ラストシーズンに挑むビンス・カーター
ホークスと契約したビンスおじさん42歳。ノビツキーがノロノロな動きで限界をみせ、トニー・パーカーが15分しか持たないスタミナで勝負し、ウェイドがそれでも神通力で勝負してきたのに対して、ビンスおじさんは早々に主役の座を譲り、3&Dの優秀なロールプレイヤーとして生き残る道を選択してきました。
10年前に平均20点を下回ってからがビンスおじさんの真骨頂。かつてスーパースターでここまでプレーを変えた選手がいたのでしょうか。そして42歳になっても時にスピンムーブからのダンクをかますわけですから、
かつてのプレーが全くできないわけじゃない。だけど、自分の役割はそれじゃない
という役割を全うする心の強さもありました。ここ、感動で涙するところです。
最近の3Pの話でシュートがうまいって何じゃらほい、というテーマを書きましたが、ビンスおじさんは決してシューター的な存在ではありません。あくまでもスポットを埋めて打つキャッチ&シュート専門。だから本当にわき役。ただ、トップとかも穴も埋めるのは特徴的かも。コーナー専門ともまた違うんだよね。
ビンスおじさんがこの10年間をNBAプレイヤーとして過ごせてこれたのは、間違いなく心の中であったであろう意識改革。自分がやれることはなにか。ある意味「俺はスーパースターだ」という感覚から「30過ぎたらスーパースターでは生き残れない」という割り切り。それがビンスおじさんを支えてきたといえます。
はい、ビンス・カーターのまとめです。
「いいね」がいっぱいついたのですが、これくらいの文字数で良いなら、今度から短く切り刻もうかな。
●スーパースター・カーメロ
題名にある通り、本日はここからカーメロとの比較に入ります。ビンスおじさんが32歳くらいから行った意識改革を34歳で実行できなかったカーメロ。とはいえ、カーメロ本人は頑張った方だと思います。ウエストブルック、ポール・ジョージと組んだことでサードオプションを受け入れ、さらにロケッツではベンチメンバーとなることも受け入れました。クリス・ポールの乱、アリーザの移籍がなければ違う結果が導き出されていた可能性もあります。運もなかったカーメロ。
しかし、それではまるで「意識改革だけでロールプレイヤーになれる」と思われるのもビンスおじさんからすれば心外でしょう。スーパースターはロールプレイヤーの仕事はいくらでもこなせるなんていうのは勘違い。なんせ八村が生まれた1998年にドラフトされたわけですが、当時はマイケル・ジョーダンのブルズ時代。今とはバスケの質が全く違います。そうして変化に対応できるからこそ生き残れたわけです。
ビンスおじさんは、その時代にルーキーにしてスター選手となりながら、ジェイソン・キッドのネッツに移籍したことで、ブルズ時代のハーフコート全盛にはそぐわない速攻スタイルへの対応を迫られました。そうです。実はこの段階でビンス・カーターは「チームスタイルの変更と自分自身のプレースタイルの調整」を迫られたわけです。なお、ウィキペディアさんによるとその後のネッツはビンス・カーターに適したハーフコートに移行したとかなんとか。つまり速攻スタイルに「合わせた」ビンスおじさんだったわけです。
カーメロが悪いとはいいませんが、トライアングルへの対応が出来なかったニックス時代など、主役でありながら主役としても調整しきれてこなかったといわれるのも事実。唯一の成功例はプレーオフファーストラウンドを突破できずにいたナゲッツ時代にビラップスがやってきたことで自由を失い、逆に活かされてカンファレンスファイナルに進んだことがありました。なお、ビンスおじさんもカーメロも当時のプレーを見たことはない。
いずれにしても戦術的な変革スピードが速いNBAにおいて、柔軟に対応してきたようなビンス・カーターと、自分が中核としての限定されたプレースタイルでなければ対応できなかったカーメロ。その違いが出てきたこの数年でしたが、実はキャリア全般を見ると、それだけ「苦労してきた」ビンス・カーターだったともいえるわけです。
カーメロがカーメロであるがゆえに対応できなかったし、スーパースターからロールプレイヤーに変化するという特異な例であるビンス・カーターと比較されるのは酷かもしれません。まぁ酷でもするんだけどね。
①時代と戦術に対応してきたビンス・カーター。それはキャリア全盛期にネッツへの移籍から変化を求められてきたからかもしれない。
ビンスおじさん偉い。今回はあくまでもビンス・カーターの話です。
●ポジション移動とディフェンス
カーメロがサンダーとロケッツでお荷物扱いされた最大の理由はディフェンスです。高速化する現代オフェンスについていけないし、ハーフコートではディフェンスの穴としてスイッチを促されては一蹴されていきました。そもそもPF相手でも守れているとは言い難いカーメロなのですが、最大の課題は
ガード相手に守れない
というブルズ時代なら問題にならなそうな案件です。同時に間違えてはいけなことが「カーメロが年を取って衰えた」ではないこと。もちろん、一因ではありますが、基本的にカーメロは若いころからガード相手に素晴らしいディフェンスを披露するようなディフェンダーではありませんでした。
