スターターになったシェイク・ミルトン

シェイク・ミルトンは18年ドラフト54位の2年目。1年目は2ウェイ契約だったものの、今シーズン前に4年契約を結んでいるので、順調にステップアップを果たしたことに。大学ラストシーズンとなった3年生の時に右手を骨折しているので、本当に順調に過ごしてきたといえるでしょう。

そんなミルトンは1月になってスターターのチャンスを得ます。さらに3月になるとジョシュ・リチャードソンがケガで離脱したことで、ここまでトータル16試合にスターター出場するように。

これがシクサーズに変革(?)をもたらすことになったのでした。

◉絶好調

〇ベンチ出場
試合数 16
プレータイム 10.0
得点 4.9
FG 40.0%
3P 36.1%


〇スターター出場
試合数 16
プレータイム 28.2
得点 14.1
FG 53.9%
3P 50.0%

スターターになってからのミルトンは絶好調の出木杉君。驚異の3P50%オーバーによって平均14点を奪い強力にチームをけん引しています。ジョシュ・リチャードソン13.8点、ホーフォード12.0点なので、より効果的に絡めていると言えます。

この3Pを分解してみましょう。まずはディフェンスとの距離別アテンプトと成功率をみると

〇ディフェンスとの距離別
4フィート以内 0.3本 22.2%
6フィート以内 1.2本/48.6%
6フィート以上 1.9本/46.7%

しっかりとオープンな状況になって打てていることがわかります。スターターになって結果が伴った理由は、優秀な選手達と組むことにより、チャンスが増大し、そのチャンスをしっかりと決めきっていることが大きそうです。

そこでそれぞれの選手からもらったパスからの3P数と成功率をみてみましょう。

〇選手別シュート数/成功率
トバイアス 20本/35%
シモンズ  19本/42%
エンビード  8本/50%
ホーフォード 8本/63%
スコット   8本/38%

ビッグマン達からのパスで決めていることがわかります。ただし、その本数がパサーのシモンズはともかく、トバイアスが多い理由は単純で、一緒にプレーしている時間が長いからです。

〇ミルトンとのプレータイム長い選手
トバイアス  427分
ホーフォード 366分
スコット  225分
シモンズ  223分
エンビード 222分

そもそもがベンチスタートだったことと、エンビードに続いてシモンズがケガしたこともあり、トバイアスに続いてホーフォードが長くなっています。そしてシモンズはトバイアスの半分くらいのプレータイムで同じくらいの3Pを生み出しているので、やっぱりパサーとして3P決めてくれる選手を求めている感じが強くなります。

中心となるシモンズ&エンビードとのプレータイムが短めながらも、自身の好調さもあって、スターターにミルトンがいるとシクサーズのオフェンスは劇的に改善します。

〇ミルトンのレーティング
スターター 117.6
ベンチ    99.7

〇シクサーズのレーティング 109.7

ベンチにいたころはイマイチでしたが、スターターになったことでチームのオフェンス力をグイっと上げることに成功しました。スモールサンプルだし、今が絶好調すぎるので単純な比較はできませんが、ミルトンのシュート力は大きな意味がありそうです。

「シューター」と定義したくなる活躍っぷりですが、ミルトンは「シュート力のあるガード」という見方の方が正しい選手で、ムリな体制からでも打つとか、オフボールで動き回って打つようなタイプではありません。柔らかなムーブを持っており、ドライブの脅威がしっかりとある中で3Pを放っていきます。

シモンズもエンビードもいなかったクリッパーズ戦では39点を奪う大活躍。現状はシュート力が最大の武器であることは変わらないものの、単純に個人としても得点を奪いに行けています。

特徴的には「決まりだしたら止まらない」雰囲気を持ち、しかも自分のアクションによって複数の得点パターンがあるため、ノせてしまうとかなり止めにくい選手です。

このタイプの選手が4番手、5番手に構えているのは非常に厄介。1~3番手を抑えに行くのが優先なのに、1回決まり始めると次々に打たれてしまうから目が離せません。その意味では6thマンとして出てくると、コートで1番手・2番手になってしまうので、やはりスターターの方が向いているのかも。

