代役スター・ブロンソン

ジェイレン・ブロンソンはビラノバ出身のPGで18年ドラフト33位。この年のビラノバはNCAAを制したチームで、HCジェイ・ライトの下、NBAよりも魅力的なオフェンスシステムで見事なシューティングチームを作りました。

ドラフトはディヴィチェンゾ、ミカル・ブリッジス、スペルマンが1巡目指名され、PGブロンソンは一番評価が低い選手でもありました。翌年にはパスカルもNBAにきており、なかなかのスーパーチームですが、いずれも圧倒的な個人技というよりは確かな戦術眼で貢献できるタイプの選手です。

この大学時代のシステムや個人に求められるプレーは、強気なシューティングを武器にするマブスと共通する要素も多く、ブロンソンの持つポテンシャルを最大限に発揮させている気もします。

「ルー・ウィリアムスやジョーダン・クラークソンのようなシックスマン・スコアラーとして輝くタイプ」という印象は今も変わらないのですが、この2人は流れるような個人技からタフショットを決めきるため、チームオフェンスの外で点を取っていくのに対して、ブロンソンにはそこまでの個人技はなく、一方で強気なシュートを生かして見事にオプションにもなれる不思議なタイプでもあります。

チームオフェンスの中にいても違和感のないスコアラーは、12月10日を最後にドンチッチが離脱しているマブスでは、見事なスーパースターの代役をこなしています。

〇ドンチッチ不在のブロンソン
34.7分
21.0点
FG51.3%
3P37.5%
7.4アシスト
2.1ターンオーバー

ドンチッチのようなスーパースターぶりというか、止められない個人能力を感じさせない一方で、ドンチッチにはない魅力で見事にチームを引っ張っているブロンソン。今回はブロンソンをブレークダウンしてみましょう。

◎高いシュート能力

ビラノバらしくシュート能力の高さが光るブロンソンは、左利きならではのタイミングずらしも含めて、タッチの良さで得点を取っていきます。特に特徴的なのはミドルレンジの上手さと、フェイダウェイの上手さです。クラークソンやルーが流れながらの難しいシュートを上手く決めるのに対して、ブロンソンは正しいシュートをうって、正しく決めていきます。

〇FG成功率
ミドル 46.3%
3P  37.5%

〇FGアテンプト
ゴール下 99本
ペイント内 122本
ミドル 108本
3P  100本

ミドルを100本以上打っている選手の中で成功率は10位となり、リーグのエリートミドルレンジシューターです。その一方で現代バスケからすると3Pとゴール下のアテンプト数が少なく、ショートレンジ(ペイント内)も含めて、シュートの半分以上が2Pジャンプシュートになっており、まるでデローザンのようなタイプってことになります。

このタイプは2P45%を下回った瞬間に「効率の悪い選手」と化しますが、ブロンソンはわずか185cmで高さがないにもかかわらず、高確率のジャンプシュートで生き残っているレアなシックスマンと言えます。同時にマブスというチームが「3Pかゴール下か」を強く打ち出すチームであれば生き残れなかったでしょう。

シックスマンなのにエースのようにミドルを打つ

現代バスケのサポートキャストに求められる3P能力を持ちながら、ブロンソン自身はエースキャラのシュートチョイスをしています。現代バスケをみているほどに、極めて不思議なプレースタイルなわけです。そして、この能力が「ドンビッチ不在時のエースとして機能している」ことにも繋がっています。代役スター。

〇フェイダウェイ 52.9%
〇ゴール下 72.7%

ブロンソンのスタイルを成立させている違う要素は、フェイダウェイの上手さです。マイケル・ジョーダンの時代には重要だったフェイダウェイですが、現代的にはそこまで重要ではない。ただ、ブロンソンはこれを53%も決めており、困りそうになった時に逃げ道を持っています。

その一方で驚くべきはゴール下へ進入したときの成功率の高さです。99本のアテンプトのうち72本成功。外した27本のうちブロックされたのは8本なので、自分のシュートミスが極めて少ないことになります。

