「3Pを外させるキング」は若きディフェンダー
ガードに必要なのは3Pを守る能力
その頂点にいたのはナゲッツのゲーリー・ハリス。そのディフェンス力は高く評価されているものの、ナゲッツファンじゃなければ知らないのかもしれません。スーパーディフェンダーとして認識しておくべき名前なのです。
ところで、復習をすると「3Pを守る」というけれど、それは単に「1on1で止める」のとは違って、チームディフェンスの中でカバーリングやローテーションがしっかりと実行されての話でした。
自分のマークマンに打たせない
フリーの選手を作らない
特に後者の能力は重要で「うっかり」してしまう選手、「チームディフェンスを理解できていない」選手はどうしてもアウトサイドでフリーを許してしまいます。個人としては守れなくてもフリーの選手を埋める能力があるカリーは役割をこなせているわけです。
そんな中でSGAとベン・シモンズは高い3P阻害能力を発揮しました。ともに1on1の状態ではサイズやウイングスパンを活かして最後にブロックに行くのが非常に上手く、また高い運動能力でカバーリングでも力を発揮しました。つまり
身体的特徴(サイズと手の長さ)は3Pを防ぐのに有効
高い運動能力はカバーリングの優位性を生み出す
ということは、何となく「一定のディフェンス戦術」+「身体能力」が重要な気がしてきます。ちなみに今回はガードに絞っていますが、ポジションを固定せず50試合以上プレーした選手で観た時には、パチュリア・ノエル・フェイバーズがゲーリー・ハリス並の数字を残しています。アウトサイドを守るのにサイズって有効なわけです。パチュリア?
しかし、ゲーリー・ハリスは特別な身体能力や手の長さをもっているわけではありません。だからこそ「わかりやすいディフェンダー」ではないわけです。冒頭に触れたようにナゲッツファンでは常識だけど、NBAファン一般に知られているわけじゃないスーパーディフェンダー。その世界に触れてみよう。
◉ナゲッツの事情
ゲーリー・ハリスが目立ちにくい理由にはナゲッツのチーム事情もあります。急激にディフェンスが改善したナゲッツでしたが、その理由はアグレッシブなオフェンスを自重してカウンターを食らう機会を減らした事。そしてハーフコートではミルサップの収縮能力の高さが目立ちました。
ミルサップ&ヨキッチ(プラムリー)のコンビは、決してブロック能力が高いわけではありませんが、極めてポジショニングが上手い特徴があり、しっかりとディレクションすればチームで守れます。しかし2人のビッグマンを起用し、ヘルプが多いという事は
アウトサイドのローテーションも重要
ってことになります。ここはナゲッツを語るうえで避けては通れない部分です。チームとしては強くなったのに、ウォリアーズに勝てなくなった事情はこんな部分にもあります。パス回しと3Pについていくのがそこそこ大変。
そんなアウトサイドには攻撃的な選択肢として運動能力で追いかけていくウィル・バートンと、守備的でエースキラーのクレイグがいます。今回はわかりやすくクレイグパターンで書くと
マレー
ハリス
クレイグ
というトリオになるわけですが、逆スーパー・ディフェンダーであるマレーを抱えながらのアウトサイドローテを実行しているわけです。またエースキラー役をチームUSAキャンプにも呼ばれたクレイグが担当します。
こんなところもクレイ・トンプソンに似ていて、あっちもイグダラやドレイモンドがいるので必ずしもエースのマークを担当しているわけではありません。ベンチのビーズリーも含めてマークを交代しながら対応しています。
主としてハンドラータイプへはクレイグが担当します。1人オールコートディフェンスで常に嫌がらせを仕掛け、メンタルを削っていく役割。その代わりオフェンスはコーナー担当のクレイグ。
ということは、ゲーリー・ハリスはメインのエースキラーとして働く時間もあれば、全体のバランスを見ながらカバー&ローテに加わることもあります。ベン・シモンズにも似たような部分がありますが、超人的な身体能力で追い込むシモンズと違い、ゲーリー・ハリスの方はもっと細かなポジション調整を行います。
オフボール時の絶妙なポジショニング
それもまたゲーリー・ハリスがスーパーディフェンダーたる理由です。単に「3Pを止める」のではなく、オンボール・オフボール双方で的確にプレーできるタイプ。それはクレイ・トンプソンを上回る部分です。
