プレビュー ラプターズvsセルティックス

天才と天才。同じ天才なら、勝つのはどっちだ。

両チームがファーストラウンドをスイープで終え、早々に始まるセカンドラウンド。そしてイーストでは事実上の頂上決戦となる顔合わせ。現在のNBAでトップを走る両HCの知略が巡らされた師玉のシリーズになりそう・・・だと思うとならないのが定番です。ソースはナゲッツとジャズ。

その前にボイコットの話が出ています。これだけ騒がれていながらも警官が黒人を射殺したことで、ボイコットという手段をとることで社会へのメッセージを強めようという意見そのものは理解は出来ます。

しかし、現地で起きている問題は社会的なメッセージで解決するのであれば、ここまで問題になっていることもないでしょう。

あと、一見すると「人種差別」のようでいて、解釈が色々あるようにも思えるので、正直、よくわかんないです。ただラプターズは暴行を受けたウジリが警察から訴えられるという当事者でもあるので、他のチームとは様相も異なってきます。

いずれにしても試合は観たい。だけど、この問題によって集中できないのであれば、師玉のシリーズは中身が薄くなってしまいそうで嫌なのでした。

そしてバックスの声明文を読む限り「ボイコット」というよりは、ミルウォーキーを代表するチームである自分たちがホームタウンで起きている大きな出来事がありながら、試合をするというのは適切ではない、といった意見に思えました。言い換えれば試合に集中すべき環境ではないということ。それは理解できるよね。

◎戦力差

ヘイワードが間に合わないことも含めて、一般的には個々の戦力ではセルティックスに分があります。ファーストラウンドは唯一の弱点であるセンターが、エンビードとの対戦になったので戦略的な駆け引きが目につきましたが、イバカとガソルは個人の力でタイスを粉砕することはないので、ブラッド・スティーブンスとしてはやりやすいでしょう。

ブラッド・スティーブンスは長いから、以下、ブラッド様、ナース様で行きましょう。

戦力の厚みではラプターズの方が2枚くらい上手ですが、プレーオフでは起用する人数を絞ることはファーストラウンドでも示しているので、2枚の差は0.5枚くらいまで薄まります。ナース様は「総力戦を挑む」という選択肢はありますが、それは最後まで切りたくないカードだと思われます。

シーディングゲームでの直接対決では「いつも通り後半に逆転できるぜ」と思っていたら、逆に後半開始早々に自分たちの穴を突かれ、ナース様が選手を鼓舞してもどうにもならない展開にしてしまいました。

両HCがお互いの戦略・戦術を見極め、仕掛けてくるわけですが、狙いは正しくてもシュートが決まらないとか、個人技で負けるとか、必ずしもうまくいくとは限りません。「作戦を結果に結び付けられる戦力」と言う意味ではセルティックスの方が上手です。

全体的にはブラッド様の方が、ゲームプランに沿った戦い方が出来るはずですし、実際に今シーズンのセルティックスは、あまり変化をしないので、当初の予定通り戦っている印象です。

一方で毎試合が変化に富んだ戦い方をするのがナース様なので、その場に応じた対処ではラプターズが上回ります。しかし、策に溺れる可能性を否定できません。昨シーズンはマジック、シクサーズ、バックスと試合中の戦略に長けたHCとは戦いませんでした。

「天才HC対決」と銘打てそうなシリーズですが、

ナース様は天才っぷりを発揮しないといけない
ブラッド様は天才っぷりを消しあえばよい

そんな気がしています。HCの戦略が目立たないほどにセルティックスが有利になっていくでしょう。

◎テイタムとシアカム

そしてセルティックスが戦力で上回りそうな最大の理由がここ。直接マッチアップしないかもしれませんが、どちらも単純な1on1をエースが仕掛けることがありますが、得点パターンが多いテイタムに比べると、シアカムはスピードをつけてペイント内に飛び込めないと途端にプレー効率が落ちます。

〇プルアップ3P
テイタム 40%
シアカム 34%

両チームともにカバーが固いので、単純な3Pを決めてくれる方が優位になります。今シーズンの成績はシアカムが成長したこともあって、確率的には致命的なほどの差はありません。

ただし、アテンプト数はシアカムの2.5本に対して、テイタムは4.7本と多いこと。そしてシアカムはファーストラウンドで3P29%でした。

この対決はどうしてもテイタムに軍配があがります。お互いにぶ厚いカバーを用意するなら、外から決めていくテイタムの方が上さ。

ただし、テイタムが個人で仕掛けるのがノーマルなのに比べるとラプターズは「別にシアカムの個人技しなくても良い」という事情もあります。そのため

テイタムは個人の戦いで必ず勝たないといけない
シアカムは個人の戦いで負けるくらいなら仕掛けるな

なんてことになりそうです。まぁ後者は言い過ぎですが、仕掛ける回数は圧倒的にテイタムの方が多いでしょう。なので、シアカムはスピードを使えるなら自分で行き、止められそうならチームオフェンス優先です。

