マンチェスター・シティとカルーソの話
レイカーズを勝たせているものは何かといえば
①強固なディフェンス
②優れたボールムーブ
③レブロンとAD
の3つになります。特に①ディフェンスは全員がハードワークしながら、複数のリムプロテクターがリングを塞ぐようになっており、あまりにも強固なブロックを形成しています。
オフェンス面では②と③の組み合わせで、主役とわき役の作業分担があり、決して③に依存しているわけではないのも大きな特徴です。ただし、それではプレーオフが不安ということでクズマのトレード話があったし、モリスを獲得しました。どこかで個人技勝負になるから、ベンチスコアラーを増やしたいわけです。
ちなみにクリッパーズは③の要素を強めているチームですね。ハンドラーを揃えまくって個人技アタックの組み合わせ。LAでの対照的な構図が出ています。
〇レイカーズのアイソレーション
8.7回(4位)
7.8点(4位)
EFG44.6%(15位)
〇アイソレーション(EFG)
レブロン 4.5回 46%
AD 1.9回 42%
クズマ 1.3回 34%
しかし、回数と得点が多い反面で、アイソレーションでの得点率は高くありません。ちなみにクリッパーズはもっと低いです。レイカーズのオフェンスは③が大事なようでいて、レブロンはそれなりの数字を残すものの、セカンドアタッカーにアイソレーションを任せることが出来ていません。クズマです。
大事な場面のアイソレーションをアーヴィングに任せていたのも懐かしきレブロンなわけですが、この構図は個人技の優位性とみせかけて、チームオフェンスこそがレイカーズにとって重要であることがわかります。②については以前にポポビッチ風ということで触れています。
今回はレイカーズのオフェンス面での3つのキープレーについて、見直してみようと思います。ちなみに前回のウィザーズ編と全く同じ内容です。
◎ポストアップ起点
〇ポストアップ
14.5回(2位)
8.3点(2位)
50%(5位)
パス6.2回(1位)
アシスト 1.6回(1位)
回数としてはアイソレーションと同じですが、効率で上回っているのがポストアップ。今やレイカーズの基本戦術と化してきました。ここからパスアウトでボールムーブさせるのが最大の特徴といえます。アイソレーションだとレブロンしかキックアウトしていませんが、ポストアップならADもしっかりとパスしてきます。
パス数・アシスト数共にリーグ1位となっていますが、選手単位でみてみるとその要素に違いがあることも分かります。なお、ポストアップの回数がリーグ2位ですが、ほぼADとレブロンの2人でやっています。
〇ポストアップ
AD
9.0回
4.8点
パス3.4回
アシスト0.8本
レブロン
4.0回
2.6点
パス 2.0回
アシスト 0.8本
レブロンはアシスト/パス率が40%と驚異的な数字になっています。レブロンがボールを持つと、ほぼワンパスでフィニッシュになっているということです。この中身は次で触れますが、レブロンの脅威はアイソレーションよりもポストアップで強調されていることがわかります。
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ちょっと余談にそれます。
本当に正しい使い方はこれだったのか。って話ですが、この数字で思い出されるのが最近、ツイッターに張り付けたマンチェスター・シティの驚異的なボール回しです。
ペップ・グアルディオラにはいつかNBAのACをやってもらいたいくらいです。ものすごく単純化すると、
・ディフェンスが構成するゾーンの外側でボールを回す
・両サイドラインまで広く使う
・ゾーンの内側には流動的なポジショニングで侵入
・ 〃 の選手はどの方向にもパスが出せる状況でボールを受ける
なんていうのが特徴ですが、この「ゾーンの内側」がバスケではポストプレイヤーになります。ペップのサッカーでは「ゾーンの内側」の選手には多様な選択を可能にするだけの技術が求められています。
NBAではドライブ(ドリブル)での侵入が主流となり、旧来的なポスト役は絶滅危惧種になっていますが、一方でヨキッチに代表されるポイントセンターは増えてきました。レイカーズがやっているプレーも、まさにそんな感じで、レブロンという特殊性あふれる選手をポスト役にすることで、レイカーズのオフェンスはボールムーブが生まれていると言えます。
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◎カッティング
ここでレブロンのアシスト集を見てみましょう。と、行きたかったのですが、ポストアップからのアシストは0.8本平均なので、少なめになってしまい、いまいちでした。自分で編集する気持ちが薄いってことだ。
シティのボール回しは、ポスト⇒両サイドが多くなっていますが、ポスト⇒インサイドが繋がるとディフェンスのゾーンは一気に崩壊してきます。レイカーズのオフェンスはパスアウト&ボールムーブからの3Pが特徴ですが、その中にしっかりとポスト⇒インサイドが混じることで効力を増加させています。
ということで、次にカッティングの数字を見てみます。
〇カッティング
8.9回(5位)
12.2点(4位)
72.5%(1位)
