ファイナル雑感①
ファイナルが終ったので、雑感に行きましょう。今回のファイナルはレブロンとバトラーを除けば個人がそこまで目立たなかったのも印象的です。それはネガティブではなくて、チーム設計の中で役割分担がはっきりしており、突然の「ヒーロー」が出てくる余地が少ないということ。
例えばタイラー・ヒーローは試合によってばらつきがありますが、アテンプト自体は毎試合多くなり、調子が良ければプレータイムもアテンプトも増え、悪ければ減るコントロールをされています。戦略的な違いはあっても「突如」ではありません。これはロンドも似ています。
両チームが軸となる選手をハッキリさせ、その周囲もまた特徴的な役割がありました。これらについて触れていこうと思いますが、今回は「軸」となる選手について考えます。
◎レブロンとAD
マジック&ジャバー、コービー&シャックと比較されるように、わかりやすくハンドラー&ビッグだったのがレイカーズ。レイカーズの場合は起点でありフィニッシャーでもあるコンビを作りました。ある意味、オーソドックスな組み合わせです。
レイカーズはプレーの多くをADから始めます。レブロンよりもADの方が多いのですが、そんなにパスが上手くないADなので起点として強いわけではないことは、オールドタイプのセンターに近いです。ポストにいれておいて、決めてもらうのと、パスアウトしてからチームとして展開します。
これらはADがミドルレンジでも高確率で決めることで成立しました。ただファイナルに進むまで効果的だったのですが、ファイナルではケガもあって問題が発生しています。完全なオールドタイプだったら困ってしまうところですが、現代センターなのでポストアップ以外でも、合わせのフィニッシャーとして、さらに3Pでも貢献しました。
ポストアップ+合わせ担当 としてのビッグ
ADの場合は非常にわかりやすかったです。ビッグマンの重要性が低くなっている時代ですが、多彩な形でフィニッシャーとして活用されることが大きかったです。特に「高さで止められない」シュートを打っていることは他にはない武器です。それはまるでデュラントみたいな。もちろん確率はデュラントには及びませんが、考え方としてビッグマンの優位点がそこにあったのは間違いないでしょう。
ちなみに問題が発生した理由はAD本人だけでなく、レイカーズがワイドオープンの3Pを外しまくったことの方が大きいです。しっかりとアウトサイドが決まっていれば、こんなことにならなかったでしょう。
一方でレブロンは「達観している」と評すほどに、一歩引いたゲームメイクが目立ちました。もちろん得点も多いものの、アシストの方がメインなのでオールドタイプのPGでした。
ところがファイナルではチームとして問題が発生した中で、スコアラーとしての役割が強まりました。自らのリバウンドからトランジションを生み出し、強引なまでのねじ込みとアウトサイドシュートによってヒートを困らせまくったレブロン。
そういえばヒートは「レブロンを1on1で止めるバトラー」がいながら、レブロンに対してのアンサーはなにもないままでシリーズを終えました。プレーオフで平均26.7点だったレブロンはファイナルは29.8点と得点を増やしています。これもなかなか面白い現象でした。レブロン以外を止めてきたヒート。
ファイナルではドライブが減った一方で、ペイントタッチが3.3回から4.7回まで増えました。インサイドで効果的にボールを貰う事で得点を生み出しています。
オーガナイズするPG+インサイドスコアラー
レブロンの役割はハンドラーでもありながら、ビッグでもありました。かつてシャックはレブロンの事を「マジック+シャック」と評しましたが、その傾向は強くなっています。
レイカーズのハンドラーとビッグは、わかりやすくパサーのPGとフィニッシュのセンターでしたが、インサイドを強く攻めてスコアリングできるコンビであることが現代的な特徴だったと言えます。
レブロンとADのコンビは強烈だった・・・なんてのは当たり前として、重要なのはここからです。
◎ハワードとロンド
スターターとしてハワードを起用するレイカーズですが、そのローテは独特です。基本的にはこんな感じ。
レブロン + AD
ロンド + AD + クズマ
カルーソ + レブロン
レブロン + AD
試合によっていろいろと変化しますが、ヴォーゲルはレブロンをベンチに下げた時は、ロンドをPGにして個人で突破できるクズマも併用します。
一方でADがいないときにハワードは加えず、カルーソとレブロンのコンビでプレーメイクさせて、周囲をウイング(クズマ含む)にしてきます。この時ロンドもいるとレブロンはビッグの役割になり、いないとハンドラーって感じです。
