アシスト女王・町田瑠唯

オリンピックを振り返ろう

本来ならば「さようならホーバス・オリンピック」のお時間ですが今回は題名を変えて「アシスト女王」を軸に語ってみましょう。中身はほぼホーバス・ジャパンの振り返りです。

そういえば「日本代表の町田ってミニバスのチームメイトだったんですよ」と5年くらい前に友人が言ってた気がするのですが、その頃ってバスケ観ていないから興味もなかったな。今は疎遠というかスマホが壊れて連絡先がわからないので真偽を確かめることはできません。

さて、1試合平均12.5アシストという異次元のアシストを記録した町田はベスト5にも選ばれました。オリンピックにはベスト5とかMVPとかなかった気がするから勝手に「MVP」って書こうと思ったのですが、FIBAがちゃんと選出していましたね。

◎きっかけ

町田が主役で振り返ろうと決めたのは、18アシストを記録したフランス戦でした。それは「史上最多のアシスト数」ではなくて、「オリンピックで初めて町田→本橋の交代策が効かなかった」ことが極めて興味深かったからです。

町田・・・パスファーストでシュート数が少ないパサーPG
本橋・・・シュートファーストのアタッキングPG

こんな2人の違いが相手からすると180°の戦術変更になってしまうから効きまくっていました。なんでフランスには通じなかったかというと、ただ単に「町田が効きまくりすぎていたから」でした。要するにフランスからすると「PGの能力が落ちてラッキー」ってことです。

3P警戒でインサイドが空いているから本橋のアタックは効いても良かったのですが、町田だと周囲との連動から決めていくのに対して、本橋は自分でアタックしていくので、機能しているなら町田の方が効果的でした。つまり

チーム全体を機能させるのは町田、個人で打開するのは本橋

こんなPGの構図がありました。このPGについては後述します。いずれにしてもタイプの違うPGに困らなかったのは、フランスがあまりにも日本のオフェンスにズタボロにされていたからでもあります。対策が裏目に出まくっていた。町田の18アシストが生まれるくらいにフランスの対応は間違っていたのでした。

ファイナルの感想でも書きましたが、各チームそれぞれの日本対策が異なっていて

ベルギー:町田を止めろ
フランス:3Pを止めろ
アメリカ:3Pとカッティングを止めろ

「3Pが決まりまくっている」のが日本でしたが、その一方で日本の事を知っているベルギーは起点となる町田を止めに来ました。要は起点と周囲の分断を狙ったわけです。その結果として町田は、今大会最多の10点を奪っており、パスファーストのPGからスコアリングに軸足を移したことになります。

なお、結局ベルギー戦も14アシストしており、ベルギーはどっちも止めらんなかったことにもなります。これは試合終盤に急激に失速したベルギーの事情だったね。

その一方で同じく町田以外を止めに行った中で、「3Pを止める」のフランスが18アシストもされ、「フィジカルで個人を潰す」をしてきたアメリカは6アシストに押さえたのもファンキーな結果でした。周囲の動きがあっての町田であり

チームメイトは「動けば町田から必ずパスが出てくる」と信じている

そんな構図も浮かんでいた気がします。そしてこれだけみると「町田のパス能力」なのですが、実際には幾重にも準備されたホーバスの戦術論が町田のアシストを増やしまくっていました。

◎スペースと3P

「平均身長が低い」と「3P」がパワーワードになっていましたが、ホーバスは「相手のビッグマンを3Pで引き出す」を重視しています。「小さい選手が3Pで勝つ」といえばドラマですが、実際にはベーシックな対応である

ビッグマンをアウトサイドに出して、インサイドを攻めやすくする

という至極、普通の事を徹底しています。おそらく女子のベースにこの考え方が徹底されていないのでしょう。だからこそ繰り返していたような感じです。ただ、男子からすればユーロのチームは当然のようにやっている事であり出来ない方がおかしいものです。そんでもって「日本の男子はリバウンドの強いガードがいない」ことが問題になっていました。(このブログでは)

