至高のヨキッチ~ゲームメイカー~

ヨキッチについて語りつくす第3回

これまでヨキッチの得点面について触れてきましたが、いよいよ「ポイントセンター」ということについて触れます。『アシスト能力がなくても超一流』であることを語ってきたわけですが、それでもやっぱりポイントセンターという概念を作り上げたアシスト力がヨキッチなのです。

〇パス数 74.9本

今シーズンはパス数トップの座をサボニスに奪われてしまいました。70本台は2人だけなので「ポイントセンターこそが最多パサーである」ことを明確にしており、現代バスケにおいてインサイドのプレーメイカーが重要であることを広く世界に知らしめました。

〇タッチ数 101.0回(1位)

タッチ数になるとサボニスと逆転し、3年連続のトップで初めての100本台になります。サボニスよりも自分でシュートに行く事が多いため、より多くのパスを貰っていることになります。なお、こちらはウエストブルック95回、ハーデン92回とPG陣も追い上げており、必ずしもセンター優勢ではありません。

まずは、この4人のスタッツを見比べてみましょう。

〇パス・レシーブ数(パス数)
ヨキッチ 65.7(74.9)
サボニス 56.7(75.5)
ラス   75.8(65.5)
ハーデン 74.3(65.1)

PGとセンターの違いとして「パスを出す本数よりもパスを受ける本数の方が多い/少ない」が発生しがちです。ラス&ハーデンはこれでもその差が少ない方で、ヤングは19.2本もレシーブが多くなります。

その理由の1つは「ディフェンスリバウンドからのパス」なので、ヤングのようにリバウンドはとれないPGとしては致し方ない面も大きく、純粋に比べるのは難しいスタッツです。とはいえ、ディフェンスリバウンドの数ならリーグ2位のラスとセンターを比較するのは正当かな。

この数字が逆転するPGは少ないですが、62.6本ものパスを出すラウリーが0.3本しか差がなく、やっと逆転するのは53.0本のTJマッコネルです。ヨキッチやサボニスはラウリーやマッコネルに近しいスタイルのポイントセンターといえます。というか、「パスの方が多くないとポイントセンターっぽくない」のですが。

なお、パスの方が多いセンターは珍しくありませんが、+10本はレアだし、そもそも50本以上のレシーブがあるセンターは2人だけ。リバウンドをとってパスアウト以外だとパスは少なくなる。

次にパス数をアシスト数でわって「何本のパスで1つのアシストが生まれるか」を見てみると

ヨキッチ 9.0本
サボニス 11.3本
ラス   5.6本
ハーデン 6.0本

こんな感じでポイントセンターはアシストを稼ぐ効率が悪いことがわかります。パス数は多いのにアシストが少ないので、アシスト役というよりは「オフェンスの潤滑油」の方が近い表現といえます。崩すことはしないので、ワンパスで決めることは少ないのがポイントセンター。

〇アシスト数
ペイサーズ 27.4(2位)
ナゲッツ  26.8(6位)

〇パス数
ペイサーズ 307.6(2位)
ナゲッツ  295.3(8位)

それでもパッシングオフェンスが完成しているのでチームとしてはポジティブです。なお、アシスト1位はドレイモンド・グリーンのウォリアーズで、パス数1位はベン・シモンズのシクサーズです。全体的にPGのスコアラー化が進んだので、インサイドのプレーメイカーの意味合いは重要になってきました。

◎全てのパスはヨキッチに通ず

〇ナゲッツのパス数  295.3
〇ヨキッチのパス数   74.9
〇ヨキッチのレシーブ数 65.7

パスの多いナゲッツですが、こうみると295本のうち140本がヨキッチ絡みという事です。プレータイムを考えるとほぼ全てのオフェンスでヨキッチに絡むパスが展開されているくらいの計算になります。

〇1試合のタッチタイム 4.6分(44位)
〇1回のタッチタイム  2.75秒

それだけ多くのプレーに絡むヨキッチですが、1試合で4.6分しかボールを持っていません。1回当たり2.75秒はリーグで200位くらいの短さです。「ボールに触る回数」はリーグトップなのに、「ボールに触っている時間」は極端に短い一風変わったエースです。