ところが、誰がテイタムにマッチアップするのかというとシーズンで一番多いのはラウリーでした。さすがに意外過ぎるデータでしたが、

オフェンス回数 66
チーム 45点
テイタム 8点

つまりガッツリ抑え込んでいます。「テイタムに仕掛けさせない」ディフェンスが出来ているラプターズなわけです。FG自体はそこそこ決めています。

テイタムとシアカムのエース対決は、テイタムの方が上回るでしょう。1on1勝負なら十中八九セルティックスが勝ちますが、チームで戦う中ではテイタムの存在感を消される可能性すらあります。

エース対決が目立つならセルティックス
目立たないならラプターズ

こんなシリーズになりそうです。もちろん、結果としての得点数は「テイタムが上か、シアカムが上か」という話題になりそうですが、試合内容としてはどうだろうかってことでした。

プレーオフの展望書く時って「個人がステップアップする」ことが大切って頻繁に書きますし、実際にウエストではドンチッチ、ドノバン・ミッチェル、マレーなどがシーズン以上の活躍をすることで勝利に導いています。セカンドラウンドからはレイカーズも加わるでしょう。

しかし、このシリーズに関しては個人のステップアップではなく、チーム全体の戦いの中で結果として個人がどうなるかという極めて判断しにくいエース対決になると考えています。

◎スマートvsアヌノビー

一方で両チームが抱えるキラーディフェンダーの役割も極めて難しくなります。一体どこを止めれば良いのかが見えてこないシリーズであり、「ここを止める」と注力したら、必ず違うところから攻略されるでしょう。

アヌノビーの良さはセンター相手でも守れてしまうフィジカルの強さを持ったウイングということ。でも、セルティックスにはそれが必要な相手がいません。唯一あるのはタイスを守ってスモールラインナップにできることですが、それはイバカでも出来てしまうから意味はない。

他にもシューターにボールすら持たせないディフェンスをするのですが、シューターがいないセルティックス。相手に優れた選手が多くいるのに、働きどころがないアヌノビーというのは非常に珍しい状況です。

それはスマート&ブラウンにもいえること。ラプターズのどこを抑えれば良いのか。正攻法でいけばラウリーとヴァンブリードですが、この2人は自分をチェイスされるほどゲームメイクが楽になるとすら考えているタイプです。

そんなわけでこちらも特にブラウンの働きどころがわからない。まぁ「わからないならオフェンスで頑張れば良い」ってのはアヌノビーとは違う要素なので、ブラウンは普通にスコアラーとして頑張ってください。

スマートとアヌノビー。この2人はエースキラーでもあるけど、ヘルプディフェンダーでもあります。ということで、活躍の場は、どちらがどれだけチーム全体のディフェンスを引き上げられるかということ。

そういえばファーストラウンドでスマートは得点力のあるガードがいなかったシクサーズ、アヌノビーはウイングからの仕掛けに乏しいネッツが相手でした。やっぱり、あまり働きどころがなかったといえます。

〇スマートのスティール 1.7
〇アヌノビーのブロック 1.5

共にチーム最高になったスタッツ。特にアヌノビーの方はわかりやすくリムプロテクトに軸足が移りました。まぁアウトサイドも追いかけているけどさ。

ドライブ中心のセルティックスのオフェンスに対して、カバーからのリムプロテクトは重要な要素です。アヌノビーがどれだけドライブに絡んでいけるかは、地味に、非常に地味にセルティックスを苦しめるでしょう。

おそらく「今日のセルティックスはインサイドでシュートが決まらない」と思ったら、アヌノビーはブロックをしないまでもインサイドに顔を出しまくっているはずです。

小さな崩しから、見事なパスワークで穴を広げていくラプターズのオフェンスに対して、スマートの先読みパスカットとハイプレッシャーからのターンオーバー誘発は極めて重要な意味を持つでしょう。

こちらはわかりやすくボールを奪うはず。それでいてスマートを警戒してボールムーブが悪くなる可能性があるラプターズです。「今日のラプターズはオフェンスが手詰まりになっている」と感じたら、そこにはスマートのプレッシャーがあるはずです。

通常ではわかりやすい両ディフェンダーのエースキラーっぷりは出てこないと予想されるシリーズ。しかし、そのヘルプディフェンスは見えないプレッシャーとして相手のオフェンスを狂わせるはず。

実はテイタムとシアカムのエース対決以上に、ディフェンダー対決で片方が大きく上回ると、それだけで勝負が決まる可能性があります。チームオフェンスをぶっ壊せるかどうか。

