新生サンダーのシンプル・イズ・ベスト

ここまで5勝5敗のサンダー。このチームが置かれている状況を考えると素晴らしいスタートを切りました。それでドラフトに向けてOKなのか疑問もありますが、選手が頑張るのは良いことなので、シーズン中盤が過ぎてから考えましょう。

※11試合目のレイカーズ戦は含んでいません。

明らかに見劣りする選手構成ながら、サンダーが上手くいっているのはどんな部分なのか。5勝5敗で「上手くいっている」なんて言えないシーズンではありますが、差プラーズなのは間違いないので考えていきましょう。

ところで、ウルブズとかキングスとかペリカンズとかは、サンダーよりも遥かに有望な若手たちを抱えながら、成績では下回っています。これらのチームについては大体、同じことを書くわけです。

個人技に依存しすぎ

チームスポーツなので「ステレオタイプの批判ワード」なのですが、実際には悪いことばかりではありません。スペシャルな選手が違いを生み出すのがバスケの本質でもあるので、どこかで個人技は絶対に必要なのです。

「依存」については大きく分けて2つのパターンがあるのですが、オフェンスの起点が個人技か、フィニッシュが個人技か、という問題になります。

①ディフェンスを崩すことを個人に依存
②合わせのプレーにルールがなく個人の判断に依存

ある意味で①は身体能力やスキルですが、②は判断力になるので、「オンボール担当」と「オフボール担当」を分けているチームは上手くいくことがあります。そして、かつてのサンダーはオンボール担当だらけのチームでした。かつてっていうか昨シーズンだって同じです。なんだかんだいってロバーソンがいた方が上手くいっていた頃を思い出そう。

しかし、今シーズンは開幕前に「あれっなんか違うんじゃないの」と思わせてくれました。ホーフォード、ヒル、アリーザ、ケンリッチ、ジャスティン・ジャクソンと何だか少しずつオフボール担当を増やしているような。つまりは「カルチャーを変えたい」ようにみえたわけです。

個人技依存の話に戻ると、①②とあって片方を個人に依存していることは悪いことではありません。どこかで個人技には頼らないといけないのだから、全てをチームでやろうとするとワンパターンになりがち。レイカーズだって①はADのポストアップ任せのことは頻繁にあるよ。

それぞれ「どの程度を依存するのか」次第ではありますが、今シーズンには違う問題もあって、トレーニングキャンプは短かったし、シーズン中も休養日が少ないので、チーム戦術を浸透させるのが難しくなっています。同時に選手によっては休養日が設定されているので、メンバーが変わっても同じチーム戦術を実行する難しさもあります。

適度に個人技を信じないといけない

だから「個人技に依存しすぎ」ってのは批判ワードだけど、「依存しすぎ」でなければ問題ありません。むしろ適度に混ぜましょう。その中でサンダーは実に適度に混じっている気がします。

複雑すぎない戦術と適度な個人技

ここがサンダーが上手くいっている部分かな。シンプル・イズ・ベスト。若手も多いので難しいことはしないで、チームとして基本ルールを設けながら、個人で自由に仕掛けていこうぜ!って雰囲気です。

サンダーを見ていると、戦術的に感動的なことは起きないけど、批判したくなるようなことも起きない。個人技に任せているようだし、でもチームとしても設計が出来ているのでした。

◎ヒルとマラドン

サンダーの戦力が落ちた最大の要因はクリス・ポールとシュルーダーの移籍でした。ここがヒルとマラドンになったことで、スタッツは大きく落ちました。

〇クリス・ポール + シュルーダー
36.5点
10.7アシスト
8.6リバウンド
4.9ターンオーバー

〇ヒル+マラドン
17.8点
6.5アシスト
4.2リバウンド
3.0ターンオーバー

2人合わせてもクリス・ポール1人分にも劣るのですが、ターンオーバーだけは減りました。まだマラドンが多めなのですが、ルーキーPGとしては上々の出来だと思います。

そもそもサンダーはアシストの少ないチームでした。2人のPGが自分で行くことも多いので、ボールを回すよりもドライブ系統で得点を重ねます。その特徴は今シーズンも変わらず。ただし、ヒルとマラドンは自分で打開するのではなく、周囲にボールを供給するのが基本なので、よりPGでのミスが減ったのでした。

