50-40-90に向けた残りシーズン
ケビン・デュラントのようなスペシャルなスタッツを残しているけど、デュラント感はゼロの今シーズンのミドルトン。個人的には怪しんでいた存在というか、ポテンシャルを最大限に発揮していて更なる上積みはないと思っていましたが、そんな予想を覆すスタッツです。
〇クリス・ミドルトン
21.1点(キャリアハイ)
FG49.9%(キャリアハイ)
3P41.8%
FT90.8%(キャリアハイ)
6.2リバウンド(キャリアハイ)
4.1アシスト
なんていうか・・・パーフェクトだよね。パーフェクト。高確率で決めてくれる上にアシストもしっかりと記録している高純度のシューター。「それはまるでデュラント」って言いたくなるスタッツ。しかも、勝ちまくっているバックスなので30.1分と短いプレータイムの中で残した数字ですから、あと5分出ていれば!とすら言いたくなります。プレータイムはルーキーシーズン以来の短さなのにキャリアハイのスタッツが多いのさ。
ディフェンスはエースキラー的に優れている選手ではありませんが、バックスのゾーン気味の守り方や、カバーリングをぶ厚くする守り方においては、インサイドへのパスに対してしっかりと反応する良さがあります。ヤニスがいるのでPFではないわけですが、基本はアウトサイドのマークを担当しながらも、ローテの中で塞ぐ役割をしてくれるので「優れたディフェンダーではないけど、マルチタスクをこなす効果的なディフェンダー」になることもあります。「それはまるでデュラント」
そんな「デュラント感が全くない」ミドルトンについて追いかけてみましょう。
◎短いプレータイム
チームが強くてプレータイムが短いミドルトンですが、「元気な方が強い」時代においてシューター系はプレータイムが短いことで、よりFG%が向上するのが一般的です。長くプレーすれば精度が落ちるってのは当然です。
その意味でミドルトンもバックスというチームの恩恵を受けているわけですが、加えてミドルトンのイメージとしてプレーオフで勝負強かった2年前なんかもあるけれど、総じてみれば
終盤に活躍するエースではない
という勝てるエースと呼ばれる選手に必要な唯一無二にして絶対的な要素が足りません。だからデュラント感はゼロだ。プレータイムが長くなることはミドルトンにとって不利に働くでしょうし、50-40-90は達成できないでしょう。
そんな前提から4Qのスタッツを比較していくと今シーズンなりの特徴が出てきます。
〇4Qのミドルトン
16-17シーズン 3.7点 FG39%
17-18シーズン 5.2点 FG46%
18-19シーズン 4.2点 FG42%
19-20シーズン 5.7点 FG51%
ということで、これまで試合後半になると尻つぼみになる傾向がありましたが、今シーズンは4Qでも変わらぬプレーを披露できるようになりました。なお、17-18シーズンの得点が多いのはプレータイムが長いからです。特にこれまで3Pが決まらなかったのですが、今シーズンは大きく改善しました。
〇4Qの3P
16-17シーズン 0.9本 27%
17-18シーズン 1.5本 32%
18-19シーズン 1.5本 35%
19-20シーズン 1.6本 46%
年々改善している、といえば聞こえは良いですが、16-17シーズンはトータル43.3%と高確率で決めており、4Qの失速さえしなければさらに数字は上がっていました。その意味でシュート力はかねてからあったものの、4Qに輝けないタイプの選手だったわけです。
それが今シーズンは46%と4Qも高確率になっており、バックスが強いがゆえに勝負強い選手かどうかはわかりませんが、試合を通して役割を果たしているといえます。
〇昨シーズンのプレーオフ
1Q 1.7本 46%
2Q 1.7本 46%
3Q 1.8本 48%
4Q 0.9本 23%
そしてこれが昨シーズンのプレーオフ。見事に酷い4Qになったわけです。デュラントっぽくないってのは、「欲しい時に高確率で決めてくれるエース」という要素がないってことですが、プレーオフでの惨状から脱却しつつある今シーズンのスタッツということなのでした。
