3Pの変動を追う

ヨキッチの話も終わったところで、リーグ全体の傾向をみてみましょう。ベタな話として3Pの変貌はこの10年で最大のトピックでしたが、まずはリーグ平均アテンプトを確認します。10年前、5年前と現在の比較です。

〇3Pアテンプト
10-11シーズン 18.0本
15-16シーズン 24.1本
20-21シーズン 34.6本

ウォリアーズがNBAを制した翌シーズンとなる15-16シーズンに3Pアテンプトは5年前から+6本となっており、この段階で3Pは増え始めています。しかし、そこからの5年でさらに急加速して+10本です。つまり、この10年間で+16.6本も増えました。

次に、急加速したこの5年間を見てみると

16-17シーズン 27.0本
17-18シーズン 29.0本
18-19シーズン 32.0本
19-20シーズン 34.1本
20-21シーズン 34.6本

今シーズンは伸び率は鈍化したものの、それでもやっぱり過去最高になっています。ただ、実は3Pが増えた一方で、ここ3年はFG全体は減っており「3Pの割合が増えた」ことになります。フリースロー数と合わせて確認しましょう。

〇FGアテンプト
16-17シーズン 85.4本
17-18シーズン 86.1本
18-19シーズン 89.2本
19-20シーズン 88.8本
20-21シーズン 88.4本

〇FTアテンプト
16-17シーズン 23.1本
17-18シーズン 21.7本
18-19シーズン 23.1本
19-20シーズン 23.1本
20-21シーズン 21.8本

3Pが増えて攻撃的になったかと思いきや、FGもFTも共に下がっており、遂に試合のペースが僅かですが落ちました。ただし平均得点は過去最高の112.1点になっており、EFGが過去最高まで跳ね上がりました。従来以上に「3Pの効率性」が示されたわけです。

〇EFG
10-11シーズン .498
15-16シーズン .502

17-18シーズン .521
18-19シーズン .524
19-20シーズン .529
20-21シーズン .538

10年前からの5年間で3Pが6本増えたけど、EFGに大きな違いはありませんでした。しかし、そこからの5年間で異常な上昇曲線を描きました。フリースローが減っている中で得点効率があがったのだから、オフェンス戦術は今シーズンも素晴らしい進化を遂げたことになります。

試合のペースアップはひと段落ついたが、3Pの比重は高くなったシーズン

この事実はなかなかの事件です。これまではトランジション&3Pでペースアップするのが効果的だったけど、ハーフコートオフェンスの割合が増え、3Pはより効果的になった。ジャズっぽいですね。

また、この流れにおけるオフェンスの変化で、もう一つ欠かせないのが「ターンオーバーの減少」です。今シーズンは史上初めて14を切ることになりました。

〇ターンオーバー数
10-11シーズン 14.3回
15-16シーズン 14.4回
20-21シーズン 13.8回

こちらも10年を振り返ると初めの5年間はターンオーバーが上昇傾向にあり、そこから減少していきました。シーズンによってばらつきがあるのですが、全体的には下がったと言えます。

10年で単に3Pが増えたのではなく、ミスの少ないオフェンスで効率的にシュートを決めるようになってきた

こんなことがいえます。「ターンオーバーするくらいなら、タフ3Pを打て」という雰囲気だったのはダントーニロケッツでしたが、今ではタフですらない3Pになってきています。しかも途中に24秒ルールの改正があり、より短い時間でオフェンスを構築することになったのに、現実にはミスが減ったっていうね。

なお、来シーズンからはファールコールの変更があるので、よりフリースローが減ってくるし、3Pの確率も下がるかもしれません。

◎ワイドオープン50%

今シーズン恐ろしい数字を作ったのがトニー・スネル。なんと3P50%オーバーでした。この5年でそんな選手がいたのかを調べてみると、ビックリすることにパウ・ガソルが記録していました。なお、基準は全て「100本以上」にしています。

