ポイントセンターの源流

アーヴィン・マジック・ジョンソンのルーキーシーズンファイナル

ヨキッチに代表されるポイントセンター。従来は「3Pを打てるセンター」くらいの位置づけだったのが、ゲームを作る役割を担うビッグマンが登場し、さらに今シーズンはアデバヨが3Pを打たなくてもポイントセンターというジャンルを確立しています。

その源流はユーロにあるのですが、NBAの歴史で一瞬だけ明確に刻まれた試合があります。それが1980年NBAファイナルのゲーム6。ポイントセンターとなったのは本来PGであるはずのマジック・ジョンソン。知らない方もいると思うので経緯に触れておきます。

1年前のNCAAファイナルでラリー・バードとの壮絶なる戦いを制したマジックは、ドラフト1位でレイカーズに指名されます。前年に47勝しプレーオフセカンドラウンドに進んだレイカーズでしたが、トレードで得ていた1位指名権でビッグPGを獲得したのでした。

強豪チームにドラフト1位が加入する状況なので、そりゃあチームは勝ち進みます。60勝22敗と大きく勝率を伸ばしたチームの中心的存在となりオールスターにも選ばれたルーキーPGでしたが、新人王はラリー・バードに譲っています。ちなみにバードは29勝だったチームを61勝させています。

バードとマジックで大きく状況が異なったのは、レイカーズにはエースがいたこと。それもスーパーレジェンドにしてオールタイムスコアリングリーダーであるカリーム・アブドゥル・ジャバーがいたこと。このシーズンはなんとFG成功率60%で24.8点を記録し、シーズンMVPに輝きました。

そんなチームなので順調に勝ち進み、ファイナルに進出するとドクターJことジュリアス・アーヴィング率いるシクサーズと対戦し、ホームで行われたゲーム5に勝利し3勝2敗と王手をかけますがジャバーはねん挫してしまいました。ゲーム6がフィラデルフィア、ゲーム7がロサンゼルスという事情もあり、ジャバーはゲーム6を欠場してロスに残り、ゲーム7で勝負をかける戦略を採用したのでした。

ということで、シーズンMVPにして平均38分プレーしていたセンターがいないゲーム6に、レイカーズはエマージェンシーコールで何故かPGのマジックをセンターに据えることとしました。そして歴史的な「ルーキーでファイナルMVP」が誕生することになります。

では試合を見ていきましょう。NBATVで見たかったけど楽天NBAだと放送していないので、YouTubeから探しました。

◎何故マジックだったのか

レイカーズは何故マジックをセンターにしたのでしょうか。確かにビッグガードではありますが、206cmとセンターにしては小柄。ならばスピードを使って、という案もありますが、そこら辺は試合序盤の内容から違う気がしています。

ファーストプレーでヘルプディフェンスからスティールしたマジック。見事なヘルプではありましたが、そもそもレイカーズディフェンスは5人全員がペイント内で待ち構えています。高速ヘルプなんてものは必要ありませんし、本当はスティールじゃなくてブロックに飛んでほしい所。

現代との比較で言えば「3Pを重視していない時代」ではありますが、90年代00年代になる前としては、3Pというよりも「ゴール下でのプレーを重視している時代」といった方が正しいでしょう。ある意味、ジャバーみたいなフックショットの確率が高すぎて「ディフェンスを抜かなくて打つシュート」にプライオリティが置かれている気がします。3Pでストレッチして空いたインサイドでイージーシュートを打つ現代とは考え方がかなり違います。

①ディフェンスを抜かずにシュートを打つのが基本

このことはセンター以外の得点の取り方にも関係していて、かなりスクリーンを使ってのミドルが多くなっています。これが3Pにならないのは現代からすると残念ですが、それでもしっかりとセットしたミドルを打っていることがわかります。それはミドルレンジでしっかりとフリーを作れているとも言います。

ディフェンスってのはペイント内を固めるものだ
→固まっているからスクリーンでミドルレンジのフリーを作りやすい

なんとなくこんな構図も見えてきます。特にレイカーズはこの傾向が強く出ていました。マジックのミドルは武器にならないので、あくまでも起点役なのですが、その意味ではPGじゃなければセンターなのかもしれません。

②マジックはミドルシュート役が出来ない

この意味ではレイカーズの狙いは単にマジックをセンターにするのではなく「ジャバーのフックがないからこそ効果的にミドルを決めていかないと勝てない」という計算があった気がします。

