トレ・ヤングのディープ3Pとミドル3P

アデバヨ、3Pは進化しているんだぞ 

今回はオールスターのスターターにして、その割には過小評価されている一面もあるトレ・ヤングの登場です。なんで「過小評価」されているのかといえば、その特殊性を評価するのが難しいからです。

物凄いんだけど、比較対象がないから、「どの程度」凄いのか理解しにくいってことですね。同じくディープ3Pを武器にするリラードのブレイザーズが不調なのも関係しているかもしれません。リラードもまた時に評価を落とされがちなPGなのでした。

◎ディープ3P集

今回は中断期間中にNBAがアップしたディープ3P集を、シチュエーション別に並べ替えて、トレ・ヤングを分解していみたいという思いから始めたのですが、「動画編集ソフトを立ち上げて並び替え → ソフトが落ちる」を3回繰り返し、2時間くらい無駄にしたのでヤル気がなくなってきました。アデバヨに労力をかけすぎたことも関係しています。

まぁとりあえずそのNBAチャンネルをみてください。なんと恐ろしいことにディープ3Pだけで12分も動画が続きます。1.5倍速推奨です。

また、このディープ3Pについては、大きく4つに分類して並べなおすことを考えています。その4つを頭においてみてください。

①キャッチ&シュートなのにポジショニングがディープ
②ディフェンスが離れて守ろうとしたので3P
③アイソやピックなど、個人勝負でサイドステップ3P
④トランジションから特に意味なくディープ3P

③は純粋なトレ・ヤングの異常性
④はちょっと調子に乗って打ってしまった系統

って感じなのですが、まぁ④は試合展開も含めてなので一概には言えません。とはいえ、そんなに必要性がなかったディープ3Pでした。この2つは後回しにして①と②が非常に重要なシュートになっています。

◎小さいという武器

185cm82キロのトレ・ヤングはNBA選手としてはとても小さい。小さくてもアイバーソンみたいなスピードスターはいますが、そこまでスピードがないのもヤングの特徴です。

体が小さいのは控えめに言っても不利なスポーツではありますが、小さくて優位性があるのが「アジリティ(敏捷性)」です。スピード(速さ)やレスポンシビティ(反応速度)は体が小さい方が優位なことが多いだけで、大きくても速い選手は早いですが、体全体を動かすときには小さい方が細かい動きを行いやすく、初動が早いのは当然といえば当然です。

クイックショットが武器のトレ・ヤングですが、それは自分の体の小ささを上手く活用しているシュートになっています。ステップバックでディフェンスとの間に空間を作るのが流行系ですが、明らかにシュートとわかるステップバックは使わず、ディフェンスの虚を突くことを意識したモーションの早さで打ち切ります。

一方で距離が必要なディープ3Pということもあり、ボールを胸の前あたりまで下げ、比較的低い位置で構えてから打とうとしています。通常はボールが下がることでディフェンスにプレッシャーをかけられることが増えてしまいますが、ディフェンスが届かないところで打つのがベースです。

体が小さいからこそクイックショットを使うのはカリーと似たような特徴ですが、カリーの方がもっと高い位置で構えており、ヤングは少し違うアプローチをしている感じです。つまり

ボールを構える位置が低い
→ディフェンスと距離を空けたい

こんな事情がありそうです。ディープ3Pを打つのが得意なのか、ディープにしておかないとブロックされやすいのか、といえば後者の方が優先されているイメージです。ということで

①キャッチ&シュートなのにポジショニングが遠すぎ

こんなディープ3Pが多くあるのがトレ・ヤングの特徴に。カリーはさすがにこんなことはないぞ。
インサイドからのパスアウトで完全フリーなのに、3Pラインの1~2mくらい後ろで受け取ってシュートを放っているヤング。シュートスキルの高さが可能にしたシュートですが、自分自身の特徴を生かすために必要な手段だった気がします。要するに「打てない可能性があるラインぎりぎりよりも、確実に打てるディープの方が意味がある」と判断していそうなのが、1パターン目です。

◎スペースが欲しい

しかし、それだけだったらシュートフォームを改善すればよい話なのですが、ヤングの場合はフィジカルコンタクトに弱いというデメリットもあり、ディフェンスの体スレスレを抜けるのがちょっと苦手。そのため出来るだけ自分が攻めるためのスペースを広くしておきたい事情があります。

同じような体のカリーはトリッキーなハンドリングはあるものの、基本はあまりドリブルで抜くことはせず、パスを出してオフボールムーブ勝負にもっていくのですが、ヤングの場合はよりPGらしいPGをしているので、自分がハンドルしてゲームメイクもしていきます。この点ではリラードに近く、だけどリラードのように強くはない。

ドライブを成立させるためには常に自分にマークが寄っていないといけません。だからヤングはディープ3Pでディフェンスに語り掛けます。

「お前、オレの事を1m以上離すの禁止な」

ってことで、生まれていくのが2つ目のパターン。

②ディフェンスが離れて守ろうとしたので3P

ディープ3Pの50%くらいがこんなシュートでした。スクリーンに対してアンダーで守ることを禁止したのがカリーでしたが、ヤングはさらにセンターラインを越えたら守ることを強要してきます。この狙いはリラード風。

