No.5 デジョンテ・マレー

今日も今日とてトリプルダブルのラッセル・ウエストブルック。4月だけで14回のトリプルダブルを達成しました。10年前の10-11シーズンにおいてリーグで最も多くのトリプルダブルを達成したレブロンで僅か4回だというのに、10年後には1カ月で14回も達成する選手が出てきているんだ。

これがウエストブルックだけなら特殊な選手で終わるけど、今はヨキッチやドンチッチ、ハーデンも何度も達成する時代になりました。ヨキッチは特殊としても、PGにこのタイプが多く、時代の流れも関係しています。

スモールラインナップが一般化し、トランジションオフェンスをしなければ勝てなくなった中で、能力の高い選手がディフェンスリバウンドを取るのは攻守の切り替えを挙げることに繋がります。特にリバウンドに強いガードが1人いれば、スモールラインナップの組み方も楽になります。

今では1つの戦略としてディフェンスリバウンドを主たる仕事に加えたガードが増えているわけです。このタイプのPGとしてトリプルダブルの回数順に並べていくと

①ウエストブルック
トリプルダブル 31回
得点 21.6
アシスト 11.2
リバウンド 11.0

②ハーデン
トリプルダブル 12回
得点 25.2
アシスト 10.9
リバウンド 8.0

③ドンチッチ
トリプルダブル 9回
得点 28.6
アシスト 8.7
リバウンド 7.9

④ベン・シモンズ
トリプルダブル 4回
得点 14.7
アシスト 7.0
リバウンド 7.5

ドンチッチとシモンズの間には大きな差があり、実際に上位3人とシモンズではチーム内での仕事量にも大きな差があります。ハーデンはそんなに仕事していないか。

そして5番目に来るのがデジョンテ・マレー。いや、実際には5番目なのか、4番目なのか、シモンズと競る立ち位置に上がってこようとしてします。アシスト数さえ向上すれば。

⑤デジョンテ・マレー
トリプルダブル 4回
得点 15.2
アシスト 5.9
リバウンド 7.2

スパーズの歴史で1シーズンにおけるトリプルダブル数の最多記録を更新したマレーですが、冒頭の通り、10年前ならトリプルダブル4回はリーグトップの数字です。残りシーズンでもう1回達成すればレブロンを超えることになり、「マレーは10年前のレブロンレベル」といえるわけですが、もちろんそんなわけがありません。「そんなわけがない」からこそ面白い気がするのでした。

上位3人はモンスター。PG以外でもヨキッチ、レブロン、ヤニス、サボニス、ランドルが5回以上のトリプルダブルを記録しており、4回ではバトラーとドレイモンドが並んでいます。マレーの数字は特別ではない時代になりましたが、マレーがPGとしてシモンズと並ぶようなスタッツを残している事は注目すべき事実です。ちなみにレブロンやバトラーも実質的にPGですが、今回はリバウンドが重要であり、それはディフェンス時のポジションを前提に考えないといけません。

◎デローザンの収去

デローザンは来シーズンもスパーズに残りますか?

何個も似たような質問が来ましたが、現状のデローザンなら残るんじゃないかな。プラスして何かオマケというか、戦力アップを実施できればヤル気も増すでしょ。そうでなくてもデローザンはスパーズで進化を重ねているわけだし。

いずれにしてもスパーズのエースはデローザンであり、マレーのアシスト数が5.9に留まっている(少ない数字ではないけど)のは、あくまでもスパーズがデローザン中心のハーフコートオフェンスを組み立てているからです。キックアウトで3Pを生み出すデローザンに比べると、マレーはシュートに繋がるパスが少な目。

マレーの位置づけはあくまでもセカンド・プレーメイカーですが、同様にホワイトもいるし、ベンチからミルズが出てくるのだから、プレーシェアするチームとしては十分なアシスト数を稼げています。これが8本を超えたら、本格的にシモンズと比較する選手になります。

そして仮にデローザンが移籍を選んだとしたら、マレーのスタッツはさらに上がってくることが考えられます。それはある意味、マレーをオールスターレベルに押し上げるために必要な変革でもあります。

エースのデローザンには残って欲しい
でもデローザンが移籍したらマレーがステップアップするかもしれない

実はスパーズの来シーズンってこんな状態なんじゃないかとも思うわけです。果たしてマレーにそれだけの価値があるのかどうか。それは・・・デローザンがいなくなってみないとわかりません。でも、デローザンがいる状態でもわかっていることは「リバウンドに強いPG」になっているということです。