つまりレブロンはロンドの有無でハンドラー→ビッグと変化することが増えます。ビッグのハワードは起用せず、レブロンの役割変更でカバーするのはレイカーズならではの取り組み方でした。もちろん、相手がスモールのヒートだったこと、アデバヨのケガがあったことも大きく影響しています。
レイカーズはハンドラーとビッグでプレーを組み立てますが、レブロンはどっちの役割もできる稀有な存在です。「軸」となる両方の役割をレブロンで解決するのは突飛にして、キングって感じです。
ここまでだとスペシャルなビッグであるADと異次元のレブロンという話で終わってしまうのですが、ヒートの事情がそうはさせてくれませんでした。
◎バトラーとアデバヨ
プレーオフになってからドラギッチをハンドラーとすることで、オフェンスが多彩になっていったヒート。そのため本来のハンドラーはドラギッチと定義したいわけですが、シーズン全体がそうならなかった上にファイナルはバトラーがトリプルダブル連発となりました。
ヒートのハンドラーはバトラー、ビッグはアデバヨになるわけですが、アデバヨの方もケガによって役割がグッと抑えられてしまいました。
本来のアデバヨはビッグというよりはハンドラーです。ヒートオフェンスで起点であり、中継役であり、フィニッシャーであるアデバヨは、むしろレブロンのような存在です。ADに負けない身体能力を持ちながら、レブロンのようなパスを出せるのは魅力的です。もちろんレブロンほどではない。
ポイントセンター + ハードワーカー
このアデバヨを成立させているのが『パワーガード』とでも言いたくなる特殊なバトラーの存在でした。どうもガードとしてはプレーメイク能力に欠けるバトラーでしたが、それをアデバヨとヒートの戦術がカバーしたようなシーズンでした。
バトラー最大の特徴は3Pが殆どないこと。アンチ現代ガードですが、ポイントセンターとしてどこにでも顔を出すアデバヨによってディフェンスがかき回されるため、バトラーがフィニッシュに行くインサイドはスペースが空いてきます。ここを活用しながら周囲のシューター達にパスアウトしていくのが今シーズンのバトラーでした。
ところがファイナルで突如として違う顔を見せました。
アデバヨのように何度もボールタッチして起点であり、中継役であり、フィニッシャーとなったバトラー。アシスト数が増えましたが、鮮やかなパスを通しまくったわけではなく、何度もパス交換していく中で生まれたアシストでした。
これが生まれた理由を順序だてると
①1on1で無双していたゲーム1
②レナードとオリニクへのキックアウト3Pのゲーム2
③アウトサイドのマークが緩くなったゲーム3&4
こんな事情がありました。
まずゲーム1の時点でレブロンとAD以外はバトラーを止められない空気になりました。ゲーム2は13アシストですが、ハワードがいる時間帯にアシストが多かったこととバトラーのパスから3P7/11とヒートが決めまくったことで結果的にアシストが増えた感じです。
しかしゲーム3からは、アウトサイドでのマークが緩くなったことでパスの起点として楽になったことが響いています。モリスやADにマークされている時は、比較的パスを出しやすく、しかもインサイドが空いていることも増えました。
ゲーム6はマッチアップが普通に戻ったのでアシストが減ることに。それ以前に疲れていたけど。
要はバトラーがアシストを増やした理由の1つが、マッチアップの相手がビッグマンになることが増えたことが関係しています。それってポイントセンターみたいなもんじゃん。
パワーガード + ポイントセンター
3P時代に3Pを打たず、球際の強さを生かしてインサイドファイトする新たな形態を生み出したバトラーでしたが、ファイナルになってアデバヨ化したのは面白い現象でした。
レブロンみたいなアデバヨ
ADの代役をするレブロン
パワーガードのバトラー
アデバヨの代役をするバトラー
今回のファイナルで起きた最も面白い現象がここでした。両チームの「軸」となる選手はハンドラーとビッグの組み合わせでしたが、ビッグしか出来ないADを除くと、他の3人は「ハンドラーでありビッグでもある」特殊なタイプになりました。
『ポイントセンター』と定義される選手が登場してから数年後、ファイナルはハンドラーとビッグを兼任するスーパースターの戦いに移行しました。特にバトラーはこれまで「ハンドラーでもビッグでもない」選手だったのに、ヒートの戦術の中で位置づけが大きく変わったことになります。
◎ハンドラーとビッグ
ファイナルで起きた現象は象徴的なものとして時代を変えていく可能性があります。レブロンだけの話だったら「レブロンはスゲー」で終わるのですが、今回はそうはなりません。