フェイダウェイの上手さ + ゴール下へ飛び込む判断力の高さ

シンプルに言えば単なるシュートの上手さに加えて「ブロックされないシュートを選択する判断力」を持っているのがブロンソンです。この能力は極めて分かりにくい。わかりにくいけど、ここが難しいプレーをもチョイスして決めるドンチッチとの違いになっています。ドンチッチは難しいのを決める。ブロンソンは難しいことをチョイスしたがらない。

◎アシストとターンオーバー

ドンチッチ不在時に7.4アシストを記録しているブロンソン。これだけみると「得点も取れてアシストも多い素晴らしいPG」なのですが、ブロンソンのプレーメイク能力はさほど高くない。マブスのオフェンスはドンチッチがいない事で、どこかでムリをしたいときに困り果ててしまいます。

〇ドンチッチのドライブ
回数  18.8回
パス   7.6回
アシスト 2.5回

〇ブロンソンのドライブ
回数  14.5回
パス   6.3回
アシスト 1.5回

例えばドライブをみてみると、ドンチッチとブロンソンは共にマブスの中ではドライブが多く、そこからパスをチョイスする回数も似たようなものです。でもアシストになるのはドンチッチの方が多く、ここでブロンソンとは能力差が出てきます。

その一方でブロンソンがアシストを稼ぐのは「エクストラパスの上手さ」だったりします。自らのプレーメイクで打開するというよりは、流れの中で中継役になって他の選手に打たせるのが上手い。もちろん、ドライブキックアウトもありますが、驚くようなパスだったり、広い視野で動いている選手をみつける上手さというよりは、極めてベーシックな「空いている選手にパスを出す」ことだし、その多くはショートパスになっています。

ドンチッチ離脱後のアシスト数はちょっと出来すぎなんだけど、それは他のPGも離脱していることが関係しているね。一方でドンチッチがいてもエクストラパスの上手さは使えるというか、むしろ増えるのでセカンドPGとしてのアシストは多い。

ここら辺は面白い面でもあって、シュートチョイスを見ると「エースに許されるチョイス」なのでドンチッチと同時にコートに置くのは向いていないのですが、「エクストラパスでフリーの選手を使うのが上手い」のは、むしろドンチッチと同時にコートに置いておきたいよね。

ドンチッチと同時起用でも使えるアシスト能力
ドンチッチと同時起用は避けたい得点能力

だからブロンソンってちょっと悩んじゃうタイプ。何が正解なのかわからない。ドンチッチとフィットしている気もするし、していない気もする。シックスマンの気もするし、スターターの気もする。救いは3Pが上手いことだね。

〇アシスト 5.6
〇ターンオーバー 1.6

そして、もう1つブロンソンを使える選手にしているのが、ターンオーバーの少なさ。トータルでは2を下回っており、アシスト/ターンオーバー率はクリス・ポールクラスです。

総じて大胆なプレーメイクは出来ないけど、とにかくミスをしない。堅実なショートパスをつないていくタイプです。そしてミスをするくらいなら自分で打つ。そんな感じのブロンソン。

この能力は「スーパースター不在のチーム」という構図にもぴったり当てはまっているのが、今のマブスで面白い部分でもあります。ドンチッチがいないため、オフェンスが停滞したときに打開することが出来ない。だから物凄く苦しいのだけど、その代わりにミスをしないから接戦に持ち込めており、相手がミスをしてくれれば勝ち切ることが出来ます。

ミスの少ないプレーチョイスをするPG

うーん、代役PGとしては頼りになるね。でも、これだけならば単なる「良いPG」であり、場合によっては「物足りないPG」になりがちです。だけど、ブロンソンの場合はミスの少ないPGといいつつも、そのプレーイメージは全く違って

強気なプレーチョイスをするPG

「強気」と「堅実さ」が同居している奇妙な選手なのです。その中では「堅実」というよりは「大胆ではない」くらいの表現の方が合っている気もする。そして「クレバー」って感じではなく「強気」なのです。一般的に考える対義語とプレーのイメージが違う変な選手だ。変な選手ってのは評価しにくい。