これは3Pを止めに行ったフランス戦で明確に出てきました。

〇2Pアテンプト
平均    37.7本
フランス戦 39本

〇3Pアテンプト
平均    31.7本
フランス戦 22本

日本にとって最多得点となった準決勝のフランス戦ですが、3Pは平均を10本近く下回っています。3Pを警戒していたフランスは「当たり前のようにインサイドを攻略された」ということになり、何やってんだか。またカットプレーの上手い赤穂ひまわりが17点でリーディングスコアラーになったことも象徴的な試合でした。

だから一見すると「3Pが大事」なホーバス・ジャパンですが、やっていることは普通だったりする。3P警戒だからこそ、インサイドを攻めまくることが出来ました。

そしてアメリカもまたアウトサイドを守りに行き、広いスペースが出来たことでサイズで劣っているはずの日本はオフェンスリバウンドを多くとれたのですが、ただ2Pを効果的に決めることが出来ませんでした。そこにあったのが「カットプレーをさせない」というアメリカの守り方であり、オフボールの動きを止めに来るフィジカルでした。

日本の理想はインサイドでスピードのついたフィニッシュ、つまりレイアップをすることで、そのために他国よりも広くスペーシングする必要があり、3Pは重要な武器でした。でも広くスペーシングさえすれば、しっかりとインサイドフィニッシュする力がありました。

ダントーニロケッツじゃん!

でも、町田はハーデンではないのでドライブを自分で決めきることは出来ず、常にカペラを求めていました。しかし、日本にカペラはいないので、PJタッカーのようにカッティングしてきました。

マイクロボールじゃん!

だから実はロケッツっぽいんだ。日本も「高さがない」といいつつ、いないのは200cmのフィニッシャーだけで185cmのタッカー的な合わせは何本も出てきました。それが特にフランス戦で顕著だったから、町田は18アシストもしていたのでした。

〇平均得点  82.2点(2位)
〇3P成功数 12.2本(1位)
〇3P成功率 38.4%(1位)

得点はアメリカに次ぐ2位で、1位になった3P成功数の2位でも9.0本なので圧倒。そして成功率は1位なのですが・・・うん、むしろ、この確率で1位となれば他の国の成功率が低すぎないか?

ここで男子のスタッツを見てみましょう。そもそも女子よりも攻撃力もスピードもあるからハイペースで数字は伸びていますが、アメリカと日本の数字をあげてきます。

〇男子アメリカ
得点 99.4点
3P成功数 14.2本
3P成功率 40.1%

〇男子日本
得点 78.3点
3P成功数  9.7本
3P成功率 34.5%

アメリカは3Pについては1位ですが、だからこそ「男子アメリカと女子日本はやっていることが似ている」と評したわけです。なお、得点はスロベニアが100点オーバーです。総じて男子の感覚で見れば、日本女子の3Pは突出しているわけでもないので、イメージとしてはホーバスがいうように

ガード中心が常識化している男子と違って、女子の世界はインサイド重視

こんな構図は見て取れるし、だからこそ日本の戦い方は他の国と一線を画していました。ただ、3P成功率38.4%は男子だとナイジェリア(!)やドイツも上回っており、そこまで素晴らしい数字にはなりません。

男子日本の場合は「決まらなかった」ではなく「打てなかった」なので、ここに男女の差が強く響いていたのでした。ルビオが3P決めまくったのはファンキーだったけど、3P決められないチームなんてアシストも出来ないしね。

◎アシスト

平均12.5アシストした町田は当然のアシスト女王ですが、2位でも7.5本なので圧倒的でした。そして日本のFGにはアシストが付きまくるのも特徴でした。ところがチーム単位のアシストランキングは意外なことになっています。

〇日本のアシスト数 22.3本(5位)

あんなに町田がアシストしているのに、日本は5位でした。「特定のパサーがアシスト数を稼ぐと、チームとしてはアシストが少ない」というNBAの傾向と同じでした。でも2位のベルギーは個人でもアシスト2位なんだよね。日本だけNBAナイズされているかのようだ。

