レブロンを評する言葉は様々ありますが、最もしっくりきたのはシャックによる表現
「レブロンはマジックとシャックのミックス」
シャックが言ったのは昨季の話ですが、そんな言葉に吸い寄せられるように近づいているのが、今季の活躍ぶりです。
好調なキャブスオフェンスの中で、レブロンはどんなマジックであり、どんなシャックなのかを探ります。
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今季のキャブスがどうなっているのかを確認しながら、ウォーリアーズとのクリスマスゲームに向けて楽しみを広げてみようという企画です。
アーヴィングが抜けてレブロン頼みが進んだチームと勘違いされる事もありますが、今季のキャブスは紆余曲折を経て、チームオフェンスによる多様性を手にいれ、個人に頼らないチームに変貌しています。
これまではレブロンのレブロンによるレブロンのためのオフェンスが構築されていましたが、今ではチームの中でレブロンが活かされる形になりました。
それが結果としてキャリアハイとも言われる好成績に繋がっているのです。
時には人ならざる存在と言われるレブロンは、キャブスの中でどう活かされているのかを考えていきます。
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◉FG%の高水準
FG 54.8% → 57.0%
今季の最大の特徴はFG%の向上です。元々化け物スタッツなのですが。
多彩なスキルを持つレブロンではありますが、実際にはスキル面ではハーデンなどに比べれば大きく劣ります。スピードの緩急と相手の動きを読んだステップ、ブロックをかわすシュートスキルを比較すればそこまでスキルは高くはありません。
しかし、それらのスキルを筋力面で補ってしまうのがレブロンです。
例えばハーデンは緩急を使ってディフェンスを誘導した上で、左右のステップワークでディフェンスの逆を突きます。ディフェンスからすると前後左右に振られて体勢を崩す上に、シュートポイントがわからないためブロックに跳ぶタイミングを測れません。
なので、時にはフェイクの対象外の後ろから来た選手にブロックされる事があるわけです。
レブロンはそもそもフィニッシュに緩急はほぼ使いません。緩んでしまうよりもスピードをつけた方が推進力があり強さを発揮しやすいからです。
同じくステップを踏みますが、割と筋力で強引に踏み込めてしまいます。ディフェンスをかわすため、ではなく正面に立たせない(チャージングしない)ために相手の軸をブレさせています。相手が触れてくれば&ワンです。
相手をかわすためのスキルよりも、自分のコースを確保するためのスキルを使う印象です。進路を確保すれば圧倒的なパワーで突き進める算段です。
この辺がシャック。
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◯2PFG 65.0% → 66.5%
◯2Pアテンプト 12.7 → 13.1
そんなプレーは高い2PFG%を生み出しています。殆ど変わらない昨季からの数字ですが、若干アテンプトが増えています。
シュートの内45%をノーチャージエリアで放つレブロンはシャックのような決定力を持っています。実は「ゴール下か3P」の最高峰と言えるレブロンです。
その中で変化したのが、このノーチャージエリアでの被ブロック率
◯5フィート以内のブロック率
7.9% → 5.6%
以前よりもブロックを喰らいにくくなっています。ちなみにレブロンが殆ど打たない5〜9フィートのシュートは39本中7本ブロックされています。レブロンと言えども高さで簡単に勝てる世界ではないので、強い推進力で飛び込んでいるからこその高確率だと言えます。
しかし、ゴール下でのシュートは昨季の方が割合が高いくらいで、そもそも従来のレブロンシステムはゴール下空けていつでもドライブ出来るようにしていたわけです。
別に今季から始まったわけではないので、高確率は当たり前。
ではブロックを喰らいにくくなり、若干ではありますが、よりレブロンがドライブを決めやすくなったのは何故なのか?