個人は守れなくてもオフボールで空間を埋められるカリーと、個人を強力に守るけどチームディフェンスは微妙なクレイ。それに対して、うっかりマレーとスーパーなハリス。イグダラとクレイグってのもあって、割と似ていたりして。
更に似ているのがミルサップとドレイモンドの位置づけ。インサイドで高速ヘルプによるマークの受け渡しをしてくれるミルサップの存在は、ヨキッチのポジショニングも含めて、ゲーリー・ハリスの役割をさらに明確にしているわけでした。
◉レッツ・ハイライト
さきに3P以外について触れているのは、ハイライトを観た時に理解しやすいからです。そして、何故か2017年のジャズ戦についてゲーリー・ハリスのディフェンスを追いかけたハイライトがあります。
まだナゲッツのディフェンスが怪しかった時期ですが、オフボールでもポジションを細かく調整していることがわかります。また、ミルサップの動きに注目しても面白く、2人がそれぞれバランスを取ろうとしていることがわかります。マレー?知らない。
「3Pを止める」がテーマのシリーズですが、ゲーリー・ハリスの場合は、このオフボールが重要でポジションを細かく調整していく事で自分のマークマンにパスが出る可能性を減らし、すぐにマークに戻れています。
シモンズとSGAがサイズとフィジカル、手の長さで見事にブロックして止めているのに対して、ゲーリー・ハリスはブロックではなく純粋に「マークを離さない」ことで確率を落とさせています。
極めて純粋な守り方をしているゲーリー・ハリス。しっかりと追いかけてプレッシャーをかけています。さらに違いがあるのは、そこから先の数字。
〇被3Pアテンプト
ハリス 3.5本
SGA 3.0本
シモンズ 4.8本
※SGAはプレータイムが短い
シモンズの4.8本は多いのではなく、それだけ追いかけているって事だと思いますが、少なくとも打たれているのは事実。チェイスで止めている事情が絡んでいます。これを2Pにすると
〇被2Pアテンプト
ハリス 3.4本
SGA 6.8本
シモンズ 6.2本
オーソドックスなディフェンスをしているため、ゲーリー・ハリスが明確に差をつけます。2Pよりも3Pを打たれているのか、それだけ2Pを許していないのか。
横の動きに弱かったシモンズに比べると、コースを塞ぐ能力も高いので「3Pは止めるけど抜かれる」ってこともありません。もちろん、ヘルプの関係性もある。
ねっ!スーパー・ディフェンダーでしょ。
ちなみに2Pよりも3Pを多く打たれている選手はリーグに10人。その中にはセルティックスのスマート&ブラウンが含まれます。
〇被3Pアテンプトと確率
スマート 5.0本 33.8%
ブラウン 4.6本 31.6%
この守り方が出来る選手が戦術的にも個人レベルでも優秀なディフェンダーだということがわかります。他の7人は34%以上の確率で決められているよ。
果たしてジャマール・マレーはカリーになるのか、カイリーになるのか。それがナゲッツの命運を左右しそうです。
◉デローザン、マカラム、リラード
そんなゲーリー・ハリスですが、ケガで休むことが多く、それも完治しないままプレーしたからか、繰り返し離脱した18-19シーズンになりました。本来はディフェンスエースだけでなく、ナゲッツのスコアリングエースでもあったはずが、その座をマレーに譲ることになり、ヨキッチへの依存度も高まってしまいました。
そんな中で迎えたプレーオフは、シュートが決まらなかったこともあり、ディフェンダーとしての役割が強くなっていきました。
〇VS デローザン
マッチアップ数 142回
失点 32点
被FG 11/31 35.5%
スパーズファンは「デローザンが情けない」というのでしょうが、相手が悪かったともいえるのです。なお3Pについては触れる必要もない。
クレイグとのマッチアップでは49%決めたデローザンは、シリーズトータルでFG48.7%、22点を奪い、4.6アシスト、1.7ターンオーバーと優秀な数字を残しています。
にもかかわらず、ってのは大事なところでマークにやってきたゲーリー・ハリスに大いに苦しんだから。マッチアップを試合中に変更するナゲッツの嫌らしさもあって困ったデローザンでした。
〇vsリラード
マッチアップ数 213回
失点 59点
被FG 20/48 41.7%
被3P 8/25 32%
