ウィンターカップファイナル雑感

年の瀬を迎えウィンターカップもファイナルです。試合を見たので感想を書いてみるわけですが、ファイナルしか見ていないので、両チームの事を知りません。前情報がない中では、何が正解なのかはわからないので、あくまでも雑感って事で。

ただ、今回はU19からの流れがあります。U19で印象的だったのは山崎イブですが準決勝で負けてしまいました。基本的には「完成度の戦い」を競うのがコンペティションなので、才能がある選手が勝ち上がるとは限らないよね。そんなことも感じるファイナルでした。

◎ガマンの帝京長岡

両チームともに固いディフェンスからはいるファイナルとなりました。てっきり「走りまくるぜベイベー」な高校バスケかと思っていたので、そうではないチームがファイナルに来たのは良い傾向です。特に帝京長岡は留学生こそいれど、全体的にサイズがあるわけではなく、個々のフィジカルを鍛え、ハードなディフェンスと明確なハーフコートオフェンスで戦うチームでした。高校バスケの強豪では、形は違えど走ることが多いことを考えると、異質なスタイルかもしれません。

留学生コネの高さを使う帝京長岡に対して、福大大濠はゾーンを使ってきました。このゾーンに対して帝京長岡は無力でした。ビックリするほどに無力。彼らはコネの高さ対策としてゾーンを敷かれることも多かったはずですが、そんなゾーンも「コネの高さ」で攻略してきたのでしょう。ここが通用しないと途端に苦しかった印象です。

帝京長岡が苦しんだ理由は後述しますが、「完成度の戦い」という前提で見た時に、【明らかに苦しいにもかかわらず、動かなかった帝京長岡】という構図は、上手くいかなくても慌てることなくディフェンスから戦える成熟度ともいえます。こんなに点が取れなかったら、自分たちの形を乱してしまいがちですが、淡々と、延々と、攻略できない形で攻めていました。

帝京長岡のアウトサイド3人はオフボールでの動きに乏しく、バランスを保ったポジショニングをしていきます。相手はゾーンなのだから視覚から消える動きを繰り返すことで、少しは違いが作れたはずです。それくらいの個人戦術力は間違いなく持ち合わせているはずですが、動くのはせいぜい1人だけで、コネの動き方も大きく変えることなく、地味なプレーを繰り返しました。

ポジションを変えていくオフェンスを展開すると、プレスが得意な大濠にハマってカウンターを食らうリスクが高まります。そのため前半から積極的に動くのはマズい、というHCの判断が見え隠れしていました。

特に帝京長岡自身も守ってからのカウンターで打開したい意思があったので、オフェンスでリスクを取ることを良しとしなかったのでしょう。もしも、大濠のオフェンスがもっと上手く行っていたら、帝京長岡も早めに動いた可能性があります。ロースコアだったからこそ、動かなかったのでしょう。

そんなわけで、よくもまぁ耐えているなって感じでした。管理人がコートに居たら、ガマンならずに動いていたよ。それくらいゾーン攻略していなかったのです。ガマンできるのは完成度の高さです。なお、変化出来るのも完成度の高さですが、そこまで動けるチームだったかは不明です。

ちなみにゾーン攻略の話をすると、この前半の形を繰り返していても「コネに対するファールの増加」で何とか出来るという考え方もあったと思いますが、ボールキャッチした瞬間に手を叩かれても全くコールしないレフリングだったので成立しませんでした。大濠の収縮スピードは素晴らしかったのですが、だからといってパスカットできるはずもなく、叩きまくっているように見えました。画面アップしてくれないと詳細は不明。

◎変わらなかった大濠

一方で帝京長岡のディフェンスも強烈でした。4人のハイプレスは鍛えられた肉体もあって、抜かれることはあるのですが、大濠の選手が十分な体制でプルアップジャンパーを打つことを殆ど許してくれませんでした。そうしてドライブさせるとインサイドでコネが待ち構えています。

コネのブロック力は素晴らしく「205センチで高いから」と言われそうですが、そんな単純ではなく、素晴らしくガマンして正確にボールを叩くスキルを持っていました。大濠はドライブアタックしているのだから、動きながらの選手を捉まえてボールを叩くのは高さだけでは無理です。

大濠はバカみたいにゴール下特攻してブロックされていましたが、ひょっとすると大濠にとっても想像以上のブロック力だったのかもしれません。普通はあれだけドライブしていれば、半分くらいは成功するのに、本当にシャットダウンされてしまった。コネのリムプロテクト力に完敗の大濠。

しかし、コネはゴール下で待ち構えるタイプのため、マークされていた川島はアウトサイドでは常にドフリー。ハイポストでもフリーでした。必然的に他の選手もゴール下ではなくショートレンジやミドルを打って行けば、いくらでも打開できたはずです。実際、岩下と湧川の2人はミドルを決めていたはずです。記録は曖昧だけどさ。

この点で大濠も前半から打開に動くことが出来たはず。「コネを引き出す」プレーが欲しかったのですが、やりませんでした。でも、この点は帝京長岡のガマンと同じくくりには出来ません。だってコネにブロック食らっているんだもん。