その理由を考えます。
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◉常にセカンドオプション
チームの絶対的中心である事には何の変化もないレブロンですが、キャブスはチームとしてオフェンスを構築するようになり、複数のシステムを使い分けます。
前回は仮にこんな風に色分けしました。
◯戦術ラブ
◯戦術グリーン
◯戦術コーバー
戦術という言い方は正しくないのですが、彼らをファーストオプションにしていると考えて下さい。
そしてレブロンは常にスコアラーとしてはセカンドオプションとして存在しています。
◯12月のキャブスの得点ランク
レブロン 29.1
ラブ 21.5
グリーン 12.2
ウェイド 11.9
コーバー 10.5
ラブも頑張っていますが、圧倒的にスコアリングリーダーはレブロンです。
これをクォーター毎に見ていきます。
◯1Q
ラブ 8.1
レブロン 6.5
◯2Q
レブロン 7.2
グリーン 4.5
コーバー 4.5
◯3Q
ラブ 8.1
レブロン 6.6
◯4Q
レブロン 8.8
ウェイド 4.7
コーバー 4.3
グリーン 3.7
まぁこれでセカンドオプションというのはムリはありますが、レブロン以外はQ毎に偏って使われている事はわかります。特にラブは4Q2.3点だけです。
ある程度バラけた中でレブロンも得点しています。合計得点の集中度に比べるとQ単位では他の選手がスコアラーになるパターンが出来ています。
そして4Qにはギアを上げているレブロンです。それだけの余裕を持てるようになったのも好材料です。
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◉Q毎のレブロンの違い
戦術ラブはその通り、ラブを前面に出したシステム構成になっており、ラブへ意識が向かざる得ないディフェンスの中でレブロンはドライブしていきます。逆もまた然り。
しかもこの時間はカルデロンも出ていて、レブロンとのピック&ロールを使い、よりイージーなレブロンのゴール下を生み出します。逆もまた然り。
戦術グリーンは動きの中でのミスマッチを有意義に使っていく発想です。万能系のグリーンが多いのですが、当然レブロンもミスマッチの機会が多くなります。
ガードらしいガードが減ってオールラウンダー合わせになる時間なので、頻繁に相手のガードにマッチアップされるレブロン。
つまり個人技突破の時間ですが、高さの優位性がある中でゴール下になります。
戦術コーバーは同じ様にバランスアタックながらも、ここは半分はレブロン自身の優位性も考慮されていて、
コーバーを止められないでしょ?
止めたらレブロンは個人で止めなきゃダメだよ。
みたいなシステムです。
レブロンがボールを持つと周囲のディフェンスはヘルプを狙うわけですが、ここをスクリーンを使うコーバーが搔き乱します。ショーディフェンスすればコーバーは止められますが、そこに意識を持っていけばレブロンへのヘルプは間に合いません。
その点ではこの時間はレブロンにも真っ当なマークが突きます。ペイサーズはヤングがついてレブロンを止めました。そしてレブロンの3Pも少しだけ確率が落ちます。
コーバーが決まらない時は普通にトップからレブロンのアイソレーションも多くなります。終盤はもちろんレブロン勝負が前提です。バックス戦ではアンテトクンポとの対決なんて場面もありました。
余談ですが、あそこでピックを使うのは試合に勝つためには正しい選択でも、時にはそうではなくて相手エースを打ちのめす勝負論を見せて欲しいものです。
レブロンvsアンテトクンポの個人技勝負はこれから何年も世界に発信される名シーンになったはずです。
そういう事をしないからロケッツ移籍話も出てくるんだよね。
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◉活かし活かされるレブロン
大きくスペーシングされているとは言え、レブロンのドライブスタートだったオフェンスと比べると、今季は周囲の動きの中での自分がドライブする場面を選べる形になりました。周囲はレブロンを活かし、レブロンは周囲を活かすわけです。
つまり状況判断の中でドライブすればヘルプが間に合わないタイミングを選びやすくなっています。
シャックの様にゴール下まで辿り着ければ無敵みたいなレブロンは、そんなゴール下まで行っても簡単にはヘルプディフェンスが来なくなりました。
レブロンってキックアウトパスをするのにドライブ途中で出すのが好きで、ゴール下まで行く時には自らフィニッシュします。これは合わせのセンターがいない事も関係しますが。
ディフェンスの収縮を許さなくなったキャブスに活かされるレブロン
レブロンのプレー自体をフューチャーすると昨季から特に変化はありませんが、キャブスというチーム目線でレブロンを見ると大きく違うのが今季です。
そしてディフェンスからするとレブロンを止めれば(それが出来ないのだけど)キャブスを止められたのが、他を止めた上でレブロンを止めなければいけなくなりました。
そもそもが活躍しすぎで、これ以上数字が上がりにくかっただけさ。もしもウエストブルックだったらFG%が急上昇したはずです。
それはないか。
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◉3Pの魔力
3P 36.3% → 41.1%
