PG編おまけ~日本代表~

PGについて触れてきたこの数回。間にまじった代表戦。ついでだから日本代表のPGについても書いてみよう。

まず大前提として、管理人はBリーグは殆ど見てないよ。とはいえ、このWC予選は延々と見ているわけだから、さすがにコメントは出来るような。しかし世の中にはBリーグのファンがとても増えてきた様子でして、それはとても喜ばしいことですが、NBAファンとの溝は少しずつ存在するのも事実です。

NBAファンとの溝とは言っても「NBAレベルでみたら・・・」みたいな蔑んだ言い方での溝ではなくて、「グローバルスタンダードなプレーは・・・」という視点での溝です。どうしてもガラパゴスになりがちな国内リーグなので、違和感を感じてくることが多いわけです。要するにファジーカスが通用してしまう国内と、通用しなくなってきた国際線。

そんなガラパゴス以外にも、代表戦だけ見ているとちょっとした違和感も出てきます。それがPGでは富樫の存在。

Bリーグでスーパーな活躍をし、千葉を全ての意味でけん引している小さな得点力に溢れたPGは世間一般というかBリーグを見慣れている人からすると「レベルの違うPG」に見えていると思います。

しかし、代表戦のみを見ていると、そこまで周囲とのレベル差はありません。理由は富樫のレベルではなくて代表のプレースタイルが、千葉ほどには富樫の個人突破を望んでいないからです。平均14点・5.5アシストと獅子奮迅の活躍をするBリーグと違い、周囲を活かすことが大切な代表です。

富樫はスピードだけでなくシュートの上手さを持っているし、時にプルアップで決めてくれるから日本の中で最も効果的な選手という位置づけは変わらないものの、比江島と田中がPGを務めることもある代表で求められているプレーと千葉のプレーには少し乖離があると思っています。そんなに千葉を観たことないけど。

そんなわけで管理人からすると「代表でのプレー」が富樫のイメージになるけど、Bリーグも見ていると「千葉の富樫が代表でプレーしている」に見えてくると思うので、そこにはどうしても価値観の相違が出てくると思います。今回はそんな前提で読んでください。

◉篠山とファジーカス

予選の前半で勝てなかった日本ですが、最も良い時間を作り出していたのは田中・馬場・竹内のアルバルクトリオが揃った時間でした。それはチームとしての連動性を強く感じさせてくれた時間であり、そこには富樫よりも篠山が適していました。

篠山の特徴はパッシング。ボールを簡単にはたいてくれるので、テンポよく回っていき、それがオフボールでも連動しているアルバルクのオフェンスには合っていました。同時にラマスが求めているのはアルバルク型のパスの連続からディフェンスのギャップを作り出し、スキが出来た選手がアタックしていくことです。その起点役として篠山は合っていました。

篠山はNBAで例えるならばジャマール・マレータイプのPGです。アシスト数が多いわけじゃないけどリズムを生み出すパスをしていく。

しかし、管理人が篠山を気に入らないのは篠山自身が「スキが出来た選手」になったときのアタック力に欠ける事。そしてマレーが優れているのは、そのアタック力とシュート力。リズムよくボールを動かすPGのマレーだけど、それはマレーの価値を示すプレーではないのです。あくまでも得点力がマレーの魅力。

似たようなタイプで得点力が売りではないTJマッコネルがいますが、マッコネルもまた時に強気に自分で得点を狙いに行きます。それがないとディフェンスに読まれてしまうからです。ザ・わき役としてドラフト外から這い上がってきたマッコネルはエンビードとシューター達を引き立てながらも、彼らを無視して自分で打つ気持ちの強さがあります。

篠山にはこの発想が足りない印象が強く、「ディフェンスが何を考えているか」とその逆を突くようなプレーが殆ど出てきません。単純に出させてもらえないのかもしれませんが、パッシングでリズムを生み出すことが何よりも大切とばかりに、あまりにも簡単にパスを出してしまいディフェンスがズレないことが多くあります。

つまりグローバルスタンダードというかNBAファンが見慣れたPG像として、「リズムを生み出すパッシング」「時に強気に得点を狙う姿勢」はセットなのですが、篠山には前者しかないので、

パッシングそのものは評価できても対になる能力が足りない

と映ってしまうわけです。富樫はもっと個人で行くタイプですが、スピード・プルアップ3P・キックアウトと得意不得意は別にしてセットとなる能力が備わっているけど、篠山は物足りない。