結局、後半になっても大濠は変化しておらず、空けられた川島のシュートが目立つことになりました。ちょっと強豪チームのワガママさが見えた部分になっていて、自分たちの日常に拘り過ぎた感じがあります。試合は相手があるもので、相手に応じたプレーの引き出しは必要。でも、ストロングスタイルなのは強豪チームならではかな。留学生対策はしているけどね。

U19の無策さを思い出してしまうんだよね。「高さをスピードで制す」とかいっといて、ストロングスタイルで走っていただけの佐古スタイル。あれは酷かったわけですが、世界各国の様々なバスケにアジャストしないチームは弱いよ。ちなみにアメリカもアジャストしないよ。ストロングだから。

世界大会を見ると「日本はフローターが下手」という感想がいっぱい出てくると思いますが、別に世界大会じゃなくても似たような要素が多いわけです。ちなみに帝京長岡の方もブロックされまくっていたので、両チームに共通する課題でした。

戦術的な変化は別として、スキルベースとして引き出しが足りないように見えた大濠。前半は大濠のディフェンスの方が効いており、常に優位に進めていたのですが、点差を広げられなかったのはフィニッシュスキルの課題でした。ちょっとストロングすぎて、普段なら通よする得点パターンが通じなかったのかもしれません。

◎ゾーンを崩す

ハーフタイムを挟み、帝京長岡のHCは動きます。全く崩せなかったゾーンに対して手を打ってきました。ってことで、先にゾーンが効いていた理由を考えてみましょう。

大濠の湧川は193センチのサイズに似つかわしくないアジリティを持ち、ゾーンプレスでも最前線を担当し、スティールを生み出す選手です。きっと。その湧川がゾーンの一角で立っているだけでもプレッシャーになっていたような帝京長岡は、インサイドのコネが空いているように見えてもパスを躊躇ってしまいました。

2-3ゾーンのため、真ん中のハイポストにボールを預けることはセオリーです。でもセオリーはセオリーに過ぎず、前の2人のパスカットに怯えているようなガード陣。コネをハイポストに出し、ボールはウイングに流してゴール下へのパスを狙うのが帝京長岡のゾーン攻略に見えましたが、インサイドに出す全てのパスをカットしそうな大濠ゾーンにビビっていました。

ならば、コネを囮役にしてエンドラインとハイポストを上下動する選手を使えればいいのですが、適任者がおらず、ゴール下でボールを貰ってもブロックされていた前半でした。

また、2-3の前2人はアグレッシブにボールを取りに来るのではなく、パスカットを匂わせるポジショニングのため、サイドにパスを出しても余裕で間に合ってしまうので、前半の帝京長岡は意味のないパスを回すことになってしまいました。3人を2人で守り切られていた形です。そして、後半になるとこの点を修正してきます。

後半の帝京長岡はガードがトップにいることが減り、2人がサイドへと広がりました。「3人を2人で守られていた」形だったので「2人を2人で守らせる」ことに変更です。当然プレスの脅威は出てきますが、空いた真ん中に島倉が顔を出すことで対処することもありました。

シンプルに両サイドに2人ずつ選手を置くようになったことで、前半はコーナー付近までパスを出せなかったのが、後半になると少しずつ増えてきます。両サイドを広く使う事は真ん中のコネが空きやすくもなります。もしくは、コーナー近辺からの3Pが有効です。

この修正は効果的で、後半開始から3Pを決めた帝京長岡だったので、次第にコネのリバウンドも目立ち始めました。「コネのリバウンドがあるから思い切って打てる」なんて解説されていましたが、じゃあなんで前半の大濠はコネのリバウンドを抑えていたんだよ、って話です。明らかにポジショニングの修正で帝京長岡のオフェンスは改善しました。

◎踏ん張った大濠

これをみてか、見ないでかは不明ですが、大濠も得意のゾーンプレスを増やします。解説によると途中で1-2-2に切り替わりもしたそうです。普段を知らないから、ニャンとも言えない。ただ、ゾーンプレスの対策は練ってきたであろう帝京長岡なので、そう簡単には引っかかってくれませんでした。

いずれにしても3Pとコネが機能し始めた帝京長岡を見て、同じ形を続けることは出来なかった大濠です。前半にリードを稼げなかったこともあり、次第に苦しくなっていきました。

形を変えても両サイドまで振り回されていくことに変わりはなく、大濠はマンツーも使ってきます。そうなると消えていた帝京長岡のエース・島倉のハンドラー化が進み、さらに厳しくなってきた大濠ディフェンスでした。

このまま帝京長岡がリードすると思われましたが、大濠は個々の集中力で踏ん張ります。

両サイドまでプレッシャーをかける必要がありながら、コネにボールが入ると一気に4人が収縮してきます。3人もの選手が高速ヘルプを見せることでコネは思うようにリングに押し込むことが出来ません。マジで速かった。エグイ。