ミルトンは2月26日のキャブス戦~27日ニックス戦~3月1日クリッパーズ戦の間で、NBAレコードに並ぶ13連続3P成功も記録しました。止められない3Pを持つ男はケガで苦しくなるはずだったシクサーズの新たな武器として躍動しています。

シクサーズに登場したニュースターはスターターとして更なる活躍が期待できそうです。

◉ミルトンが示すこと

ミルトンの活躍っぷりは素晴らしい・・・で終われば何の問題もないのですが、まだ16試合ってこともあって特集するほどかも微妙なラインです。それを書くというのは、コロナでネタ探ししている ミルトンの存在はシクサーズにちょっとした矛盾を生じさせているからです。

今シーズンはシューターを消して、ジョシュ・リチャードソンとベン・シモンズというディフェンシブガードにしたシクサーズは、さらにルーキーのサイブル、ベテランのホーフォードとオフェンスよりもディフェンスを意識したロスター構成にしてきました。

これはNBA全体がオフェンス志向が高まりすぎた中で、ディフェンスのチームが勝ち残るという今シーズンの傾向にマッチしています。

シモンズ&エンビードでチームを作る最適解に迷走しまくっている結果として生まれたディフェンス作戦は、レイカーズのような劇的な変化でこそなかったものの一定の成果を生み出しているとは言えます。

ところがミルトンという高確率で決めてくれるシューティングガードが加わると一転してオフェンス力の高いチームに変化しました。2年前はやりすぎだったとしても、やっぱりシクサーズにはシュート力のあるガードの存在が欠かせないことを示しています。

やっぱりシューターが欲しい

ミルトンの活躍っぷりとチームへの好影響はシクサーズが封印したようなロスター構成を蘇らせたくなってきます。特にHCブレッド・ブラウンの本来の持ち味がパッシングオフェンスなので、動きに乏しかったエースクラスを並べる戦略よりもミルトンのような選手を混ぜ込んでいく重要性を感じさせます。

ほぼケガ人問題だったとはいえ、一旦は捨てたロスター構成を復活させたことはブレッド・ブラウンの迷いを感じさせるのも問題点の1つです。サイブルじゃなかったことの苦しみがそこにはあり、しかもその後でアレック・バークスとグレン・ロビンソンを獲得されてしまったので、もうGMの方針もブレブレで可哀そうなくらいのブレッド・ブラウン。

その一方で毎シーズンのように若手を活躍させている手腕は称賛に値します。コビントン、TJマッコネル、サリッチ、エンビード、シモンズ、ホルムズ、シャメット、サイブル、そしてミルトンと次々に若手が登場します。なお、オカフォーを筆頭に失敗例も非常に多いのが特徴ですが。

いずれにしてもパッシングオフェンスは若手たちに活躍の機会を与えてくれます。「ドラフトが上手い」と思われそうですが、失敗も多いことと、移籍後にいまいち活躍できないこともあります。そう、問題はこれだけ生み出したのにトレード等が多いこと。

②結局はシュート力ある若手が必要だ

コビントンは若手じゃないけど、サリッチ、シャメット、ミルトンと選手としてのタイプは違うけど、求めていることは似ている気がするよね。彼らはトレードでスター選手と入れ替わっているので、トレードそのものが失敗ではないのですが、結局は求めるのはシュート力あるタイプだろってね。

HCのお好みはわかりやすいのに、毎回のようにブレてしまい、それでも新たな若手を出してくるHCという構図は、フロントが成功しているのか、失敗しているのかよくわかりません。