同時にオフェンス面の能力はSFそのものなのに、PFというカテゴリーから抜け出せなかった理由でもあります。オフボールでマーカーを追い掛け回し、時にハイプレッシャーをかけ、広い範囲をカバーディフェンスする。そういうのは好きじゃなかった。
ピック&ロールの効率性が確立され、3Pを止める優先度が上がり、アイソレーションすらもオフェンスの一般パターンに組み込まれた時代の変化はカーメロのディフェンスをより難しくしました。衰えの前に時代の変化についていけないディフェンス力だったわけです。
ウィキペディアさんによるとSFになったニックス時代にはペリメーターを守る意識が低かったとかなんとか。かといってインサイドでリムプロテクターになる高さもないし、テイクチャージするような読みと反応の良さもないし。要するに個人ディフェンスとしてはペリメーターが守れず、チームディフェンスでのヘルプ要員としての機能性に欠けるようなディフェンスでした。ひょっとしたらPF同士では問題なかったのかもしれませんが、そこしかなかったということ。
ヘルプ能力が低い
これがカーメロの2つ目の問題。ガード相手に守れないこととヘルプで存在感がないってのは、それこそBリーグなら特に問題がなさそうな案件でもあります。「自分のマッチアップを守ろうぜ!」という時代ならば問題ないわけで、時代の変革と共にオールラウンドに守れる選手が重要になってきたことがカーメロのディフェンス問題を際立たせました。マーカス・スマートの特異なディフェンス力が重要になってきた現代では特にね。
さて、ここでカーメロには不運もありました。あるいは本人のチョイスミスです。移籍した先はサンダーとロケッツ。
前者は個人が強烈に守ることでスキを作らないことを良しとするスーパーストロングスタイルで、空いたところはウエストブルックが全てカバーするディフェンスで、実はスマート並にどんなポジションでも守ってしまうウエストブルックを筆頭に、ロバーソン、ポール・ジョージ、ジェレミとオールマイティなディフェンダーを並べています。多少のマッチアップミスはミスではないチームでカーメロは浮いてしまいました。ペリメーターが守れないカーメロは明確な穴に。
次にやってきたのがロケッツ。さぼりの天才ハーデンがいるから何とかなるかと思いきや、スイッチングディフェンスによってマッチアップ変更なんかオール無視の守り方です。PGだって守るカペラを筆頭にペリメーターを守ることを求められるわけですが、それに加えて個人が抜かれることも前提に入れているシステムなので、PJタッカーとカペラによる秀逸なヘルプディフェンスが重要でした。その前はアリーザも。ヘルプ能力が低いカーメロはチームディフェンスの中でアンバランスに。
サンダー時代は酷すぎたシーズン序盤から、なんとか見れるレベルまで改善したシーズン後半、そしてやっぱりボコボコにされたプレーオフでした。意識レベルでは頑張ったけど、ニックス時代に頑張っておかなかったスーパースターなので取り戻せるはずもなく。って感じでした。
一方のビンスおじさん。
ポジションは常にSGとSFをうろうろしました。当時のディフェンスなんて知る由もないですが、わかりやすくアウトサイド担当として、少なくとも批判されるようなレベルではなく守れていました。つまりカーメロとの最大の違いは、そもそもがペリメーターディフェンダーということ。
では現在のビンスおじさんはどうなのか。起用されるのはほぼPFになりました。もちろんPFといっても意味のない時代のPFです。要するにオールラウンドに守れる前提があり、その中でもインサイドディフェンスを頑張れるタイプのウイング扱い。ペリメーターを守るのが基本のポジションから「インサイドも守る」ことになりました。そこに対応できた6-6サイズのウイングです。
〇DIFF ビンス(ホークス)
6フィート以内 △1.3(1.1)
10フィート以内 △0.2(2.1)
15フィート以上 2.5(1.1)
※数字が小さいほど守れている
リーグ平均を上回り、チーム平均を大きく上回ってインサイドが守れているビンスおじさん。そしてアウトサイドは守れていないっていう事実。年を取ってペリメーターを守れていないじゃないかっていうね。やっぱりここはスピード不足、アジリティ不足が絡んでくるので難しいわけです。
〇DIFF カーメロ(サンダー)
6フィート以内 7.7(0.2)
10フィート以内 5.8(△0.2)
15フィート以上 △1.6(△0.1)
※カーメロは17-18シーズン
時に調べてみるとイメージと違う数字が出てきます。アウトサイドの方が守れていたカーメロ。でもインサイドはボッコボコ。特にサンダーがチームとして守れていただけに7.7っていうのは苦しすぎる数字でした。
あまり守れないチームで存在感を発揮していたビンスおじさんと、守れるチームで苦しかったカーメロ。その違いは時代的な3Pじゃなくてインサイドを守れるかどうかでした。意外な結果ですが、まぁプレータイムも違うので。