では、なんでそうなってしまうのか。理由はファジーカスに代表される外国人選手に頼ったオフェンスにあります。代表でも八村に頼るシーンが増えて足が止まりますが、Bリーグでは頻繁に見かけるパターンです。外国人の1on1が主軸なプレー構築にしてビッグマンで勝負するスタイル。

ピック&ロールでスイッチしてくるチームが相手になったときに、NBAではスピードのミスマッチを使ったガード側が攻める方が一般的ですが、代表は高さ側ばかりを使いたがります。ファジーカスや八村とのピックを使ってスイッチを促したとしても、PGが相手のビッグマンに対して勝負を挑むことはほぼありません。

それよりもファジーカスにパスをすることが大前提。スイッチされればファジーカスが。スイッチされなくてもファジーカスが。そういうイメージがあります。今は八村にパスしておけば安パイみたいな。

篠山は基本的にファジーカスにパスを入れておいて、パスアウトから3Pに慣れています。それはBリーグがそうだから仕方ない。でも、「グローバルスタンダードはPGがスピード勝負で引き付けておいてのインサイド」が普通に見えてしまうので違和感ありありなのでした。

◉マーカス・スマートは必要か

チームUSAのテストマッチに出場していないスマート。離脱者が多い中でケガがありながらチームに残り、キャプテンにも指名されました。そんなPGは得点力が必要な時代にシュートの下手さでも有名です。

一方でセルティックスはスマートがいないと勝てません。それはディフェンス面での異常な貢献度もさることながら、セルティックスというチームの中心選手たちが「単調なプレー」をしてしまうことが多いからでした。

アーヴィング、テイタム、ブラウン、モリスとそれぞれに能力はあっても「ディフェンスの裏をかく」ようなことはなく、自分たちのオフェンスパターンに沿ってプレーしています。ブラッド・スティーブンスによる現代的なプレー構築があるけど、長いシーズンで見れば単調過ぎて。

PGの役割として古くは「コート上のHC」なんて言います。ただ現代ではプレーコールなんてHCが出せばよいし、そこまで重要な役割ではありません。PGに限らず個人個人がそういう判断を混ぜていけばよいし、戦術が練りこまれているから2の手、3の手が用意されています。

でも、セルティックスはオフボールでの動きが上手い選手が欠けていて、1つ1つのプレーはしっかりしていてもゲームトータルで見ると物足りない。そのためディフェンスに応じて変化をつけるスマートがいたほうがオフェンスは魅力的になっていきました。「相手の弱い所を突く」ブラッド・スティーブンスらしさを発揮できます。シュート力がないのにね。

グローバルスタンダードの視点ではスマートはそこまで必要ではありません。それは日本代表でも同じで前述のアルバルクトリオなら問題なく2の手3の手に繋がり、特に竹内がもたらす変化に富んだ地味なプレーはチームを救い続けています。

それは言い換えれば同じチームから選手を連れてくる良さであり、代表という場ではプレーコールが練りこまれているとは言い難い部分があるわけです。ポポビッチはスマートだけでなくデリック・ホワイトも残しています。ともにPGとして得点力などは劣るものの、ディフェンスの状況を見て逆を突いてきます。

◉八村と安藤誓也

日本代表はどうなのか。富樫はパッシングを重視しながらも、時に本来の持ち味である自分で打開していく能力を使う事でディフェンスに楽をさせないプレーをしていました。篠山はそれが出来ず、またラマスは本来はPGではない田中や比江島にも担当させていたように、スマートのような役割をあまり重視していません。言い換えれば「自分たちのプレーコール」をしっかりとこなすための人選となっています。「決まっているプレー」ならサイズとフィジカルに優れた2人の方がしっかりとこなせるよね。

それはまた八村の登場によってハッキリしました。八村に渡しておけば何とかなるわけです。ただし八村自身は竹内みたいな変化をもたらすことは出来ず、ストロングに決めていくのみです。

「逆を突くプレー」がなくても「正攻法アタックで得点を奪う」という理想的なプレーで勢いに乗っている日本代表。しかし、相手が強くなるとそうはいきません。ニュージーランドもアルゼンチンも初めは八村に戸惑ったけど、徐々に対応してしました。2人行けば止められるじゃん。

ということで富樫のいない日本は単調な時間帯が出てきました。こまったね困ったよ。馬場のブレークとファジーカスのストレッチ5により、打開できている部分はポジティブですがPGのもたらすゲームメイクは迷走していきます。

ここで結果を出したのが安藤誓也。ニュージーランドの第2戦では八村やファジーカスにパスを出さず、自らのドライブと他の選手へのアシストでオフェンスから打開していきました。

