン以来のシモンズ
デュラント以来のミッチェル
そんなレベルの期待度。さぁドノバン・ミッチェルを分析してみましょう。
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ルイビル大2年時
15.6点 2.7アシスト 2.1スティール
1年時はベンチだったそうですが、2年目の活躍により今年のドラフトにアーリーエントリーしました。13位でナゲッツが指名すると、トレイ・ライルズ(2015年12位)+24位指名権とトレードでジャズが獲得しました。
そもそも大学では13位レベルの結果は残していなかったミッチェルですが、ドラフトコンバインで高い能力を示し評価を大きく上げました。
そんな選手はちょくちょくいるみたいですが、驚いたのは代償を払ってまでジャズが獲得に動いたことです。チームでやるぜ!を徹底するジャズは身体能力系よりもバスケへの理解力を重視するからヘイワードをスターに出来るチームだと考えていました。
そんなジャズが身体能力で選ぶという大胆なチョイスをしたのは、ミッチェルが学べる選手と判断したからのはずです。だからこそ注目していました。戦術理解度がないとついていけないのが、ユタ・ジャズでありクイン・スナイダーHCです。
どれだけ学べるのかはシーズン後にでも考えるとして、どんな身体能力なのかをドラフトコンバインの結果からみていきます。
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◉身体的特徴
185cm 95kg
ウイングスパン208cm
この身体的特徴はドラフトコンバインの平均的な数値と比較すると
・PGとしては標準の身長
・SGとSFの間くらいの体重
・SFくらいのウイングスパン
体脂肪率5.9%なのでNBA選手としては標準ですが、身長に対して重いのでかなり筋肉量が多い事がわかります。小さい割には手が長く、そして筋肉を纏った選手です。この身長ではルーキーどころかリーグで最も体重が重い選手です。
つまり185㎝という身長に騙されそうですが、かなり特殊な身体的特徴を持っており、同じサイズの選手にはパワーで押し切ることが出来、大きな選手にはスピードで振り切ることが出来そうです。
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3/4コートスプリントではルーキートップでしたが、シャトルランやレーンアジリティではガードとしてはかなり遅くなります。一方向へのスピードは抜群ですが、切り返しを多く含む細かい動きの敏捷性には欠けています。
スタンディングジャンプは36.5インチでルーキートップの数字です。昨季のダンク王グレン・ロビンソンくらい飛びます。重いけど跳べるのは魅力的です。
ちなみにドラフトコンバインはトップクラスの指名選手は参加しないので、本当にNo.1かはわかりません。
つまりドノバン・ミッチェルはガードサイズのアンテトクンポみたいなイメージでしょうか。
細かいステップワークや動きの量で勝負するよりも、当たり負けしない身体で直線的にリングに向かい、高いジャンプ力と長い手を使ってシュートを決めていく身体的な特徴がありそうです。
フットワークよりも突進力
垂直方向へのジャンプ力と横方向への手の長さ
あれだけの突進力がある選手はウエストブルックしか思いつかないのですが、最後のシュートの柔らかさはウエストブルックを凌駕します。
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◉得点の変化
この記事を書いているのは29試合経過時点です。そこで開幕から10試合毎のスタッツ推移を見ていきます。
◯プレータイム 24.7 → 31.7 → 34.6
まぁこれ以上は伸びないかな。エースなので最大限使われています。ただし、ケガ人が戻ってきたので逆に減るかもしれません。開幕戦はスターター予定じゃなかったのに、フッドのアクシデントでスターター起用でした。伝説の幕開け。
◯得点 13.5 → 16.1 → 24.4
24点は素晴らしい数字です。平均24.4ならばは今季の得点ランク10位に該当します。上下動があるとはいえ、この水準を保てれば早くもリーグトップクラスという事です。
◯FG 37.7%→38.6%→47.6%
◯3P 34.6%→33.8%→40.6%
3Pは初めからルーキーガードとしては良い数字です。テイタムがおかしいだけ。それよりもFG%の上がり方が素晴らしく、アウトサイドシュートに留まらない得点効率が上がってきたといえます。
次第にディフェンスの攻略方法を学んできたと言えるでしょう。
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3Pは試合に慣れてきた面が大きいとして、それ以外に開幕から何を学んで改善してきたのか。この10試合のシュートを分解してみます。
◯ノーチャージエリア内 41/62 →66%
◯ペイント内 4/22 →18%
ノーチャージエリア内の確率の良さが目立ちます。ダンクは4本と意外と少ないのですが、レイアップを確率よく決めています。当たり負けしない身体と腕が長くて最後までボールを扱える特徴です。
ちなみに今季アーヴィングが好調なのは、このシュートを昨季よりも10%上げて67%決めているから。つまり最近のミッチェルはアーヴィング並みのゴール下確率です。あんな超絶シュートスキルはないけど、それを補うだけの判断力を持っている。