マラドンの時間帯には、ディアロやポクセビスクがいてチームとして早打ちが見受けられるものの、若手が多いチームではあるものの、ハーフコートゲームを組み立てる意識が強くなっています。

〇速攻
得点 10.7(24位)
失点  9.4(1位)

その結果がこれです。速攻は出ないけど、かわりに殆どカウンターを食らわないので、リスクマネジメントしながら戦えています。サンダーは強いから5割なのではなく、余計な失点をしないで粘った結果が5割なのだと思います。

まぁ10試合しか経過していないので、数字にはあまり意味がありません。単純にトランジションで打ちあいを仕掛けているのではなく、ハーフコートゲームをしっかりと構築して、ミスの少ないオフェンスを志向している。というのがポイントです。

◎プレースタイル

数字にあまり意味はないといいつつも、サンダーのここまでの各プレーについて、確認してみましょう。どんなオフェンスをしているのか。その傾向を知りたい。

トランジション 15.2回(24位)
アイソレーション 7.0回(11位)
PnRハンドラー 21.9回(10位)
PnRロールマン 9.0回(2位)
ポストアップ 2.4回(28位)
カッティング 3.8回(30位)
オフボールスクリーン 1.7回(30位)

他にもありますが、代表的な所を並べました。目立つのはピック&ロールの多さ、それもロールマンへのパスが多い構成です。ただし、ポストアップは少ないし、オフボールでのスクリーンやカッティングを作っているわけでもありません。

〇ドライブ 58.3回(1位)

そしてドライブがオフェンスの多くを占めています。ピック&ロールは使うものの、基本的には個人での突破が中心になっています。ちなみに21.2回がSGAで、他の選手は6.5回以下になっています。ほぼSGAなんだけど、その他の選手はバランスよくアタックしている構図です。

個人技のドライブを中心にしたオフェンス

まぁ昨シーズンと同じですね。つまりメンバーが変わった割には、オフェンスの傾向は変わりませんでした。やっていることは同じ。その一方で、大きく変わったこともあります。

〇ワイドオープンショット
17.5本(18位) → 26.4本(1位)

ドライブ中心は同じにもかかわらず、その出口は大きく変わりました。ワイドオープンでのシュートが著しく増えています。ここが今シーズン最大の特徴だといえます。ドライブの後に何をするかが整理されたといえます。

ちなみにこの数字は10フィート以上の距離があるシュートのみなので、ミドルか3Pです。そのEFGは55.1%→51.6%と成功率が低下しています。ワイドオープン3Pが35%しか決まっていないんだ。

〇3Pアテンプト
30.2本(27位) → 39.0本(5位)

クリス・ポールやシュルーダーがいなくなったことでミドルが減り、キックアウトからのワイドオープン3Pを劇的に増やしました。オフェンスシステムとしては極めて単純化されたといえます。なお、3Pアテンプトが大きく増加しましたが、確率は33%(28位)と低迷しています。

サンダーはシューティングを改善すると劇的にオフェンスが良くなりそうです。でも、そう簡単には改善しないと思います。それが若さだ。

◎ホーフォードとムスカラ

サンダーの戦力低下はPG以外にもガリナリとアダムスの移籍がありました。ワイドオープンが決まらなくなったのはガリナリの移籍が大きく、逆に本数が増えたのはアダムスの移籍が大きく関係しています。

サンダーはホーフォード、ムスカラ、そしてロビーの3人がビッグマンとして起用されています。このうちロビーについては特殊ではあるものの、インサイド専任ですが、センターであるホーフォードとムスカラが3P中心になったことで、オフェンスは大きく変わっています。

アダムス&ノエル → ホーフォード&ムスカラ

まぁ、そりゃあそうですよね。明確にビッグマンに3Pを打たせることを志しました。ロスター構築の時点で考えていた形が実現しています。ウエストブルックが移籍した時点でアダムスよりもシューター系ビッグマンの方が好ましかったんだろうね。クリス・ポールがいないならなおさら。