得点減が減ったからこそ、起点役を増やす

マジックのセンター起用にはこのシリーズで平均33.4点を奪っていたジャバー不在だからこそ他の選手に得点させるための奇策だった匂いがします。そしてその期待にこたえるかのように、マジックはハイポストでボールに触るとゴール下からミドルレンジへのパスを通していきました。この点では明確にポイントセンターをやっているのでした。

マジックの初得点はレイカーズが15-8とリードを得たシュートでした(多分)レイカーズの狙いはマジック以外の得点を伸ばしていく点で当たっていたような序盤でした。

◎ドクターJと走るシクサーズ

マジックの地味な活躍はディフェンス面でも効いており的確なヘルプポジションでイージーショットを許しませんでした。「的確」っていうか、ほぼゾーンの真ん中にいるだけなんですけどね。イリーガルディフェンスじゃないのか!って感じですがセンターをマークしていると許されてしまうポジショニングなんでしょう。

序盤こそジャバー不在を狙うかのようにセンターを使おうとしてきたシクサーズでしたが、リードを許すとプレーに変化が訪れます。よりペースアップしてトランジションの展開を増やすようになり、ハーフコートでも両ウイングにパスを回していきました。

それは恐らくジャバーがいるレイカーズに対して、シクサーズが本来取ろうとしていた戦略であり、結局は元に戻っただけのような雰囲気です。レイカーズがマジックをセンターにしたのは

③ペースアップするシクサーズ対策

だったのかもしれません。ジャバーなら得点で取り返してくれるけど控えセンターだったらディフェンスのデメリットの方が大きいってね。さらにレイカーズのボール運びに対しても積極的なプレッシャーディフェンスを展開するなどシクサーズの方がスモール戦略っぽいことをしていきました。

ドクターJについてはあまり知りませんでしたが、「凄いダンクをする選手」っていう先入観が強かった気がします。次第にペースを上げ、広くパッシングするシクサーズはレイカーズにゾーンディフェンスを組ませる時間を与えないようになっていき、そしてドクターJのドライブが効果的に決まっていきました。

とにかくドライブスキルが高いドクターJ。スピードがあるだけでなく、ドリブルフェイクをしなくても、ディフェンスをすり抜けるスキルが高く、それでいてフィニッシュパターンも豊富で伸びやかにレイアップを決めていきます。さらにはカッティングからも抜けていく。

むしろ現代に欲しいタイプのウイングになっている印象。ドクターJがストレッチする現代NBAにいたら、スルスルっと抜けまくっていそう。現代だとカイリー・アービングのウイング版って感じかな。ごちゃごちゃハンドリングはしないからね。だったら最高じゃん。

パスをするのも嫌いじゃないようでシンプルに振っていくのですが、インサイドへのパスがスティールされまくっています。現代ならきっと取られないぜ。

こうしてドクターJを中心にしたオフェンスで反撃したシクサーズ。しかも、レイカーズがインサイドを固めすぎると、このシリーズのFG41/71と決めまくったモーリス・チークスがアウトサイド(ミドル)を射貫いていきました。逆転に成功した2Qのシクサーズ。

ところが、逆転されたらマジックがマジックっぽくなっていきました。要するにPGっぽくなっていった。トランジションにはトランジションだよねってことで、オープンコートの展開で追い付くことに成功したレイカーズ。同点で前半が終わります。

◎ポイントセンター

60-60の同点で始まった後半ですが、レイカーズが12点を連取してシクサーズがタイムアウト。フィリーの観客からブーイングが出てきました。そしてこのリードにマジックは大いに関わってきました。

試合序盤が「起点役のセンター」であり、
前半途中から「トランジションのPG」でしたが、

この時間帯はこの2つがミックスされた状態に。ディフェンスでポストへのパスをスティールして速攻にすれば、リバウンドからワンパス速攻とセンター役がパスを出せる最大の利点によって速攻を生み出せば、ハイポストでボールを持つとノールックでゴール下にアシスト。

ハーフコートは基本的にスクリナーですし、レイカーズ自体がマジックの逆サイドでポスト利用のオフェンスが多いので目立ちませんが、かなり便利に使われています。

二桁リードを得るとマジックがボールを持つ機会が減り、シクサーズは点差が広がることを防いでいくので、再び会場が盛り上がり始めます。ボールを持つ機会が減ったのは、シクサーズオフェンスがペイント内でのアテンプトを増やしたことで、マジックがトランジションに持っていけなくなったことなので、タイムアウトでの作戦変更が的中した形です。