〇町田
12.5アシスト
25.6分

〇宮崎
2.4アシスト
8.3分

〇本橋
1.7アシスト
9.2分

じゃあ控えのPGが少ないかというと、そんなことはなく、特に町田と似た役割を託されていた宮崎は短時間ながらチーム2位のアシスト数です。3人で16.6アシストなので、他の9人で5.7アシストしかありませんでした。ここまで偏ったアシスト数を記録しているチームはないと思います。

PGが全てのアシストを受け持つシステムだった

これの恐ろしいことは日本が3P打ちまくりのチームだったことです。その3Pも殆どが「PGのパスから打っていた」わけで、ある意味でワンパスでフィニッシュに行くチームスタイルでした。エクストラパスが少なくてもOKなのは、日本の凄さか、相手の悪さか。

ファイナルを見ると「スチュワートみたいなインサイドのプレーメイカーが欲しい」でしたが、ホーバスは驚異的なまでにPGのみでプレーメイクさせていたのでした。気持ち悪いぜ。

まず100通りのフォーメーションを覚えないといけない。
練習に行くと突然、新しいフォーメーションを教えられる

過去のバスケットカウントの記事で、こんな選手のインタビューがありましたが、この内容が「徹底してPGのパスから決める」なのが面白く、言い換えればホーバスのバスケットは数多くのフォーメーションを作りながらも

PGの能力とオフボールムーブで構成されている

こんな感じでした。恐ろしいくらいにPG任せなんだけど、そのためにオフボールムーブが仕込まれまくっているから、パスを出す先は決まっています。よくぞまぁこれで勝てたもんだってくらいの内容ですが、「町田を潰す」が日本対策として有効であり、だけど「潰されない」から勝てたのでした。

◎Wリーグの町田

こうなるとWリーグでの町田は、さぞかしアシストしまくっているんだろうなーと思うわけですが、アシスト女王に輝き続けてはいるものの、このオリンピックほどのスタッツではありません。

〇Wリーグのアシスト
町田 7.75
宮崎 6.88
安間 5.45
本橋 3.40
東藤 3.37

1位町田、2位宮崎で間に何人もいて12位本橋です。

ミニッツがわからないので何とも言えませんが、少なくとも代表チームの方が町田はアシスト数が大きく増えているので、それだけ「チームメイトの合わせが多い」ってことになります。逆に町田に近い宮崎が代表ではそこまで周囲と合っていなかったのも印象的で、単なる個人能力だけでなく、周囲との連動性も重要でした。

んー、というところで、これから過去の話に行くのですが、長くなったので前後編に変更します。過去っていうのは2年前のアジアカップのことで、YouTubeのおすすめに出てきたファイナルを見て、バスケット・カウントの過去記事を読んでいくと、今回のオリンピックがいろんなかみ合わせの中で出来たことが分かってきます。

といっても、そんなに興味を持って調べているわけじゃないので、見たのはこの試合だけです。

4Qに意味わかんないこと起きているから、全部見るのがめんどくさい人はそこだけでもどうぞ。

ってことで次回に続く。くそ、予定外だ。

アシスト女王・町田瑠唯” への4件のフィードバック

  1. ハーデンがいなくて寂しいけど、グリーンが来て楽しみなロケッツファン より:

    ブログ楽しく読ませていただきました。管理人さんのおっしゃる通り、カペラトレード後のマイクロボールロケッツを見ているようでした。ホーバースHCのインタビューにもあった気がしますが、オリンピックが1年延期になったのはより戦術を熟成させることができてのこの結果なのかと思いました。

    1. ロケッツに似てますし、だんだん似てきた感じもしました。この形に慣れてきた気がするので、一年延期あけで上手くチームとして伸びてきたんでしょうね。

  2. マイクロボールロケッツと違うのは、(ディープスリーの有無)でしょうか。

    HOUは、ガードが通常より広くスペーシングするので、ただのショウやスイッチでは守れない特殊性もありましたね。

    女子に関わらず、日本は男女でディープスリーを習得するのが必須な気がしたオリンピックでした。

    1. スロベニアとか観てても圧倒的に3Pで構成してますし、日本は置いてかれてました。距離もですが、総じてシュートパターンが足りてない気がしています

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