空のようにサンダー

「空のように静かに、雷よりもすばやく動く」

そんなことが出来るのは、『神様の付き人』くらいじゃないかって話ですが、龍球の世界だけじゃなくて、籠球の世界でも理想的な動きの気がします。

前回のペイトンのようなミスの少ないプレースタイルで、アシスト/ターンオーバー率の高さはPGとして重要なことと考えれられていました。チームをリードする選手として、むやみなトランジションを控え、スキがあれば行きたいけれど、逸る気持ちは抑えて正しいプレーをしようぜ。ってね。

一方で高さよりもスピードの時代となった中で、「自分自身の速さ」としてのスピードだけでなく、チームオフェンスの速さとしてのスピードも重要であり、そこにペイトンには課題がありました。

「空のように静かに、雷よりもすばやく」は両者を両立させる考え方ですが、実際には両立は極めて難しく、スローダウンして正確なプレーを志向するか、トランジションを増やして多くのチャンスを作る、のいずれかを選択します。もちろん、どちらかを選択しつつも、もう一方を疎かにしないチームが強いチームです。

◉雷のように騒がしい

NBAの雷といえばOKCサンダー。つまり今回はウエストブルックからクリス・ポールになったことによる変化の話です。まずは昨シーズンまでの話。

「雷よりもすばやく」という表現が当てはまるというか、「サンダー」という名称にピッタリだったウエストブルックはシーズントリプルダブルをしていたわけですが、その理由って

「リバウンドが強い」のではなく「リバウンドを取る役割を与えられていた」

もちろん個人としての強さがあるから成立する役割ですが、ウエストブルックにリバウンドを取らせることで、そこからのトランジションを増やす作戦になっていました。ディフェンスリバウンドを取った選手が、全員を追い越して速攻を決める。「雷よりも速い」ウエストブルックの理不尽速攻。

〇ウエストブルックの速攻得点
12-13シーズン 5.6点(2位)
13-14シーズン 6.2点(2位)
14-15シーズン 8.2点(1位)
15-16シーズン 6.2点(2位)
16-17シーズン 6,7点(1位)
17-18シーズン 5.5点(1位)
18-19シーズン 5.2点(2位)

現代NBAにおける最高の速攻アーティストであることがわかります。「アーティスト」ではないか。ライバルはレブロン、ヤニスという似たタイプの強引にでも速攻を生み出してしまう選手と、カリーのような速攻を生み出すというよりも鮮やかにフィニッシュするタイプです。それぞれ毎シーズン順位が入れ替わりますが、常に2位以内にはいっていたウエストブルック。なお、今シーズンは3位に落ちています。

そんな象徴的なエースに引っ張られて、サンダーの得意技と化していた速攻。ディフェンスからもっていく能力はリーグNo.1であり、フィニッシュする能力は最低クラスのイメージでした。3P決められないからね。

〇サンダーの速攻得点
12-13シーズン 16.7点(5位)
13-14シーズン 16.2点(6位)
14-15シーズン 17.0点(4位)
15-16シーズン 17.3点(4位)
16-17シーズン 16.9点(3位)
17-18シーズン 15.2点(4位)
18-19シーズン 18.2点(5位)

こちらは上位に食い込んでいるとはいえ、トップにはなれませんでした。昨シーズンはキングス、その前はウォリアーズと3Pを上手く使えないとトップに立てなくなっています。単に走るだけじゃダメなんだ。

雷よりも速いウエストブルックでしたが、その心は「空のように静かに」とは程遠く、熱い魂が外に漏れまくり。それがサンダーの良さであり、特徴でもありました。ウエストブルック時代って

雷よりも速く、雷のように騒がしく

そんな感じでした。「サンダー」というチーム名らしいカラーをまとっていたエースとチームだったのです。

◉空のようにゆっくりと

ウエストブルックがいなくなった今シーズンは劇的な変化が訪れました。「走らない、走らせない」PGであるクリス・ポールなのである程度は予想されていた事ではありますが、サンダーというチームカラーをここまで消すとは予想外なのでした。

〇今シーズンの速攻得点 9.3点(30位)

リーグトップクラスを維持し続けた速攻での得点が、一気に最下位に転落。さすがにここまでの変化ってのは異常な感じです。フィニッシュ力がないのはそのままに、そもそも速攻に移行しなくなったのがよくわかります。

ちなみに今回って「どっちの方が良い」という要素はゼロです。ただ、この数字で思う事は「HCは何がしたいんだ?」ってことです。もともとフィニッシュに関して論理性がなかったチームでしたが、ドノバン流が「ハードに守っての速攻」だという基盤すら否定されました。さすがにクリス・ポールが独断と偏見で減らすレベルの数字ではありません。

ウエストブルックが独断と偏見で速攻に持って行った以上の減少幅だしね。まぁいずれにしてもPGが何をするかに左右されているサンダーであり、左右され過ぎのHCです。

しかし、実は「ハードなディフェンスから速攻」についても変化が訪れました。

〇スティール
昨シーズン 9.3(1位)
今シーズン 7.6(17位)

リーグ最高のプレッシャーディフェンスを持っていたサンダーですが、スティール数を落とすことに。ウエストブルックの穴はクリス・ポールが埋めますが、ポール・ジョージの穴は埋められなかった感じです。ディフェンスの良いSGAですが1.1スティールなので、ポール・ジョージになるには成長してください。

