カリーがいないシーズンは、カリーが変えた時代を塗り替えるのかもしれない
NBAの常識は移り変わる。3P成功率は20年前と大きく変わらないのに、3Pアテンプトは驚異的に増えた。「3Pとゴール下」時代の到来は、あっという間にNBA全体に広がり、徹底した「3Pとゴール下」が勝利へのキーファクターになりました。
しかし、リーグの覇権を握るのは、そんな常識を取り入れたうえで「ディフェンスを崩す」ことを徹底するチーム。もちろん代表的なのはラプターズ。ニック・ナースに率いられて初優勝した昨シーズンは「全員がプレーメイカー」という新しい形のチームを構築しました。
そんなラプターズを題材に「時代が変わったこと」が今回の主旨です。まずは、その前にカリーとウォリアーズ、ダントーニとロケッツについておさらいしましょう。
◎増えた3P
〇3Pアテンプト
09-10シーズン
マジック 27.3本(1位)
10年前にリーグで最も多くの3Pを打っていたのはマジックでした。その理由はドワイト・ハワードというスーパーマンがインサイドにいたことで、アウトサイドにディフェンスを広げることが求められたからです。
この形は実は現代のバックスとよく似ています。ヤニスを無双させるために3Pを打ちまくるバックス。10年の時を経て時代は戻ってきたわけですが、今シーズンのバックスは38.6本のアテンプトなので+10本も増えています。
10年間で「インサイドのエースを活かす」ための3Pが10本増えた
〇3Pアテンプト
14-15シーズン
ロケッツ 32.7本(1位)
初めて30本を超えたのは、67勝して初優勝したウォリアーズ・・・ではなく、同じシーズンのロケッツでした。ハーデン、アリーザ、べバリー、そしてジェイソン・テリーの4人が打ちまくり、2番目に多かったレブロンキャブスよりも5本も差がありました。
そしてこのロケッツにもハワードがいました。平均15.8点と暴れてはいないハワードをインサイドに置いていますが、主軸はハーデンたちに移っていたわけです。とはいえインサイド+3Pという構図に違いはありません。なお、この時ダントーニはいません。
〇3Pアテンプト
15-16シーズン
ウォリアーズ 31.6本(1位)
ロケッツ 30.9本(2位)
そして翌シーズンに歴代最多の73勝をあげたウォリアーズがなんと成功率41.6%でアテンプトも1位という圧倒的な成績をあげます。このウォリアーズのイメージが強くて「時代が変わった」と捉えられがちですが、実際にはロケッツの方が先に時代を動かしています。
ただし、マネをされるという意味ではウォリアーズが手本だったので、このシーズンは3位以下とのアテンプト数も小さくなり、5本差以内に10チームがひしめき合っています。
ウォリアーズの73勝の陰で、本格的に3P時代が到来した15-16シーズン
だったといえます。そしてもう1つの特徴が「インサイドを活かすための3P」ではなくなったことです。スモールラインナップ時代の到来でもあったので、単に3Pアテンプト数が増えたのではなく
3Pからオフェンスを構築する時代
に突入したのでした。5人全員が3Pを打つことで成立させる形にして、ひそかにドライブの優位性が高まったことも意味します。恐ろしいことに、今からわずか5年前の話。NBAの戦術は高速回転しています。
◎30本が常識の時代
カリーが変えた戦術は、翌年にはダントーニの登場でアップグレードされてしまいました。
〇3Pアテンプト
16-17シーズン
ロケッツ 40.3本(1位)
ウォリアーズ 31.2本(5位)
自分たちを変える必要がなかったウォリアーズは(デュラントを加えたけど)前年同様の3P戦術でアテンプト数は変わらないけど順位は5位に落ちました。とはいえ2位のキャブスとは2.3本差なので、それなりに団子状態です。この路線の戦術を採用するチームが増えたことを示しています。
しかし、1位のロケッツは40本を超える圧倒的なアテンプト数でした。ダントーニによって加速度的に3Pは増えていったわけですが、「高確率で決めるから3Pを打つ」ウォリアーズに対して、「3Pを増やすことで効率の良いオフェンスをする」ロケッツなので、おおもとの発想は異なっていたといえます。プルアップ多い。
〇3Pアテンプト
17-18シーズン
ロケッツ 42.3本(1位)