ニュージーランドが日本のオフェンスに対応してきた時間帯に登場してきた安藤は非常に効果的なプレーメイクをしてくれました。それはスマートやホワイトのレベルからは程遠いけど、これまでの代表にはなかった要素です。

しかし、あっさりとアルゼンチン戦では外されました。ラマスはやっぱりスマート役を求めていない様子。あくまでも「自分たちのオフェンス」をやり切ることを望んでいます。

そして再び結果を残したチュニジア戦は、アルバルクの4人+竹内+渡邊という組み合わせ。それはやっぱり連動性があるチームオフェンスを好んだわけです。

PGに「コート上のHC」なんてことは求めていないであろうラマス。それよりも連動性ある慣れたオフェンスパターンを発揮することを重視しています。何故なら、HCはラマス自身だし、細かな選手交代とユニットの組み合わせで変化をもたらすのがラマスだから。

篠山への物足りなさを感じている管理人ですが、ラマスの采配ぶりを見る限りは、その「物足りなさ」はラマス自身がPGに対して求めていない要素のため篠山が優先されているのでした。Bリーグファンで「なんでうちのPGが呼ばれないのか」と感じている人は、篠山と比較すれば理解できると思います。選手として上とか下とかではなく、ラマスがそれを求めていないんだ。

◉ベンドラメとフィジカル

テストマッチの連続において、相手が強くなることで発生した別の問題が「普通のパス」にすら困るシーンが出てきたこと。こちらもファジーカスをパサー役にすることで、逃げ道を作って回避していますが、篠山がディフェンスにプレッシャーをかけられるとボールムーブが非常に悪くなります。

あのサイズでボールをプッシュできるのは武器ですね

と八村への賛歌を送る解説が多くいますが、それ自体は間違っていないものの、私たちが見慣れているNBAでは「それでもPGがボールを運ぶのが普通じゃないの」です。八村がボールを運べるからって、ウォールはパスをすると思うかい? 八村はボール運ぶよりもスクリーンかけろ、って言われるよ。

しかし、ディフェンスのプレッシャーとフィジカル的な要素から、どうしてもパスを出すのにさえ苦労してしまうのが現状です。オフボールで正しくスクリーンをかけても、そこにパスが出てこないなら意味ないよね。いくつかあるプレーコールにおいて、ラストパスを出す選手がファジーカスや竹内になることが多めのラマス。それはフィジカルに煽られるとパスが不正確なPGよりも、ビッグマンの方が安定してパスの起点になれると踏んでいそう。

そんなフィジカルにどうしても負けてしまっているのが篠山。でも八村とファジーカス使って回避しているし、それはパッシングでリズムを生み出したい事情からも悪い話ではありません。

一方でニュージーランド相手とは言え、このフィジカルな部分で特に問題にしていなかったのがベンドラメ。特別にフィジカルが強いわけではないけど、バランス感覚に優れて、自分の体勢を崩さないPGなので、ルックアップしながらパスを出していきました。

でも、こちらもアルゼンチン戦では出番がなく、その役割は田中大貴が担当しました。魅力あるPGではなかったものの、無難にこなした印象です。

安藤とベンドラメ。両者の特徴と実力は篠山に後れを取っているとは思えないのですが、パッシングと自分たちのオフェンスを重視していそうなラマスの考え方は、長くチームにいる選手への信頼を求めがちです。

でも欠員が相次いだとはいえUSAがスマートとホワイトを残しているように、変化をつけていくPGは代表なりの戦い方では大切な要素だと思います。そしてあまりにもフィジカルに差があると正確なプレーも出来なくなるのがWC。

アジア予選とは違って、安藤かベンドラメを起用したほうが良いと思うのでした。そしてアルバルクに所属していたことと、竹内公輔のワンマンショーとなったチュニジア戦によって安藤誓也がポジションを掴むのでしょうね。

◉続・ディフェンス問題

最後にディフェンス問題について触れておくと、こちらはかなり深刻でした。唯一、田中大貴だけが適切に守れており、馬場のプレッシャーと含めて安定したディフェンスが出来ます。結局はアルバルクなわけだ。

テストマッチを通して気になったのは、篠山と比江島の守り方。どちらも「やりすぎ」なことが多く、プレッシャーをかけることは良いけど、かけすぎては失敗してファールしていました。マークマンにプレッシャーをかける、あるいはダブルチーム気味にプレッシャーに行く。それ自体は否定しないし、篠山は特に頑張っていたよね。

