至高のヨキッチ~パススキル~

最終回!

シリーズ:至高のヨキッチも最終回。シグニチャームーブ、得点能力、戦術力と触れてきて、最後にやっとパススキルについて触れます。といっても、既に前回の時点で「何故すごいのか」は語っているので、今回はオマケです。

アシスト能力のある選手は多くいて、それぞれが長所と短所を持っています。大事なのは長所で、得意なパスパターンはチームオフェンスを劇的に変えます。戦略を変えるのはスコアリングエースですが、チームスタイルを決めるのはアシスト役かもしれません。ヨキッチは兼任。

わかりやすいところだとロンゾ・ボール。リーグ最高の速攻クリエイターだけど、ハーフコートのオーガナイザーとしては弱め。でも、それはトランジションゲームとハーフコートでエースをハンドラーにするチームならわかりやすい特徴にもなります。

じゃあヨキッチはどうなのか。うーん、なんでも出来るよね。驚異的なまでにパターンの多いアシスト役です。今回はパスパターンをまとめておしまいです。

①速攻クリエイター

ヨキッチがディフェンスリバウンドを取った瞬間に、既に誰かが前を走っていたらワンパス速攻。「いつ確認したのか」が全く分からないほど、振り向きざまのロングパスを出します。鮮やかすぎるパス一閃は守っていたのがどっちだったかを忘れさせてしまう。

リバウンドの強いガードはここから自分で強くボールプッシュしてトランジションも生み出しますが、ヨキッチはボール運びはするけれど、チームにスピードをもたらすことはできないので、ヤニスのようなトランジションメークは苦手。

ただトランジションにおいてヨキッチ自身がセンターライン付近でボールを持つと、これまた驚異のパサーになります。後ろから走ってきた選手を「いつ確認したのか」が全く分からないけど、見事にフリーの選手に走りこませます。この時、走りこめるスペースを作るのも上手く、自らの動きでディフェンスを動かしています。

速攻を作り出すヨキッチは、ある意味で他のPG以上にパスのみで作っているので面白いのでした。

②ポストでの背中越しのパス

「いつ確認したのか」といえばコレ。ポストアップしたヨキッチは、真後ろにいる選手にパスを出します。初めからそこにいたパターンならともかく、コーナーから走りこんできた選手にも楽にパスを通しています。一体どうなっているのか。

派生パターンでツービッグ時代に多かったのが、走りこんだ対角センターへのアリウープパスでした。ローポストに立つセンターからアリウープパスが出てくるという不思議な構図。ファリードの得意技でもあったし、これからはゴードンが多発しないといけない。

ローポストという位置からも「ディフェンスが予期できないパス」をガンガン出してくるヨキッチの特殊性が出ているパスです。

③カッティングからのタッチパス

逆にヨキッチが走りこんだ時はさらに怖い。動いているヨキッチを捉まえに行った瞬間、キャッチもせずにボールに触って、しれっとコースを変え、見事なドフリーを生み出します。ヨキッチは「パスレシーブに動きながらチームメイトとディフェンスの動きを見ている」ことになり、一瞬の情報処理量が異常です。

特にペイント内に走りこむ場合は、ボールが来る方向とパスを出す方向が違うため、両方をしっかりと見ているのは困難なはず。この手のタッチパスは1回やればキャリアハイライトになるのに、それを連発しているヨキッチ。

またヨキッチしか出来ないのが「タッチパスでコーナーにキックアウト」なんて言う変態プレーです。やっぱりディフェンダーの動きの逆を取るので、弱いパスでもディフェンスは追いつかない。

ディフェンスは「ボールを貰いに行くヨキッチ」という部分に集中することは許されず、その次に空いてしまう選手もカバーしなければいけません。情報処理が追いつかないよ。

④エルボーから両コーナーへのパス

前回も出たパスです。ドライブで崩すのではなく「パスを出すよ」というモーションなのに、ディフェンスを動かし、逆を取ってワイドオープン3Pを生み出す戦術力は異様です。

