41勝23敗は堅調なのか、低調なのか
今シーズンは残り18試合あり9勝すれば50勝に到達するジャズ。またも堅調に好成績をあげているようでいながら、指名権や若手を手放して補強したチームとしては果たしてどうなのか。昨シーズンと何が違うのかは非常に重要なポイントであり、コンリーの価値って何ぞや。
〇レーティング
オフェンス 110.3→112.1
ディフェンス 105.3→108.8
「シューターを集める」と言い出したGMの目論見は成功したけど、目論見そのものが間違っていたかのような結果を生み出してしまっており、ドノバン・ミッチェルとゴベアーがオールスターになりながらもチーム全体としてはディフェンスの悪化が大いなる問題となっています。
この点で最大の誤算は控えセンターとなるエド・デイビスの長期離脱で、ゴベアーを中心にしたディフェンスそのものは慣れ親しんできたけど、ベンチに下がってしまうと一気に苦しくなります。
〇ゴベアーのディフェンス オン/オフコート
今シーズン 106.8/108.1
昨シーズン 103.6/104.7
あれっ?意外とそうでもないのか。
ゴベアーがコートにいるかどうかは非常に大きいものの、チーム全体の数字が下がっている範囲に留まっていそうです。見方を変えると
「ゴベアーがいてもいなくてもリーグトップクラスのディフェンスチーム」だったのが
「ゴベアーがいればリーグ上位のディフェンスチーム」くらいになりました。さすがに今シーズンのDPOYはないよね。っていうかDPOY自体がなくなりそうだけど。いずれにしても1つ言えることは
フェイバーズ放出の穴が大きい
ってことです。ペリカンズでもチーム全体が111.6なのに、フェイバーズは107.4とポジショニングで奮闘してくれているわけで、その個人ディフェンス力もさることながら、ゴベアーと組ませることも、ワンセンターで守らせることも出来るPFという意味合いも大きく、
ゴベアーと組ませてインサイドを強固にするPF
控えセンターとしてチームディフェンスを強固にするセンター
この両者が不足しているのが現状のジャズが抱える最大の問題点になっています。問題点っていうか、昨シーズンとの変化です。
◉攻略されるディフェンス
「問題点」と書いてしまうのはフェイバーズの話ではなく、ジェフ・グリーンを放出し、そこの代役を埋め込まなかったことであり、その後はクラークソンを獲得して3ガードなんてことをやり始めざる得ないロスターにしてことでもあります。
昨シーズンはクラウダーもいたし、実はセフォローシャなんかもいたのでウイングを守れる選手で賄っていた部分が、急激に弱くなった印象があります。これを今シーズンの月別レーティングにすると
〇ディフェンスレーティング
10月 93.1
11月106.9
12月108.4
1月110.1
2月116.7
3月109.5
10月と3月は5試合しかないのでスモールサンプルになります。いずれにしてもシーズンが進むにつれて悪化してきました。まとめると
12月まで(33試合)105.5
1月以降(31試合)112.4
こんなに差があります。ジャズといえばシーズン前半にいろいろと試していきながら、後半になると強さを発揮するのがクイン・スナイダーの定番でしたが、今シーズンに限って言えばシーズンが進むにつれてディフェンスが崩壊してきました。
攻略されるジャズディフェンス
その一歩目は、どんどんとオフェンス寄りになってきたロスター問題であり、伝統的なディフェンス強化の方向性が失われていっているような状況です。
◉苦手な相手
ここまで対戦成績で特にディフェンスレーティング悪かったチームを並べてみましょう。
ペリカンズ 120.4
ブレイザーズ120.1
スパーズ 119.4
キャブス 117.7
ロケッツ 116.9
ラプターズ 116.1
ウィザーズ 115.8
このうちキャブスとウィザーズについては、ジャズ側が大量得点で勝利しており、自分たちが得点を取りまくって点差もある中で、失点も重ねまくった感じです。しかし、ロケッツとラプターズ以外のチームは勝率5割以下であり、
下位チームを守り切れていない