◉ミルトンとディフェンス

〇ディフェンスレーティング
ミルトン 111.3
チーム  107.6

足りなかった要素としてオフェンス面で多大なる貢献をしているミルトンですが、ディフェンスのチームであったシクサーズを崩壊もさせてしまいました。前述の視点でいえば、ディフェンスに振り切ったことは間違っていなかったのに、ここにきて戻してしまった問題。

ただし、この数字とミルトンのディフェンス力は比例していません。もちろんジョシュ・リチャードソンに比べたらお子様レベルですが、それでもミルトンのディフェンスは一定レベル以上のものがあり、時には相手エースを引き受けています。

6-6のサイズでちょっと細身のミルトンですが、ウイングスパンが7-0あり、その身体的特徴を生かしたディフェンス力を持っています。

ひとつは細身でアジリティがあるため、オフボール・オンボール共にチェイスする能力が高く、スクリーンをすり抜ける動きもなかなか上手く、簡単には振り切らせません。

一方でコンタクトに課題がありそうですが、「振り切られない」「抜かれない」を優先した守り方のため、コンタクトしないでマークマンを追いかけ、そして球際でウイングスパンを生かしてボールに手を出してきます。この守り方はSGAみたいな感じで、かなり厄介と言えるでしょう。

ちなみにドラフト前の分析が的確すぎます。「的確過ぎる」というか「大学でやっていたことを、そのままNBAで表現できている」という方が正しいかな。攻守にそのままNBAでも通用している印象です。

ということで、個人として守れるミルトンはオフボールでもオンボールでも苦にしないので、チームディフェンスにおいても使いやすい選手です。サイブルほど止めきってくれるわけではないですが、十分なディフェンス力を備えています。

それでもレーティングが下がってしまう理由は単にエンビードの欠場が大きかったからです。シモンズ&Jリッチもいなくなったら、そりゃあディフェンス力も下がるよね。

ミルトンは守れるが、チーム全体のディフェンス力が落ちている

基本的にシクサーズに起きている問題はケガ人なので、気にするほどではないかもしれません。ただ、ちょっと気になるのはケガ人が出たといってもホーフォードやトバイアスは残っており、スターターとして出場しているミルトンのディフェンスレーティングが下がりすぎるのはどうなのかってことです。

③チームディフェンスは構築出来ているのか

割と守れる選手が登場した割には崩壊していまっているのは、ディフェンスを「チーム」ではなく「個人」で構築している傾向の強さを感じさせてしまっています。エンビードが強力だからといっても、キーマン1人がいなくなったら崩壊では話にならないよね。

ブレッド・ブラウンが新たに見出した若手の攻守にわたる活躍っぷりは、個人として輝いているからこそ「チームとして大丈夫か」という毎シーズンの疑問点をまたも浮かび上がらせている気がするのでした。

スターターとしてチームにフィットしてきたミルトン。ケガ人が戻ってきてベンチメンバーになって同じ活躍するのかは疑問もあっただけに、HCがプレーオフに向けて、どんな構想があったのか気になるところでした。

スターターになったシェイク・ミルトン” への6件のフィードバック

  1. シモンズの話になってしまうのですが、12月頃に書いておられたシモンズの記事にはドライブが減少しているという旨の記述がありましたが、1月くらいからは中身が変わったように積極的になり得点する機会が増えたように見えます。実際にデータ的にはどうなのでしょうか?
    それとシモンズとエンビードの噛み合わせについては度々問題になりますが、試合を見てる感じ、シモンズとエンビード、シモンズとホーフォードが同じ時間帯に出てる時はそこまで噛み合ってないようには見えません。私的にはエンビードとホーフォードの噛み合わせに一番問題があるように感じます。なのでサンプルは少ないですが、ホーフォードをベンチ起用にした試合(特にLAC)との試合は上手くいっていたように見えましたがどうでしょう?
    それこそホーフォードをベンチ起用にしてミルトンをスターターにすればとても良くなる気がするんですが、、
    私はデータとかは全くわからないので的外れな意見でしたら申し訳ないです。