この現象はタフショットでインサイドを苦にしないマレーと、ポイントセンターのナゲッツも準用される要素ですし、ハンドラーでありビッグであるのはアンテトクンポの代名詞みたいなものです。そんな傾向がある中でのファイナルなので、ハンドラーとビッグの時代に移り変わっていく空気があります。
セカンドラウンドに上がってきたチームでは
・ウイングが充実しているセルティックスとクリッパーズ
・マイクロボールのロケッツ
・ポジションレスのラプターズ
この3チームは「ハンドラーとビッグ」ではありませんでしたが、ラプターズはゲームを作る役割がPG+ガソルなので要素は持っており、ロケッツはウエストブルックがセンターなので惜しいのですが、役割は全く違いました。
いずれにしても「優勝するのはウイングが強いチーム」だったのが、ハンドラーとビッグの組み合わせの方が大切となり、そこには
ハンドラーでありビッグであるスター
が重要になってきました。それは「ウイングが大事」がバージョンアップした形でもあります。現代のスーパースターに求められるオールラウンドな能力は、PGとセンターという両極端な役割をこなせることになりはじめています。
優勝させるようなスターではないと思っていたバトラーが、ヒートというチームでここまで輝いた理由はそんな役割変更にあったと思います。ハンドラーとしてもビッグとしても戦えることが重要なのさ。
◎センターライン
何故、「ハンドラーでありビッグでもある」なのかといえば、この2つがセンターライン、つまりコートの中央で仕事をするからです。これまでは『リングからの距離』でポジションの概念があったようなバスケットですが、『コートの中心からの距離』という平面的な概念に変化してきた気がします。コートの中心って表現は間違っているんですけど、他に思いつかなかった。
レブロンがインサイドでの得点を増やしたといっても、基本はトップからプレーを始めるわけです。ドライブで押し込むこともあれば、カッティングで飛び込んでくることもあります。いずれにしてもコートの中央を攻略してくれることが大切でした。
オールラウンドな能力者が増えたことで、ハンドラーとビッグが極限まで近づいたようなファイナルでした。未だ花開かぬアンテトクンポや、勝てないとされているウエストブルックの活用法には、まだまだ可能性が秘められていることも示したかもしれません。共通していた要素は
「3Pよりもインサイド側でのフィニッシュとプレーメイク」
です。特にバトラーとアデバヨは3P打たずにここまで上がってきました。パスファーストのプレーと堅実なインサイドがあれば、チームの主役として奮闘できそうです。大事なのは周囲との組み合わせ。
コートの中央は当然マークが強いので、そこを突破できるだけのスターであることが次のNBAには求められます。そして控えにはロンド、ドラギッチ、イグダラのようなパサータイプを置くのが効果的というのも共通していました。イグダラタイプの価値は地味に上がっていきそうです。
そして次回はウイング側の話になります。両チームがコートの中央を攻め込めるスーパースターを擁しており、そこからパスが出てくるプレーメイカーでもありました。中央を攻めてくれるスーパースターと、ワイドから決めていくサポートメンバーの構図は似ています。
ただ、ウイングについてはヒート側が従来と違う概念をもたらしてくれました。ナゲッツやセルティックスにも触れながら、スーパースターではないウイングに求められる能力を再確認してみましょう。
ヤニスは「使われる側」になってもっと周りを使えってのが来シーズンの目標ですかね。まあ、これはヤニスだけの問題ではないですけど。
シモンズはますます惜しい選手だなと感じました。
シモンズで優勝を狙えるというのが見えたのと同時にドックではなあ〜と思いました。
予想ですがウイングに求められる能力は、リムプロテクトですかね?
ウイングは何でも屋さんなので、疲れちゃうんですよね。
だったら交代の効くサポートキャストで強化しておいた方がベターじゃないかと。
シモンズのやりたいことをやらせるリバースの良さが発揮されないとムリなわけですが
クリッパーズ同様にフロントがどんな選手を集めるかが重要です。
BOSもコーナーから攻めずに中央突破から崩すことを狙いにしているような印象がありました。それにウィング型のチームって実は去年までのGSWでは成功してたと言えないわけでもなく。とりあえず次回のエントリの分析に期待します。
中央から攻めるのも、ウイングから攻めるのも、どっちでも良いけど、エースの役割は違うって事だと思っています。
まだ早いのはわかってますがザイオンもこのビッグ兼ハンドラーを目指すべきですかね?
ザイオンはADに近いんじゃないかと思っています。ハンドラーはやらせない方が怖さがあるかなーと。
自分で得点すべきだから、ウイングかビッグでしょうね。