◎ヤニスの相棒として
ミドルトンがデュラントっぽくない最大の理由は、ただ単にヤニスというモンスターがスーパーエースとして君臨しているからです。そしてヤニスの相棒セカンドエースとしてミドルトンは極めて優秀な存在だと言えます。
・アウトサイドシュートが上手い
・オフボールで惹きつけてくれる
・ボールを長く持つ必要がない
・しっかりとパスを出せる
ハンドラーでもあるヤニスなので、セカンドエースもボールを長く持つと渋滞してしまうし、かといって待っているだけのシューターだと価値は低くなりますが、ミドルトンはボールのないところでチャンスを作る役割を担えます。
PGに重きを置かないブーデンフォルツァーのオフェンスに適合したタイプであり、それはヤニスを強く輝かせることにも繋がっています。前述の通り、ディフェンス面で役割を入れ替えることも可能なので、オールラウンドなモンスターに対して影の存在としてオールラウンドにプレーしてくれるミドルトンはパーフェクトな存在です。これ以上の相性を求める場合、例えばカリーと組ませることになるとヤニスをセンターに持っていくのがベターなので、今のバックスのチーム事情とは異なってきます。
そんなパーフェクトなミドルトンですが、「ヤニスの相棒」感はゼロです。それは数字的にも出ています。
〇ヤニス⇒ミドルトンのパス
パス数 9.3本
アシスト 1.0本
3Pアテンプト 1.1本
〇ミドルトン⇒ヤニスのパス
パス数 8.5本
アシスト 1.2本
FGアテンプト 3.4本
ミドルトン側からみると、パスの出し手・受け手ともにヤニスが最も多く、ミドルトン⇒ヤニスについては、良い数字を残していますが、その一方でヤニス⇒ミドルトンに関しては、イメージと違ってインサイドアウト出来ておらず、「インサイドで暴れるヤニスとアウトサイドで広げるミドルトン」という構図ではありません。
例えばヤニス⇒ブルックだと5.8本のパスしかありませんが、3P1.8本に繋がっており、より効果的なプレーになっています。マシューズやディヴィチェンゾ、カナートンなんかも同じ。
というか、ヤニスとミドルトンの関係性が悪いのではなく、「ヤニスから満遍なくパスが出る構図」を作っているのがバックスなので、2人のコンビとしては目立たないってことですね。
ヤニスにぴったりのセカンドエースだけど、ぴったりのコンビってわけではない
こんな感じです。それこそカリーを連れてくれば、ヤニスとのピック&ロールで無双できそうなので「ぴったりのコンビ」になると思いますが、それとは目指しているものが違うのがヤニス&ミドルトン。ある意味、カリー&デュラントもそんな感じか。コンビとして機能するのではなく、ないものを補っている感じ。
試合終盤でヤニスに託すなら、どうしてもミドルトンの出番は増えないよね。
◎バックスの例外
リーグで最も多くの得点を取るバックスは、わかりやすい「3Pかゴール下か」のオフェンスを志しています。それにはインサイドで無双するヤニスと、3P砲台のブルックが強く関係しているわけです。
〇アテンプト数
FG 91.2本(3位)
3P 38.6本(4位)
FT 24.0本(8位)
ゴール下 29.5本(11位)
リーグの中で見ると、若干ゴール下の本数は少なめですが、トップクラスに多い3Pになっています。「タフショット打つなら3P打ってハリーバック」という考え方のチームであり、オフェンスリバウンド9.5本(25位)とセカンドチャンスを求めないのでゴール下が少なくなっています。
バックスとしてのエリア別のアテンプト数と、全アテンプトのうち何%がそのゾーンから打っているかを見てみると
〇エリア別アテンプト数と割合
ゴール下 29.5本 32%
ペイント内 12.8本 14%
ミドル 10.3本 11%
3P 38.6本 42%
3Pとゴール下に寄っているバックスですが、ミドルシュートの割合も意外とそこそこあります。平均5.6本しか打たないロケッツは当然としても、8.7本のラプターズよりも多くなります。ちなみにリーグで18位なので少ない方にはなります。