◎クリス・ポールになれるのか

ブロックさせないシュート判断
強気なシューティング
堅実なショートパス
ミスの少ないプレーメイク

こうやって考えてみると一番近い選手がクリス・ポールに見えてくるブロンソン。クリス・ポールは大胆だし、ゲームの中で変化をつけていくコントロールもすれば、時に相手を小ばかにするトリッキーさも持っているので、ブロンソンには足りない要素もあるけど、アンチ現代なミドルレンジゲームと、そこからのアシストってのも含めて、現代PGには珍しいクリス・ポール感があります。勝負強さもあるよね。

また、もう1つクリス・ポールっぽいのは、小さい選手ながらスピードを武器にしていない事でもあります。縦に抜けるスピードで勝負する小さい選手は多いし、スピードはなくても運動量とアジリティを武器にする好ガードも多いけど、ブロンソンはスピードに特徴を持っていません。

またブロンソンは86キロの体重があり、185cmながらフィジカルの強さで戦っているのもクリス・ポールっぽい。この人もサイズに似合わずゴール下でファイトするディフェンダーのため、マブスのスモールラインナップを支えています。まぁDIFFは悪いんだけどね。

フェイダウェイやミドルの上手さを支えているのは、ドライブからコンタクトしてもバランスを崩さずにシュートに行ける強さになっていて、流れながらのシュートではなく、強気にぶつかることを選びます。

「シュートが上手い選手」はカリーに代表されるように、軽やかなムーブと空間把握能力の高さが目立つけど、ブロンソンの場合はフィジカルコンタクトから「普通のモーションでジャンプシュート」に行く感じなので、特別シュートが上手いイメージにもならない。

他の選手には出来ないようなムーブはしないし、スペシャルな武器もない。だけど強気なチョイスと確率の高いプレーで代役スターをしているブロンソン。このタイプの選手って地道にスタッツを残していく事で評価されるので、いろいろと難しいよね。そして3P時代においてミドルを武器にしている選手が目立ってきたのは、この2年なので、ここから高く評価されていく選手かもしれません。

個人的には3Pとゴール下を攻めていく形が一般化した中で、他の攻撃手段を持つ「多様性」が大事だと思っており、その中でブロンソンのショートレンジ・ミドルレンジは「買い」です。一方でブロンソンは堅実なチョイスであり、多様なプレーはしてくれません。だから益々、その必要性が見えにくい。

ルー・ウィリアムスやクラークソンのように他の選手には決まらないタフショットを沈めて、個人技スコアラーになるタイプではない。
TJマッコネルやイングルスのように多彩なプレーを生み出すイマジネーションのあるプレーメイカーではない。

ちょっと不思議なブロンソン。スタッツが物語るほど素晴らしくはないんだけど、イメージよりもずっと効率的なプレーで結果を残していくれている。ドンチッチ不在のチームで頼りがいのある代役スターになっています。

代役スター・ブロンソン” への2件のフィードバック

  1. 本年もよろしくお願いします。
    ブロンソン難しいですよね。他チームのスターターと遜色ないプレーをしていると思いますが、ロスターとディフェンスの兼ね合いで、プレーオフになるとそこまでミニッツ割けなさそうなんですよね。
    去年のプレーオフではスイッチで狙われて出番失っていたのが印象的でした。
    ブロンソンと共存できるようにディフェンス向上を頼むドンチッチ!
    レブロン、KDクラスとまではいかなくてもディフェンス時の隠れる担当がブロンソンになる位になってほしいなあと思ってます。
    ブロンソンは今年で契約切れるはずなので、オフでどうなるか楽しみです。
    感情的には可能な限り残って欲しいですが、ロスターバランス的にはそこまでお金を出せないのかなあ。

    1. ブロンソンはいくら稼ぐんでしょうね。
      マブスの選手って、マブスが一番高く評価していそうなので、再契約は問題なさそうですが。

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