しかし、ペイントのノーチャージエリア外になると殆ど決まっていません。
飛び込めてしまえば決める事が出来ますが、そこまで行けずにジャンプシュートになると決まらないのは、密集地でプレッシャーを受けるからなのでサイズが小さい影響があります。アーヴィング並のシュートスキルはないよ。
◯ミドルレンジ 10/21
◯レフトコーナー 8/11
とはいえシュートは上手くミドルレンジやコーナーからもしっかり決めています。なお、ライトコーナーは3本しか打っていません。戦術的な都合。
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・ゴール下まで飛び込む強さ
・状況判断の良さ
・シュート力
これらが好成績に繋がっていますが、開幕から良かったわこではありません。
初めの20試合のペイント内シュートでは85本のノーチャージエリアから打ち、45本をエリア外から打っています。1試合平均で比較します。
◯ペイント内シュート
初めの20試合平均→最近10試合平均
ノーチャージ内 4.3 → 6.2
ノーチャージ外 2.3 → 2.2
プレータイムも増えているので本数の違いよりも、よりノーチャージエリア内まで攻め込めるようになった事がわかります。元々シュートは上手かったといえるミッチェルですが、単に確率が良くなった事よりも、しっかりとゴール下までドライブ出来ている事が結果に繋がったといえます。
アーヴィング並と書きましたが、超絶技巧もなければ巧みにすり抜けるステップワークもありません。
多彩なステップやシュート技術よりも状況判断の中でヘルプが来ないと判断できる、もしくはヘルプが来たらアシストパスが出せる、そんな判断力が身についたから確率を上げました。
そこにはジャズらしい合わせのオートマティズムが存在し、学んだ結果だと考えられます。スナイダーは頻繁に呼び出して説き伏せているしね。イングルスやルビオの存在も大きそうです。このタイプが大好きなジャズ。
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◉アシスト
◯アシスト 2.4 → 3.9 → 4.3
◯ターンオーバー 2.3 → 2.2 → 3.0
得点だけでなくアシストの伸びが素晴らしく、それに伴いターンオーバーが増えました。
イングルスとフェイバーズへのアシストが多く、特にイングルスはミッチェルのパスから52%の確率で決めており、効果的なキックアウトになっている事がわかります。直近10試合ではルビオへのアシストも増えてきているので、よりチームとしてミッチェルから始めるオフェンスをしていく雰囲気があります。
実際に終盤ではトップのミッチェルに広いスペースを与えるところからオフェンスを始めます。崩しのスタートこそアイソレーションですが、そこから連携でフリーを作り、堅実にパスが出るからこそやらせそうなジャズです。
もう完全にエース扱いのミッチェル
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◯4Qのミッチェル
得点 6.0
FG 46.8%
3P 42.9%
そんなチームの期待に完璧に答えていて終盤ほど良い活躍をしています。ジャズはFG45.5% 3P38.7%とチームでも良い水準ですが、ミッチェルに打たせる効率性がみてとれます。
試合の中でも、シーズンの中でも時間を追う毎に良くなっているのがドノバン・ミッチェルです。
たかだか30試合のルーキーがチームのエースであり、クラッチタイムに大活躍しているよ!
ドノバン・ミッチェルが恐ろしい!
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◉チームの成績
今季のジャズは言うまでもなくヘイワードを失い、ルビオとゴベールを中心にする予定でスタートしました。悪くない開幕でしたが、ヘイワードがいないのでより守らなければ行けない、勝つための得点力が足りない傾向がハッキリと出ました。
そんな中でゴベールがケガをします。それはジャズファンからすると悪夢のような展開だったわけですが、フッドやジョー・ジョンソンも欠場していて負けが増えるのは致し方ない状況になりました。オフェンスでもディフェンスでも中心となる存在を欠いているのです。
そこに登場したのがドノバン・ミッチェル。
苦しいチーム状況も後押しして、プレータイムが与えられただけでなく、重要な役割も任されるようになったミッチェル。あっという間にエースに駆け上がりました。実力があっての事ですが、そんな運も持っています。
運って大切。ジャズに加入したのも巡り合わせです。
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◯ジャズのレーティング
オフェンス 100.7 → 105.0 → 110.5
ディフェンス 101.6 → 101.9 → 102.0
そしてチームはディフェンスはそのままに、急激にオフェンス力を上げていきます。オフェンス110、ディフェンス102ならばセルティックスが負けたのも理解できます。
チームのコアを失いながら、ドノバン・ミッチェルがそんなコアを凌ぐ活躍をした事でジャズはオフェンスで勝てるチームになっているのです。
◯速攻 8.7 → 6.9 → 10.3
◯2ndチャンス 9.7 → 10.9 → 12.1
