エースになったジェレミ・グラント

ピストンズの新エースは1シーズン限定なのか

昨オフにGMが変わったピストンズは再建の中心にジェレミ・グラントを指名し「オフェンスで大きな役割を与える」としてFA加入させました。プレーオフのディフェンス面での活躍により注目が集まっていたジェレミですが「オフェンスでエースにする」というのはピストンズくらいだったでしょう。

しかし、現在ではドラフト1位のカニングハムが加わったことでジェレミの役割がどうなっていくのかは不透明です。HCケーシーの特性からするとルーキーに大きな責任を与えず、そのままジェレミをエースに据える可能性が高いですが、全てはカニングハムの活躍次第。そしてジェレミは活躍するほどにトレードの噂が出てくるかもしれません。

◎エースになるということ

平均22.3点を記録し、チームUSAにも選ばれたのだからジェレミの選択は大成功でした。エースキャラからは遠い位置にいた6年間から、突如としてエースになるのは珍しいケースで、そこにはスタッツの大きな変化があります。

〇3年間の変化
得点 13.6 → 12.0 → 22.3
FG 49.7%→ 47.8%→ 42.9%
3P 39.2%→ 38.9%→ 35.0%
アシスト 1.0 → 1.2 → 2.8
ターンオーバー 0.8 → 0.9 → 2.0

確かにジェレミは得点を大きく伸ばしたものの、FG成功率は落ち込んでおり、特に3Pは高確率だったのが普通レベルに落ちてきました。アシストはしっかりと増やしたけどターンオーバーも増えており、総じて効率性は落ちました。

それがエースになるという事であり、ディフェンスのマークを一身に受けても決め切ることが求められます。もしもジェレミが前回のシアカムと同様のセカンドエース的な位置づけならば、もっと輝いたかもしれません。カニングハムのプレーメイクが助けてくれれば、FG成功率の改善も期待できるかも。

〇EFG49.1%
〇TS 55.6%

フリースローが85%近く決まったこともあり、TSはそれなりですがEFGは悪かったです。まぁ仕方がないね。ドライブすればファールドローもあるし、スピードで決めきることも出来て悪くなかったのですが、プルアップのアウトサイドは確率が低かったです。

〇プルアップ
3P 26.9%
ミドル35.7%

3Pよりも苦しかったのはミドルレンジのプルアップでした。これが35%くらいとなると他にはテイタム(35.1%)、ウォール(32.5%)くらいかな。全体的にシュート力よりもドライブ時に駆け引きするプレーが少なく、中間距離でタフショットになってしまうケースが多い選手に見られる傾向です。

〇スポットアップ
6.1回
5.4アテンプト
6.1点
FG37.6%

そんなジェレミで最も多くの回数アタックしているのがスポットアップでした。ポストよりも外に開いた状態からの1on1はジェレミの得意技であり、ミドルの悪さが響いたプレーでもありました。

ミドルレンジのタフショットを決める能力が低かった
ミドルレンジの選択が増えるプレーコールをしていた

実はジェレミの場合はダブルで響いているイメージです。タフショットを決める能力はそんなに向上しないでしょうが、そもそもミドルになりにくいプレーコールを増やしてあげれば、得点効率は改善する気がします。だから

エースを任されたけど、活かされたとは言い難いシーズンだった

そんな気がしています。じゃあジェレミの得意なプレーって何だろうか。

あとさ。ケーシーのイメージがあるからなんだけど、デローザン的なプレーを求められていたように見えるんだよね。個人技でドライブしてミドルレンジのジャンプシュートを決めろ、っていうさ。デローザンにはラウリーがいたけど、ジェレミにはPGも足りなかったな。

◎ジェレミの得意ゾーン

大前提として「セカンドエースとして輝かせたい」は押さえておきましょう。ショート力が高ければスコアリングエースに、パス能力が高ければプレーメイキングエースになれますが、ジェレミの場合はどちらも低いので、どうしてもセカンドエース止まりです。

それでもセカンドエースとして輝くのであれば、サラリー的には何の問題もありません。そんな高いわけじゃないんだ。平均20点取っていれば及第点以上のサラリー。そしてカニングハムは現在のところ「プレーメイキング型」っぽいので、20点コンビになれれば新シーズンは合格でしょう。

