イバカ、バトゥーム、ケナードの話
マブスに大敗を喫したものの、ウルブズ、ブレイザーズに大勝し、4勝1敗と好調なスタートを切ったクリッパーズ。ポール・ジョージのリベンジみたいなレイカーズとの開幕戦でしたが、以降はエースに頼りまくった内容ではなく、10人ローテで勝っていることは充実ぶりを示しています。
HCが変わった一方で選手はあまり変わらなかったことで、連携も問題ないといえるかもしれません。とはいえ、上位チームが苦労しまくっている開幕直後ながら整えてきたのだから、まずはティロン・ルーは順調な滑り出しだったといえます。
5試合中3試合を見ましたので、雑感をまとめましょう。新加入のイバカ、バトゥーム、ケナードがもたらしてくれたものも大きく、そんなことを中心に触れていきたいです。
◎変わらないエース起点
「PGが欲しい」なんて発言もありましたが、そこは補強しませんでした。出来ませんでした。この件について個人的には悪いことだとは思っていません。どうせレナード、ポール・ジョージ、ルーが長くボールを持つのだから、頼りになるPGを加えたところで、ハンドラー渋滞です。
他にもべバリーとレジー・ジャクソンがいるので、もしもPGを獲得するならば、ロスターを大きく変更する必要がありました。少なくともルーとレジーは放出しないとダメ。コストパフォーマンスの良いルーを放出してまで獲得するPGを探せなかったとも言えます。
そんなわけで、昨シーズンとあまり変わらない形になりました。選手任せのティロン・ルーに豊富なアイデアを持つアトキンソンがコーチングスタッフにいますが、今のところはティロン・ルーの色が強いです。
・・・いや、というかリバース時代そのままの雰囲気です。どちらの色も出ておらず、昨シーズン同様に、レナード、ポール・ジョージ、ルーから始まるハンドラー次第のオフェンスになっており、再現性の高いパターンがあるようには感じません。
しかし、「同じような形で始まる」けれど「オフェンスの形は良くなっている」のが開幕直後の感想です。プレーコールの工夫よりも、選手の組み合わせで上手くいっているので、ロスター変更とHCの考え方が上手くいっているとみて良いのでしょう。
◎ストレッチ5
最大の要素はこれまでいなかった「ストレッチ5」タイプとなるイバカの加入。スクリナーとしてディフェンダーを引きはがした後でシューターになってくれるセンターは、これまでいませんでした。たまにパトリック・パターソンにやらせていましたが、そうなるとスモールラインナップだったしさ。
〇イバカ
14.0点
3P44%
6.6リバウンド
オフェンスリバウンドは平均1本程度のイバカですが、その分インサイドを大きく開けてくれるので、ハンドラー3人のドライブから崩しやすくなりました。ラプターズ時代は3Pばかり打っていたこともありましたが、インサイドに詰めるパターンも発揮しており、流動的な合わせのプレーがエースのプレーを楽にしてくれました。
イバカの被アシスト数4.5は、昨シーズンのハレルと同じ数字ですが、3Pやミドルへのアシストが増えただけ多彩さが増しています。
ただし、チームとしてペイント内得点は少なく、全てが上手くいっているわけではありません。レナードとポール・ジョージはやりやすそうに見えますが、ルーについては相棒のハレルがいなくなったことでやりにくい面もありそう。
〇ルーのアシスト 5.6→2.8
軽やかなシューティングを持ち味とするルーは、動き回るハレルへ針の穴を通すようなアシストをし、そこにディフェンダーが引き付けられるからドライブやジャンプシュートを打っていました。センターを使うのが上手いハンドラーです。でも、今はズバッツとのコンビが基本になったので、自分からのアクションが大事になります。
〇ポール・ジョージ 3.6→5.6
一方で自分からアクションしてヘルプが来そうならパスをするタイプのポール・ジョージはアシストが増えました。単に好調だったとも言えますが、イバカの加入とポール・ジョージのFGが高いことは関係あると思います。このうち1.8アシストがイバカへのパスでした。
いずれにしても、インサイド専任が多かったセンターに、ストレッチ5のイバカが加入したことは「昨シーズンと同じようなオフェンスのスタート」ではあっても、「より多彩なフィニッシュパターン」に繋がっています。
ビッグマンのヘルプでレナードやポール・ジョージをカバーしにくくなったのは、各チームからすると守りにくくなったでしょう。
◎バトゥームの復活
モリスが出場していない中でスターターに加わったのが新加入のバトゥーム。サラリーが高すぎたとはいえ、昨シーズンはプレータイムが短く、ケガしているのか何なのかわからない状況だったので、スターターに加わるのは驚きでした。
ここまでは「目立たないプレー」をしていることで、派手なチームに堅実な貢献してくれています。得点は少ないものの、アシストやリバウンドを稼いでおり、主役とわき役のコントラストが強くなったのも、同じようなことをしているようで違う結果を生み出すのに繋がっています。
〇バトゥーム
7.6点
FG50%
6.4リバウンド
3.4アシスト
PGではないし、「ポイントフォワード」というにも心もとないですが、繋ぎのパサーとしてボールムーブを促してくれるし、空いたインサイドへのカッティングもしてくれています。得点は少ないけど確率は高い。