◎ヴァンブリードvsケンバ

〇vsネッツ
21.3点
FG53%
3P58%
7.8アシスト

もはやラプターズのエースみたいになっているヴァンブリードは、ファーストラウンドでモンスタースタッツを残しました。サイズも身体能力も乏しいにもかかわらず、巧みなゲームメイクとテンポをずらすプレーで打ってくるので、これを止めるのは至難の業。外れるのを祈るしかない感じです。

当然、こっちをスマートやブラウンにマークさせる可能性がありますが、そうなるとラウリーvsケンバとなり、それはそれで自由にゲームメイクされてしまいそうです。

要はケンバのディフェンスはキーポイントということ。ラプターズはここで優位に立つ必要があります。特に試合終盤では、ケンバを振り回すのが得点を取りやすい上に、ケンバのオフェンスを防ぐことにも繋がります。

ファーストラウンドで3P38%と良いタッチでシュートを打っており、勝負どころではケンバのスピードとシュート力を活用していたので、試合の主役はテイタムに譲りながらも、ポイント・ポイントではケンバが仕掛けてきます。

これに対してヴァンブリードのディフェンスは細かいハンドチェックと、死角からのスティールで気が抜けない。フィジカルコンタクトもしてくるので、ケンバは苦しむかもしれません。「しれません」というのは逆にファールドローできれば一気に楽になるからでもあります。

ぶっちゃけ今は個人としてヴァンブリードの方が優れています。同時にラプターズが個人技勝負で最も勝てそうなマッチアップでもあります。なので、ヴァンブリードには必ず勝ってもらわないと苦しくなる予想。

ヴァンブリードは絶対にケンバに勝とう!

「絶対に」がつくと、とたんに不安になります。4勝3敗くらいなんじゃないかってね。シアカムとヴァンブリードの両方が止められるとラプターズは急に苦しくなる気がします。なので、ここは勝っておかないと。

ところで、ラプターズには必殺パウエル砲もあります。プレーオフになると働きだす選手ですが、今シーズンは2月くらいから働きだしたね。ファーストラウンドもFG60%オーバーでした。

セルティックスにはない(ヘイワードがいない)武器なので、イバカと合わせてベンチから40点くらいとってくれるならありがたい。セルティックスディフェンス相手にガンガン得点するとも思えないんだけどさ。

◎5人のプレーメイカー

ウォリアーズという巨大な壁を打倒すのが現代NBAの大きなテーマでした。それは3人のスーパースコアラーとサポートメンバーという「サラリーキャップ的には、あり得ないチーム構成」に各チームが知恵を絞って、戦術を進化させていく時代でもありました。

レブロンというレジェンド・モンスターに全てを委ね、周囲を得点能力優先で集めたキャブス
ハーデンとクリス・ポールというダブルPGに全権を委ね、3Pとディフェンスで戦ったロケッツ
エース以外のチームオフェンスで戦い、フィニッシャーとしてのレナードを際立たせたスパーズ

こんな感じでしたが、時代を終わらせたのはウォリアーズのケガ続出という幸運にも恵まれたラプターズでした。ただ、各チームがサラリーキャップの関係で特定のスーパースターを活用することを目指したのに対して、ラプターズは5人全員がプレーメイカーという新しい形で優勝を手にしました。レナードいたけどさ。

そんなラプターズは、個人のマッチアップで負けているから何だってんだ!が最大の魅力です。ナース様の手にかかれば、AIがバスケをしているような5人全員が信じられない連携を見せて、ポジションレスに仕掛けてきます。

一方で「5人全員が仕掛ける」という点ではセルティックスも同じです。ただし、ポジションレスで入れ替わるかというとラプターズほどの流動性はありません。ドライブ中心の仕掛けは、時に個人が突破できるかどうかみたいな。スマート以外。

そのため、なんだかんだで、ここまでの内容は「戦力的にはセルティックスが上回る」でないと、ラプターズが勝利することになるでしょう。ブラッド様は出来れば3つのマッチアップで勝利したいと考えているはず。テイタム、ブラウン、そしてケンバかスマート。

◎テレパシーディフェンス

セルティックスはスマート以外は基本的に自分で決めるためのプレーメイクになります。もちろん、ディフェンスが寄ってきたらパスアウトは忘れない。ヘイワードがいないことで、万能系が減ってしまったのは痛手かもしれません。

ドライブ中心のオフェンスはエンビードがいても関係なくアタックして成功しましたが、ラプターズの場合はインサイドヘルプではなく、ドライブしてすぐにコースに選手が入ってくるのが特徴です。全体が小さく守るわけですが、パスアウトされるとローテで次の選手が出てきます。