ジェレミのショットチャートを見てみると、ミドルレンジの確率の悪さが目立ち、他には左コーナーが弱いという不思議な適性があります。3Pに関してはこの左コーナーを除けば平均レベルですが、トップはあまり強くないのも押さえておきましょう。

これらは言い換えれば「ゴール下か3Pか」を徹底させれば、効果的な選手になっていくことも示しています。サポート役としてのプレーで、ミドルを打たなかったサンダーやナゲッツ時代はFG%も50%に届きそうだっただけに、いかにしてミドルの選択を減らすかが重要です。

ただ「ミドルを打たない」といっても、ジェレミの場合は強引に突破しきれるほどのドライブやフィニッシュスキルが足りないのは悩みです。試合中もミドルを打ちたくて打っているというよりは、ディフェンスの対応を見たら「ミドルを打つのが最適だった」という程度の話でした。ワンプレーで見れば理解できる選択のシュートだったね。

〇ドライブ
11.3回
7.6点
得点率67%

一方でドライブ時の得点能力はかなり高いのですが、回数的にはチームの中でも4番目と少ないのが悩みでした。例えばデローザンは18.2回のドライブをしています。少なくともピストンズは「ジェレミがドライブをしやすいプレーコールを増やせば、得点力は上がった」ような気がします。逆にガード陣が個人でドライブすることを狙いすぎでした。

〇ピストンズのドライブ数 52.5回(5位)
〇ピストンズのパス数 287回

チームとしてドライブが多く、その一方でパスは平均レベルです。このパス数については難しい面もあって「強力な個人がいるとパス数が減る」という傾向もあります。要は弱いチームは「シュートに行けないからパスが多くなる」なんて傾向もあります。だからピストンズで言えば点が取れない割にはパスが少なかった印象です。

この傾向はキリアン・ヘイズにとって特に苦しくて、「ガードはドライブしろ」が大前提になっていたから、突破力に欠けるヘイズは何をしていいかわからなくなっていました。パスセンスは非凡だったけど、1on1は止められまくっていた。
だからもっとガード陣にパスムーブさせるオフェンスに変更すると、ヘイズにとってもジェレミにとってもポジティブな変化になるはずです。多分、カニングハムにも。

ジェレミのショットチャートに戻ると

右コーナー(37本)、左コーナー(33本)

とコーナー3Pの本数には違いがなく、45°の3Pも

右サイド(86本)、左サイド(97本)

とこちらも違いはありません。ところが、ミドルやショートレンジになると

右サイド(112本)、左サイド(55本)

極端に右サイドの方が増えてしまいます。この理由の1つが「右サイドの方が好きな事」なのですが、それはまぁ置いといて、他の理由として「右利きのジェレミは右ドリブルでのドライブの方がフィニッシュパターンが多い」という事情があります。エンドライン側にドライブするときは、どちらのサイドでもさほど問題はないのですが、インサイドドライブするときに左手ドリブルだとジャンプシュートを選択してしまいがちです。

要は左サイドでボールを持たせた方が、ドライブからストップせずに、そのまま右手でのフィニッシュに行けるということ。そしてウイングスパンもあるジェレミはフィンガーロールが上手く、レイアップ系統にはブロックがあっても強いです。フローターは下手

左サイドからのドライブを増やすことでミドルを減らして効率アップ

こんなことで、かなり改善してきそうです。ただ、左手ドライブからのフィニッシュパターンはどっちにしても増やさないと苦しい。エースキャラになってアテンプトが増えるほどに、欠点も目立ってしまいました。それでも「メインのサイドを変える」というだけで機能するなら簡単だ。

ところが、ここに違う問題が絡んでしまいます。

〇サディック・ベイの3P
右コーナー 10/37(27%)
左コーナー 33/75(44%)

対角となるウイングのベイが明らかに右コーナーを嫌がっていました。だから左コーナーが好きなベイと、右サイドが好きなジェレミは良いコンビではあった。ということで、ピストンズは再建段階なので、やらなければいけないこととして

ジェレミとベイは両サイドから同じクオリティでプレーしろ
新シーズンはサイドを入れ替えて、ベイは右サイドを克服しろ

ジェレミの問題は利き手の話であり、フィニッシュパターンなのでサイドはあまり関係なく改善したい問題です。一方でベイについては満遍なく高確率でシュートを決めるのが大事なので敢えて苦手なサイドに置くパターンを増やしてもイイかもね。