3Q残り2分、オフェンスリズムを掴み始めたシクサーズがドクターJのドライブや速攻で反撃を始めます。ここでマジックは自分のマークマンがついてこないのでロング2Pを決めます。久しぶりのハーフコートでの得点を挙げたマジックにして、ディフェンスがインサイドにこもることを拒絶しました。

するとプレッシャーをかけてきたディフェンスに対して、スピンからのドライブレイアップを&ワン。この試合30点目は現代のスモールラインナップでよく見るスピードのミスマッチを作る形でした。

この3Qはエマージェンシーだったマジックのセンター起用が、かなり現代的なポイントセンターに近づいてきました。基本がストレッチしないオフェンスなので現代とは似つかないものの、センターが速攻を生み出し、ハーフコートではスペースを構築し・・・と、やっている要素そのものは現代っぽかったのでした。

ただし、終盤になるとレイカーズはビッグマンを増やしたので再びPGに戻りました。この時間の方がスムーズな動きをみせており、一方でマークマンが変わったので抜けなくなりましたとさ。良いディフェンダーがいるぜシクサーズ。その意味ではセンター起用はマジックを楽にする作戦でもあったのかな。

④マジックはマッチアップが楽になっていた

シクサーズペースになりかけたものの、終盤はマジックの個人技で対抗し、何とか10点リードをキープして4Qにはいることになりました。

◎スーパースタータイム

追い上げたいシクサーズはこれまでなかったドクターJのポストアップでスピンムーブダンク、さらに3人に囲まれてのターンシュートとスーパーエースらしい形に持って行けば、ドライブからロングフローターも決めるドクターJによって2点差まで追い上げます。

レイカーズはジャバーがいないからなのか、全員で攻めていくのでマジックがボールを持つ時間も短いし、バランスよくてダメな形になっていきます。要するに「抜かないで打つ」のが基本だから、決まらないときは決まらないよね。

「エースとサポート」の構図が非常にわかりやすくなっているシクサーズは、次第に周囲の選手も空いてきます。ホームだし、3Q序盤の14点差から追い上げているから完全にシクサーズな空気感。

しびれを切らすようにマジックはトップの位置に来ますが、結局派生されてポストに戻り、そしてマジックの居ないサイドで勝負を仕掛けていくレイカーズ。なんとか2点リードで食らいつくものの、発展性がないオフェンスなので、苦しそうにしか見えません。

タイムアウト明けのオフェンスで再びトップの位置に行くもパスを貰えないマジック。3Qで完成したかのように見えたポイントセンターですが、「PGがゲームをコントロールする」という常識に負けている印象です。これが現代ならばマレーとヨキッチだけでなくバートンなんかも含めて流動的に入れ替えていくので、もっと活かされたでしょう。

ということで、我慢の限界になったようなマジックは、ディフェンスリバウンド後のパスアウトを要求して、トランジションに持って行きたがるし、自分でボールを運ぶシーンが増え始めます。ハーフコートになったら、元に戻るので何とかトランジションにしたいけど、あまり上手くいかない。

それでもレイカーズは再びリードを広げ始めます。それはディフェンスが成功してシクサーズの得点が止まったことと、カウンター速攻が増えた事。特にこんな時に限って、フリーになったマジックが決めてしまいます。

なんというかポイントセンターじゃなくて「スーパースターがスーパースターたる由縁」みたいな。パスを貰えてなかったマジックが、重要な局面で空いてボールを貰えてしまった。持っている男。

加えて残り2分でプレッシャーをかけるシクサーズに対して、マジックがボール運びに登場すると、どうしてもプレッシャーが効かなくなります。ビッグマンが追いかけるのは難しいぜ。3Pを打ち始めるシクサーズでしたが、そういうオフェンスを練習していないので、全く形になっておらず、終盤になって点差が広がり、123-107でレイカーズが勝利したのでした。

詳細スコアがないので記憶だけですが、残り4分くらいまでは2点差だったと思います。最後は勝利に愛された男に魔法のように決定機が巡ってきた感じでした。

〇マジック・ジョンソン
42点
15リバウンド
7アシスト
3スティール

こうしてルーキーで唯一、史上最年少でのファイナルMVP受賞したマジック。ジャバーがいない中で、最後に果たしたのはエースとして試合を決める得点でした。やっぱり得点が取れないエースはダメなのかもしれません。シモンズ。

ドクターJのプレーが印象に残った試合でしたが、逆転しそうな流れを最後に掻っ攫ったマジックなのでした。ルーキーでファイナルMVPを取るのは、実力以上にそこまで勝ち進む運が必要なわけであり、それでいて平均33点のジャバーがいない試合という奇妙な運すらも持ち合わせていたのでした。