ような状況がわかってきます。それぞれの試合にそれぞれの要件があるし、守れていないからといって負けているわけではないので一概にはいえないものの、これらの傾向は
ディフェンスから勝利を掴む
というチームの基本構想が失われて行っていることがわかります。得点をとってリードしている時でも、ディフェンスを重視するジャズらしい戦い方が実行できていないということに。
ちなみに昨シーズンのレーティングが悪い対戦相手は
ペイサーズ 122.8
ラプターズ 122.4
シクサーズ 112.9
ということで3番目に悪いシクサーズでさえ113程度ですので、今シーズンがいかに対戦相手・試合によってブレがあるかがわかります。
ディフェンスの強さから始まるベーシックな戦術が崩壊している。
そんな感じの今シーズンなわけです。そして同時に対戦相手の顔ぶれや昨シーズンはイースト相手に苦戦している状況を鑑みると、見えにくい要因として
スカウティングの弱体化
なんてことも挙げられるのかもしれません。そこそこの勝率を残すチームが相手ならば、リーグ全体での分析が進むのでディフェンスの焦点を絞れているけど、不安定なチーム相手だと苦しんだり、直接対決の少ないイーストのチームが相手だと困ってしまう。
ポケット・ロケッツやニック・ナースの攻略しまくるオフェンスに対して苦しんでいるのもスカウティングで読み負けている空気感があります。
ジャズのディフェンスは弱体化したわけですが、その要因が下位チームからの取りこぼしなんてものがあり、情報の少ない相手に苦しんだり、不完全だからこそ読みにくい相手に苦しんでいる様子なのでした。
◉誘い込めない
悪化要因をジャズの数字から探していくと、難題にぶち当たります。昨シーズンとのスタッツ変化をみていきましょう。
〇被FG 45.2%→45.2%
〇被3P 35.5%→35.1%
〇被3Pアテンプト 27.7本→31.6本
〇被FTアテンプト 22.2本→20.9本
被FG関連をみていくと、そこまで悪くなったようには思えず、ただ3Pを多く打たれるようになったことだけが目立ちます。代わりにフリースローは微減なので、「アウトサイドから打たれるようになった」傾向が伺えます。
まずはこの3Pについて個人別の被アテンプト数を昨シーズンと比較してみましょう。
〇昨シーズン
ルビオ 3.7本
ミッチェル 3.7本
イングルス 3.4本
フェイバーズ3.1本
クラウダー 3.0本
ゴベアー 2.6本
〇今シーズン
オニール 4.6本
コンリー 4.5本
ミッチェル 4.3本
ゴベアー 4.1本
イングルス 4.1本
ボグダノビッチ3.9本
御覧の通り、チーム全体が悪化していることがわかります。ルビオ+ミッチェルのガードコンビで7.4本だったのがコンリー+ミッチェル8.8本と打たれまくっています。
その中でも目立つ事項としては黒字にした部分で
ウイングコンビ 5.7本→8.5本
ゴベアー 2.6本→4.1本
フロントコート陣が打たれるようになったことがわかります。ボグダノビッチとクラウダーならばそこまで大きな変化ではなくても、オニールが最も多く打たれている状況は奇妙にも映ります。
この理由の一つはオニールが「エースキラー」的な役割のため、ガード相手に守ることも挙げられ、逆にクラウダーはガード相手はちょっと苦しかったです。問題なのはコンリーとミッチェルが1つずつマーク相手がずれたはずが、やっぱり打たれまくっている事です。
これらのことは「スカウティングの弱体化」にも紐づきます。実際にスカウティングが失敗したかどうかではなく、オニールに与えた役割が成功している以上に、そこから紐づいて生じたデメリットが上回ってしまっているという事。要するに「整備すべき事項が残っている」ような感じです。
ゴベアー 2.6本→4.1本
それ以上にわかりやすいのが、以前よりもゴベアーが引き出されている事です。両ウイングとゴベアーそれぞれがアウトサイトに引き出されてしまっているのが、ジャズディフェンスが「攻略」されている理由です。
アウトサイドを守って、インサイドのゴベアーに誘い込む
