ジェイソン・キッドが歩ませた若きバックス

トレードデッドラインを前にして初めに何が起こるかと思っていたらジェイソン・キッドHCがクビになりました。フィッツデイルの時にも書きましたが、他にクビになるべきHCがいる中で驚きの決断です。

 

グリズリーズと違いバックスは成績も5割。そこから考えるとかなり微妙な解任劇なのですが、ジェイソン・キッドが何をしたのかを振り返りってみましょう。

しかし、フィッツデイルと違い就任してから長いのでデータで特徴は書けないのですが。



◉衝撃のトレード

 

大型トレードやベテランと若手の交換など様々なトレードが存在します。NBAの場合はサラリーキャップが条件に引っかかるので、さらによくわからないトレードが多く、加えて将来のドラフト指名権まで飛び交うので、理解するのが難しい事が良くあります。

そんな中でも衝撃だったトレードが2014年のオフに実現したトレード

 

ネッツ
→ジェイソン・キッドHC

バックス
→ドラフト2巡目指名権×2

新たなオーナーが新体制にネッツのHCだったキッドを迎え入れるためにドラフト指名権を放出するという内容でした。

アンテトクンポやジャバリ・パーカーを加えた若いチームに、若いレジェンドを望んだという事になります。



◉バックスの成績

 

12ー13シーズン 38勝44敗
13-14シーズン 15勝67敗
キッド就任
14-15シーズン 41勝41敗
15-16シーズン 33勝49敗
契約更新
16-17シーズン 42勝40敗
17-18シーズン 23勝22敗

こうみると就任直前からは成績を上げましたが、期待されるほどには勝てていません。

しかし、むしろ14-15シーズンに勝ち過ぎただけとも言えます。シーズン通して働いたのが若きアンテトクンポとミドルトンくらいしかいなかったのに5割は出来過ぎでした。

年を追う毎にアンテトクンポの株が高騰していく中で、フロントとしては5割という成績は納得がいかなかったと考えられますが、昨季が初めての5割だったならば考え方が違ったかもしれません。

ブレッドソーまで獲得したのだから!
そんなフロントの勘違いが解任の要因にあったのかも。



◉コアメンバーを育てる

 

アンテトクンポ
ミドルトン
ブログトン
ヘンソン

ブレッドソーとスネルを除く主力は全員がキッドHCにより育て上げられてきました。素材が良かったのか、育成が良かったのか。

どちらとも言えない選手ばかりですが、アンテトクンポがいなければ中途半端なメンバー構成と言われそうなので、しっかりと勝てるようにしてきた事は評価出来ます。

◯アンテトクンポの向上
https://stats.nba.com/player/203507

地味に偉いと思うのはアンテトクンポの成績を毎年向上させた事です。「いやいや、あれだけの才能があるのだから当然だろう」そう捉える事は間違っていないのですが、注目は毎年アテンプトが3本ずつ増えている事。

 

バックスはコアメンバーが殆ど変わっていないのに、そしてプレータイムが大きく変化したわけでもないのに、着実にチームをアンテトクンポ用に変化させているという事です。

今季で言えば、やけに個人技で特攻させるパターンを増やしました。それはチームオフェンスのバックスでアクセントとして機能させています。
その代わりインサイドの人数を減らし、ヘルプディフェンスが来にくいように設計変更しています。弾き出されたモンロー。

トライアングルみたいなパターンを多用していたイメージが、フロアを広く使って個人のスペースを確保するパターンへのシフトチェンジはアンテトクンポを起点からフィニッシャーへ、PG風からPF風へのシフトチェンジでもあります。

同じメンバーだと意外とパワーバランスを動かしにくいものです。それこそブレッドソーのいたサンズは、ブレッドソーの存在が他の選手のアテンプト数を下げていました。

 

毎年5割の結果を残しながら、選手の成長に合わせてシステムを調整していく。そんな事が出来ていたのだから、キッドの力が若手の成長を助けていたはずです。

アンテトクンポが解任を悔やんだ気持ちもわかります。



 

◉オフェンスレーティングの変化

オフェンスを導くPGとして知れたキッドですが、HCとしても大きな進歩を見せています。

◯オフェンスレーティング
14-15シーズン 100.5
15-16シーズン 102.2
16-17シーズン 106.9
17-18シーズン 107.1

15-16シーズンが不調だった事もあり、小さな伸びとなってはいますが、着実に成長させています。その特徴はFG%の高さです。

◯FG% 47.9%(3)