ちなみにこのシリーズで生まれたのがドクターJのシグニチャームーブ。大舞台で結果を残したという意味では同じでしたし、現代的な戦術があれば全く違う結果が生まれたのかもしれません。

◎ポイントセンターの源流だったのか

さて、今回の主題です。マジックは確かにポイントセンターを務め、そしてファイナルMVPを獲得する驚異的な活躍でした。試合の中では明確にポイントセンターのメリットが生み出されていたわけです。

しかし、整理していくと微妙なものがあります。良かったことと、悪かったことを並べてみましょう。

【ポジティブ】
機動力ディフェンス
トランジションへの移行の早さ
インサイドの起点役
スピードのミスマッチ

【ネガティブ】
ボールに触る機会の減少
流動性のないオフェンス

ネガティブなのは要するにハーフコートではやれることが少なかったってことです。チーム戦術としてインサイドに人が多いのでパスを通すって感じでもなかったし。

MVPをとれた理由は42点であり、勝負を決めた得点だったと思います。アシストは7つとマジックにしては低調なので、スコアリングの方が大切でした。ただし、レイカーズはマジック側のローポストはあまり使わなかったので、強引に決めるというよりは空いたスペースを探せるマジック個人の能力だった気もします。

さて、ポジティブな要素が多いわけですが、これらは「ポイントセンター」ではなく「ビッグガード」の特徴だと捉えることも出来ます。ウエストブルックのようにトリプルダブルを量産していたマジックからすれば、リバウンドからの速攻はお手の物なわけで、センターである必要はありません。

ビッグマンが減ったことでリバウンド機会が増えた

これが唯一のメリットですが、現代的に言えば単なるワンセンターで成立してしまいます。(当時は実質2センターなので)ジャバーがいないという事実さえあれば、マジックはPGでも良かった気がします。

その一方でシクサーズはドクターJとモーリス・チークス以外は選手交代を使ってプレータイムを抑えてきました。テンポアップにするとノッてきた一面もあるので、レイカーズからするとシクサーズのスピード対策でしかなかったのかもしれません。

またシクサーズのライオネル・ホリンズは素晴らしいディフェンダーで、前のシーズンにはオールディフェンシブチームにも選ばれています。レイカーズがビッグマンを2人にするとホリンズにマークされたマジックは大いに苦しみました。ゲーム6で得点が増えたのはホリンズから解放される時間が増えたからともいえます。

ちなみにホリンズはブレイザーズの永久欠番にして、現在レイカーズのACです。レイカーズのディフェンスの良さにホリンズが貢献しているのか?

ホリンズから解放されて得点が伸びた

ということでジャバーがいなくなったこと、そこにビッグマンを補填せずマジックをセンターにしたことで生まれたのは

「ビッグガードの利点+マッチアップ変更による得点増」

だった気がします。これって別にポイントセンターが影響したわけじゃないよね。途中に書いたようにハンドラーが入れ替わる流動性アタックじゃなければ、ポイントセンターの意味は薄いので、この試合を源流と位置付けるのは難しかったです。単にマジックの特徴さ。

現代ではレブロンやカズンズもポイントセンター(フォワード)みたいな位置づけですが、この2人は流動性に乏しいので「オフェンス時はポイントガード」という表現の方が適切に思えます。

それに比べるとヨキッチやアデバヨ、あるいはサボニスなんかは、あくまでも他にガードがいてパス交換していくことで相乗効果を生み出すポイントセンターです。この試合のマジックはこっちに分類するのは難しかった。それはガードとのパス交換が少なかったからかもしれません。

なかなか面白い試合だったものの、ポイントセンターの源流ではなかったのでした。そしてポジション定義よりもスター性が大切ってことも感じさせる魔法を備えていたマジックでした。

ポイントセンターの源流” への3件のフィードバック

  1. 昔の試合を見るなら、80年代中期以降のバッドボーイズ・ピストンズなんかもおすすめですよ。チームの発想がGSWとかエースPGを中心にした現代に近いですし、レインビアもただのクソ野郎じゃなくて、理想的なストレッチ5・ポイントセンターに見えてきます。

  2. 勝手なお願いですがもしよろしかったら教えてください。

    1.「ポイントセンター」の源流はユーロにあるとのことですがそれは何のことですか?
    2.ウォーリアーズのドレイモンドはヨキッチやアデバヨ、サボニスとは少し違う感じがするのですが、ポイントセンターに当てはまると思いますか?もし当てはまらないとお考えでしたらその理由も教えてください。

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