サンダーとのファーストラウンドで平均33点、3P48%、そしてあの伝説的なクラッチ3Pを決めたリラードは見事に抑え込まれました。デローザンにはなかった3Pを止めるゲーリー・ハリスの良さが出て、リラードのリズムを崩したと言えます。ファーストラウンドはうっかりさんのウエストブルックだったしね。
抜いたと思ってもショーディフェンスを見ている間に後ろからブロックされる場面も。 このシーンでもあるようにハンドチェック能力もゲーリー・ハリスの良さで、スピードに乗ったプレーの中でも正確にボールを叩ける目と反応の良さがあります。
得意の3Pで自由を与えられなかったリラード。なお、リラードの場合はゲーリー・ハリス以上にクレイグに苦労しています。つまりは、1人オールコートマンツーによりプレーを封じ込まれたわけです。 ここからブレイザーズはプレーを変化させることになるのですが、それはまた違う話。
そんなリラードに代わってセカンドラウンドでブレイザーズを勝利に導いたのはCJマカラム。平均26.4点、3P37.5%で長い長い疲弊するシリーズを制しました。
〇vsマカラム
マッチアップ数 224回
失点 52点
被FG 22/49 44.9%
被3P 3/15 20%
それでもゲーリー・ハリスはトータルで自分の仕事を果たしました。シューターとしてのマカラムを封じ、ドライブ勝負の中でも簡単には得点させなかったと言えます。
ディフェンダーとして自分の仕事を果たしたと言えるゲーリー・ハリス。プレーオフの極限の戦いの中でも通用する高い能力でした。
が、自分自身がオフェンスで22%しか3Pを決められなかったのでした。それが敗因。3P時代に素晴らしいディフェンスで抑え込んでも、自分がそれ以下の確率じゃあダメダメ!
◉新時代のスーパーディフェンダー
ということで、なんと3回に渡ってお送りしてきたPGのディフェンス問題。最終回はPGじゃない選手っていうオチでしたが、現代NBAにおけるオフェンスとそのアンサーになるディフェンスの対比ってのは面白いものです。
そしてオフェンスに比べると対応が遅くなってしまうディフェンスであり、注目度的にも劣るのでなかなか理解してもらえない能力でもあります。
非常に有能なカワイ・レナードはオンボール・オフボールともに守れる選手であり、ポール・ジョージなんかも同じです。一方でデュラントはオンボールの評価が低いのですが、実はオフボールでの存在感が高いのでディフェンス面で万能扱いできます。
「素晴らしいディフェンダー」とされている選手の中には、オンボールで守れていてもオフボールで守れていない選手もいます。それは1on1の強さがあっても現代の中で機能しているとは言い難いものがあるのです。
第1回では守れない選手を題材にして「最低限、これを出来ないといけない」項目をチョイスしたわけですが、シモンズ、SGA、ゲーリー・ハリスはこの「最低限の部分」を極めて高いレベルで守っているので、現代的に優秀な選手です。そこにゲーリー・ハリスは
チームディフェンダーとしての有能性
キラーディフェンダーとしての有能性
両方を兼ね備えており、個人能力だけでなく、個人戦術レベルも高い選手という事になります。ハードに守っている空気感はないので、伝わりにくい一面がありますが、長いシーズンを追っていくとその有能さが際立ってきます。
ジェイレン・ブラウンも似たようなタイプですが、セルティックスという注目チームにいるので、それなりに評価されていますが、オールディフェンスチームに選ばれるまでは至っていません。
共にリーグ屈指のディフェンダーですが、その良さは投票している記者にも伝わり切っていないわけです。
「マネーボール革命」では出塁率や選球眼を重視した独自の指標で選手を集めることでアスレチックスは低いサラリーで好成績を上げることに繋がりましたが、重要なのは「出塁率や選球眼を重視する」というのは、「その能力を持った選手への評価を高くする」ということであり、そんな選手を集めるってことです。
次第に世の中に広まっていったマネーボールは、育成年代の価値基準を変えたはずです。高く評価される選手になるために、鍛えるべき能力が変化してきたという事。
NBAの世界も同じで、サマーリーグを見てもスリムで動けるビッグマンばかりになってきました。しかし、まだアウトサイドの有能なディフェンダー像は定まっていないし、評価されにくい要素です。
非常にわかりにくい能力と、圧倒的な数字をもっているゲーリー・ハリスのディフェンス。それは新時代のスーパーディフェンダー。果たして今後、どのような評価をされていくのでしょうか?