ウォリアーズ 28.9本(17位)
翌シーズン、ついに2Pよりも3Pを多く打つチームが誕生します。しかもこの本数でリーグ最高の65勝をあげたため、戦術的にも優れた判断と評価されます。その一方でケガもあって少しアテンプト数を落としたウォリアーズは中位に沈みました。2シーズン前はリーグで最も多くのアテンプトだったのに、
ウォリアーズレベルのアテンプトがNBAの常識になったシーズン
になり、11チームが30本を超えました。そして、ここから先はアテンプト数を論じても意味がなくなってきたのでラプターズの登場に繋がります。1試合30本の3Pは当たり前の時代であり、むしろ25本に満たないスパーズやペイサーズの方が珍しくなってきました。
3Pが少なくてオフェンス構築できるチームは凄い
っていう常識に代わったわけです。トップチームが30本を超えてから3シーズン後には常識になってしまった高速回転するNBA戦術。
ストレッチ5とか、スモールラインナップとか、ペースアップとか、トランジション戦術とか、いろいろな要素が加わってくるわけですが、今回の主旨とは違うので割愛です。まだ本日の主題となるラプターズが登場しない。
◎カリーとダントーニ
3P増がもたらしたものはオフェンス戦術の変化だけではありません。ディフェンスの在り方も大きく変わってきました。特にカリーの存在とダントーニ戦術はディフェンスの考え方を強制的に変異させています。
高確率で決めてくるカリーが変えたのは「個人への守り方」でした。それまでは確率の悪いシュートのため無視しても良かったものが無視できなくなったのです。
ロングレンジの3P
プルアップ3P
カリーに対してはハーフコートからプレッシャーをかけたくなり、結果的にコートは広くなってしまいます。後付けでこの能力を手に入れたリラードのように、カリー特有の事情ではなくなっている今日この頃ですが、自信満々に打ち始めたのがカリーだったと言えます。
もうひとつが多少のオフバランスだろうが関係なく決めてしまうプルアップ3Pの脅威です。これによって特にピック&ロールの守り方が大きく変わりました。そういえば、この点だけにフューチャーした記事を書きたかったのですが、素材集めるのがめんどくさくてさ。
ロングレンジでも決めてくる選手なので、3Pラインなんてのはミドルと同様。それが3点になってしまうのでショーディフェンス、ファイトオーバー、オールスイッチなんかを駆使して一瞬たりとも「打たせない」守り方が必要になってきたのです。
プルアップ3Pとロング3Pを打たせない守り方が必要
こんな変化がもたらされました。ちなみにプルアップ3Pについてシーズンごとの変化を並べますが、データが13年以降しかありません。カリー後しかないぜ。
〇プルアップ3P成功率
13-14年 32.0%
14-15年 31.2%
15-16年 31.1%
16-17年 32.8%
17-18年 32.9%
18-19年 32.0%
19-20年 33.0%
大きなふり幅ではありませんが、リーグ全体でプルアップ3Pの精度が向上していることがわかります。特に73勝した16年以降に確率アップの傾向がみられ、カリーが常識を変えた感じがあります。高い成功率のプルアップ3Pを決められるのであれば、防ぎに行く必要があるのです。
ちなみにカリーが変えたディフェンスの在り方ですが、同時に苦にしなかったカリーなのはハンドリングスキルの高さがあったからです。シュートのためにハンドリングが必要なのでした。
成功率の向上もさることながら、アテンプト数は激増しています。「従来よりも苦しい体制で打ち、確率は上がる」というヘンテコな状況なので、まさに「常識が変わった」としかいいようがありません。
〇プルアップ3Pアテンプト
13-14年 11635本
14-15年 12268本
15-16年 13819本
16-17年 15664本
17-18年 18063本
18-19年 22174本
5年間で倍になりましたが、特に17年以降に激増しています。ダントーニが加速させた3P増は確率の良さ以上にアテンプト数への対応を迫ってきました。「3Pかゴール下か」の時代なので守る方は「3Pとゴール下を打たせるな」に変化したわけです。スモールラインナップが流行した最大の理由はディフェンス面にあったと言えるでしょう。