〇16-17シーズンのパウ 
56/104 53.8%

〇20-21シーズンのスネル
62/109 56.9%

いずれもアテンプトが少ない選手なので、チャンスを確実に決めただけではあります。それでも50%オーバーってのは異様だ。ガソルみたいだったスネル。それは現代フォワードとしては問題だけどさ。

そこで今度は「ワイドオープン限定」にして、50本以上打った選手の確率ランクを見てみます。つまりスネルみたいな選手が他にもいるんじゃないかと。

〇ワイドオープン3P
ジョー・ハリス 56.3%
ポーティス   56.0%
ラブ      54.4%
MPJ     54.4%
ミドルトン   52.7%
スネル     52.5%
フォーニエ   52.4%
テイタム    52.4%
ビーズリー   52.2%
ラビーン    51.3%

予想以上に50%以上はいっぱいいました。151本も打ってトップのジョー・ハリスはさすがですが、同じく150本以上打った選手だとリラードとパウエルが50%を超えています。計18人が該当しており、「ワイドオープンは50%以上決めるもの」が次第に常識となってきたのかもしれません。

ちなみに5年前は確率順にトロイ・ダニエルズ、セス・カリー、ミドルトン、マッカラム、チャンドラー・パーソンズ、ラウリー、ベイレスの7人だったので、高確率の選手は大きく増えました。

ただ、この「高確率の人数」は今シーズンの特徴でもあります。同じ条件の人数だけ並べてみると(50本以上、50%以上)

16-17シーズン 8人
17-18シーズン 4人
18-19シーズン 4人
19-20シーズン 7人
20-21シーズン 18人

ちょっと確変しすぎですね。タフスケジュールという事もあって、ディフェンスの緩さが気になったシーズンでしたが、特に3Pに関しては追い切れないから50%決められていた印象もあります。ただ、決めているのがエースクラスだったりして、一概にディフェンスの緩さとも言えない。

いずれにしても、3Pアテンプトは微増だったけど、ワイドオープン3Pが決まりまくる選手も多く、確率が向上したシーズンでした。今後もこの流れになっていくなら、より3Pへの意識は高まります。

なお、だからといって「3Pシューターが重要視」されるかというと、それは難しい。スネルの方がいいんじゃないか議論も出てくるでしょう。

◎プルアップ3P

リーグ全体の3P増を作り上げてきたのはプルアップ3P増でした。今ではわき役も普通に打つようになっていますが、5年前はカリーの独壇場で、続くハーデンやリラードでさえもアテンプト数には100本以上の開きがありました。

〇15-16シーズンのプルアップ3P
カリー  502本
ハーデン 378本
リラード 356本

それが翌シーズンになってハーデンが536本打つと、さらに増えまくり最高で18-19シーズンの943本まで上がりました。でも、これは例外中の例外。なお、この話は次の次の回で詳しく触れます。

5年前はカリー、リラード、ハーデンの3人しかいなかった300本以上ですが、以降の人数を見てみると

16-17シーズン 6人
17-18シーズン 5人
18ー19シーズン 9人
19-20シーズン 8人
20-21シーズン 7人

試合数が減った関係もあるので一概には言えませんが、劇的に増えたって事はないのでした。30チームしかないしね。ジャズがクラークソンに321本も打たせたこと以外はエースが打つ仕事になっており、アテンプト数は頭打ちかなーって感じがします。

一方で確率を見てみると、100本以上打ちながら40%を超えた選手は増えてきました。メンツも意外な選手が混じっています。

カリー、コンリー、イングルス、ミドルトン、ポール・ジョージ、ホリデー、SGA、フォーニエ、ランドル

ジャズとバックスから2人もおり、そしてSGAとランドルが入っているのは違和感があります。エリートシューターだけが達成していたような数字だったのが、より一般化されてきた印象もあり、ディフェンスを振り切れれば40%くらい決める選手が増えてきたのでしょう。この人数をシーズンごとにみてみると

