FG50%オーバー
20点以上
これを11試合連続で続けているデマー・デローザン。なんとスパーズ新記録だそうです。何がすごいって、ダンカンが達成していなかったことです。基本的にはFG50%はインサイドプレイヤーにとっては、そこまでハードルの高い数字ではありません。今では3P打ちまくるセンターもいるので簡単ではなくなりましたが、シャックなら当然。カペラやゴベアーだって当然です。
一方でアウトサイドプレイヤーにとってはこれを10試合も続けるのは簡単ではありません。ひとつにはアウトサイドはそんなに効率よく決まらない事。デローザンには関係ないかな。もうひとつは「そんなに好調なら徹底マークされる」ことです。危険な選手なのだからドライブしてもカバーが用意されるよね。なので、こちらは20点を奪うのが難しくなります。
確かにデローザンはノン・3Pな珍しいスコアラーですが、それでもこのサイズの選手がインサイドで決めまくるって簡単ではありません。シャックは規格外だけど、カペラとゴベアーは独力で決めているわけじゃないからね。あくまでも他のエースが引き付けてのフィニッシュ専門だからカバーしきれない。好調なエースが相手なら徹底的に潰しに行くのがセオリーだ。だからきっと潰しに行けない事情があるはずなんだ。
ということで、デローザンとスパーズに何が起こっているのかを確認してみましょう。ちなみに11試合続けて素晴らしいスコアを重ねているデローザンですが、チームは6勝5敗です。残念ながら勝てる所に浮上していないのもポイントになります。オフェンスレーティング118ですが、ディフェンスも114っていう崩壊具合さ。
◉センターラインを攻めろ
デローザンのシュートにおける変化はショットチャートを比較すれば一発でした。まずはそれを観てみましょう。初めの27試合と、最近の11試合なので、各ゾーンの数字が半分以上なら多くて、1/3以下なら少ないって感じです。
デローザンが打っているシュートは変わらず3Pラインの内側ですが、その中で大きな変化はシュートの殆どがリングの正面かゴール下になったことです。エンドラインのプルアップジャンパーを大きく減らしました。
ジャンプシュートはコートの中央から打つ
もちろん、各シュートの確率アップは欠かせない要素ですが、それ以上にシュートの角度を絞ってきたことがわかります。如何にしてリングの正面から打つのかというチームオフェンスの調整が行われたわけです。
その意味では、チームメイト達の3Pの変化も見逃せません。デローザンがコートの中央を使うことになったので、両ウイングを有効活用するようになりました。
当たり前ではありますが、デローザンが真ん中を使うので周囲は両サイドを使います。デローザンがインサイドを使うので周囲はアウトサイドを使います。
〇3Pアテンプト 26.4→31.5
ということで5本も3Pアテンプトが増えました。これは見過ごせない変化であり、デローザンの使い方を変えたことがもたらした変化です。
〇オルドリッジの3Pアテンプト
1.7→4.6
とか言いながら、そのうちの3本がオルドリッジです。要するに
インサイドにデローザン、アウトサイドにオルドリッジ
というパターンを増やしたのがスパーズの工夫という事になります。そう考えると、前述の「真ん中を使う」というのも違う見え方も出てきて「オルドリッジがポストにいないから真ん中にドライブしやすい」ってことです。なにはともあれ
デローザンの好調はスパーズのチームとしての工夫がもたらしている
という見方が出来ます。もちろん、デローザンが素晴らしく決めまくってくれているおかげなのですが、そうなるように仕組んだって事で、たまにはポポビッチを誉めておきましょう。ここまでドラスティックに変えたのは凄いよね。それくらい負けていたって事だけどさ。
◉パスを出さない先にあったこと
〇ここ11試合のデローザン
27.0点
FG63.4%
エゲツナイ数字です。FG63%ってどこのシャキール・オニールだよ。しかし、気になるのはこんなに決めているのに27点しか記録していない事です。確かに3Pがないデローザンではありますが、64%も決まっていたらブッカーなら40点平均、ハーデンなら45点平均、カリーなら50点平均だっただろうに。
〇デローザンのアテンプト
FG 16.0→15.9
FT 5.7→7.5
FGアテンプトは落としていますが、その分フリースローが増えているので、ちょっとだけ自分で行くシーンが増えたって感じです。本来、ここまで好調ならもっとボールを集めるものですが、あまりデローザンに集中させていないことがわかります。
〇デローザンのアシスト
4.8→5.5
一方でセンターラインをデローザンが使うのだからアシストが増大しても良さそうなのですが、ここも0.7の増加にとどまります。デローザンの得点アップは、あくまでもデローザンが効率的に決めるようになった分だけの増加であり、プレー機会を大きく増やしたわけではないのでした。
〇デローザンのパスから3P
フォーブス 2.1→2.3
オルドリッジ 0.7 →1.8
