3Pシューターを場合分けする続きです。
前回の場合分けはこんな感じ
・チームでのアテンプト割合
・キャッチ&シュートとプルアップ
・フリーとタイト
シュート力を測れそうな分け方をしてみました。今回はシュート力の指標というよりも、戦術的な特徴から個人のシュート力を調べてみます。
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◉ダリル・モーレイ
ロケッツのGMダリル・モーレイはNBA版マネーボールを実現しようとしました。その発想は今では一般的な「ゴール下か3Pか」に代表される確率面での効率性の追求にあります。
さて、マネーボールをもじってモーレイ・ボールと呼ばれる戦術について簡単に説明したいのですが、よく考えたらこの理論の詳細をよく知りません。
詳しいリンク先を探してみましたが、見当たらないので、どなたか教えて下さい。正誤問わず個人のブログでも良いのですが。
◯モーレイへのヒント
http://number.bunshun.jp/articles/-/827391
http://tunadrama.com/blog/rockets-gm-does-ama-on-reddit
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モーレイの発想はいくつかの点では明らかに優れており、いくつかの点では机上の空論とされています。真偽がわからないというやつです。
そんな中で昨季はさらなる飛躍を果たしたロケッツ。その理由はマイク・ダントーニの就任ですが、モーレイ自身はダントーニ反対派だったというので、それはまた面白い。
クリス・ポールで強化したダントーニ方式は更に面白い。
ロケッツで起きている現象はダントーニという稀代の革命的戦術家によるシステム構築と、オタクの理論であるダリル・モーレイの選手評価が混じって出来上がっています。
そんなわけでモーレイボール、というと正しくないかもしれないので、あくまでも管理人が考えるロケッツのシューティングに対する発想はこんな感じ。
①シュートはトップからが最も効率的
これは常にリングに正対しているトップからの3Pは確率良く決まりやすいもの。
一方でトップから打つパターンをデザインしても、ディフェンス側もローテーションし易い位置なのでそんな簡単には打てません。
だからロケッツはトップにスペースを空けて、ハーデンとクリス・ポールが個人技からプルアップで打ちやすくしています。デザインは出来ないけど個人技では打ち易い。
これは『難しいプルアップを打つのには、簡単なトップから打たせたい』という発想だと考えます。
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②45°からディープ3P
ロケッツは45°だとロングレンジからでも狙います。得意なのはゴードンとアンダーソンですが、そこにグリーンが加わりました。
その理由はトップにスペースを構築するために45°はヘルプディフェンスさせないスペーシングが必要になります。
ハーデンがトップ勝負を仕掛けて失敗しても、簡単に45°にパスしてリターンをもらう場面が多くあります。外に開くからパスし易い一面です。
シュートの砲台として動かさないならば、スペーシングのためにロングレンジからでも決める能力が必要になります。
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③コーナー3Pは個人能力で補う
トップに比べて難しいのがコーナー3Pです。コートが狭い事やパスの角度とリングの向きを自分で調整する必要もあります。ただし、実際には確率が高いそうです。それは少し距離が短いから。
3Pを増やし、フロアを広く使うためには欠かせないのがコーナー3P。そしてディフェンスからすると最もフリーにしてしまうのがコーナーでもあります。
フリーにしてはいけないはずのカリーだってコーナーからフリーで打ちます。ボールを回された先になると追いかけきれない位置です。
しかし、コーナーの問題はそんな事よりもコーナーでプレーする選手はどんな選手なのかという事。
カリーは特殊ですが、一般的にスタークラスの選手だと自分でボールを持ってプレーする事が多いので、コーナーから打つ経験が少なかったりします。
更に止まってパスを待ち続け、シュートの時にしか触らないのはリズムを掴みにくいもの。
だから『コーナー3Pが得意なロールプレーヤーを連れてくるべき』です。PJタッカーやバーアムーテは昨季それを示しましたし、ディフェンス専任のベバリーはひたすら待てる選手でした。
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そんなわけでロケッツ理論は同じ3Pでも放つ位置によって選手に求めるシュート能力に違いがあります。
トップは自分でクリエイト出来る選手
45°は距離が関係ない選手
コーナーは待ってもリズムを失わない選手
この中で前2つはダントーニ流なので他のチームで必要とされるわけではありません。しかし、コーナーに関しては活用するチームは多くなっています。
それは言い換えれば、主にロールプレーヤーに担当させるので、どのチームもFA市場で探し易い選手でもあります。
そんなわけで戦術的な視点でコーナー3Pは重要な個人能力であり、ロールプレーヤーが生き残る術でもあります。
頑張ろう!渡邊雄太!
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◉コーナーが得意なのは誰か?