特筆すべきはFG成功率の高さです。ウィザーズはここが課題だったわけですが、レイカーズは驚異的な確率で決めています。ちなみに確率が高いのは「単純に成功率が高い」のではなく、「決められない時にパスアウトする判断が良い」ってのが挙げられます。同じくカッティングを得意技とするナゲッツは、飛び込んではパスアウトしています。シティも「ボールを失うよりもバックパス」ですからね。
ただ、レイカーズの場合は、少し様相が異なる一面があります。カッティングにおいて、アテンプトが多い順に並べて、成功率を書いていくとこんな感じです。
〇カッティングのFG成功率
マギー 79%
ハワード 76%
AD 75%
レブロン 74%
クズマ 51%
見事にセンターが並んでおり、堅実に押し込む能力が高い選手がフィニッシュに顔を出す形を徹底できているのが特徴です。そしてADとレブロンの両者の回数が多いのも違う特徴になっていて、起点役のはずがフィニッシャーとしての次の役割も担っているわけです。流動性のバランスが機能しているわけです。
ここでウィザーズのことを思い出してみましょう。ポジション事情とプレー効率です。
ポストアップが最も多いのはPF八村
カッティングが最も多いのはPF八村
キャッチ&3Pの成功率が高いけど、コーナー3Pが少ない
カッティングの回数が多いけど、成功率が低い
これに対してレイカーズは「回数も多ければ成功率も高い」プレーを選択できています。そこにあるのは成功率が高くなる選手にインサイドフィニッシャーをやらせていることです。
当たり前のように映りますが、起点役だったはずのレブロンとADがしっかりとフィニッシャー役にもなっていることは戦術バランスがうまくいっていることを示していますし、その一方でセンターをピック役にしていたウィザーズの狙いは否定するような数字もあります。
◎ピック&ロール
〇ピック&ロール
ハンドラー 16.3回(26位)
ロールマン 5.5回(28位)
強力なハンドラーであるレブロン
強力なフィニッシャーであるAD
という両者を擁しながら、ピック&ロールというベーシックなパターンは現代NBAの中ではかなり少ない選択肢になっています。ハンドラーのFG47%と確率的にもそこそこ。レイカーズの戦術的素養が現代の流れから離れつつあることがわかります。
PGからPFまでやっているレブロンの特殊性に起因する部分は大きいですが、言い換えればレブロンを有効活用するための戦術構築が出来ているといえます。
そしてマギーやハワードに「余計なことをさせない」ってのもレイカーズの特徴になっているのかもしれません。インサイドのフィニッシュ役としては強力だけど、それ以外は・・・な部分があるわけで、見事に隠したともいえるし、必然だったとも言えます。カズンズがいたら戦術が違ったのかもしれません。
◎カルーソ
ちなみにハンドラーを選手別にみると違う要素も見えてきます。
〇ピック&ロール ハンドラー
レブロン 7.0回 6.9点
ロンド 3.8回 3.0点
カルーソ 1.4回 0.9点
メインハンドラーの3人ですが、超主役であるレブロンが多いのは良いとして、ロンドとカルーソには差が生じています。ここがカルーソの方が重用されてきた理由にもなっていて、どうしても自分でプレーメイクしたがるロンドに比べてカルーソの方がレブロンとの相性も良いし、レイカーズ戦術的な選択をしてくれるわけです。
他の数字もロンドとカルーソを比べてみましょう。
〇アイソレーション
ロンド 0.8回 0.6点
カルーソ 0.2回 0.1点
〇カッティング
ロンド 0回
カルーソ 0.4回 0.5点
こうしてみると「わき役としてやって欲しいこと」をカルーソの方が適切に実行してくれていることがわかります。1試合に1回もないプレーかもしれませんが、積もり積もっていくと見えてくる部分であり、戦術を理解していたもどうしても出てしまう差の気もしてきます。
よく走るKCP、コーナーまで広げてくれるダニー・グリーンなど、戦術的素養の強い選手を重宝しているヴォーゲルです。
最後にパッシングを中核にしている中で、減らす要素も出ている数字に触れて終わりにします。
〇ハンドオフ 4.4回(28位)
レイカーズはハンドオフをほとんど使いません。これはロケッツやラプターズと同じですが、その理由としては
選手の距離感を適切に保つ
ことを重視しているからだと思われます。パスワークで振り回すのが得意技となっているだけに距離感は極めて重要な要素だけに、選手同士が近づかないことはトレーニングの中で徹底されているのだと思います。それくらいポジショニングへの配慮がみられるわけです。
ということでウィザーズを調べる中で派生的に出した今回のレイカーズ編ですが、かなりグアルディオラに引っ張られてしまいました。この機会にサッカーの試合をみて勉強し直そうかなーとすら思えてくるのでした。
さて、最後のハンドオフにまつわる数字からは、NBA全体の傾向も見えてきそうです。そんなことに触れたい気もしますが、触れたらかなりの難問になりそうでも怖いなー。
堅いディフェンス、ファストブレイクからの得点、ポストから作るハーフコートオフェンスっていう特長を見てると、ファイナルに出た時のネッツ(01-02頃)とかなり似てる気がします。ACキッドの影響なんですかね。あの時とは比べ物にならないくらいロスターが豪華ですが。
偶然か必然かは不明ですが、こういう視点ではバックスもキッドらしさで鍛えられてますし、結果として示されてますね。