ライルズ 0.8→1.6
ゲイ 0.7→1.2
ホワイト 0.6→1.0
マレー 0.5→0.5
一方でデローザンからのパスの出先はハッキリしてきました。3Pへのキックアウトです。スパーズが3Pを大きく増やしたのはデローザンのパスが効果的に散らされていることがわかります。これまではフォーブスだけがコンビとして機能していた感じですが、オルドリッジが大きく数字を伸ばし、ライルズとゲイのウイングコンビもストレッチ役として機能しています。
ただし、フォーブスは元々多かっただけに、微増にとどまっており、ホワイトと合わせて0.6本程度の話です。それはガード陣ではなく
ビッグマンに3Pを打たせる
ことを明確に意識させたものになっています。
(ライルズ・キャロル、そして出てきていないルーキーのサマニッチと、そういうシュータータイプを集めたのだから、初めからやれよと思っていることは内緒だ)
その一方で気になるのはデジョンテ・マレーが変わらず少ないこと。アウトサイドに課題のあるマレーとデローザンの同時起用は、どうしても3Pが足りなくてスペースを構築できないから、コンビとしての機能性が悪い。これもまた懸念されていたことではあります。
〇マレーのプレータイム
23.1→25.6
〇マレー&デローザンのプレータイム
16.2→22.1
しかし、実際にはマレーとデローザンが一緒に出る時間は増えています。これは非常に興味深い変化です。デローザンにインサイドを使わせるために、オルドリッジまで3Pラインの外に出してキックアウト3Pを大きく増やしたスパーズですが、その一方で3Pの少ないマレーとデローザンを長くコートに立たせるようになったわけです。
〇マレー&デローザンのオフェンスレーティング
103.4→120.7
基本的にはデローザンが好調だから数字が爆上がりしただけなのですが、それでも気になるのは「3Pを打たないマレー&デローザンだけど、オフェンス効率は大きく向上した」ってことです。実際、マレーはデローザンのパス抜きにしても、ここ11試合の平均3Pアテンプトは1.5本とチーム状況と大きく異なってきます。
デローザンのためのオフェンス変更と思いきや、マレーとデローザンを共存させるためのオフェンス変更だった
という仮説が出てきたわけです。そう考えると「オルドリッジが3Pを増やした」のは「デローザンとマレーがドライブするスペース構築」を導くための変化だったと考える方が自然です。
〇マレーの変化
得点 10.3 →10.4
FG 47.6%→52.9%
アシスト 4.1→4.3
デローザンのような高確率ではないものの、FGの高さは特筆すべきものがあるマレー。懸念事項だった両者の共存がここにきて上手くいっている雰囲気です。どうにも効率的なコンビになりそうになかったので、マレーの使い方に困っていたはずが、ここにきて驚異的に正解を導き出しているのでした。
◉個人能力とチーム戦術と
これらの事を前提にしてプレイヤー・オブ・ザ・ウィークに輝いたデローザンのプレーを観てみましょう。注目すべきはデローザンではなく、オルドリッジのポジションです。見事なストレッチビッグマンに変更されています。
さて、この動画を観ていて1つ印象的なプレーがあります。それはミルズやマレーのドライブに対して、少し遅れて逆サイドからカッティングして合わせるデローザンのダンクです。
管理人はこの11試合のうちラプターズ戦しか観ていないので、「上手く逆サイドから飛び込んだなー」くらいの印象だったのですが、こうやってハイライトに何回か出てくる再現性のあるプレーだとするならば
ドライブに対して逆サイドから動いて合わせる
これが新しいスパーズのオフェンスに加わりました。それを可能にしているのはディフェンスをコーナーまで開かせることによるインサイドスペースの構築です。ペイント内にディフェンダーが3人いたら成立しないプレーであり、デローザンでは合わせられないはずでした。
元々、インサイドプレーの上手かったデローザンですが、こうしてインサイドにビッグマンディフェンダーを減らしてもらったことで、この11試合はゴール下シュートが50/61と驚異の80%オーバーになっています。シャックでも難しい数字なので、その偉大さは際立つし、個人能力だと言い切るには無理なものでした。
ゴール下の確率を大きく向上させたことで驚異的なFG%を達成しているデローザンですが「チームとして狙ってイージーシュートを生み出している」ことがわかります。60%オーバーはさすがに決めすぎですが、
FG50%を成立させるためのチームオフェンス
ってのは確実に存在している気がします。それはマレーの数字への納得性も高めてくれます。60%決めるのはデローザンの個人能力の高さだけど、チームとして準備はしてきたのでした。
3Pは小さい選手が打つもの、なんて常識はとっくの昔になくなっており、センターだって3Pを打つのが当たり前の時代になりましたが、その一方で新しい要素も登場しているわけです。
「インサイドを効率的に攻めるのがビッグマン」なんて時代遅れさ!