⑤ハンドオフ

マレーやモリスと行うツーメンゲームにはハンドオフも多く混じります。それ自体は普通ですが、ヨキッチに感じるのは「フェイクが多い」こと。単純にハンドオフするのではなく、渡さないことも多いので、そこからさらにもう一回ハンドオフに入ったり、受け取る側もリングにダイブしたり。

面白いことにヨキッチのハンドオフには「スリッププレー」があります。これを何と呼ぶのか知りませんが、ハンドオフに行く形からボールを貰いに行かずにリングにカットする。全てはヨキッチが瞬間的にパスの判断を出来ることで、受け取る側は様々なボールの受け方をディフェンスを見ながらジャッジできます。

⑥ワンハンドパス

ヨキッチはワンハンドでのパスを使うことが多いのですが、そもそも「モーションでバレる」ため、あまり推奨されないはずなのに、ヨキッチの場合は見事に使いこなしています。その理由はモーションとは違う方向に投げれることです。ノールックロングパスも使うし、ディフェンスの読みとは違う方向に投げるのは秀逸。

またハーフコートでは体のデカさを使って、ワンハンドでボールを持って振り回しながら、ディフェンスを動かし、パスの角度を作り、タイミングが読めないパスをしてきます。特に「角度」は大事。

例えばコーナーからカットしてくる選手にトップ近辺からパスを通すのは難しくはないですが、ナゲッツはマレーのようなハンドラーがヨキッチに預けて、縦のカッティングをしてきます。これにパスを通すにはロブパスくらいしかなく、背中からくるパスを決めるのは難しいので、ディフェンス側はカッティングをそんなに警戒する必要はありません。

ところがヨキッチは体の幅を使って角度を作ってしまうため、この縦のカッティングが有効なプレーになります。小さいガードがゴール下に飛び込んでイージーに決めていくのはナゲッツならでは。さすがにカンパッソはできないけどさ。

◎視野の広さとパスの多彩さと

これまで触れてきた事項も含めてヨキッチのアシスト面を整理していくと
・コートのどこでも起点になる
・広い視野と戦術眼を持つ
・情報処理能力が抜群
・多彩なパススキル

こんなことが挙げられます。

特に重要なのは「ガードではなくセンター」であるために、コートのどこからでも起点になっている事です。そこには高いシュート能力も関係しています。ヨキッチほど「あらゆる形の起点役」をしている選手はいません。得意・不得意を感じさせないほど、どんな形でもプレーメイクできてしまうのは史上最高です。

そのプレーメイクを可能にしているのが、360°の視野をもっていること。この「視野」だけならば史上最高レベルに留まり、他にもレジェンドクラスなら出来るでしょう。

またチームメイトだけでなくディフェンス全体の動きを瞬間で捉え、逆を突くパスを次々に通します。ここまで出来る選手はレアですが、それでもやっぱり同じくらいの戦術眼を持っている選手はいる気がします。

ただ、タッチパスに代表されるような情報処理能力になると、これまた希少な能力になってきます。これも「センターだから」ということがプラスになっており、普通のゲームメイカーはこんなにオフボールでの動きからパスを受けることはありません。おそらく同レベルの処理能力を持っている選手はいるでしょうが、それを発揮する機会はヨキッチが最も多い気がします。

ヨキッチが史上最高のパス能力を持っているかはわからないが、史上まれにみるポイントセンターだから史上「最多」のパススキルを持っている。そんな気がするのでした。

それでいてヨキッチのパスは多彩です。緩いパスから速いパス、長いパスから短いパス、ロブパスに股抜きパスetc・・・。実はこれだけ多彩なパスを持ち合わせる選手はレアです。普通は自分のプレースタイルの中で得意パターンが出てくるものですが、ヨキッチは「あらゆるプレーメイク」をするからこそ、多彩すぎるほどのパスパターンを持っています。