◯左コーナー部門 トータル25本以上
クレイ・トンプソン 59.3%
コーバー 57.7%
ダニエルズ 55.6%
ムーア 53.1%
コートニー・リー 51.5%
JRスミス 50.0%
ブラッドリー 48.9%
ボグダノビッチ 48.5%
フォーブス 48.0%
ホリデー 48.0%
続くは続くは高確率の選手達。本数が少ないので、偶然の要素もありますが、FG50%超えるだけでも凄いのに、3Pが60%近く決まるクレイ・トンプソンは何なのか!
50%以上 6人
45%以上 12人
40%以上 12人
合計で30人が40%を上回ります。アテンプトが多いのはアリーザやムーアになります。2人はコーナーで待つタイプです。
トンプソンは素晴らしいけど、コーナーで待つタイプではありません。流れの中でコーナーで貰って打つ。コーバーとダニエルズも移動型シューターなので、コーナーで待つパターンは少ないです。
確率的には難しいはずのコーナー3Pですが、意外とよく決まるのはフリーの状況が多いからと言えます。40%以上が30人いるのだから各チーム1人は抱えていないと戦術的に不利になります。
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◯右コーナー部門
プリンス 68%
キャロル 55.2%
JRスミス 51.9%
ボグダノビッチ 51.7%
ムーア 50.0%
OGアヌノビー 50.0%
トリバー 50.0%
ダリウス・ミラー 50.0%
こちらも高確率ですが、顔ぶれが変わります。例えばキャロルは左コーナーだと33.3%、トリバーは20%です。左右で差が出るのはシュートモーションの違いなのか、慣れなのか?
両サイドからよく決めている選手もいます。ところが彼らはコーナー以外が決まらない。JRスミスは27.9%、アヌノビーは26.3%。
50%以上 8人
45%以上 7人
40%以上 5人
こちらは23人と少し少な目。左コーナーはトップ3人がいわゆるシューターだったのに対し、右コーナーにはより専門家みたいな選手が。
つまり左コーナーよりも右コーナーの方が待つタイプが多い、もしくは待つタイプの方が高確率で決まるという事に。移動型シューターは誰もいません。
右コーナーを活用するにはシューターというよりもコーナー専門職が欲しくなります。それはつまりシューター以外の特徴がありながらコーナー3Pを決められる選手です。
ラプターズ時代のパターソンとか、渡邊の先輩キャバナーとか。
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左コーナーはスペースを空けておきシューターが移動して使い、右コーナーは選手を固定するケースが多くあります。
これは1つには右利きが多いので左コーナーの方が自分が動いてからボールをもらっても打ちやすい点があります。
対して右コーナーは出来れば横からのパスではなくリング側からボールを貰いたい。そして左サイドから右手でドライブした時に右コーナーにはパスが出しやすい。
NBAプレーヤーなのだから利き手関係ない、というのも事実ですがセットするのだから、色んな条件の中で比較的そうなりやすいというレベルです。
ちなみに左利きのガード2人のヒートは右コーナーに移動して打たせるパターンが好きだったりします。普通の逆。イメージですが。
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左右分けましたが、本数・確率共にバランス良く両コーナーから打っている良い選手を探します。
◯両コーナー担当
アリーザ
イングルス
ジェイレン・ブラウン
アヌノビー
ボグダノビッチ
ベンダー
JRスミス
3番手スコアラーみたいな選手が並びます。コーナーに待つタイプのシューターを置くのはスペーシングのためでもあり、ディフェンスがヘルプに行かなければ何もしません。
単なるロールプレーヤーならば、スペーシングのために片方のコーナー固定で待たせても良いのですが、それなりに決めさせたい選手には両コーナーを使わせる意識があるのかも。
ロールプレーヤー以上中心選手未満みたいな選手達。
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◉チーム別に比較してみる
両コーナーをチーム別で確認しておきます。確率上位5チームです。
◯左コーナー
ニックス
ジャズ
セルティックス
マジック
バックス
◯右コーナー
ホークス
ペイサーズ
ホーネッツ
ピストンズ
ラプターズ
見事に全部違うチーム名が並びました。シューターの質なのか、セットの特徴なのか。観察してみると面白いかもしれません。
重要度が高まっているコーナーからの3Pですが、選手本人のシュート力よりも、チームとしてどこでどう打たせるのか、そんな視点の方が重要なのかもしれません。
そしてここに載せたチームは高確率ばかりです。これが実は入らないチームはとことん入らない。クリッパーズやグリズリーズは酷い確率です。
そして片方のコーナーは決まるけど逆サイドは酷い確率のウィザーズ、シクサーズ、マジックなんかもいます。
シューター個人の資質は必要だけど、どんな風にデザインしているかで結果が大きく変化してしまうのがコーナーの特徴です。
フォーメーションと選手をどう組み合わせるか。オフェンスコーディネーターの腕の見せ所です。机上で作り上げるフォーメーションだけではダメで、選手が最も力を発揮する見え難い資質を見抜く力が必要です。
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◉アンチ・モーレイ
モーレイに否定されるのはミドルレンジ。今回使うのはペイント外で3Pライン内という数字です。本当は3P一歩手前とかにしたいのですが、どこかにデータないのかな?
