U18日本代表アジアカップ

なんだかんだと全試合みているので、ファイナルに向けてのプレビュー的な。

来年のU19ワールドカップの予選を兼ねたU18アジアカップが絶賛開催中で本日がファイナルです。日本は八村世代以来のファイナルであると同時に、八村世代以来の自力でのU19出場権を手に入れました。

※去年のU19はコロナ禍で予選がなく、ランキング上位に出場権が与えられた。しかも上位チームが出場辞退したから日本に回ってきただけ。

HCはアレハンドロ・マルチネスというスペイン陣で、アンダー世代の代表を中心にスペインの育成に携わってきた人で、今年の4月に就任しました。JBAの紹介では

【代表コーチ・スタッフ歴】
2007:U20 スペイン代表 European Championship @ Nova Gorica,
2008:U18 スペイン代表 European Championship @Amaliada, Greece ヘッドコーチ (5位)
2009:U18 スペイン代表 European Championship @Metz, France ヘッドコーチ (5位)
2012:U17 スペイン代表 World Championship @Kaunas, Lithuania ヘッドコーチ (4位)
2016:U17 スペイン代表 World Championship @Zaragoza, Spain ヘッドコーチ (4位)
2019:U18 中国代表 アシスタントコーチ

就任すると早速U16アジアカップで準優勝し、U17ワールドカップに出場。こちらも八村世代以来の出場権獲得でした。つまり危機的だった日本代表のアンダー世代を、たった半年で劇的に救ってしまったことになります。

そして、今回のU18は世代を問わず日本代表に感じてきた問題を一切感じさせないチームが作られています。結果よりも内容の良さが光っているので、まだ見ていない人にもファイナルだけでも見てもらいましょう。

なお、ファイナルの予想は敗戦です。韓国の7番のディフェンスがエグイので、リードを得てもあれにどうにかされてしまう気がするんだ。

◎日本らしさがない

戦術は気合と根性
タイムアウトの指示は闘魂注入

そんな佐古スタイルは極端だとしても、基本ラインが個人技アタックの日本スタイルは、走れや走れのトランジションも然り、「高さで負けるからリバウンドがとれない」の高さ重視も然り、基本的に個人能力に依存したバスケをしています。これは大多数の学校が同じです。

しかし、スペインのマルチネスらしく、今回の代表は急激にユーロスタイルにシフトしました。

細かいポジショニング調整
スペース構築とパスによる攻略
1つの形から複数のパターン構築
オンボールとオフボール両方で同時進行 などなど

ちょうどWindow4のイラン戦が「ハンドラーアタックが多過ぎ」でしたが、このU18にはハンドラーアタックによる仕掛けは少なく、5人がスペースを保ちながら、オフボールで動くことでギャップを作っていきます。

トラッキングデータがあれば
ドリブルを突いている時間
1ポゼッションのパス数
キャッチ&シュート数

などは、従来の代表とは雲泥の差があるはずです。

唯一、戦術的だったトーステン・ロイブル時代もドリブルは多かったのですが、今回の代表はボール運び以外での無駄なドリブルはなく、オフボールムーブとパスだけで崩すことが頻繁にあります。なお、頻繁にあったけど日本対策として「マンツーでは守れない。ゾーンにしよう」が進んで苦しんでいます。

では、いくつか代表的なプレーについて触れてみましょう。それは「代表的なプレー」をチョイスできるほど、再現性のあるオフェンスを展開しているということでもあります。

トランジションルール

マイボールになる、もしくはマイボールになりそうだったり、ブロックに飛び出した後に、1線目として1人か2人がフリーランニングを必ず行います。この「走り出し」の早さは素晴らしく、またポジション関係なく先頭になると思った選手が走り出しており、センターの川島が1線目になることも珍しくありません。

必ずサイドラインに広がって走るのですが、リバウンドを取った選手やボール運び担当は裏のスペースにロブパスを出してきます。これ自体は高校バスケでは頻繁に見かけるシーンに思えますが、ちょっと違う点は