    1. エンビードとホーフォードの相性の悪さは目立ちますが、シモンズとホーフォードも意外と相性悪いですね。ホーフォード的には、もう少し上手くピック&ロールを使いたいと思います。シモンズが自分で打ってくれないから、パターンが限られてしまう。

      シモンズの件は、あれからプレーが変わってきました。それはドライブとは少し違うのですが、得点が伸びたのは同じです。
      でも、再度書くってのもな―ってことで避けていました。

  2. 記事に関係なくて申し訳ありませんがお尋ねしたいことがあります。それは、ロケッツに所属経験のある二人の選手、ロバートコビントンとトレバーアリーザです。彼らを選手として比べた時にどちらがより優れていると思いますか?特に3ポイントとディフェンスでどうなのかが気になります。良かったら意見をお聞かせください。

    1. ディフェンス
      アリーザ・・・ガードからフォワードまで守れる
      コビントン・・・フォワードからセンターまで守れる

      今のロケッツではコビントンの方が重要です。センターがいなくなったので。
      ただ以前はアリーザがエースキラーになることで、ポジションの逆転現象を発生させ、ハーデンがインサイドを守ることが多くありました。ガード相手だとサボりディフェンスでスカスカ抜かれるけど、スピードではないポストアップを守るのは上手いハーデンだったので、当時はアウトサイドも守れていましたね。

      オフェンス
      アリーザ ・・・ 3Pそこそこ。オフボールでディフェンスの穴を見つけるのが上手い
      コビントン・・・ 3P中心。アリーザよりも決まる。

      総じてオフェンスはアリーザの方が多彩でした。ただシュートが決まらないことも多い最近なので、ウエストブルックがいるならコビントンの方がベターかなー。くらいです。

  3. 返信ありがとうございます。なるほどそうなんですね、自分でも調べたらこんなサイトが出てきました。スタッツがほとんど一緒でビックリしました笑ただ直接対決だったり、キャリア通しての勝率はアリーザが高いみたいですね。2009レイカーズや2017ロケッツにいたことも関係してるんでしょうかね。あとコビントンは弱いシクサーズにいたことも。
    https://basketball.realgm.com/player/Robert-Covington/Comparison/11707/Trevor-Ariza/398

  4. ネタが沸かないっすよねー

    自分もおうち体幹トレーニングとランニングぐらいしかバスケ(運動)してないから、NBAとかバスケ脳が動きまへん

    動画系も最近じゃー、NBAとかあんまりで、どうぶつの森みてます。欲しいけど、スイッチがまず今、売ってないとゆーね

    なとりあえずシルバーさんが決めた5月1日までは動かないのだから我慢ですよねー こんな時になんかNBA脳になるよーな企画を!!と考えてたらまたどうぶつの森みてました。。。

    管理人さんも大変でしょーが、どうぞマイペースで良いネタあったら(書きたくなったら)で

    企画発案としまして、3年後ファイナルにいるチーム予想とかどーですか? 僕は…マブスとセルティックスかな

    西は本当はナゲッツと言いたいけど…だし、東も本当はホークスと言いたい。ホークスは東ののブレイザーズぽっいしなぁー。ドンチッチとトレヤンがファイナルでとかねけっこう胸躍るけども

    マブスは確定とゆーより、なんとなくです(笑) play-off経験ないけど、勢いとかでいけそーじゃねー?みたいな。クリッパーズはなんとなくファイナル行けないとゆー予想。今年とか2年後ならいけるだろーけどって感じかな-。レナード次第過ぎるし。レイカーズはADが残留しないとゆー勝手な予想。

    テイタム ブラウン ケンバ スマート でヤニス退治してファイナル予想。

    バックス&セルティックスで数年バチバチやって欲しいーっす。勝てる気しないけど、ブラウンに期待を込めてのセルティックスです(テイタムも今年は良い感じだし)

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