今季最大のサプライズはここです。異様に3Pが決まる様になったレブロン。まぁ5%なんて1試合で言えば1本の違いにもならないのですが、なんだか異様に決まる感じが。
単純に上手くなりましたとか、調子が良いだけ、という可能性も否定できないのですが、今回のテーマ的には何かしらの推論を立てたいところです。
昨季からの特徴的な変化は2つあります。
1つはディフェンスが4フィート以内にいる状況での3Pが決まる事です。
◯タイト3P
昨季 0.1/0.6 21%
今季 0.2/0.7 35%
これがあるから異様に決めている様に感じるのかもしれません。ちなみにほぼ4Qに打ちます。大事な時間の個人勝負で打つわけです。コーバーを追いかけてもレブロンも打つから手に負えない。
ここは推論するしかないのですが、以前よりもマッチアップの優位性が使える場面が増えた気がします。
相手によってポストアップを選んだり、アウトサイドを選んだりし、よりイージーなシュートを選択出来ます。
今季最もレブロンを苦しめたのはマブスのマシューズだと思いますが、中も外も守ってしまいました。レブロンは中も外も試したという事です。
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もう1つの変化は逆にドフリーになっている状態
◯ワイドオープン3P
昨季 0.7/2.0 37%
今季 0.8/1.7 50%
アテンプトは減りましたが確率は上がりました。今季のレブロンは被アシスト数は減っていますが、パスを受けての3Pが36.5%→42.3%に上がりました。良いパスが増えたという事です。
そしてアシストしているのは昨季はアーヴィング1.3、ラブ0.7と偏っていたのが、今季はラブ0.9以外は0.5以下の選手がズラっと並びます。
つまりやはりレブロン&アーヴィングのドライブからスタートしていた昨季に比べ、ボールムーブからオープンなレブロンというシーンが増えているという事です。チームオフェンスの恩恵。
ちなみにカルデロンからのパスは61.1%と超高確率です。必要だったのはタイミングを計るPGだったのか。
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◉マジックみたいなレブロン
得点面では大活躍だけど周囲が活きる中で自分も活きています。その周囲を活かすために重要な役割を果たしているのもレブロン。
マジックみたいな周囲を驚かすアメージングなパスはしませんが、アンビリーバブルなパスをしています。
◯キャブスのパス本数
275 → 285
確実に増えたキャブスのパスですが、ここまで触れた様な全体が連動している印象からすると寂しい本数です。
◯レブロンのパス
本数 59.5 → 58.4
アシスト 8.6 → 9.2
実は減ってしまったレブロンのパスと増えたアシスト。という事はこれまでよりも効率的にシュートが決まる様になったという事です。
◯レブロンのパスからのFG
43.5%→42.3%
あれ?確率は落ちちゃった。
まぁ元々のレブロンシステムもキックアウトからフリーで打たせてもらえるので、確率は変わらないという事です。
実は上がったのは「シュートがアシストにカウントされる確率」です。つまりより決定機にパスが出る様になりました。
これはここまでの内容にも合致しており、オフボールのスクリーンでスペースを有効利用するため、マークを剥がした瞬間にパスが届けばアシストになるわけです。
「待ち」が多かったシューター達はフェイクからドライブもあったわけですが、今はオフボールを「動いて」フリーになり、そこにレブロンからパスが出る様になったわけです。
周囲が動いてレブロンのパスが活きる
単にアーヴィングに任せるパスがないからアシストが増えたとも言えます。
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◉全盛期を取り戻すケビン・ラブ
ここで少しラブに触れてみます。実は単にラブの力がレブロンに好影響を与えた可能性もあります。
◯ケビン・ラブ
得点 19.0 → 19.8
FG 42.7% → 47.8%
3P 37.3% → 40.8%
レブロン同様にFG%が大きく改善しているラブ。キャリア最高の確率です。実はラブはアーヴィングからのパスが苦手だったので、その恩恵もあります。
シーズン前に「ラブのFG%はこんなものだから確率に納得いかないならトレードするしかない」と書いています。キャブスは良くなると予想しましたが、ラブが良くなるのは意外な結果。
いやー、ポール・ジョージと交換しなくてよかったね。そんな確率です。
正直、ラブの活躍度は凄まじくてレブロンくらいのプレータイムがあると25点12.5リバウンド近くまで行きます。これはウルブズ時代のキャリアハイに匹敵する活躍です。
前編で触れた様にシステムを試合中に入れ替えているキャブスなので、限られた時間だからこそ活躍しているのかもしれません。
少なくとも出場中はオールNBAクラスの活躍をしています。
いずれにしても戦術レブロンの中で単なるシューターにさせられて燻っていたラブが、本来の姿を取り戻すことに成功したわけです。
それがレブロンのアシスト増にも繋がっているのが今の状態です。
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◉スキップパスの名手
レブロンのパスでアンビリーバブルなのは、そのパススピードです。(どこかにデータベースないかな?)