・パサーが固定されておらず、誰もが裏へのパスを出している
・ガード個人のスピードによるボールプッシュはしていない

前者は「個人ではなくチームのルール」であることを
後者は「走れや走れではなく、意図的なトランジション構築」であることを示しています。

そしてセンターラインに2線目の選手がフリーランニングしてきます。1線目の選手が止められた瞬間に後ろから飛び込んでくるタイミングの良さもあります。

このフリーランニングする選手もシーンによってバラバラですが、時には逆サイドから真ん中に進路変更する選手もいるので、「ワイドに広げてスペースを活用する」のは徹底されたルールです。

ちなみに、ハーフコートオフェンスでも同じことを徹底しており、シューターの八重樫だけでなく、3Pのある小澤だったり、ゴリゴリの身体能力アタックになるジェイコブスも頻繁にコーナーにポジショニングするので、コートをワイドに使う意識が高く、それも誰もがやっています。

1線目、2線目のトランジションへボールが出なくても、サイドからセンターラインへと選手がフリーランニングしたので、ディフェンスがインサイドに寄っていると、遅れてきた3線目が3Pを打つ形もあります。こちらもガードはもちろん、センターの川島まで打っており、やはり選手を選びません。

1つひとつは特別なものではありませんが、これまでの日本にない凄みを感じさせるのは

〇誰もが同じプレーをするので再現性が高い
〇「走り出し」「進路変更」のジャッジが早く、ルールが徹底されている
〇1つ目、2つ目、3つ目とプレー構築が繋がっており、ダミーの動きとしても機能している
〇ハンドラーの能力は関係ないプレーが多い

初戦、2戦目とトランジションでボコボコにしたので、次第にトランジションは減ってきました。おそらくファイナルでもトランジションの連発にはならないでしょうが、しっかりとフリーランニングしている事で次のプレーに繋がっているし、ハンドラーが関係ないシュートチャンスへと繋がっていくので、オフボールの動きに注目してください。

エルボーのダブルポストで空けたゴール下のスペースを有効活用
アングルを変えてのタッチパス

ハーフコートオフェンスになると両エルボーに選手を置いたプレーコールを好みます。U17の時は、ここで川島にボールを預けると1on1も多かったのですが、U18では抜けないことも多く、個人技が減りました。だからこそチームでの崩しが目立っています。

空いたゴール下はシューターの八重樫が両サイドへのフリーランニングで抜けて3Pチャンスを狙っているのですが、それだけでなく川島がバックドアカットも頻繁に使います。なお、これに関しては他の選手は上手くないので、ベンチからセンターが出てくるとエルボーではなくゴール下に置いて、ハイローに切り替えることも多いです。選手起用で使い分けています。

この裏に抜けるプレーもPGからダイレクトにロブが出ることもあれば、逆のポストに落としてタッチパスで裏に出すこともあります。つまり、裏のスペースを狙う事は共通理解であり、即興ではなく狙って「アングルを変えるパス」が出ています。

とにかく今回の代表はバックドア系のプレーが頻繁に出てきます。ホーバスが出来ないことが、U18ではビックリするくらい出てくるわけで、個人能力ではなく、チームオフェンスとしての狙いが明確に示されています。

ということで、2つのプレーを挙げたけど、とにかく「再現性が高い」のが特徴で、トランジションでもハーフコートでもチームとしての形が作られています。同時に(川島以外の)個人がダメでもなんとかなっています。

なお、マルチネスは素晴らしい戦術を徹底させた一方で、試合中の修正は下手です。それでいて2戦目のイランのゾーンに対して無力すぎるオフェンスを展開していたのに、準決勝になるとゾーンをやられてもオフボールムーブとパッシングでイージーにシュートチャンスを作る修正を施していました。

戦術は素晴らしく徹底されている
試合中の修正はド下手
試合間には、しっかりと修正してくる

どこのブーデンフォルツァーだよ!!
そういや代表での結果をみると、スペインにしては成績よくないもんね。

さて、これらの事実は選手に求める能力も従来とは変わってくることを示しています。おそらく、それを示す的確な例が10番の小澤だと思われます。この選手はチームで5番目の存在ながら、戦術構成において極めて重要な役割を担っています。

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