こんな複数の要素が折り重なってプレーしているパサーは他にいないはず。比較しようがないほどに特殊であるからこそ、その多彩なスキルは光り輝いています。

ビッグマン史上最高のパサーではなく、史上最高のパサーである

現時点でこれは言い過ぎかもしれませんが、本当にこう言いたくなるほどのプレーを見せています。面白いことに「ポイントセンターだからこそ、史上最高のパサー」に見えてきているのも大事で、ポイントガードではここまで多彩にはなり得ないのです。

いや、ひょっとしたらロイス・オニールのような役割をPGにやらせる時代が来るかもしれません。あの役割をレブロンにやらせたらヨキッチみたいになるだろうけどね。

つまりヨキッチのプレーは単なるポイントセンターではないバスケットの未来像でもあります。これだけ多くのパスを出し、レシーブし、コートのあらゆる場所で、あらゆる形で起点になる。スーパースターにしてスーパーチームプレイヤー。

◎至高のヨキッチ

そんなわけで全4回にわたってお送りした『至高のヨキッチ』でした。忘れてはいけないのは『至高』と呼びたくなったのは今シーズンを見てからということ。ヨキッチのファンタスティックなプレーは知られているけど、ワンプレーではなく、トータルでの凄みが増したのでした。

むしろファンタスティックな要素は減ってきて、ハッとしない普通のプレーだからこその強みが出てきました。トリッキーさがなくてもディフェンスの逆を突くのが楽にできるようになってきたってことでもあります。

なんでもないから気が付きにくく、普通に見えることを、普通じゃないレベルでプレーしています。とにかく多彩、あまりにも多彩。自らが作り上げた「ポイントセンター」という言葉から抜け出し、何でもできる『史上最高のスキルプレイヤー』へと進化しているのでした。

至高のヨキッチ~パススキル~” への8件のフィードバック

  1. それでいての、超激務シーズンでの先発フル出場なのですね。
    当然のシーズンMVPなのでございます。

  2. 視野の広さがすさまじいのと、敵味方の動きの時間発展予測込みの空間把握能力が突き抜けている感じですね。こういうのはもう感覚が全然違ってしまっているのでしょうねぇ

  3. ヨキッチシリーズおもしろかったです!
    読んでいたら昔のキングスのディバッツ、ウェバー時代を思い出してしまいました。
    ストヤコビッチの3Pで広げて、ディバッツ、ウェバーの合わせにダグクリスティやビビーがカッティングしてきたりして好きだったなーと。

    ヨキッチのバスケットは、まわりも活かされるし一緒にプレーしてて楽しそう、相手からしたら個人でも器用なのに、チームになったら、選択肢多すぎて、もうとめようがないですね。

  4. ジョージカールがメロケニヨンドレミボイキンスとかと心中してた頃からのDENファンですはじめまして。この4部大好きです。
    ここ数年すっかり強豪扱いのナゲッツが誇らしく、でも優勝できる気はしないからPO敗退頃には結果を直視することができない、スリルフルなNBAを楽しんでいます。
    かわいいヨキッチにはリングを与えたいです。が、正直なところ、ヨキッチがチャンピオンになるにはナゲッツでは厳しいですか?マレーのステップアップとか、優勝にふさわしいロスターとか、想像つかなくて、、、
    いつかどこかのスーパーチームの一員となって優勝、みたいな感じになるしかないのでしょうか、、

    1. この特殊なスタイルはどこにでも通じるのでリングは取れると思います。
      ただ、周囲を固める選手をどうするかは大事ですし、ハリスがいなくなったことで、マレー以外のガード陣だと厳しくなっていますね。
      モリスなんかは良い選手だけど、ヨキッチと合わせるのではなく、代役みたいですし。

      「性格が合う」選手を獲ってくるのが大事なんでしょうね

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