ただ、これがセンターで並べるとそこそこ長くなります。サボニスでも3.6分、2.21秒なので、ヨキッチはセンターとしては「タメ」を作ってオフェンスを構築するタイプでもあります。ここら辺がポイントセンターと言っても他の選手とは全く違う部分でもあります。

ガードに比べたらボールを持つ時間が短く
センターに比べたらタメを作る時間が長い

こんな特徴があるヨキッチですが、センターとして考えた時にインサイドでボールを持ちながら、長い時間キープできるのはオフェンスを作っていくにあたって重要です。では、どこでボールを持つのでしょうか。

〇エルボータッチ 8.8回(1位)
〇ポストアップ  9.3回(3位)
〇ペイントタッチ 7.1回(17位)

最後のペイントタッチはカペラやゴベアのようなインサイド専任が多いスタッツです。

ヨキッチはインサイドで起点になる回数がリーグで最も多く、そこからのシュートもあれば、ワイドに展開するパスもあるので怖い存在なわけですが、ハイポスト近辺となるエルボータッチについて考えてみましょう。

2位サボニス6.7回、3位アデバヨ6.4回とポイントセンター3傑が連なっていますが、その中でもヨキッチの回数はずぬけています。このポジションでボールを持つと、良い面も悪い面もありますね。

◎360°

ハイポスト周辺でボールを受けるヨキッチ。そのメリットもデメリットも「視野」になってきます。

【メリット】
・コートの中心のため、どこにパスを出しても距離が近い
・ディフェンスはボールとマーク両方を視野に入れるのが難しい

【デメリット】
・コート全体を見るのが難しい
・背後からもスティールを狙われる

簡単に言えばヨキッチの強みはデメリットを全く感じさせない事で、

360°の視野を持っている

これに尽きます。おそらく、この能力では史上最高。そもそも他に例のなかったポイントセンターなので比較する選手もいないでしょう。PGであれば180°の視野が必要ですが、ヨキッチのやり方だと背後まで見えていないといけません。

さらにヨキッチの強みは、ゴール下はもちろん両コーナーまで平然とパスを出せること。密集地帯でプレッシャーをかけられているはずが、コートの隅々まで見えています。「コートの隅々まで見えている」だけなら、他にもいますが、このスタイルで出来る選手はいない。

さて、このヨキッチのコーナーパス集を編集した奇特な動画がありました。これを見れば言いたいことは大体わかるでしょ。あとナゲッツはナゲッツで「背中側から狙われにくい」ようにオフェンスを展開しています。いつだったか忘れたけど、背後から狙われまくった試合があったよね。去年のカンファレンスファイナルだったっけ?

この動画のヨキッチを見ていて「360°の視野」以外に目立つのが「フリーの選手にパスを出す」のではなくて、「次にフリーになる選手にパスを出している」ということ。コーナーへのパス数ですが明らかにコーナーが空いた瞬間ではなく、「空きそうになった瞬間」にパスを出しています。

それは言い換えるとヨキッチがパスを出す判断は「ディフェンスの動きで判断している」ということ。コーナーのディフェンダーがヘルプに行こうとしたら、ヨキッチのパスで逆を取られることが頻繁に出てきます。

ディフェンスの逆を取り、『次にフリーになる選手』へパスを出す

アシストの多いPGは自らのドライブでディフェンスを引き寄せてパスを出すのがメインですが、ヨキッチの場合は身体能力も高くないし、そこまでドライブで引き寄せることはできません。起点となってパスを振っているだけではあるものの、その振り方がエグイ。ディフェンダーの動きを先読みするかのようなパスを出してきます。

〇ナゲッツのハンドオフ 6.7回(7位)

めんどくさいことに両コーナーにパスを出すプレーもあれば、近場でのハンドオフも活用してきます。ヨキッチ周辺を強く守りたいのに、強く出ればコーナーが空き、オフボールをしっかり守れば近場のコンビプレーで崩してしまいます。