16-17シーズン 5人
17-18シーズン 6人
18-19シーズン 3人
19-20シーズン 5人
20-21シーズン 9人

プルアップ3Pですらも40%決めることがエース達には求められ始めました。ただ、プルアップなので、これらの数字は3Pを決めること以上に「3Pを打たせないディフェンス」の重要性を増していくように見えます。「ガードエースのコンビでは勝てない」なんていうのが、より出てきてしまうかもしれません。ちゃんと守らないと40%決められちゃうんだもんな。

ちなみに最も3Pを止めているのがジャズのマイヨ・オニ。3P103本打たれて22%しか決められていません。プレーオフで起用しておけばレジー・ジャクソンを止めていたんじゃないか疑惑

◎コーナー3P

プルアップ3Pが増えて確率良く決めているなら、これまで重視されていたコーナー3Pはどんな変化をしているのか、ここ3年を比べてみます。

〇アテンプト
18-19シーズン 7.3本 
19-20シーズン 7.7本
20-21シーズン 8.2本

〇成功率
18-19シーズン 38.3% 
19-20シーズン 38.9%
20-21シーズン 39.1%

んー、ちょっとビックリするくらいの上昇率です。こんなに順当に上がっていくとはね。コーナー3Pの重要性は高まり続けています。それにしても40%も決まるようになったら「35%じゃダメ」になってしまいます。誰をコーナーに置くかは以前よりも大事になってきたかもしれません。

ダニー・グリーンがリーグで最も多くのコーナー3Pを打ちましたが、これは旧式のタイプ。2位以下が新タイプとして気になってきます。

ダニー・グリーン
OGアヌノビー
ボヤン・ボグダノビッチ
マイルズ・ブリッジス
ジャスティン・ホリデー
マリック・ビーズリー

ダニーとジャスティンはいわゆる3&Dですが、他の4人はコーナー専門家とは言い難いタイプ。これは面白そうな題材でもあります。ボヤンは既にやったので、次回はマイルズ・ブリッジスかな。

◎ダンカン、カリー、リラード

最後に3人のタフショットについて触れておきましょう。タフ3Pを200本以上打った3人です。

〇ダンカン
アテンプト 231本
成功率   37.7%

〇カリー
アテンプト 225本
成功率   36.9%

〇リラード
アテンプト 203本
成功率   36.0%

どんな確率なんですかね。タフショットに追い込んでも普通の選手のワイドオープンと同じくらい決めてきます。えげつないぜ。これは「ワイドオープンに打たせろ」ではなく「シューターに打たせろ」の方が強くなってきたわけです。

実はこの3人が200本を超えるのは初めて。これまで200本を超えていた選手は、言わずと知れたハーデン以外だと、テレンス・ロスやアイザイア・トーマスでした。1年限りだけど。

ここでキーになるのはダンカンとカリー。カリーはちょっと微妙だけど、ダンカンはプルアップではなく、オフボールからのタフ3Pってことなので、打ち切る能力も凄いけど「ムービングからの3Pをタフでも打たせる」を選んでいるのが新鮮。

プルアップ3P全盛期になったと思いきや、そこに登場したオフボールムーブからのタフ3Pの雨あられ。ちょっと前のヒールドも似た感じでしたが、シューターの使い方も新時代になってきました。誰もが3Pを決める時代に、3Pが仕事の選手も次の段階になってきたって事かな。

そんなわけで、特に言いたいことがない回なのですが、調べてみて気になったことは

・3Pの確率が上がりすぎ
 →ルール変更でどうなるのか

・コーナー担当が変わっている
 →個人を特集してみよう

・ムービングからのタフショット
 →シューターのレベルも上がりそう

こんな感じでした。ルール変更はシュートチェックを楽にするので、来シーズンにどう動くのかは特に注目です。これで成功率が上がったらどうしよう。

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