なお、ベイはベイでサマーリーグのドライブは右手が多かった印象です。ちなみにショットチャートを見るとインサイドのフィニッシュは苦しすぎるので、もっと3&Dに徹底したほうがいいよ。

◎何を変えてくるのか

エースとしてはルーキーだったジェレミなので、ミドルを多く打つことも、フィニッシュパターンが求められることも初めてでした。ナゲッツ時代は求められなかったプレーの数々であったため、確かに確率は大きく落ちたけど、初めての割には頑張れたのも事実です。

そのため、本人が何に手ごたえを感じ、何を解決できる課題と捉えてくるかで、全く違う選手になって戻ってくるかもしれません。アシスト力が上がっているかもしれないし、フェイダウェイが上手くなっているかもしれない。もしくはカニングハムが来ることも考えて3P能力を向上させてくるかもしれない。

ただ、いずれにしてもプレーの選択におけるミドルは減らす必要があります。それは単に「ミドルが非効率だから」ではなく、どうしてもジェレミの場合は「ドライブしきれないからミドル」に見えてしまうためです。

ひょっとしたら、単純にドライブ能力、1on1能力に磨きをかけ「ミドルを打たなくてもドライブで攻略する」ような選手になって戻ってくるかもしれません。エースキャラ2年目なので、改善できることは多いはず。

また、そもそもシーズンが20試合を超えた頃からスタッツが落ちていたのも特徴でした。シーズン終盤になって持ち直したものの、単純にこれまでにないプレー負荷からくる疲労によってプレーレベルが落ちていただけというのもあります。

いずれにしても2年目となる新シーズンは、より飛躍することが期待できます。

◎カニングハム

〇カニングハムのサマーリーグ
27.7分
18.7点
2P2.7/6.6
3P4.3/8.7
2.3アシスト

飛躍に欠かせないのがファーストオプションになるカニングハムの存在です。「ファーストオプション」というけど、それは必ずしも得点が多いわけではなく、自分から仕掛けて打開する担当であればOKです。

サマーリーグのカニングハムは「さすがドラフト1位」というプレーをしましたが、その一方で思ったよりもアシストが伸びませんでした。また3Pを平均8.7本も打ち、これが50%決まったことで得点を稼いだ構図になっており、打開役としての能力は示せませんでした。

また、やはりPGヘイズにドライブを求めるスタイルのオフェンスを展開し、それが全体を低空飛行させることにも繋がっています。カニングハムが噂通りに判断力や駆け引きで勝負する様子なので、ボールを止めてしまうよりも、流動的に動かしていくべきです。

ディフェンスのギャップをオフボールから作っていけば、駆け引きと多彩さでプレーするカニングハムも生きれば、ドライブ能力が高く、3Pも決めるジェレミの良さも生きてきます。

また、エースのジェレミはチームメイトのパスから平均4.8ものアシストを生み出しており、もっとも頼りになるパスレシーバーです。ところがジェレミに出てくるパスは、エースなのに少ないのが気になるところ。

〇パスを受けた本数
ライト 52.0
ヘイズ 51.5
ジョセフ 51.1
ジェレミ 44.1

ライト→ジョセフのトレードなので「ガード2人の方が多くパスを受けている」という構図ですが、ヘイズとジョセフは26分程度のプレータイムなので交代で出てきているだけです。PGにボールが集まるのは自然ですが、もう少しジェレミを経由し、ジェレミもタッチパスで繋げていくほうが好ましいです。

〇ジェレミへのパス
ライト 8.4
プラムリー 7.3
ヘイズ 4.2
ベイ 2.3

プレータイムの関係もあるので、なんともいえませんが、ライトはともかくジェレミにパスを出しているのはセンターのプラムリーが多かったという事実も、ガードとウイングの関係性が好ましくなかったことを示しています。

ジェレミがスポットアップなどから個人技アタックしているのは効果的には見えませんでしたが、そんなアタックをしていかないと得点にならないオフェンスだったわけです。「パスムーブしたほうが良い」とはこういう点で、両ウイングにベイとジェレミがいる以上は、ガード陣のドライブから展開するのはメリットが低いです。

HC交代しなかったので、似たような展開となることが想定されます。ツーガードになって、よりパスが来なくなるのか。それともカニングハムが適切なパスを提供してくれるのか。幸いにして個人技重視じゃないので改善する方向に流れる気がします。

一方でポイントセンター的な選手でもあったプラムリーが移籍し、フィニッシュタイプのスチュワートがメインセンターになることが予想されるのはデメリットです。単純にジェレミへのパスも減れば、ポストパターンそのものが減ってしまいそう。

逆に言えばポストアップするスペースは出来るので、ジェレミが新たに身に着けるか、カニングハムがビッグガードの長所を生かすかもしれません。このどちらかが増えることはジェレミには好ましい結果が待っているはずです。

ボールムーブとポストアップがカニングハムで変わっていくのか?