◯ペイント内 38.0 → 39.8 → 46.9
速攻が増えたこともあり、リバウンドをとってペイント内を攻めるようになったのがチーム最大の変化です。では、ミッチェルはどうなのか。
◯ペイント内 5.2 → 6.8 → 9.6
前述の通り目立つのはペイント内で得点していることです。それだけ切り崩せるようになったのでヘルプディフェンスを動かして、他の選手がオフェンスリバウンドを取りやすくなりました。
チームプレーをしながらも、圧倒的な個人力で変化を生じさせたミッチェルでした。
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しかし、オフェンス力が上がったのは良いのですが、勝率には反映されていません。ジャズ自体が不安定になっていて、14勝15敗とほぼ五分ながら既に6連勝1回、4連敗2回あります。
負けている間もミッチェルが活躍する試合もあるので、まだチームとしてバランスがとれているとは言い難い状態です。まぁルーキーが途中からエース扱いになればバランスを欠いても致し方ありません。
またゴベールが出ている試合は実質6勝11敗と負け越している事実もあります。
ジャズは分岐点に立たされていますが、それはエースが移籍したシーズン前には予想できなかった嬉しい誤算なので、少しずつチームを調整しながらシーズンを戦っていくでしょう。
なお、前述の通り身体が強いミッチェル。ケガへの耐性があれば、そこに悩まされてきたジャズには1番の朗報かもしれません。
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◉表情が良い
喜怒哀楽を表現するタイプではなくポーカーフェイスでプレーします。今季のルーキーはそんなタイプばかり。
しかしディフェンスでハーデンに弄ばれたりすると物凄い不満気でケンカ腰にみえる表情を出します。スーパースター達に全く気を遣わないその表情が良いんです。
なお、ディフェンスは怪しいのですが、スピードはあるけどアジリティはないという数字なので納得します。止める気はマンマンですが、左右のフェイクに引っかかってしまうと追いつけなくなります。本当に止められるようになるためには、かなりの努力が必要です。
イングルスやルビオはしっかりとディレクションして個人が足りない部分をチームで補いますが、ミッチェルは真っ向勝負で粉砕されています。それでも、あまり守れないのにハーデンやアーヴィングを担当しているのはチームとして育てようとしているのが分かります。
負けん気の強さが目立つドノバン・ミッチェル。長い目で見守る必要もあります。
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既にリーグを代表する選手達並のスタッツを残し始めたドノバン・ミッチェル。この記事を書いている時のキャブス戦でも26点を奪いました。FG69%。
既に恐ろしいけれど、末恐ろしいルーキー
何よりも恐ろしいのは2年前は大学でもベンチだった事。若い時から高い能力を発揮したのではなく、次第に伸びていく選手はNBAに入ってからの成長度が違ったりします。
それはアンテトクンポ然り、ウエストブルック然り。高い身体能力を身につけた事で伸びた選手達。
ドノバン・ミッチェルが彼らと違うのはルーキーの時点でシュートが上手い事です。これだけのシュート力と身体能力でありながら発展途上に過ぎないという怖さ。
既にリーダーの風格を醸し出し、ベテラン揃いのジャズを引っ張るスーパールーキーです。
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似ている選手は誰か?
それを考えた時にリラードくらいしか思いつきませんでした。後半に強かったり太々しい雰囲気だったり割と似ていると思いますが、ブレイザーズとジャズという事でシュートを打つ瞬間の周囲の状況が違い過ぎます。PGでもないし。
ジャズ風に言えば、カール・マローンの肉体の得点力にストックトンの魂を持つ選手、という事にしておきましょう。まぁ本当はマイケル・ジョーダンっぽいのだけど。
そして比較対象が見つからないというのは、ミッチェルが特殊というだけでなく、リーグの流れとは違う能力を持っているということでもあります。これはとっても大切で、多くのチームが対策に困ってしまいます。
今季の流行りは高速化の中でガードでもダイエットして、よりスピードに対応した動きを求めています。そんな中で小さいけど、筋肉が多くて重たく、スピードのあるガードというのは稀少性があって守り難いタイプになっていそうです。
ドノバン・ミッチェルはリーグトップクラスのスコアリングガードであり、他にはいないタイプのガードでもあります。
今季の中でどこまで伸びるのか?
そしてジャズをプレーオフに導けるのか?
シモンズと並び立ち、あるいは上に立つ存在になるのか?
ドノバン・ミッチェルが恐ろしい!
【追記】
これを書いているときにジャズがプレーオフに出るなんて誰が想像したのか?
後半戦はロケッツに次ぐ勝率を残すなんて誰が想像したのか?
そしてプレーオフでポール・ジョージを圧倒するなんて誰が想像したのか?
https://youtu.be/vfvJ3yWnez4
日本人中高生も彼のようなスタイルを目指して体重増加を狙わせるべきなんじゃないかと思いました。高校生野球選手とかに比べるとまだバスケの選手は細いことが多いですし。