ってことで、ディープ3Pを武器にしているのは、単にシュート能力ってだけでなく、フィジカル的に劣る体格であってもPGとして、エースとしてプレーするために必要な武器だった感じです。スピードがないアンダーサイズのPGがスーパースターになるために必要だったんだ。

そこにはヤングのアシストも関係してきます。アシストパターンとしては

・ドライブからアリウープ気味のパス
・トップから仕掛けてディフェンスを寄せてパス

この2パターンが多く、基本的にはいかに自分にディフェンスが寄ってくるかが勝負のPGです。特に後者はトップのヤング自身にダブルチームを誘導させるようなことも多く、ディープ3Pでエサを撒き、アシストを成立させている面も。

ディープ3Pはアシスト数増に繋がっている

今シーズンはレブロンに次ぐ9.3アシストを記録しているヤングですが、そこにはディープ3Pを打つことが大いに関係している気がします。

◎オープンで打つ

①と②はディープであることを除けば、ディフェンスのプレッシャーが少ない時に打っているに過ぎません。3Pラインギリギリでは苦しくなってしまうヤング特有の課題から生み出された「フリーで打つディープ3P」なのに対して、ハーデンのステップバック3Pのような驚くべき個人技というのは、

③アイソやピックなど、個人勝負でサイドステップ

なんだかんだでここに限られてくる感じです。得意なのが左右にずらすハンドリングからクイックリリースの3Pとなっており、後ろに下がるのはあまり使いません。「あまり」ってだけで使うことは使うから厄介ですが。基本的には前にディフェンスがいない状況を作ろうとしています。

〇ディフェンスとの距離別3P
4フィート以内 1.5本
6フィート以内 4.1本
6フィート以上 3.8本

プルアップを平均7.7本も打つヤングですが、そのイメージに反してディフェンスが4フィート以内は1.5本と少なく、殆どがオープンで打っています。つまりは①と②が多くを占めているわけです。

それに対してタイトな状況では確率も25%と低く、好んで打っている感じではありません。一見すると個人能力を誇示するようなイメージのあるディープが多いから、確率論なしで打ちまくっているようでいて、実際にはタイトなシチュエーションでは打たないわけですから、「自分が小さいこと・打点を低く設定していること」がこの数字に繋がっていそうです。

ちなみにタイトな3Pについて、他の選手を観てみると、
〇ハーデン 4.6本
〇カリー  3.8本
〇リラード 3.2本
とヤングに比べるとかなり多いことがわかります。なおカリーは5試合だけなので参考程度。

ディープ3Pを打つのはオープンで打つことを優先しているから

こんな構図が浮かび上がってきます。この意味ではマークされるくらいなら離れている選択肢は間違っているようには思えません。カリーもオフボールで動き回る戦術でなければ同じことをしていそう。

◎サイドステップとファールドロー

そんな中で打つハンドリングからのサイドステップ・ディープ3Pですが、ヤングは横に抜けながらのシュートを得意としており、その一部であるだけでなく、こざかしくファールをもぎ取ろうとする習性があります。具体的には両足広げてひっかけようとしている。

打ち切れると判断したとき以外には大体はムリヤリ感を演出していて、これがタイト3Pの数字を減らす(ファールだからカウントされない)ことにも繋がっています。

ただ、それにしてもこのサイドステップ3Pの上手さは驚愕。時にハンドオフからのワンステップシュートもあるのですが、このプレーを連発されたら止めるの難しそうです。カモン!アデバヨ!

ただし、やっぱり確率が落ちる一面があり、ドリブル数と3P成功率の関係は

〇ドリブル数と成功率
0ドリブル 47%
1ドリブル 29%
2ドリブル 24%
3-6ドリブル 33%
7ドリブル以上 36%

要は3Pが得意といっても、やっぱり抜きながらはそこまで確率良くない。ただし、0ドリブルの次に多い7ドリブルは36%と確率も良く、多くのドリブルをついて「自分のリズム」で「オープンになって」打つのは決まります。

キャッチ&シュートなら47%も決まっているわけだし、シュートが上手いのは確実。ただ、確率悪いパターンでも強気に打って決めていく事が多いのがカリーとの違いかな。カリーっていうか、チーム戦術の違いでもある。

〇フリースローアテンプト 9.3本(3位)

ハーデンとヤニスの次に多いアテンプトになっているヤング。インサイドでの強みがない代わりに、その前にファールを奪い取る技に長けています。サイドに逃げておいて追いかけてくるディフェンダーにぶつかっていくパターンは、ぶつかるのを警戒されると、そのまま抜いていく事にも繋がっています。

派手に思えるヤングのディープ3Pですが、実はタフにしないために生み出されたショットであり、タフになるくらいならファールドロー優先しているのでした。

◎ミドル3P

そんなヤングのシューティングはこんな感じ。

本来は「ゴール下と3P」における「ゴール下」はもっとリング近辺に集中していないといけないのですが、そこはまぁ小さいヤングなので多めに見てあげましょう。そんなことよりも、このサイズにしてミドルレンジが少ない気がしてきます。これはジャンプシュートのデータを見ると明らかになってきます。