今では最も驚異なのはこの能力ではないかと考えてさえいます。
5人が広くスペーシングするキャブスで、アシストパスを出していくのはレブロンでなくても可能です。しかし、ウイングの位置から逆サイドのコーナーまで簡単にスキップパスしてしまうのは稀有な能力です。
オフボールでインサイドに飛び込んでくる選手に気を抜けないのに、そんなプレーをカバーしようと収縮すれば、レブロンから弾丸のようなパスが飛んでくるわけです。
それをまたよく決めるキャブスの面々。レブロンのパスが正確だからと言われそうですが、あんなパスから迷わずにシュートを打つのは簡単ではないはず。特にラブとJRスミスは慣れ過ぎです。
キャブスのセットが優れている事は有名ですが、じゃあ他のチームで取り入れられるかというと、このスキップパスが出来ないから優れたセットにはならない可能性が大きいです。
だからこそキャブス自体もレブロンがいない時間はミスマッチ利用が増えるわけです。
パスが10本しか増えていないのは、普通は2本繋ぐ所を1本で繋いでしまうからかもしれません。
とはいえタメ過ぎなレブロンです。1本のパスで打開したがりすぎて流れを止めるケースもしばしば。
なので個人的にはボールを動かすカルデロンと同時起用されている時が最も効率的だと思っています。
◯出場時間中のチームアシスト率
全体 59.7%
レブロン 60.1%
カルデロン 66.5%
ほぼレブロン基準のチームをカルデロンの存在がアシスト率を大きく引き上げている事がわかります。レブロンの欠点を補っているカルデロンでした。
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◉マジック+シャック
・圧倒するゴール下
・ヘルプに行けないドライブ
・ミスマッチからの3P
・オフボールムーブに合わせるアシスト
・スキップパス
周囲に活かされ、自分も活きる
それが今季のレブロンですが、まぁ特徴並べたら「レブロンいなくてもキャブスはキャブス」なんて事は口が裂けても言えません。
試合の中で「レブロンがいない時にも戦う術はある」それくらいの感覚です。
それぞれの能力に対してはNBAのスタータークラスならば代替えは効くのですが、それが無理そうなのは
・圧倒するゴール下
・スキップパス
この2つだと思うので『マジック+シャック』なわけです。これらを1人でこなしてしまうのですから、やはり圧倒的です。
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◉MVPなのか?
当然出てくるのはシーズンMVPの話。アーヴィングがいなくなったけど勝率を上げているのも印象は良いです。
でも、それ以上なのがハーデンなので、ここまでの内容だとハーデンがMVPです。
◯アイソレーション時のEFG%
レブロン 49.5% → 56.1%
ハーデン 45.5% → 60.5%
CP3 52.7% → 60.4%
今回用意したけど使わなかった数字ですが、圧倒的なレブロンなのに、それを上回るロケッツコンビ。昨季よりも数字を上げている事がわかります。
理解し難いハーデンの進化。
ちなみにレブロンが数字を上げたのは3Pが決まるようになったからで、前述の4Qのタイト3Pの確率が大きく関係しています。
《余談》
レブロンを上回るEFGはあと2人います。(平均2回以上)
タイリーク・エバンス 57.4%
マイケル・ビーズリー 56.5%
シックスマンアワードを争いそうです。
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◉次回に続く・・・のか?
少し気になったのは勝負どころで3P乱発し始めた事。ブルズに競り勝った試合では、決める場面もあったものの乱発した事でブルズに速攻を許していました。
さて、そんな風に弱点も書こうかと思いましたが、長いから辞めます。弱点が見え隠れしている今季でもあります。
まぁ結論的にはレブロンがキャリアハイという活躍をしている事については
レブロン自身は変わっていないが、キャブスが変わった事でレブロンがプレーしやすくなっている
そんな捉え方をしています。
その点ではキャブスが好調な事は非常に重要なのですが、昨季もこの時期くらいまでは好調でしたが、一気に失速しました。
またマブス戦から始まった連勝以来、強豪と言える相手はピストンズ、ヒート、ペイサーズ、ウィザーズ、バックスくらいでした。
そんな中で迎えるウォーリアーズ戦です。
カリー不在のウォーリアーズではありますが、守れるチームです。
「本当にキャブスオフェンスは強力なのか?」
これが試される試合になるわけです。
次回はウォーリアーズ戦のプレビューにしようかな。レブロン褒めすぎて飽きてきたので貶したい、という個人的な欲求もあったりして。
あぁこんなにキャブスの選手に触れたのにクラウダーだけ全く話に出てこなかった。でも、こんなに昨季から、いや今季の中でも変化する事が出来たのは全てクラウダーがバランスをとってくれるから。
クラウダー様様。
そしてウォーリアーズ戦への重要なピースでもあります。
めちゃくちゃ今更なコメントですがシュートフォームを変えたから決まるようになったと本人が述べてました。
このあと1月にドーンと確率落として例年並みになってしまったんですよね・・・。