ハンドオフ特集は良き動画がなかったな。2年前のやつですが、これをみるとゲーリー・ハリスがいなくなったの厳しいな。

ナゲッツの場合は、こういうスタッツがリーグトップにならないのも厄介で「なんでもやるから、どれもトップにならない」なんていうチームです。そのくせパスの半分はヨキッチ絡みです。ヨキッチ頼みのスタッツであり、あらゆるプレーが混じるスタッツ。

オフェンス戦術の勉強なんてナゲッツ観ておけばOKなんだけど、「でもチームにヨキッチがいないじゃん」ってなるんだよね。

◎オフボール・プレーメイク

最近タイムラインで話題になっていたヨキッチのプレーがコレ。マレーとのツーメンゲームから、「レナードの動きの逆を取って」ゴール下のモリスにパスを通しています。レナードとしてはフリーにしたクレイグへのパスを出させてチェイスしたかったけど、ワンフェイクで見事に逆を取りました。

でも、このプレーの肝は、もっと前の段階。ツーメンゲームを始める前にモリスのポジションをヨキッチが指示している事です。

・ハレルはマレーにダブルチームに行く
・空いた自分にヘルプに来る選手にシャメットを指名
・ゴール下とコーナーでの2on1を作る

ヨキッチはここまで見えていたってことでした。ドライブするガードがポジション調整をすることはありますが、さすがにスクリナーとなるセンターが未来を予想して、ここまで見事に決めるのは見たことがない。自分のポジショニングとチームメイトのポジショニング、そしてディフェンスのリアクションをトータルで考えています。

ポイントセンターとしてのヨキッチの凄みは「パスが上手い」なんていう次元ではなく、ボールを持たなくてもオフェンス全体をオーガナイズしていることです。チームメイトはもちろん、ディフェンダーそれぞれがどう動くのかも頭の中で描けています。

ボールを持って判断する時間が短い
360°の視野
ディフェンスの逆を取るパス
オフボールでもプレーメイク

それぞれが素晴らしい能力だけど、これらが繋がっていくからヨキッチは特別な存在です。チームメイトにとってヨキッチほど、やりやすい選手はいないし、他のスター選手とも同居することが可能な特徴です。これほどまでに圧倒的な中心選手なのに、プレーシェアもボールシェアも出来てしまう史上稀なスーパースター。

ヨキッチはMVPではあるけれど、それでもまだ過小評価されている気すらする至高のオーガナイザーなのでした。

そしてヨキッチがPGではなくセンターであることに大きな意味がありました。スクリナーとしてマークのズレを作り、その後でパスを受けてオンボールプレイヤーになるから、ディフェンス側も目の前のスクリーンではなく「次の展開」を想定している必要があります。ヨキッチは止めたいんだけど、ヨキッチの前にハンドラーを止めないといけないってのはメンドクサイ話だ。

そんな部分は「スクリナーになるカリー」にも似た要素があります。ヨキッチの次はカリーの話を予定しています。

至高のヨキッチ~ゲームメイカー~” への4件のフィードバック

  1. もしリーグの中から自由に選べるとしたら、ヨキッチと一緒にプレーさせる4人は誰が良いと思いますか?(サラリーもある程度考慮した上で)

    1. マレーとMPJはそのまま組ませたいので、エイブリー・ブラッドリーやKCPなどのディフェンダー、そしてセンターにギャフォードでもつれてきたいかな

  2. 何となくだったヨキッチの凄さが言語化された事でよりその凄みがわかりました。
    来季注目して観てみようと思うのですが、ナゲッツとして注目するべきポイントはあるでしょうか?
    マレーいないし、オフボールが上手い選手も減っている気がして心配ではあるのですが、、

    1. MPJがオンボールプレーをどれくらいするかですね。

      オフボールで点を取るのが上手いですが、マレーがいない分だけオンボールでも役割を増やせるのかどうか

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