そんなミドルレンジの確率が良いのは誰なのか?
アテンプト3本以上で調べます。
◯ミドルレンジの確率
マイルズ・ターナー 51.9%
ミドルトン 50.9%
デュラント 49.8%
レディック 49.7%
クレイ・トンプソン 49.4%
エバン・ターナー 49.0%
ダレン・コリソン 48.3%
デローザン 47.2%
ビール 45.6%
デバン・ブッカー 45.6%
こうみると最も確率の良いターナーでも、効率論的に3P35%の方が価値が高いのでモーレイ理論もよく分かります。しかし、何人かの例外はいますがスコアラー達が並んでいます。
本当は得点のためには重要なミドル。語り出すとキリがないので、割愛しますがロケッツが3Pに走る理由はハッキリ出ています。
要はミドルを使わなくても成り立つシステムを作り上げたダントーニがモーレイ理論を形にしたと言えます。
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脱線します。
コーナー3Pで左右共にアテンプトトップのアリーザのシュートアテンプトを分類します。
◯アリーザのシュート分類
ノーチャージエリア 89
ペイント内 12
ミドル 4
右コーナー 65
左コーナー 53
他の3P 169
392本打ちながら「ゴール下か3P」以外は16本しか打っていないアリーザ。
練り上げられた戦術をその通りに実行してしまうのも重要な能力です。ここまで出来る選手は珍しい。しかも両コーナーから45%を超える確率です。
モーレイ理論をシステム化したのがダントーニならば、システムをコートで的確に表現したのがアリーザです。結局は選手が最も大切。
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◉話をまとめていこう
3Pを有効活用するという発想はハッキリとしています。これは別にロケッツに限った話ではありません。しかし、その活用方法は様々です。
3Pは2Pの1.5倍の価値がある
この言葉は事実ですが「だから3P打てば良い」というのは嘘です。事実ならば3Pランキング上位の選手を抱えていれば絶対に勝てるわけです。そんなわけない。
さらに同じ3Pシューターといっても様々なシチュエーションで得手不得手があるわけです。 だから
それぞれが得意なシチュエーションでシューターを活かしてあげるのが大切なんだ!
ここまでが前回触れた内容です。選手ベースに物事を考えたシューターの分類。
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今回はロケッツ先生を例にあげながら
『チームとして考えて、誰が優秀なシューターか』
という視点を求めています。
左右のコーナーで優秀な選手が違うというのは、選手の差以上にチームのシステムとして左右のコーナーの使い方に違いがあるという事です。
それ以上にコーナーの確率が高いチームと低いチームがあるわけです。アテンプトの多いチームと少ないチームがあるわけです。
佐々木クリス氏のコラムでは、コーナー3Pと勝率を比べているわけですが、それはつまり
「コーナー3Pが得意な選手のために戦術が構成されている」
のではなく
「コーナー3Pがチーム戦術では重要である」
という前提が存在するから考察されているわけです。この違いは単なるシューターとしての良し悪しとは全く違うものになります。
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◉3Pを活用するチームはどこか
今回は100回のポゼッションで比較し、3Pが決まった本数純に並べます。つまりは3Pでの得点数が多いチーム
◯3P
ロケッツ 15.5
キャブス 12.1
マブス 12.0
セルティックス 11.7
ヒート 11.6
ネッツ 11.5
ジャズ 11.4
ウォーリアーズ 11.3
ピストンズ 11.0
ラプターズ 11.0
戦術的なチームが並びます。まぁ18位まで10本以上ですから大して違いはありません。
さて、上位2チームは共にウォーリアーズを倒す事だけが目標みたいなチームです。そして共に誰もがシューターになるようなチーム構成です。
ただし、ロケッツとキャブスは同じようでいて、根本が大きく違います。
どのようなチーム、戦術をするべきかという発想の中で選手を集め3Pを取り込んでいるロケッツ
中心選手の特徴を考えて3Pシューターが必要だから集めたキャブス
結果は似ているけどスタートラインが違うので出来上がったチームも違うものだと考えています。この違いは本題には関係ありません。
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3Pで得点をあげるのがウォーリアーズ
そのイメージは強く、実際に本数も8位にランクインしています。それでいて確率が高いチームです。しかし、その構成はロケッツとは大きく異なります。