ケガで3年目を棒に振ったこともあって、成長が遅れたけど、スパーズのチーム状態も関係し、中心選手としてその能力を発揮すべき環境になっています。

◎4ガード

マレー、ホワイト、デローザン、ケルドンをスターターに並べるスパーズは、実質的な4ガードラインナップを敷いています。全員がディフェンスリバウンドに飛び込むスタイルですが、実はパートルのリバウンド数が少ないのも1つのポイントになっています。1人しかいないビッグマンはリムプロテクターとして何度もブロックに飛ぶことが求められており、その分リバウンドへの反応は遅いし、フィジカルなポジション取りに強いタイプでもない。

〇パートルのコンテステッドシュート数
14.3(リーグ3位)

〇パートルの2PシュートDIFF
△9.1

ブルックとゴベアに次いでシュートチェックに絡んでいるパートル。DIFFもゴベアには劣るものの、実質的にターナーと並ぶ2位といえます。エンビードで△5.5なので、どれだけパートルがシュートミスを誘っているか。

その代わりにディフェンスリバウンドはチームメイトが絡みまくります。その先陣がマレー。PGながらチーム最多のディフェンスリバウンドを奪っています。

〇ディフェンスリバウンド
マレー 6.3
ケルドン 5.0
パートル 4.7
デローザン 3.7

デローザンもガードとしては少ない数字ではありませんが、マレーの多さは際立っており、スパーズのスターターはマレー、ケルドン、パートルがディフェンスリバウンドをキープする役割であることがわかります。

ちなみにベン・シモンズは5.8本とマレーよりも少なく、代わりにオフェンスリバウンドを稼いでいます。ポジションの違いもあって微妙な差異が生まれる。

いずれにしてもスパーズは、マレーのディフェンスリバウンド力を前提として4ガードのラインナップを組めていることがわかります。将来的にロスターが変わってワンビッグでもツービッグでも、あるいはウイングを並べたとしても、マレーの役割を調整すればリバウンド面はなんとかなることに。

スモールラインナップを使いやすくし
トランジションオフェンスを増やす

〇100ポゼッション当たりの被セカンドチャンス
オンコート 13.0
オフコート 13.6

〇100ポゼッション当たりの速攻での得点
オンコート 13.2
オフコート  9.5

マレーのオンオフコートにおけるスパーズのスタッツを比較してみました。相手に与えるセカンドチャンスは、もう少し差があることを期待していましたが、マレーがいなくてもそんなに悪化しませんでした。

一方でスパーズの速攻はマレーがコートにいるかどうかで大きく変わってきます。マレー本人がチーム最多の2.5点(スティールが多いから)という理由の方が大きいのですが、いずれにしてもスモールラインナップを組んでいる割に、マレーがいないと速攻はかなり減ってしまいます。

他のトリプルダブラーのようにチームのスターではないものの、戦術的な核として機能しているマレーなのでした。

◎リバウンドとエースキラー

マレーのリバウンド数については、選手としての特徴を考えると興味深い点もあります。それはマレーが「エースキラー役のディフェンダー」だということ。相手エースを止めながらリバウンドにも多く参加することになり、通常はあまり成立しない形です。

リバウンド数の桁が違うウエストブルックはおいといて、ハーデンやドンチッチはディフェンス時にはインサイドを守っていることも多く、マレーよりもリバウンドに参加しやすい状況にあります。

〇ディフェンスリバウンド機会(獲得数)
ウエストブルック 12.2回(9.5)
ハーデン 10.6回(7.2)
ドンチッチ 10.0回(7.1)
マレー 9.4回(6.3)
シモンズ 7.5回(5.8)

もしもマレーがもう少しインサイドで待てるなら、リバウンド数は上がってきそうです。一方でチャンスが少ないシモンズとの差は主としてチーム事情ですが、それに加えてリバウンドに備える早さの違いでもあります。シモンズは3Pをチェイスしてブロックに飛ぶことも多く、その分だけリバウンドには参加してこなかったり(調べていない)

ここにディフェンスリバウンドを取ったときのリングからの距離も足してみると、なおさら面白く見えてきます。それぞれの選手の特徴が見えてくる。

〇ディフェンスリバウンドの距離
ウエストブルック 5.7
ハーデン 6.1
ドンチッチ 5.4
マレー 5.5
シモンズ 7.5

マレーはドンチッチと並んでリングに近い位置でリバウンドを取っています。つまり「ロングリバウンド担当」というわけではないってことです。シモンズが明確にロングリバウンドへの反応の速さで稼いでいるのに比べて、よりインサイドでのリバウンド争いに参加していることになります。

ちなみにウエストブルックも従来は平均6~7フィートとロングリバウンドの割合が高かったのですが、ガードを並べたがるウィザーズにきたことでリングに近づきました。最近はゴール下で取っているシーンをみることが増えたと思いますが、昔はそういうわけじゃなかった。アダムスやカペラもいたし。