こうしてPGによる理不尽速攻がなくなったことと、スティール速攻が減ったことでサンダーはリーグ最低の速攻チームになりました。アイデンティティじゃなかったぜ。

空のようにゆっくりと

チームカラーがガラっと変わることになったサンダー。ハードワークしている姿は変わらないけれど、そこにある必殺の一撃がなくなったということなのでした。

〇試合のペース
昨シーズン 103.4(4位)
今シーズン  99.2(20位)

こうしてゆっくりとしたチームになったサンダー。なお、ロケッツも書いておくと

〇ロケッツのペース
昨シーズン  98.4(27位)
今シーズン 103.6(4位)

思うんだけど、この2人は毎シーズントレードしたら、双方のチームにメリットがあると思うぜ。早くなったり遅くなったりして周囲はどっちも出来るようになりそうだ。

◉空のように静かに

「雷よりも速い」サンダーが「空のようにゆっくりと」になって速攻がグッと減ったわけですが、じゃあ『心』の部分として「雷のように騒がしい」状態だったウエストブルックから、「空のように静かな」クリス・ポールになるメリットは何かといえば、わかりやすいミスの減少です。

〇ターンオーバー
ウエストブルック 4.5
クリス・ポール  2.2

〇アシスト
ウエストブルック 10.7
クリス・ポール  6.8

PGとして考えたら、2.3もの差は大きく、心を動かしすぎないクリス・ポールのメリットが出ていそうです。そういう話で終われば今回の記事もスムーズだったのですが、アシスト数の減少以上に意外な数字も出ています。

〇サンダーのターンオーバー数
昨シーズン 14.0(14位)
今シーズン 13.5(6位)


〇サンダーのターンオーバー率
昨シーズン 13.4(8位)
今シーズン 13.5(6位)

チームとしては0.5しか減っておらず、しかもペースが早いことを考慮したターンオーバー率で比較すれば、実は昨シーズンも「ミスの少ないチーム」に分類されるくらいでした。騒がしい男に騙されそうになりますが、「実は」っていうね。

ウォリアーズに代表されるように「ターンオーバーが少ない」っていうことが強さとは直接的にはリンクしない時代になりましたが、それでも

速攻を大きく減らしたのに、ミスは減っていない

というのはなかなか衝撃的な数字です。空のように静かなクリス・ポールはミスをしないのですが、だからといってサンダーというチームにとっては、騒がしくボールを長く持っているウエストブルック時代と大差ないっていうね。

まとめてみましょう

〇昨シーズンからの変化
速攻の得点 △8.9点
スティール △1.7
ターンオーバー △0.5

雷のようなチームから空のようなチームに。そこにはデメリットの方が大きかったような数字なのでした。 なお、クリス・ポールの性格は空のように静かなわけではないよ。

◉しっかり攻めて、しっかり守る

しかし、サンダーは好調をキープ。むしろ昨シーズン以上の強さをみせています。その理由は一言で言えば、これまでが「エース頼みで、エースに負荷をかけすぎていた」という昨シーズンへのネガティブな要素が大きく、理不尽速攻を生み出すPGがいなくなれば速攻が減るようにチーム戦術の設計力不足が目立ちます。

今シーズンは多くの選手が活躍し、特にシュルーダーのブレークはビックリしましたし、それがサンダーが強い要因になっています。とはいえ、もっと重要なのは層が厚くなり、セミ主役の多いチームになったことでケガ人耐性が強く、チームに安定感が出ています。

でも、そんな要素でまとめたら、本日のテーマの意味がないじゃないか。ってことで、「速攻を大きく減らし、だけどミスはそんなに変わらない」サンダーは、これでオフェンス力を上げました。

〇レーティング
オフェンス 109.8→111.0
ディフェンス106.5→108.4

ディフェンス力が売りのチームでしたが、スティールの減少と共に少し下げ、代わりにオフェンス力が安定感を増してきました。ターンオーバー数は変化なくても、より落ち着いてオフェンスに移行していることが、効率を上げているといえます。

オフェンスにパワーを残している。という表現が正しいのかもしれません。昨シーズンは、平均38分近くプレーしているポール・ジョージがレーティングで+8.2という驚異的な数字を残しながら、それ以外で大きく落としました。

〇ポール・ジョージのレーティング差
オンコート +8.2
オフコート △9.1

特にディフェンス面の揺れが大きく、「守れないと攻めれない」チームであることを示していましたが、今は攻守が分断されているので「しっかり守って、しっかり攻める」ようになっています。

雷のように騒がしく、雷よりも速く

数字的にはハッキリとメリットがあった戦い方でしたが、どうしても「速さを持つ」エースクラスに頼ることになってしまっていたサンダー。

空のように静かに、空のようにゆっくりと

見た目の数字ではデメリットが多いけど、攻守それぞれを整理して戦えているような感じの今シーズンなのでした。それは自由にさせ過ぎているドノバン流では、ウエストブルックがいては整理出来なかった問題だったのでした。

空のように静かに、雷よりも速く

これが理想だとするならば、どうやって速さを加えるのか。そこにはロケッツが感じていたクリス・ポールの限界があったわけで、極端な両PGがもたらす、極端な効果を上手く融合させてほしいとも思うのでした。

空のようにサンダー” への2件のフィードバック

  1. クリポの去年と今年の個人スタッツを比べると、ショットタッチを取り戻した一方でアシストを少し減らした位で、何故ほんの僅かな違いでオールスターに返り咲いたのか謎なんですよね。むしろSGAとかガリナリ、シュローダーの方がオールスターじゃないかという気もして。もし時間があればクリポvsSGAvsガリナリvsシュロのエース対決について、あるいはエースシェアリングについてご意見ください。

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