かなりの部分がカニングハムへの期待で埋まっていますが、総じてジェレミにとっては好ましいファーストオプションの選手だと思います。ジェイレン・グリーンのようなスコアリングタイプだと苦しんだでしょう。ルビオ欲しかったな―とは思う。

◎ディフェンス

なんだか全体的にネガティブになってしまいました。そんなつもりじゃなかったのにな。ジェレミは

・エース1年目で結果を出した
・ミドルの確率が悪いためプレーチョイス変更だけで改善する
・チームとしてジェレミを活かしきったわけではない
・ピストンズはボールムーブを強くすべき
・伸びしろが十分に残されている

こんなことが言いたかったわけです。あれを見ても、これを見ても「もっと改善できるんじゃないの?」という状況で得点を重ねてきました。ただどうしても

「セカンドエースとしてアテンプトよりもEFGを高めろ」

こんな条件も付いてきます。それはネガティブなようで、そうではありません。シアカムの表現を借りれば「0を1にするのは苦手だが、1を10にするのは得意」であり、だからといって0を1にする選手が同じことを出来るわけではないので。

カニングハムにはファーストオプションになって欲しいが、得点はジェレミの方が多くてよい

こんな感想です。もっとチームとして効果的になっていこう。

そしてジェレミを評価するうえで大事なことは「本職はディフェンス」ってことです。そもそもディフェンス能力の高さで人気FAになった選手だけに、オフェンスでもこれだけ働けるなら総合的な評価は高くなるわけだ。だからオフェンスは0から1を意識して負担を増やすことなく、もっと楽にフィニッシュ力の高さを生かしてあげたい。

https://youtu.be/SteMl6hJKsE

サマーリーグではカニングハムもディフェンス面で「勘の良さ」を見せてくれました。対人のプレッシャーではなく、ディフェンスの動く先に顔を出し、ボールを奪い取る上手さです。

ピストンズはフィジカルにもスピードにも対応するサディック・ベイとスチュワートの2年目コンビもおり、オフェンスよりもディフェンス力向上が、チーム力をあげる最短ルートです。そのことを意識してかACにカラミアンを加えており、マンマークを中心とした手法で、劇的なレーティングの改善というよりは、様々な仕掛けを施し、相手のプレーを読むことで勝負所で止めきる上手さがあります。嫌がらせ上手だし、ディベロップメントも上手い。

個々のディフェンス力に期待できるだけにマンツー中心で整備されていけばチームとしても大きく改善される期待があります。

〇レーティング
オフェンス 107.6(26位)
ディフェンス112.2(19位)

現時点でもディフェンスの方が順位的には高いですが、レーティングを「4」改善した場合に、オフェンスは15位までにしか上がりませんが、ディフェンスは5位にまで上がります。要は現時点でも団子状態の下につけているので、団子を抜け出せるかどうか。まぁベンチ総合で考えると難しいけどね。

ジェレミは攻守両面で働く選手。チームが勝てない中でオフェンス面の働きが目立っているけど、本来のジェレミは「ディフェンス力で接戦を制するキーマン」です。最後に相手エースを止める事こそ最大の仕事。もっと接戦が増えれば、ジェレミの重要性も高まってくるでしょう。

エースになったジェレミ・グラント” への2件のフィードバック

  1. いつも楽しく拝見しています。ピストンズのことを取り上げていただいてありがとうございます。
    シアカムの記事を読んでこれってジェレミにも当てはまるのでは?と思っておりました。カニングハムがシーズンも期待通りの活躍をしてくれれば、セカンドエースになったとしても昨年よりもさらに良い活躍ができるのではないかと思います。
    またウイングスパンが長く守れるメンバーがそろってきましたので、ジェレミを中心にカラミアンがどんなディフェンスをしてくるのかについても期待しています。
    シーズン始まってジェレミ(カニングハム・ピストンズ?)が実際どうなったのかについて、いつか振り返りも行っていただけたら嬉しいです。楽しみに待っています。

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