上にいるのはウォーリアーズとペリカンズなので正直タレントの質を考慮すれば、これ以上求めるのは厳しいラインです。
これを分割してみます。

◯FG%
ノーチャージエリア 64.7%(7)
ペイント内 41.9%(7)
ミドルレンジ 43.4%(3)
3Pエリア 34.8%(28)

つまりリーグ下位の3Pでありながら、インサイドを攻略していた事になります。オフェンスレーティングは8位ですが、3Pがほんの少し上がればイースト最高クラスのオフェンスになったはずです。

ちなみにアテンプトの多いミドルトンとブレッドソーが3Pの平均を落としているので、HCに対処出来る範囲ではなかった気がします。シューター連れてこい。



FG%が高いのは単にシュートの上手い選手が多いのではなくて、チームとして崩す形をしっかり作り、個人が暴走して打つような事がないチームオフェンスの徹底にあります。

きれいなボールムーブでフリーの選手に渡し、カットプレーやドライブ&キックアウトを駆使して無理のないシュートに繋げていきます。

アンテトクンポの個人能力に目が行きがちですが、実際にはチームとしての機能性こそがバックスの武器であり、キッドオフェンスの特徴です。

速攻も出しますがむしろこちらの方が個人能力頼みの印象もあります。まぁ単にアンテトクンポが走ったら止められないのですが。



◉ディフェンスレーティングの変化

一方で解任になって報道されるのはディフェンス問題でした。オフェンスが良くなってディフェンスが悪くなれば、それはまぁ意味がないわけです。

◯ディフェンスレーティング
14-15シーズン 99.3
15-16シーズン 105.7
16-17シーズン 106.4
17-18シーズン 107.5

難しいものですね。選手は成長しているはずが、年々ディフェンスが悪くなります。特に今季は悪い数字が並びます。

◯被FG 47.3%(27)
◯被3P 38.1%(28)

解任時の記事によると『アンテトクンポやミドルトン、ブレッドソーというディフェンス力のある選手がいながら』だそうです。

解任されたのに内容に触れても仕方ないのでムシしますが、オフェンス強化の中でディフェンス弱体化はよくある話です。それにしても全くマネジメント出来ていないような内容でした。何を優先して防ぐのかが決められていないようなディフェンス



キッドはミスが嫌いな完璧主義だったのかと思います。オフェンスでもしっかりとシュートを決める事を優先して、完全にフリーを作って決めたいタイプ

だからディフェンスもミスが発生するのを嫌う。嫌い過ぎて駆け引きがなくて、自分達が好調だと相手もシュートが決まってしまう。
ブレッドソー加入当初に一時的にディフェンスが改善した感じがありましたが、1人タイプの違う選手が混じったのが好結果を生み出したのかも。

 

リムプロテクター不足のためデアンドレ・ジョーダン獲得が騒がれています。確かにリムプロテクターは不足していますが、今は高さで守らなくなった時代。ウォーリアーズだってセルティックスだって小さいチームです。

キッドは攻守に高い判断力を求めます。ディフェンスも早い判断で自分のポジションを切り替え、全体が連動しなければいけないディフェンスをしていました。

若いチームだけど常に頭を動かさないといけないのがバックスでした。



◉バックスはどうするのか?

 

バックスがキッドをクビにしたことは驚きですが、フロントが今の成績に納得いかなかったとは想像できます。
しかし、このまま行けばプレーオフには順当に出場して、上位シードとの対決になる事はほぼ間違いありませんでした。

HCを変えたからといってイースト4位まで勝率を上げる事は難しいでしょう。むしろ逆にズルズルと負けてプレーオフを逃す可能性すらあります。

方向性があり後任が決まっているならばそれもありですが、5割のチームがショック療法のような解任をする意味合いは理解し難いものがあります。

オフェンスはそのままにディフェンスに注力する事になるでしょうが、そのHCに長期で依頼するのも方向性としては怖いところ。そこまでディフェンスに舵を切るのが正しいのか?