特定の役割を持っているタイプではありませんが、万能型ゆえに、穴を塞いでくれる良さは、モリスよりも良い活躍に繋がっています。この活躍を続けられるなら、ずっとスターターにしましょう。でも、ここ数シーズンを観ていると失速する気もするんだよね。
さらにディフェンスでもマルチなので、オールスイッチも可能なチーム戦術を作っています。まぁモリスと大差ないのですが、よりマンマーカーなモリスに比べて、オフボールでスペースを埋めてくれる選手なので、他の選手が引き出された時に、リバウンドをカバーしてくれるような良さがあります。
要は攻守にわたってモリスよりも「広い範囲を動く」タイプであることが、レナード&ポール・ジョージには合っていると思います。全体の足が止まるシーンが減り、レナードとポール・ジョージからのパスがスムーズに出てくるようになりました。
クリッパーズの問題は苦しくなるほどにエース頼みになること。その傾向が変わったとは思えません。しかし、この「エース頼み」になったときに、全員の足が止まっていた昨シーズンに比べると、ストレッチするイバカがスペースを作るし、オフボールで動くバトゥームがスペースの活用に役立っています。
まぁそれぞれ「ほんの少しだけ」なのですが、少しだけでも昨シーズンよりは良くなっている気がするのでした。
これがモリスが戻ってきたときにどうなるのかは気になるところです。地味役のバトゥームをセカンドユニットに混ぜても、あまり良い結果は得られない気がするんだよね。
◎ケナードとセカンドユニット
ルーとズバッツがいるセカンドユニットは強力に見えて、そうでもありません。特にルーが困っており、スターターの構成が良くなった反動をモロに受けてしまっている気がします。
一方でセカンドユニットの方がプレーコールをやろうとしている印象です。そうしないと成立しないほど困っているのかもしれません。
ルーの問題は「自分スタートのオフェンスが減った」という単純な問題にも見えます。ルー&ハレルで始めればよかったのに、5人のプレーコールになって回数が減りました。加えてズバッツだとハレルほどの威力が出ない。
開幕戦では新加入のケナードがPG役でした。これまでシャメットにやらせることもありましたが、コントロール能力は低いので、ケナードの方がベターです。ただし、ケナードも本来はこういう役割じゃないので、能力を発揮しているとは言い難いです。サラリー高いのにね。
その後、レナードの欠場時にケナードがスターターに回りユニット構成は崩れました。レナードが戻っていたブレイザーズ戦では、レジーがPGになりルーとケナードを並べていたので、セカンドユニットは試合ごとにハンドラーすら変更される苦しい状況です。
休養が多く発生するであろうシーズンにおいて、セカンドユニットは役割どころか、ポジションバランスすらも頻繁に変更される空気があるので、シーズン通して悩むかもしれません。まだモリスが戻ってくれれば救われるかな。
ルー、レジー、ケナード、ズバッツ +ポール・ジョージORレナード
こんなユニットでシーズン通して戦うのが、プレーオフに向けては重要な気がします。リバースみたいに休養重視でシーズンを過ごして、プレーオフで突然混ぜるとろくなことがありません。
でもこのユニットもやっぱりルー、レジー、ケナードって並べるのは苦しいよね。だったらケナードを外してしまい、レナードとポール・ジョージと交代でスターターに混ぜた方が良さげ。つまり
レナードとポール・ジョージは、別のユニットで起用する
(スターターの代役はケナード)
こんな形を作るのか、それともルー&ハレルの再現を狙って、セカンドユニットはルーに任せ、連携を構築していくのか。
まだまだシーズンは始まったばかりなので、調整はいろいろあるでしょう。でもキャブス時代にカイリーとラブを抱えているにもかかわらず「レブロンがコートにいないと弱い」なんて状況を作っていたHCだけに、怪しいよね。
ケナードをどうやって起用するのか
ここがポイントになってきそうなシーズン序盤でした。3試合観たけど、全ての試合で役割もユニット構成も違う変な起用をされていたのでした。
結局はレナード、ポール・ジョージ、ルーをどうやってローテするのが、チームとして最も強いのかを考えていく作業です。
◎ビッグマンで負けても
マブス戦の惨敗さえなければ良い開幕になったクリッパーズ。何かが変わったというよりは、サポートキャストの役割がよくなった感じです。
個人技ベースで戦っているのはクリッパーズだけではないように、短かった準備期間で、各チームがチーム戦術にまで手を付けられていません。あと、試合間隔も短いので、日常のトレーニングでも構築出来ていないのかも。
ある意味、リバース流で1年戦ってきたチームだけに、自然発生的な連携を強めていくのは向いているかもしれません。バトゥームやケナードはオフボールで動くタイプの選手なので、そういう意味でも良い補強だったかも。ハレルがいなくなったから1枚減ってもいるけど。
まぁクリッパーズが求めるのは、レイカーズやナゲッツに勝つことです。ナゲッツの方は自滅してくれそうですが、どちらも「ビッグマン勝負で負ける」ことに苦しんだ昨シーズンでした。
イバカが勝ってくれるのを期待するのではなく、「ビッグマンで負けてもチームは勝てる」形にしないといけません。その意味ではストレッチするイバカでアウトサイドに引っ張り出すのも大切だし、カバーリングしてくれるバトゥームで守り抜くのも大切。
共に良い補強になっていますが、うーん、どうだろ。ちょっと足りない気もするんだよね。そこを戦術的に埋めていけるかどうかのシーズンになりそうです。