両チームの100ポゼッション毎で2本以上成功させる選手を並べてみます。
◯ロケッツの3P成功数
チーム 15.5
グリーン 5.9
ハーデン 5.3
ゴードン 4.8
ブラウン 4.6
CP3 3.9
アンダーソン 3.6
アリーザ 3.6
バーアムーテ 2.1
モーレイにより3Pが得意な選手が集められているため、満遍なく打っていることがわかります。ボビー・ブラウンがいるのは単に打ちすぎだからです。実質7人。
◯ウォーリアーズの3P成功数
チーム 11.3
カリー 5.7
トンプソン 4.7
ヤング 4.6
デュラント 3.4
クック 2.4
一方のウォーリアーズは実質4人だけです。もちろん全体数が少ないからではありますが、3Pが得意な選手を集めたロケッツに対し、特定のシューターを活かすために取り入れている印象が強くなるウォーリアーズです。
確率の高い選手に打たせているウォーリアーズと確率の高い選手を集めているロケッツの違いです。
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3Pシューターは重要です。
だけど、チームのシステムに組み込む方法はもっと重要です。
そんな事を感じるための今回のシューターの並べ方です。
データを活用して選手を集めたモーレイ
3Pを活用してハイスコアを生み出すシステムを構築したダントーニ
どちらも重要なのは間違いない。
しかし、借りにロケッツにシューターが少なかったとしても、それはそれでダントーニはなんとかしたでしょう。
モーレイの正しさを証明するには、強いけど勝てないチームと呼ばれてきたダントーニが優勝するしかありません。
カリー&トンプソンを活かすウォーリアーズ
理想のためにシューターを集めたロケッツ
レブロンのためにシューターを集めたキャブス
三者三様のスタートラインから3Pを活用するチームが優勝争いの本命にいます。3Pは必要だけど戦術的な活用はもっと大切。
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◉あとがき
軌道修正したこともあり、前回の続きなのだけど、ロケッツについて語るかのような内容になってしまいました。 ホークスにすれば良かったかな。
まぁNBAをより楽しく観るという視点では、お気に入りチームのコーナーの成績をみていただき、どちらのコーナーで誰がどんな確率で決めているかを知ることで、試合をみても新しい発見があるのではないかという事です。
優秀なシューターは必要不可欠だけど、誰もが打てなければいけない訳ではないです。
思い出して欲しいのは今回の企画の初回に出てきたサンダーのロバーソン。シュート能力を隠すかのように違う役割をこなしています。逆にロバーソンを補うのがポール・ジョージとカーメロです。ウエストブルックの分も補うわけですが。
前回と今回のシューター企画にアンチシューター企画も合わせて、シューターたちを並び替える事でオフェンスの見方が変わってくれば面白いかなと思いました。
そういえばアイデアを頂いたのに、コーバー得意のクラッチタイムに触れるのをすっかり忘れていました。
延長戦です。
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◉シューターをクラッチタイムで並び替えてみたよ。
勝負強いのは誰なのか?
クラッチタイムを比べます。ただ、クラッチタイムはそもそもチームが接戦で終盤を迎える回数次第で母数が大きく変わるので、どこまで参考になるのか。
1番打っているのはウエストブルックですが、単にクラッチタイムが長いだけの気もします。
◯アテンプト順と確率
ウエストブルック 20.0%
レブロン 29.4%
マルケネン 34.5%
アーヴィング 28.6%
ディンウィディー 22.2%
ケンバ 16.7%
マシューズ 25.0%
ビール 21.7%
クズマ 30.4%
オラディポ 36.4%
ポルジンギス 40.0%
みんな酷いもんだな。でも何となく自分が打たなければいけない選手ほど確率が低いように思えます。クラッチタイムに打たせたくない選手ほど低いともいえます。
ホーネッツなら絶対にケンバ
キャブスなら絶対にレブロン
ネッツなら絶対にディンウィディー
ビールやアーヴィングは絶対ではないけど最も警戒しておきたい選手です。ウエストブルックはドライブされるより打たせた方がマシだけど。
結局はフリーで打てる、つまりディフェンスが警戒を緩めてくれやすい方が確率が高いという事です。
こうみるとマルケネンとポルジンギスのビッグマン2人は、身長が高い分だけ安定して打てそうな雰囲気があります。ディフェンスプレッシャーで普通に打つのが難しい選手は外してしまう。
結局は3Pはフリーで打たせるのが最高なのさ。そんな当たり前の結論になりそうです。
コーバー出てこなかったな。