スモールラインナップが隆盛になってもゴベアーを中心とした守り方で成功していた理由はこれでしたが、わかりやすく攻略されているわけです。失敗の理由は明確であり、だけどそこを補う方法が見つかっていないのか。
ジャズ全体として明確に悪化した数字もこの状況を裏付けてくれています。
〇ブロック数
昨シーズン 5.9回(3位)
今シーズン 4.0回(29位)
ゴベアー 2.3回→2.0回
信じられないような悪化っぷりです。リーグ3位から29位に転落すれば、そりゃあ守れないさ。ゴベアー自身のブロック数はそこまで落ちていませんが、代わりに3Pを打たれているわけであり、周囲がインサイドをブロックで抑え込めていません。
なお、やっぱりフェイバーズ1.7回がなくなったのが痛すぎるわけですが、ここにオニールの被3Pアテンプトが多いことも関係していて、そこそこブロックできそうなオニールがアウトサイドにいて、ブロックに期待できないボグダノビッチがインサイド側メインってのも苦しいのです。
◉奪えない
誘い込めていない、のか、叩き落す選手がいない、のかは微妙なラインですが、前者の傾向の方が強く感じるのは、被3Pアテンプトの悪化に加えて、スティールの減少があるからです。
〇スティール
昨シーズン 8.1回(12位)
今シーズン 5.9回(30位)
見事にリーグ最低のチームになりました。ルビオ(1.3回)→コンリー(0.8回)というPG変更はあるものの、フェイバーズのようにわかりやすく個人がいなくなった形ではないので、スティールの減少はチームディフェンスの問題です。これまでは
アウトサイドにプレッシャー
インサイドのゴベアーに誘い込み
網にかけてスティール
こんな流れだったのですが、ブロックが減少したというよりも「誘い込めなくなった」からプレッシャーが効いていない印象があります。だからスティールが減ってしまった。
通常は「スティールの大幅な減少→速攻の減少」になるわけですが、単純にボールを奪うのと違い、インサイドに誘い込んでからのスティールだとトランジションに移行するのは難しくなります。そして実際にジャズの速攻での得点は変化がありません。
〇速攻での得点 10.6→10.7
スティールが2.2回も減ったとは思えない数字のわけで、減ったスティールがチームで追い込んで奪い取る戦術の失敗にみえてきます。
誘い込んでブロック
誘い込んでスティール
こんなことが出来なくなりました。ディフェンスの「決定機」を外しているジャズ。いや、正しくは「誘い込めていない」ジャズ。しかし誘い込めないのは自分たちの要件なのか、相手に攻略されているのかでいえば、後者の方が強い感じがします。
・・・それにしてもさ。
「ブロックが29位でスティールが30位」
と考えれば、リーグ最低クラスのディフェンスチームであり、それがレーティング108.8(11位)なのですから、むしろ驚異的に守れているのかもしれません。
◉ゴベアー戦術をどうするのか
ゴベアーを有効活用するディフェンス戦術は一定の結果をもたらしてくれています。その一方でフェイバーズがいなくなったことで明確に苦しくもなりました。「ゴベアー戦術」だからこそ「ゴベアーの代役」がいないと成立しないわけです。ここでいう「代役」は交代要員だけでなく、コート上でゴベアーがアウトサイドに誘い出された時も含みます。
ボグダノビッチを手に入れてオフェンス面を強化したところまでは良かったのですが、そこから先にディフェンスへの投資を怠ったことがシーズン後半になって響いてきた感じのGMが次の一手に何を考えるのか。
コンリーのサラリーが重くのしかかってくる来シーズンなのですが、それが過ぎるとゴベアーの契約も切れて(そしてミッチェルにマックス契約が加わるけど)いろいろと考え直す必要もあります。
今シーズンの結果次第では、来シーズンまでのチーム構想と、それ以降のチーム構想でバランスを取らないといけませんでした。ていうか、今シーズンの結果はでるのかね?
戦術的な部分でチームディフェンスを構築してきたジャズが、攻略されてきているシーズン後半。プレーオフまでに何を準備するのでしょうか。プレーオフはあるのでしょうか。