このローテのルールが全くわからないほどに次々に出てきては、さらに次のローテに動いていきます。JJレディック曰く「あいつらテレパシーでコミュニケーションしてるんじゃないか」ってことで、管理人はテレパシーディフェンスと呼んでいます。

とはいえ、セルティックスも適切な選手間の距離を保つので、パスの連続からコーナーで3Pは得意技。パスワークとテレパシーのどちらが上回るかですが、大体は「スマートが持てばオフェンスが勝つ」という形になりがちです。

ここでナース様には選択肢が出てきます。得意のディフェンスを攻略されそうならば、いっそのこと誰か1人はカバーが遅れても良いじゃないか。それはタイスかスマートです。成功率だけでなく、トップ近辺にいるのでコーナーへのパスをさせなければ、ローテも間に合いやすい。

スマートはラプターズとの3試合で3P3/17と20%にも届かない確率になっています。そんなことは気にせず打ってくるタイプなので、決めまくるとパスワークも冴えわたるので一気にセルティックスペースになりそうです。

◎スイッチ&スイッチ

一方のセルティックスはラインナップの良さを使ってカバーとスイッチでフリーを生み出さない形をとってきます。ケンバとタイスはミスマッチが発生しますが、そこではオフボールスイッチによって即座に解消するスマート戦法もあります。オンボールでスイッチし、オフボールのスイッチで解消する。

ただ全体的には小さいので、エンビードのようにセンターで押し込みたいのですが、ファーストラウンドのガソルは全くダメな空気でした。ドフリーにしておいて良さそうなので、ブラッド様はタイスをカバーリング優先で守らせるとおもいます。

そんな時でも「レナードがいれば」強引に決めきってくれますが、今のラプターズは最後までチームオフェンスなので、ガソルが決めきるのが大前提です。イバカは好調なので、ムリにガソルを引っ張らないかもしれませんが、ナース様からすると「穴」を作っておくわけにはいかない事情があります。

それがぶ厚い戦力を使わなくなったプレーオフの理由でもあるので、チーム全体のコンディションが大切になるのもラプターズにとっては簡単ではありません。

ちなみに両チームのディフェンスについてはダニエルの動画を観ましょう。管理人は今シーズンのスマートは「DPOYクラスではない」と思っているのですが、その理由はスマートがいなくてもオフボールスイッチなんかが出来るようになっているチーム全体の事情です。そんなことも含めてみてください。

◎楽しく、退屈なシリーズ

いろいろ書いてきましたが「どっちが勝つんだ」という視点では何を書いているのか意味不明だったと思います。個人はセルティックスだけど、チームはラプターズだからさ。

そしてブラッド様とナース様の戦略が結果を大きく動かしていくわけですが、そこにはネガティブな意味合いもあります。

知力を巡らせた戦い = 相手の良さを消す戦い

イースト最高レベルの対戦ではありますが、お互いがお互いの良さを消し、弱点になりそうなところをさらけ出そうとするでしょう。そのうえで、勝てそうな個人を探していくのがブラッド様で、消されないように持っていくのがナース様。

だから戦略的に楽しそうなんだけど、「悪い部分が見えてきてしまう」退屈なシリーズになるかもしれません。それぞれのファンは自分のチームの悪いところを知っているはず。それが出てこないほどに、勝利に近づくのではないでしょうか。

ということでゲーム1を楽しみにしているのですが、その日はウエストのゲーム6があるので、それどころじゃない。っていうか、ボイコットがいつまで続くのだろうか。

プレビュー ラプターズvsセルティックス” への5件のフィードバック

  1. お疲れ様です。
    イーストはセカンドラウンドから本番な感じでしたね。
    ボイコットの声明を見てるとすぐには再開しない気がするので、もしよければ去年みたく「さようなら」シリーズを見てみたいです。
    ブレッド・ブラウンは理解できますが、ネイト・マクミランはびっくりでした。
    サボニス入りで戦わせてあげたかった。

  2. 1番楽しみにしてますが高確率で退屈シリーズになりそうですよね。それだけに両者の狙いや趨勢を密かに語るデータを掘り出してくださるのを心待ちにしています。ええ、恥ずかしながら人任せですね。

    1. このシリーズは書こうと思ったら、試合よりも長い記事になってしまいます。っていうか、観ている方には理解できない「数」の策が実行されていると思います。放棄します!

  3. ボイコットはMJパワーで解決したとの報道で再開決まってほっとしてます。
    今年推しのペイサーズはお休みになったので、今は各陣営のドラフトの戦略が楽しみです。
    プレビュー見たいです。

    1. ロッタリーをファーストラウンド中にぶち込まれると、時間が足りない!!!
      ウルブズ、ウォリアーズという指名しなくても良いチームがトップ2なので、他のチームが本気で欲しい選手がいるかがポイントです。

      ホーネッツおめでとう!

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