最も効果的に利用できる選手が使うべきであり「インサイドを効率的に攻めるガード」の時代なのさ!
常識なんてものは変わっていくものです。おじいちゃんHCのポポビッチですが、長く君臨してきた理由は時代の変化に対して常に好奇心を持って取り組んでこれたから。自分の中のセオリーはあっても、旧い常識には囚われない良さがあります。
さて、このデローザンの爆発時期の少し前にロケッツと2試合しています。ロケッツといえばウエストブルックがほぼインサイド担当になっていますね。さらに、今シーズン絶好調のヒートではバトラーがあまり3Pを打たずにプレーを構築しています。実質的にバトラー&アデバヨがインサイドを使う形です。サンプルはいっぱい存在していましたよ。
ってことで、次はそろそろヒートについて触れたいけど、何も固まっていません。アデバヨスーパー!はもう書いたしね。
◉追伸:よくある弱点
さて、このオフェンスは素晴らしい反面で、あまり好まれない理由もありまして、ガード陣がドライブでゴール下まで飛び込みまくる場合に懸念すべきことが
カウンターを食らいやすくなる
という至極もっともな状況です。ましてやマレーのドライブに逆サイドからデローザンが合わせたら、誰がセーフティなんだよってね。
〇速攻での失点
13.5→16.8
ということでポポビッチ君、この問題が解決するまで居残りしてもらいますよ!!
デローザンの好調はもう少し続くかもしれません。だけど、それだけじゃ勝率5割には届かないよ。ていうか、FG63%のエースがいて6勝5敗じゃマズいでしょ。
デローザン特集ほんと嬉しいです!!!
ドライブの合わせのうまさが最近際立ってるなあと思ってたら、やはり戦略的に組み合わされてることよく分かりました!
いつも楽しく見させてもらってます。今後ともどうぞよろしくお願いします。
デローザンすげー
って思いましたけど、絶対個人だけじゃないはず、とも思って調べたのでした。
スパーズはオルドリッチも引き立て役に回してデローザンをより生かすための工夫をしたということですね。
他のみんながストレッチしてデローザンのためにインサイドを空けておくというのは見てて感じていましたが、それがマレーのためにもなっていたとは気付きませんでした。
そして、デローザンがここまでいいプレイをしているのに思ったほど勝ててないのは、速攻の失点が増えていたからなんですね。それは今のオフェンスシステム上、どうしようもないのでしょうか。どうしたらいいんでしょう。
速攻の失点が増えるのは致し方ないわけで、ドレイモンドとかイグダラで解決したウォリアーズを見習うってのが1つの解決策ですね。カリー&クレイが動き回っていてカウンターに弱いけど、オフェンスはPGが違う形ね。
結局はディフェンスの良いウイングを連れてくるのがスタートラインなんですよ。
マブスファンとしては、戦術ドンチッチにも通じる話だと思いながら拝見しました。
スリーが振るわないドンチッチですが、彼の最大の良さもドライブの決定力(高確率のアタック+アシスト)であり、それに合わせるアウトサイドのポルジンギスとクリーバー、ダイブするパウエルらビッグマン達とのシステムの適合性なんだと再発見させていただきました。
確かに。ドンチッチは3Pじゃないわけで、その代わりにパウエルが頑張っていますよね。あれが出来るパウエルって偉いなーと思います。地味だけどタイプ的には的確な。
ひっそりと凄いスタッツのデロ君に触れたまとめサイトや記事が見つからなくて困ってましたよ。とんでもないFG率に驚愕です。もう少し勝ってほしいけど、優秀な人材が華奢なガードばっかりでちょっとね。やっぱりできるウイングが欲しいです。
インサイドを効率的に攻めるガードの時代ですか。モラントなんかもそうですかね。彼凄すぎる。
個人的にもそういう記事読んだことなくて、デローザンが凄いって、誰かのTwitterで知りました。
まぁ記事があってもほぼ読んでないですが。
モーラント君も凄いので、そっちはバスケット・カウントの記事になりまして。