いずれにしてもマレーのディフェンスリバウンドの強さは、こぼれ球ではなく「ペイント内でのリバウンド争い」にガッツリと参加しての強さでもありました。193cmながら、ウイングスパンは207cmあるマレーなので、ガードらしからぬ強みを持っています。エースキラーのガードながら、インサイドでのリバウンドに参加するって面白いキャラだ。

ちなみにマレーはそのイメージ反して3Pディフェンスに強いわけではなく、39%決められています。仕事としてはハイプレッシャーでスティールを狙いながら、ドライブさせてインサイドで仕留めるけど、ステップバックされると弱みもあるよね。

◎スパーズの殻を破れるのか

チーム最多の51本のパスを出しながら、デローザンへのパスが殆どアシストにならないこともあって、5.9アシストに留まっていることがPGとしては寂しい反面、ターンオーバーは1.7しかなく、堅実なプレー選択の中で立派なアシスト数を稼げているともいえます。

ハーフコートがデローザン中心であることと、それ以上にスパーズオフェンスなので個人能力でディフェンスを切り裂くよりも、パスを繋いでチャンスを作るスタイルのため、アシスト数を大きく伸ばすのは簡単ではないかもしれません。ある意味、スパーズの殻を破らないとオールスターのスタッツにはならない。

同時にそれはスパーズというチームとしても破らなければならない殻かもしれません。

5年目のマレーは気が付けばミルズに次いでチームの古株になりました。マレーが加入する前年までは20代前半がカイル・アンダーソンしかいなかったのに、今はロスターの半分以上が25歳以下です。

今シーズンのスパーズは勝率5割で戦えており、現行ロスターにおける最大限の成果を得られている気がしますが、今後その先を目指すのに個々の成長をどこまで待てるのか、その間にデローザンの全盛期が終わってしまうことも懸念されます。

オフにはジョン・コリンズやマルカネンがFA市場に出てくるので、スパーズが補強したいポジションに得点力ある若手を加えることも可能です。でも、彼らを獲得したところで個人で全てを解決するタイプではないので、お膳立てを出来る選手が欠かせません。

マレーはリバウンドの強さと堅実なパスでのアシストがありますが、もう一歩踏み込んでデローザンのようにドライブでディフェンスをずらしてシュートチャンスを多く作れるか、1つのパスで決定機を作りだせるか、いずれにしても個人での局面打開能力と付属するアシスト増は「誰を補強するのか」という点でも重要になってきます。

大物スーパースターを獲得できるかはギャンブルですが、グッドプレイヤーを集めてチームを強化していくなら、それぞれの特徴を繋ぎ合わせるゲームメイカーは欠かせません。マレーが個人能力でチームオフェンスにプラスアルファをもたらせば、フィニッシュ能力の高いスコアラーも生きてくるはず。

今はリーグ5番目のPGトリプルダブラーですが、この順位を上げる事がスパーズの戦略も変えていくでしょう。

No.5 デジョンテ・マレー” への4件のフィードバック

  1. >エースのデローザンには残って欲しい
    >でもデローザンが移籍したらマレーがステップアップするかもしれない
    今シーズン、まさしく同じことを考えてきました。マレーにそこまで期待できるのか疑問なのも同じです。ミッドレンジのジャンパーの向上はすばらしいのですが、視野が広いわけでもなく相手との駆け引きや先読みに強いわけでもないのでプレイメイカーとしてデローザンレベルには達しないのではないかというのが個人的な予想です。残念ながら。

    FAでスパーズに来てくれそうな大物スターはいないのでグッドプレイヤーを集める路線になると思うのですが、良くも悪くも人間性を重視しているチームなのでそれによって候補から外れるプレイヤーが出てきてしまうので余計に補強が難しいと感じています。人間性抜きでなら迷いなくジョンコリンズを狙って欲しいんですけどね。

    1. デローザンと再契約する場合、いくら位が適正額なんでしょう?
      戦術の核だし、ast/toも3.0超えてるし、あと2年くらいはプライムタイムなので、再契約なら2+1で120M程度でしょうか?
      地味に無制限FAが初めての選手なので動きや価格帯が読めないのが怖いですね。
      デローザン+ヤングSAS+コリンズは見てみたいですが、デローザンがサラリーを相当搾らないと苦しいと思います。

      1. 3年120Mの権利はデローザンは持っていない気がします。
        100Mくらいじゃないですかね。

        スパーズはデローザンだけじゃなく、ゲイ・ミルズ、そしてオルドリッジと高額契約が軒並みなくなるので、このオフは勝負に出やすいんですよね。
        一番良さげな案件がコリンズだから、そこに行くか、来年を待つか。
        ほどほどでマルカネンってので十分な気もします。

    2. マレーに大金払っているわけじゃないので、パフォーマンスと合っているんですけどね。
      この利便性をどうやって使うのか、どんな選手を合わせるのか。

      仮にジョン・コリンズを手に入れたとして、マレーがアリウープパスを出せるのか・・・

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