だけど、そんなハンドチェックだけで機能するなら苦労しない。

チェックに行ったもののボールを奪えないと判断したら、即座に体勢を整えなおすことは非常に重要です。この判断が極めて悪い篠山と比江島。要するにオーバーチェイスが極めて多く、オフェンス側はそれがわかっているからファールドローしたり、パス1つでフリーを作ってしまったり。

カリーやハーデンに見慣れているNBAファンからすると、オーバーチェイスについては「バカなんじゃないの」と思ってしまいます。ファールコールに対して篠山がクレームみたいな顔をするシーンが頻繁にありますが、あれがBリーグの標準だとするとグローバルスタンダードとかけ離れているぜ。

ここには違う問題もあります。

マンツーが基本のNBAでは連続するスクリーンに対して付ききれないので頻繁にスイッチし、それを周囲がカバーするスイッチ&カバーが標準化しています。しかし、日本の守り方はスイッチが殆ど出来ません。ドイツ戦からは少しずつスイッチが増えてきており、チュニジア戦はファジーカスを外し(そして地味に篠山もいないから)スイッチを増やしたので、ラマスも「何とかしないと」とは考えているはずです。

スイッチが出来ない理由は、Bリーグが「外国人同士のマッチアップ」に拘る傾向があるからだと推測。ポジションが違っても外国人同士でマッチアップさせがち。

代表でもファジーカスが全く追いかけられないこともあって、基本的にスイッチを嫌がります。嫌がった結果として3Pを打たれまくったわけですが、Bリーグだとこれだけ打ってもこないんだろうね。

これがPGのディフェンスに何をもたらすかというと、「カバー」の部分が鍛えられていないのだと思います。PGだってカバーする時代だけど、基本的にビッグマンがアウトサイドまでついていかないから「カバー」役を務める必要がないんだよね。

なお、ここもアルバルクは例外。外国人のポストアップに対して普通に小島がマッチアップするシーンがあったし。そして代表でも田中と馬場はインサイドをカバーする意識が他のガード陣よりも強く、スイッチが基本となったチュニジア戦のスモールラインナップではリバウンド参加数が増えました。

スモールラインナップが標準化された中には、全員がどこのポジションでも守れることが含まれますが、ファジーカス問題に揺れつつも実はPGもインサイドをカバーできない問題があります。

今回は富樫が外れたことで、PG田中はそこを解決することが可能になりました。単にサイズやフィジカルではなく、総合的にフロアをカバーする能力が段違い。オフェンス面でコート上のHCなんてのを求めていない事情もあって、ディフェンスのメリットは大きかったと思います。

◉ラマスは何を求めるか

PGについて考える番外編。ラマスの特徴が非常によく出ている日本代表でした。

パッシングでリズムを作るPGが大切
コート上のHCなんてものは求めない
フィジカルな課題からパスの起点役(アシスト役)は求めない
チームとしての連動性を作ることが最も重要

Bリーグの守り方を流用するからカバー能力は諦める
でも、3P打たれすぎてちょっと揺らいでいる
田中&アルバルクでカバーできる守り方もしたい

まぁこんなところかな。PGって感じではないですね。でも、最終的には篠山に代表されるキャプテンシーが欲しいのだと思います。PGは目立たない役割を遂行して欲しい。

ラマス的には理想論をいえば比江島がアルバルクに移籍して田中とPG役を負担しあってくれれば、そのまま代表に使えて楽でしょうね。

PG編おまけ~日本代表~” への2件のフィードバック

  1. 動けない、跳べないファジーカスの役割として、ストレッチ5としてのピック&ポップ(からのアウトサイドシュートもたまに)だけでなく、ボールの逃げ場・パスの起点になっているというご指摘に、頷くことしきりでした。今回も非常に学ぶところが多かったです。

  2. たまーにBリーグ見ますけど、思うことはいつも同じです。
    「PGがゲームメイク出来ていない」
    ボールを運んでくる過程でディフェンスにプレッシャーかけられると、基本的にもうしたいことができなくなる。
    周りも悪くて、すぐボールをもらいに寄って行っちゃう。スクリーンをかけにも行くけど、そもそもプレイメイクのためじゃ無いからズレが出来てもシュートに繋がらない。

    一度パスして、もらい直せばいいだけなんですけど、誰もやらない。
    とにかく意図があるプレーが少ない。やりたい形に持って行く前に結果論的に外国人選手に渡ってしまい、強気に1on1で終わり。

    なんで止まってられないんですかね、日本人て。

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