〇プルアップジャンプシュート 323本
うち2P  29本
うち3P 294本

〇ジャンプシュート 196本
うち2P  15本
うち3P 181本

多くのジャンプシュートを打つヤングですが、2Pは10%にも満たない。昨シーズンのカリーだと2P50本、3P140本と25%以上が2Pでした。ミドルレンジのシュートが少ないことは、ヤングがより現代化されたシューティングPGになっていることを示しています。同時にカリーはディフェンスがいる状況でも打てるわけですから、シューティング能力においてはカリーの方がかなり上手な気がします。

ドライブでもっていってもストップジャンプシュートを殆ど打たないヤング。それは流れながらのシュートこそが自分のプレーというアイデンティティもありそうです。

〇ドライブフローター 266本

リングと距離があってもフローターを放ってくるのがヤング。止まらずに打つことでディフェンスが前に立つのを拒否している感じです。そう考えるとディープ3Pでの考え方と一致するわけで、ヤングが目指しているプレースタイルもわかりやすくなります。

× タフショットを決めるシュート能力
〇 オープンショットを打つシュート能力

こんな感じかな。それはわかりやすいかもね。
その一方で、これだけディープ3Pを打ち、だけどミドルは殆ど打たないわけですから、ちょっとひねくれた見方も出来てきます。

ヤングにとって普通の3Pがミドルシュート扱いなんじゃないの?

実際に「プルアップ3P294本」は異常な数字です。多すぎるだろ。

ちなみに「プルアップ」と「ステップバック」は別管理になっていて、ハーデンの場合、プルアップ61本、ステップバック472本です。通常のハンドリングから3Pを打ちまくっているけどサイズが小さいヤングってのは、変な構図。

ディープ3Pの距離までディフェンスを広げ、フェイク等からドリブル侵入⇒プルアップ3P

これって要するにミドルを打つようなイメージで3Pを打っているよね。そう考えるとディープ3Pを打つ理由が深まってくるわけです。ただし、現状は31%と確率が悪いので、このミドル3Pの改善がヤングを更に上のステージへ引き上げるはずです。

ディープ3Pを放つことで、スペースを作り、プルアップからの「ミドル感覚の」普通の3Pを打っていくヤング。それは【ゴール下か3Pか】という基本戦略を達成させることに繋がっている

こんなことも言えそうなのでした。

◎まとめ

ということでトレ・ヤングのディープ3Pは、いろんな要素を絡めていくとヤングのプレースタイルを構築する上で、とても重要なスキルである気がしてきました。いろいろと絡み合って論理性があると、非常に魅力的なスキルに思えてきます。

・サイズが小さく、クイックショットを利用するためにオープンになりたい
・タフショットを避け、オープンになる事を優先したポジショニング
・スペースを作り、ドライブの有効性を高める
・スペースを作り、ゴール下へのアシストパスを増やす
・サイドステップで抜けて3Pを打つためのスペース作り
・「ゴール下か3P」を実現するための、ミドル3P

ただ単にディープ3Pを打っているのではなく、そこから派生するようにプレーが成立しているからこそ若くしてオールスターのスターターになっているのでしょう。ヤングのプレーは見るものを興奮させるのはもちろん、紐解いていった時の面白さにも満ち溢れているのでした。

トレ・ヤングのディープ3Pとミドル3P” への4件のフィードバック

  1. 来季はヤング、ハーター、ハンター、コリンズ、カペラがスターターだとすると、シューター2枚・スクリーナー2枚。むやみにストレッチさせずパス先が中外バランスよく配置されて良いチームになるか、攻撃の起点をヤングに任せすぎて伸び悩むか。いずれにせよヤングを下げた時のバックアップPGが重要で、ティーグと安く再契約したいですね。ヤングが空けたスペースにもう一人、アイソに強いウィングがいたら心強いんですけど、オフはやっぱりイングラム狙いなんですかね?ハリスやボギーだとちょっと違うような。

    1. ハーターとレディッシュがいるので、この2人でセカンドユニット作りたいですね。若手に全フリしているので、レディッシュも良くなってきたし、なんとなく骨格は出来そう。
      探せばそこそこ人材がいるPGよりもビンスおじさんの代わりに誰を連れてこれるか、コリンズとカペラってどうするのかが、ちょっとわかんないです。
      ターナーやアレンなど、割と合わせられなかった経緯もあるので、ヤング仕様にしていくのか、ヤング以外の形を増やす路線に行くのか。

  2. 面白い記事でした。彼がオールスタースターターのわりにいまいち評価されないのはドンチッチと比較されちゃうからのような気もします。まあディフェンス面での問題もありますが。個人的にすごい好きですし、見てて楽しい選手なので、もっと注目されてもいいと思います。ホークスのオフの補強はディフェンスの上手い控えPGを連れてこれるかが重要になってきますかね?

    1. ディフェンスの良いガードは欲しいですね。誰だろ。
      3Pは打てないとダメですし、サイブル欲しいですけど、さすがに無理でしょうし。

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