よく言えば時代の変革と自身の身体的な衰えから、インサイドを守る能力をあげていったビンスおじさんの奮闘。穴がありすぎたカーメロの問題。
でもここには違う意味合いもあって、優勝を目指しディフェンス強化を目指すチームに加入してしまったカーメロと、優勝には絡まないチームでプレーしているビンスおじさん。求められているものが違うっていう事実もあるのです。スピード不足が同じならサンダーやロケッツでビンスおじさんはターゲット設定された可能性もあります。でもホークスを考えたら狙われない。
〇16-17シーズンのカーメロ
6フィート以内 0.8
10フィート以内 1.8
15フィート以上 △2.5
ニックス時代はそんなに顕著な数字にはなっていませんでした。それがサンダーに行って大きな違いになってしまった。明らかに狙われたわけであり、カーメロが持つディフェンス能力に適さないチームでした。
戦術・能力・ポジションなどの要素からインサイドを守れるウイングに変化していったビンス、強豪チームでディフェンスの穴になったカーメロ
ただただ守れないということ以上に、何を守れるのか、どこのチームで守るのか。そんな部分が圧倒的に不足していたこの2年間でした。サンダーもロケッツもGMの失敗であり、勝てるチームに拘って自分の能力に適したチームを探せなかったことがカーメロの失敗に繋がっています。
おそらくディフェンス問題がなければ少なからずオファーがあったであろうカーメロ。しかし、典型的に守れないことを世に知らしめてしまった2シーズンがカーメロを苦しめています。チームに適合できるかどうか。それが一番大切。
●入れ替わるはずだった2人
さて、個人的な都合によりここでぶった切って終わります。まぁこの先も大体同じ話です。ビンスおじさんはかなり前から自分自身をチーム戦術に調整し、時代の流れに合わせた変化を受け入れ、身体能力は衰えても進化をしてきました。それに対してカーメロはなかなか進化できなかったというか、チーム戦術に合わせる必要性も低かった。
その一方でビンスおじさんは自分を必要としてくれるチームを選びました。「無理のないチーム選び」だったともいえますが、カーメロは優勝できるチームを求めたことで足りない要素をさらけだしてしまいました。「さらけ出した」というのが事実であり、カーメロが自分の能力をそれなりに使えるチームに行けば、それなりの活躍はするはずです。ホーネッツとかピストンズが良いかもよ。
しかし、これもまた時代の流れです。戦術的にフィット出来なければポテンシャルは何も発揮されない。特にロールプレイヤーならば。だからロールプレイヤーを受け入れるということは簡単ではないわけです。正しいチームを選ばなければ消えてしまう。正しいチームを選んでもチーム事情が変化すれば不要になる。ビンスおじさんも経験してきた道。
2000年から8年連続でオールスターに登場したビンス・カーター
2007年から10回のオールスター選出があったカーメロ・アンソニー
スーパースターとしての位置づけが入れ替わるようなタイミングだった2人でしたが、予想外にリーグに残り続けたビンス・カーターの凄さ。ロールプレイヤーであることを受け入れ、チームが必要とするプレーをする元スーパースター
そのラストシーズンが始まるのでした。
ダンカーはキャリアが短くなりがちなのが通説でしたが、その中でも史上最高のダンカーとの呼び声が高いビンス・カーターが史上最長のNBAキャリアを歩むことになるなんて、感慨深いものがあります。別にカーメロはダンカーでもないし、シュートが上手いから、晩年でも使い道はあると思ってましたけど、こうも明暗がはっきり出るとは。。。スターではなかったけどジェラルドグリーンなんかもダンカータイプだったのに今尚活躍している事に感心します。
30代になり、初の移籍を経験したウエストブルックは一体どういうキャリアを歩むのか。正に岐路に立っている彼は今が一番興味深いです。
ウエストブルックはハードワーカーとしての能力が命だと思っているので
実は抜けなくなったり、リバウンドがとれなくなっても、ハードワークが出来るなら有能なロールプレイヤーになれると思います。
性格的にはなれないと思いますが。
カーターに限らず選手を評価するときに僕はロールプレーヤーに転身できた事は大きく評価します。
ま、転身せずにトップを維持し続ける方が良いのは間違いないですが。
昔から良く思っているのはゲイリーペイトンの存在です。
キッドやナッシュは移籍して初めてファイナルに行ったり、最高勝率を残したりしてますが、ペイトンはドラフトされたそのチームで両方を達成しています。
それだけのチームとしての結果を残しながら更に個人としても表かされた選手が、晩年移籍してロールプレーヤーとして優勝するということ。
これは非常に価値の高いことにだと思っています。
ペイトンはもともと優れたロールプレイヤーとして主役クラスの実力を発揮したイメージです。ビラップスにも近いかも。
どこでもディフェンス第一ってのがいやらしい選手でしたね。