いつも楽しく拝見させていただいております。
ここまで色々な記事を読んでいて、管理人さんが現役プレーヤーでオールスターチームを組むとしたらどういったメンバーにしますか?もちろん管理人さんの鋭い分析を基にしたチームが知りたいです。HCやベンチメンバー、役割や起用意図も知れたら嬉しいです。機会があればお願いします。
ここにきてのゲーリーハリス特集嬉しいです
去年のここでのGM企画でゲーリーハリスを選んだことを誇りたくなるような記事でした。
チェイスがうまくて簡単に抜かれない選手だなって印象だったのを管理人さんが言語化してくれたおかげで深く理解できました
次の記事も楽しみにしてます
いつも面白いためになる投稿ありがとうございます。無料で読めるのが不思議なくらいです。次の投稿も楽しみにしてます。応援してます!
いつもありがとうございます。
全ての記事拝見しておりますが、毎回ワクワクしています。
特に今回は引き込まれました。ありがとうございます。
そういった趣向ではないことは理解しておりますが、オフ会とかあったら是非参加したいなって思う次第でした。
ここまでディープな内容をご覧になる皆様とも是非議論したいなって思いましたので。
それか生放送とかですかね!
是非フォワードのディフェンスについての記事も書いていただきたいです。
カワイレナード のスパーディフェンダーっぷりが評価されてるいる一方ファイナルではトンプソンにマッチアップした試合では数多くのシュートを沈められるシーンもあったので、レナード、ジョージ、デュラント、イグダラあたりのディフェンスについて是非お願いします‼️
バスケ未経験のNBAファンの私からして
ディフェンスがうまい
というのは
スティールやブロック、オンボールの対人スキルなど
見栄えする所をザックリとしか判断できずにいるので
こういう記事は本当に楽しいです!
ハイライト見て、これだけチェイスしていると、もらえない、打ちずらくなっているのがわかります。ハリスすごい。
それでもピックの時にセンターがサボるとやられているのでディフェンスはチームの戦略を浸透させているかが大きな差だなと。
そうなるとプレイヤー感覚から離れて学問のような話ですが、各チームのディフェンス戦略、最新の方法論を作るセクションがチームにあるのかなと想像してしまいます。
知識に疎い私でもディフェンダーシリーズは興味深く、また理解しやすかったのでとても面白かったです。今後の記事も楽しみにしております。
私の大好きな選手の一人、ロッドマンのセリフですが
「リバウンドは掴むものではなく触れるもの」って言っていました。
NBAもスペースや試合の流れを読む、賢い選手の時代になっていくんでしょうね。
最強のディフェンダーはクラッチタイムに
相手エースが勝負から逃げる、戦わずして勝つのが理想ですね。
ディフェンスは心を詰む戦いですね。
2020のジャズvsナゲッツでゲーム7の最後のハリスのバックチップで鳥肌が立ちすぎて治らなくなってしまった者です。今日の試合の後から、一日中ハリスのディフェンスが頭から離れなくてとても困っていました。(僕の脳内のペリメーターに3Pを打ちそうなシューターがいた訳ではありません)
こうなるとハリスをベタ褒めしてるメディアを今すぐ僕の鳥肌に塗りつけて治すしかないと思い、探していたらこのマニアックな記事に辿り着きました。たった今鳥肌を治すことができました。超スッキリしました。本当にありがとうございます。
良ければ2年前のジャマール・マレーについても読んでって下さい。
http://nba-data.work/?p=2765