シーズン後ならばいろいろな名前が聞けそうですが、この時期だと難しいですね。フリーで優秀なコーチは少ないですし。

フィッツデイル?
方向性変わり過ぎでしょ。
マーク・ジャクソンの方がまだ現実的



 

◉ジェイソン・キッドはどこに行く

ネッツとバックスで一定の成果を出したと言えるキッド。そう一定の。残念ながら誰もが認めるような成果を出したとは言い難いです。

しかもオープンコートで走るような流行系ではなく、意外としっかりと組み立てるのは需要があるのかどうか。

 

レイカーズでメディア対応したり、キャブスのワガママ達をまとめたり。元スター選手としての資質を求められる可能性はあるけど、HCの特徴としてキッドに託したくなりそうなチームが現段階では見当たりません。

サンズのアレなフロントが地味なトリアーノよりも英雄キッドにする可能性もあるかな。でもトリアーノ路線は継続して欲しい。

たまたまタイミングとして上手くいってないチームが少ないとも言えます。

良いHCだと思いますが、少し引き出しが少ないかもしれないので2年くらい大学のチームを率いて経験を積んで欲しいな。



 

◉個人的に考えるバックス

バックスにはアンテトクンポとジャバリ・パーカーという2人のタレントがいて、そこに質の高いロールプレイヤーが揃っているチームだと考えています。

その意味では上位を狙える位置にいますが、パーカーがいないならば5割というのは相応しい勝率だと捉えています。

若い選手が多い中でこの結果は十分なもので、リーグでここまで若い中心選手で勝てているのはセルティックスとナゲッツくらいではないでしょうか。

もう一段階ステップを上るために、この夏にHC交代を考えるのは必要だったかもしれません。
それは今から方向性を考えた後任探しに奮闘し、シーズン終了直後にHCを交代させ、新しいHCが求める選手を移籍市場で連れてくる所までがセットです。

アンテトクンポが全てではないですが、その意向と反する決断をこんなタイミングでするのは如何なのかとも思います。2人の関係が悪いならば早々に切っても良かったと思いますが。



そしてチームとしてもキッド流は合っていました。若い選手を迷わせず、1つ1つのプレーを重要視しながらも、それぞれが自分の意思でシュートを打っている雰囲気が感じられるチームだったからです。
学びながら勝利を掴んでいるため、良い経験を積めています。

その意味でもこのままプレーオフを経験させて、足りないものが何かを知るのは重要だったはず。

キッドは「足りないもの」が何かを示すのは下手だったかもしれません。若いけど荒削りな感じを全く感じさせなかったバックス

普通の若いチームは『良い部分』と『悪い部分』が明確に分かれていたり、選手に自由を与えるからセルフィッシュなプレーが出てくるのにバックスにはそれがない。

驚いたのはブレッドソーまでしっかりとプレーさせた事です。試合終盤の緊迫したポゼッションでは、そんな荒削りな顔を見せていたので、ブレッドソーの本質はそこにあるけど、キッドがチームオフェンスで隠していたのだろうと感じました。

今はACが代役HCなので継続路線で問題ないでしょうが、外部から新HCを連れてくるとチームは意外なミスを連発するかもしれません。

それはまたバックスの伸び代かもしれません。

総合的に言えば遅かれ早かれHC交代はあったと思いますが、それをこのタイミングで実行するのは必要性が低かったのではないかと。

キッドの可能性もバックスの可能性も、どちらもまだ見えていなかった気がします。



 

◉あとがき

フィッツデイルと違って難しかったジェイソン・キッドのトリビュート記事

キッドは良いHCだと思います。でも、みんなが期待するのはあの速攻スタイルと相手の裏を欠くパスゲーム。プレーヤーキッドのイメージがHCキッドのジャマをしている気もします。

大学でコーチをして欲しいというのは、自分のスタイルに大きく偏ったチームを作って欲しいからです。もっと面白いHCになって戻ってきてくれる気がします。

そんな中です1つだけ例外が。すぐにHCをやって欲しいチームがあります。

シクサーズ

新たなパスマスターのベン・シモンズ
ボールムーブの達人TJマッコネル

この2人にポストで攻守にリーグ最高峰のプレーをみせるエンビートがいるシクサーズならば、プレーヤーキッドらしい速攻スタイルとHCキッドらしいバランスのとれたハーフコートゲーム、その両方を実現してくれるのではないかと期待しています。

キッドHCお疲れ様でした。また会いましょう!

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