〇ワイドオープン3P
ホーフォード 4.4本 29%
ムスカラ 3.4本 48%
ヒル 3.3本 46%
SGA 3.0本 37%

サンダーの3Pはセンター中心になっているわけです。ホーフォードは外しすぎ、ムスカラは決めすぎ。冒頭の通り、ヒルも含めて狙い通り、オフボール担当にパスが通ってワイドオープンシュートを増やしました。

ところで、この2人のポジショニングも重要で、ドライブは多いけどゴール下でブロックされる本数が減っており、インサイドでの得点効率は悪くありません。シューター系の2人が上手くビッグマンを誘い出しています。

全方位アタックのため、センターがいないサイドからドライブすることが多く、気持ち悪いほどに「すんなりドライブが決まる」ことがあります。セカンドユニットだと、ディフェンスが多いところを突破しに行くことも多く、どこまでがチームとして整理されているのかわかりませんが、キックアウト3Pが多いだけでなく、ドライブをしやすい工夫がありそうです。

◎多様性はない

ここまで好調なサンダーですが、基本的には速攻での失点を避けることで点差を開かせず、伝統のハードワークで奮闘することが勝率を挙げています。言い換えれば、オフェンスで勝つのは難しい雰囲気であり、自分たちのパワーで圧倒している空気もないよ。

12人くらい起用するプレータイムシェアがされており、過密日程の中でも「安定している」ことが好成績に繋がっています。そこにあるのがシンプル・イズ・ベストという戦術。オフボールのポジショニングが良い選手を増やしたことで、スムーズなボールムーブを実現できてはいますが、単調なのも間違いありません。

そんなわけでどこかで失速すると思いますが、スパーズ戦の1Qではオフェンスのパターンを変えてきており、どうやらチーム戦術については増やしていきそうな匂いもします。HCも選手も発展途上なので、少しずつでもパターンを変えていけるなら、シーズン終盤にはさらに良くなっている可能性も。

ドライブが多く、ワイドオープン3Pが増えた

この状況は戦術がシンプルに整理されて好ましい反面で、クリス・ポールやシュルーダーのミドル、アダムスのポストアップ、ガリナリの個人技など、昨シーズンに持ち合わせていた「多様性」を失っているということ。まだまだ10試合での数字ですが、この先3Pが減っていったら、それは違う武器を取り込んでいくという意味で、ポジティブな変化になるかもしれません。

若いチームの滑り出しとしては、非常にうまくいっているシンプルなサンダー。ベースを強めるために、この路線を継続するのか。それとも多様性を取り入れて戦術的なレベルアップを図るのか。どっちにしても、楽しみに観戦できています。

新生サンダーのシンプル・イズ・ベスト” への4件のフィードバック

  1. ファイアー&リビルドなのになぜか勝ててしまっている、その理由を全体的に見ていったとても面白い記事でした。やることを減らしてシンプルにしたのは戦術面はもちろん若手が迷わないで済むという面でメリットが大きいのかなと思います。
    それだけにいずれ転換期が来たときにどうなるかとも思いますが、ヒル、ホーフォード、ダグノートHCがlittle thingsを褒めるところが見られてそれで選手が伸びている姿が見えており、対応できるのでは、と楽観視しています
    蛇足ですがホーフォードさんワイドオープンだと28%なのにオープンだと42%なんですね(笑)

    1. ホーフォードの件は、所詮はスモールサンプルなので、この先は向上していくでしょうが、ちょっと怪しい匂いもあるので、キーだろうなぁ。

      HCはかなりシンプルな姿勢っぽいですよね。どのプレーでも、1つひとつポジティブに誉めていそう。怒鳴り系のHC嫌うサンダーらしいかも。

  2. 個人的にケンリッチの活躍が見ていて楽しいです!ミニッツはそう長くないですが、アシストやリバウンドなど多彩な活躍がミニドレイモンドの様で今までのサンダーにはいなかったタイプに感じます。年齢が少し高いのが懸念ですが彼がサンダーの重要な一員になる未来はありそうですか?

    1. ケンリッチ推しのブログには愚問です。
      こんな便利な選手は手放したくない!!
      どのポジションでも埋めてくれるし、戦術力も高い。シュート力以外は最高です。

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