カリーと違うのは「個人の守り方」ではなく、「チームとしての守り方」に変革を求めてきたことです。どこからでも打ってくるロケッツに対して、どこまででもチェイス出来るかは重要でしたし、ウォリアーズとのカンファレンスファイナルはチーム戦術がぶつかりあう「チェスゲーム」とすら呼ばれました。
3Pを打たせないチームディフェンスが重要
オフェンスの急激な変化は「守り方」に求める要素を大きく変えたのでした。そして、やっと本日の主役であるラプターズが登場します。
◎打たせないケイシー&カラミアン
地味に触れていませんがウォリアーズと覇権を争っていたキャブスはオフェンス面で3Pを増やしていきました。チャンピオンになるためには打ち勝つしかないと考えたような戦術でレブロンもプルアップ3Pを増やしていきました。
これに対してキャブスを止めたいラプターズは3Pへのチェイスを強めることを意識したディフェンスを構築します。当時のヘッドコーチはドゥエイン・ケーシー。3Pを打たせないことを考えた戦術を構築しています。
〇ケーシーの被3Pアテンプト
ラプターズ
15-16年 23.4本(12位)
16-17年 27.3本(18位)
17-18年 25.0本(1位)
あまり3Pに対する対応が優れていなかったラプターズでしたが、リーグ全体に3Pが急増した17-18シーズンに逆に被アテンプトを減らすという離れ業を実現したことで、イースト首位の59勝を達成しました。この時、自分たちはリーグで3番目に多いアテンプトで相手よりも8本多く打ったことになります。時代を制したケーシー。
ディフェンスレーティングは107.1から105.3とこちらも時代に逆行して数字を良くしたことが結果に繋がりました。3P時代に3Pを打たせなかったわけです。なお、プレーオフではキャブスを平均28本に抑えましたが、FG52%で4連敗しています。
このケーシーには続きがあります。
〇ケーシーの被3Pアテンプト
ピストンズ
18-19年 27.8本(2位)
19-20年 29.6本(2位)
ケーシー就任前は30.8本(27位)と打たれまくっていたピストンズですが、ケーシーになったことで明確に3Pを抑えに行きました。といっても30本近く打たれてリーグで2番目に少ないわけですから、時代に逆行までは出来ていません。当たり前です。
ともあれ、ケーシーの発想は明確に時代を止めにいったのでした。そんなラプターズ時代のディフェンス担当ACは戦略家のレックス・カラミアンでしたが、クリッパーズに行くと同じような形を見せてくれました。前年が30.2本(21位)だったクリッパーズはカラミアンになって同じ本数ですが、リーグ全体が増えたので8位にまで減りました。クリス・ポールがいなくなってペースアップしたオフェンスの関係で、ディフェンスの回数が増えたのですが3Pは止めに行ったよ。
〇カラミアンの被3Pアテンプト
クリッパーズ
18-19年 30.2本(8位)
19-20年 35.2本(26位)
しかし、今シーズンになって逆に打たれまくるようになりました。カラミアンの方は考え方を見直したわけです。
ここに新たな時代の変化が生まれています。
〇カラミアンの被3P%
クリッパーズ
18-19年 34.3本(5位)
19-20年 34.1%(2位)
つまり「3Pを打たせない」から「3Pを打たせても外させる」に考え方がうつってきています。ホーネッツが守れない理由の中でアシストを減らすことが有効としましたが、ちょっとだけ似ています。カラミアンはどちらかというと「外させる」ことにシフトしていました。
そして、これはHCがケーシーからニック・ナースになった昨シーズンからのラプターズには顕著な傾向でもありました。
〇ニック・ナースの被3Pアテンプト
ラプターズ
18-19年 31.2本(10位)
19-20年 38.5本(29位)
〇ニック・ナースの被3P%
ラプターズ
18-19年 34.5%(8位)
19-20年 33.7%(1位)
ケーシー時代の「リーグで最も3Pを打たれないラプターズ」は、
HCが交代から、わずか2年間の間に
「リーグで2番目に多く3Pを打たれるチーム」
に生まれ変わりました。その代わりに
「リーグで最も3Pを外させるチーム」
に生まれ変わったわけです。
3Pは打たれても良い。しかし、決めさせるな!