さらに島倉に対しても個のディフェンスで追い込むのでゾーンは攻略していたはずの帝京長岡オフェンスなのに、ドライブ突破もインサイドへのパスも難しくなっていきます。見事にペイント内を塞いだ大濠の集中力。

試合のキーポイントとすれば、3Q後半から4Q前半にかけての帝京長岡がサイドライン近くから打つ3Pの精度でした。収縮が早いということはパスフェイクで動かせばサイドライン際でワイドオープンも作れたはず。実際に良いフェイクで動かしての3Pもありました。でも、それをほぼ全て外してしまった帝京長岡。
結果的にインサイドへの高速ヘルプをしていた大濠ディフェンスは、それでいて両サイドまで「追い切れた」ことになりました。3Pを決めていれば、より早く追いかける必要があり、インサイドのコネも空いたはず。勝負を分けたのは、両サイドからの3Pでした。

帝京長岡も一時逆転しましたが、それはディフェンスで踏ん張ってのカウンター速攻から。ファイナルの重たい展開にシュートが振るわなかったのか、全体的なサイズに勝る大濠の高さプレッシャーにビビったのか。絶対的な高さを持つセンターがいるよりも「平面で追いかけられるサイズのある選手の方が強い」構図のウィンターカップファイナルでした。

◎岩下の3P

大濠は帝京長岡のハイプレスに苦しみ、帝京長岡は大濠の高速ヘルプに苦しむ。お互いに決定打を打ち出せず、試合は接戦を延々と続けて勝負の時間帯へ入りました。ただ、この接戦の時点で8割がた大濠が勝つ流れでした。

どんなにハイプレスが効いているとはいえ、帝京長岡ディフェンスのキーはインサイドのリムプロテクト力です。だから、そこだけは形を崩すことが出来ない。必然的にアウトサイドで空きまくっている川島。

もしも川島が3年生だったら、試合終盤に3Pを打たせまくって勝ちに行くのですが、1年生に勝負を任せるわけにはいかない。でも、とにかくアウトサイドの川島はドフリーなのだから、ピック&ロールをすれば2on1にできます。

試合開始から変わらない関係性ですが、初めから使いまくるのか、終盤まで取っておくのか。ここについてはどっちの考え方もあるね。そしてとっておいた大濠。大濠なのか、岩下なのか。

1点ビハインドの残り1分30秒。川島のスクリーンを呼んだ岩下は、2on1で自分のマークマンを振り切って、注文通りの3Pをヒットします。まぁ本当に注文通りにして、予想通り。確か、その前に1本外したのと、ドライブ選択からアシストしていたはずですが、いずれにしても「絶対にシュートチャンスを作れるプレーコール」でした。

この後、試合を決めたプレーも同じ形からドライブした岩下。レイアップは外れたけど、コネを引き出していたので飛び込んだ湧川のプットバックが決まりました。帝京長岡のゴール下を完全に制圧していたコネでしたが、試合を決めたのは「コネを引き出した岩下」でした。

◎駆け引きしよう

そんなわけでウィンターカップのファイナルでした。もう少し武器が欲しいと感じた両チームでしたが、そこは育成ではなく、勝負を求める高校バスケなのかな。

U19をみていると、やっぱり違うのはユーロバスケで育った選手で、もっと相手に応じた引き出しを使ってバスケをしている。その代わり圧倒的じゃないことも多いけど、16歳くらいの選手でもマッチアップ相手との違いを利用していました。勝負にこだわる日本はアメリカと似ているのかもね。

とはいえ、走りまくって点差がついている「高校バスケあるある」とは違って、それぞれのディフェンス戦略があったファイナルでした。大濠のヘルプ速度はすごかったよ。これが出来たのは留学生対策だと思うので、日本バスケは留学生さまさま。あと、全体的にサイズが大きいのでコートが狭く見えましたね。

「国際ルールと日本のルールでトラベリングが違う」というのが、U19の頃にも話題になっていましたが、このファイナルを見る限り、高校年代が一番ひどいんじゃないかとも感じました。ジャパニーズルールがはびこっている気がした。トラベリング以外にもボディコンタクトしていても、「ボールにさえ触っていればノーコール」が多かった気がしたし。

もう少しエゲツナイ個人技が出ても面白いのですがトーナメントで勝つためにするプレーじゃないんだよね。この点も含めて勝つためのバスケって感じがしたなぁ。まぁウィンターカップファイナルだけ見て語っても意味はない。いろんな駆け引きするのが育成でも大事だと思うのでした。

ウィンターカップファイナル雑感” への2件のフィードバック

  1. まずは大濠、優勝おめでとうございます。

    ここ20年くらいウィンターカップを見ているのですが、大濠はまさしくストロングスタイルのチームです。それが故に私はあまり好きなチームではありません。

    ただ、今年の大濠に関していえば、結局のところ岩下君が(良い意味で)大濠らしくない異質な存在だったと思いますし、それが全てだったと思います。湧川君も今までの大濠の延長戦上の選手だと思います。

    可能であれば、中部第一戦や明成戦も見ていただいた上で、今年の大濠について記事を書いていただければと思います。

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