同じ数字をミドルトンで調べてみると、突出してミドルが多いことがわかります。チームの約半分をミドルトンが打っている感じ。
〇エリア別アテンプト数と割合
ゴール下 2.3本 15%
ペイント内 2.6本 17%
ミドル 4.8本 31%
3P 4.9本 32%
チーム全体の割合よりも3Pが低く、3P並みにミドルを打っているわけでして、明らかに「チームオフェンスの例外」として扱われています。ちなみにこれが昨シーズンだと3Pとゴール下が多かったのもポイントです。
〇昨シーズン
ゴール下 3.0本 20%
ペイント内 2.5本 17%
ミドル 3.2本 22%
3P 5.4本 36%
要するに今シーズンのミドルトンは、よりはっきりと
チームオフェンスの例外としてミドルを多用し、オフェンスに変化をつける
ことになったわけです。そのうえで52%も決めているので、ゴール下と3Pという確率論を落とさずに、ミドルシュートを加えてくれていることになるわけです。っていうかさ、ゴール下が全体の15%しかないのにFG50%超えるってどういうことだよ。セオリー無視じゃねーか。
初年度に極めて効率的ながらもワンパターンにもなるオフェンスを構築していたブーデンフォルツァーは、変化をつけるブログドンを放出しましたが、代わりにミドルトンをチームオフェンスの例外にすることで、より効率的なオフェンスを構築していくことを目指したと言えます。
ここもプレーオフでラプターズに4連敗を喫した反省から導かれたものなのでしょう。地味ながら効いているミドルトンのミドルシュートなのかもしれません。
◎パーフェクトとプレーオフ
パーフェクトなFG成功率
パーフェクトな4Qのスタッツ
パーフェクトなヤニスの相棒
パーフェクトなチームの例外
ケチのつけようがないシーズンスタッツを残しているミドルトンですが、そこにあったのは課題のあった4Qの改善と、完璧なミドルシュートでチームオフェンスに例外をもたらす存在になれたことにありそうです。それはヤニスの相棒としてパーフェクトな存在になれたシーズンだということ。
3Pを決めるようになったヤニスの「わかりやすい」成長と、ゲームの中での部分的な改善を達成したミドルトンの「地味な」成長が、ブーデンフォルツァー2年目体制でバックスが伸びた要因だと言えそうです。
それは昨シーズンのプレーオフで足りなかった要素。シーズンで培ったものを、いかにプレーオフで出せるのか。HCとエースとセカンドエースがそれぞれの立場で求めていくプレーオフの戦いになりそうです。
ミドルトンは30分くらいだったので、じゃあデュラントは何分だったのかなと思って調べたら38.5分も出てるんですね。
チームオフェンスのなかで効率的にシュートを放ってたウォリアーズのデュラントなら分かるけど、OKCでバリバリアイソスコアラーだった(代わりに黙って誠実にプレーする綺麗だった)デュラント が達成しているのはすごいですね。
そんなことを思ってたら、その隣でデュラントよりもFG数が多くて、.438、.328の選手がいて相変わらずだなと少し笑ってしまいました。
あれで強かったんだから永遠の謎ですね。
戦術が優れている方がよいのか、個人が気持ちよくプレーしている方が良いのか。
このあいだふと思ったんですがスティーブ・スミスっぽいなと思いました。
強豪の大エース格としては物足りないけど2番手格としてはシュート、アシストと高次元。
なんか目立たないけど確実に強い選手。
ちょっとモデルケースになりそうなセカンドエースかもしれません。
クレイ・トンプソンも似た部分があります。
本当はポール・ジョージもこれが向いていた気がします。
確かにそうかもしれませんね。ツーウェイと3&Dの違いというかそのハイブリット的なというか。
ミドルトン、クレイ、ジョージはハイブリット的に振る舞える。だから現代のセカンドエースとしてモデルケース的。
バトラーは3&Dという程3Pは無いが確実にツーウェイ最高峰。その落とし込みに成功したバランスアタックのヒート。そういう議論も出来そうですね。
セカンドエースとは と考えさせられますね。
ヤニスが不調な時に爆発してる印象はないんですが、それぐらいでいいのかもしれません