現在リーグで最も多く打たれているのがバックスなので、レーティング1位と2位が共にこのディフェンス戦略を採用しています。まさに高速回転するNBAらしさ。ディフェンスの「常識」はあっという間に塗り替えられたのでした。
◎破壊するニック・ナース
ラプターズがディフェンスで何をしているのかは、そのうち触れるとして、面白いのはデータ主義から始まった戦術の流れに対して、トレンドそのものは意識しながらも、基本のスタンスが大きく異なる事です。プレーメイカーを5人並べた珍しいロスター構成によって、どこからでも仕掛けるオフェンス構成は数字以上にディフェンスに的を絞らせず、柔軟さで対抗してきましたが、
ディフェンスについても「3Pへの対策」を考えているというよりも、「オフェンスのリズムを狂わせる」ことに主眼を置いた戦術に思えます。つまり攻守においてニック・ナースは
相手を破壊(狂わせる)ことに主眼を置いた戦術
に映るのです。優れたヘッドコーチは数いれど「リーグ最高の戦略レベルを備えたチーム」を作っているのは間違いなくニック・ナース。そこには基本的なスタンスの違いを感じさせます。
一方でリーグで最も3Pを打たせていながら最高のレーティングを誇るのはブーデンフォルツァーのバックス。多様な戦術・戦略で破壊してくるニック・ナースに対して、ブーデンフォルツァーは「リーグ最強の戦術を持つチーム」を作り上げました。それは、ある1つの戦術なんだけど、あまりにも強固だということ。
柔軟に対応して相手を破壊するラプターズ
強固な1つの戦術で相手を圧倒するバックス
両極端だからこそ、プレーオフにおいてバックス最大の敵はラプターズだと思うのでした。
次回はバックス編と思いきやネッツ&バックス編となります。
自分たちを信じきれないチームでしたが、優勝したことが本当に大きかったと思います。
「レナードがいたから」と言われがちですが、そうではないことを示している今シーズンってのも、ある意味で自信を深めていそうです。
ここでやはりRSとPOの違いって事になりますよね。
柔軟に対応できるがPOモードという圧倒的な個の前に破れつづけた経験からその圧倒的な個を手に入れワンチャンスをものにしたラプターズ。
強固な1つの戦術が故にPOモードへのギアチェンジが少なく柔軟に対応されて散った昨年のバックス。
今のヤニスは20年前のシャックを思い起こさせます。
圧倒的な個とトライアングルオフェンス。
しかしダンリービーがハックアシャックで殆ど攻略しかけますが、そこにはもう1人の圧倒的な個がいたレイカーズ。
果たしてラプターズは圧倒的な個を失いPOで勝ちきれるのか?バックスはヤニスがレブロン、MJクラスに覚醒するのか?それとももう1人のエースが圧倒的な個を見せるのか?
結局は攻略はそこをどう読むかなんですよね。読んだ上で戦略を作り上げる。ホントに高速回転。
確かに、シャック&コービーっていうのは、プレーオフで強烈でした。別に連携しているわけじゃかくて、ウエストだとシャックが止められる→コービーが決めるが結構あって、ファイナルに行くとコービーが止められる→シャックが決めるパターンになっていましたね。両方止めたのはピストンズ。
圧倒的な個であっても、1枚だと単調でプレーオフには機能性を欠くのかもしれません。
バックスはそこが課題なのか。ミドルトンは融合しているけど、個で勝負しているかは難しい。